AgeTech起業家に求められる新たな視点「ケア」から「レクリエーション」へ

高齢者の活動が活発化し、「アクティブ・シニア」という言葉も浸透している。そんな中、今後シニア向け市場では、ケアよりも「レクリエーション」を提供するサービスやプロダクトが中心になると見られている。今回は、有名投資家やヘルスケア専門家の意見も交え、高齢者のレクリエーションにフォーカスする、注目株の「AgeTech」企業を紹介する。

「AgeTech」ビジネス面での大きな可能性

日本でもサービス利用者の多いウェブサイト構築プラットフォーム「Wix」。そのWixの会長を務めるマーク・トルシュチ氏は、敏腕ベンチャーキャピタリストとしても知られる人物だ。彼はWixだけでなく、Skypeがまだ初期の段階でいち早く投資した経歴を持つ。

そんなトルシュチ氏が今注目しているのが「AgeTech」だ。AgeTechは、ヨーロッパだけでも3.7兆ユーロと見込まれ「シルバー経済」において重要な地位を占める。

高齢化にともなう市場拡大、そしてテクノロジーを活用したプロダクトとサービスが拡大するという見込みから、自身が設立したMangrove Capitalを通じて、トルシュチ氏は関連投資を拡大しているようだ。ちなみにこれまでMangrove Capitalは、10億ドルものアーリーステージの企業への投資をすでに行っている。

一方、AgeTech分野では現在、多くのスタートアップが誕生しているものの、典型的な高齢者をイメージしたプロダクトやサービスが多く、その意識を変える必要があるとトルシュチ氏は指摘する。

同氏曰く、「65歳以上の人はテクノロジーにエンターテインメントを求めていない」「高齢者はケアを前提としたサービスやプロダクトを求めている」といったものは古いイメージであるということ。これからは、高齢者が自主的に「やってみたい」と求めるプラットフォームやエンターテインメントが必要であり、儲けられるビジネスもそこに隠れていると考察している。

イスラエルのMediterranean Towers Venturesの共同経営者、ドヴ・シュガーマン氏も、「60歳以上の人はテック恐怖症であるか、またはケアを必要としているという概念が一般化されている。しかし、よりよいアプローチは、認知的・身体的能力および経済的地位に沿って、高齢者の人口統計をセグメント化することだ」と指摘する。

市場の面でも、退職後のシニアは自由に使える資金が多いだけでなく、その数も世界的に増加している。国連の推測では、世界で80歳以上の人口は2050年までに現在の3倍になるとされており、さらに2100年には2017年の約7倍に達すると予測されている。

シルバー経済に着目するヨーロッパの動き

こうしたAgeTechのビジネス的な可能性と市場拡大の背景を受け、ヨーロッパではAgeTechに焦点を当てた企業が次々と生まれている。それは民間だけでなく、地域の高齢者人口が急速に増加していることを背景に、政府自体もこのセクターに多く参画してている。

例えば、以前の記事でも紹介したシニア向け市場におけるイノベーターネットワークである「Aging2.0」。これは主にスペイン、イタリア、英国、ベルギー、オランダ、イスラエル、フィンランド、フランス、チェコのスタートアップ起業家が主導しており、ヨーロッパ全土に14の支部がある組織となっている。

フランスのAging2.0コミュニティは、ガブリエル・モンテイロ氏が運営している。彼は、ソーシャルおよびヘルスケアの専門家がイノベーターに会うための「スタディツアー」を実施する企業で働き、技術分野でのパートナーシップを促進している人物だ。

同氏によると、フランス政府は2013年、シルバーエコノミーロードマップと呼ばれる計画を立案。シルバー経済の機会を活用すべく、シルバーテック・イノベーションのための非営利組織「Sliver Valley」を設立した。それ以来、フランスはシルバーテック起業家にとって肥沃な土壌であるという。

 「私たちは、社会的イノベーションと経済的イノベーションを結びつける運動に、実際に関与し得る政治力を持っています。 シルバーエコノミーはフランスにとって、新しい専門分野になるでしょう。政府もそれについても同意です」(モンテイロ氏)。官民協力体制でこのセクターに取り組んでいる。

フランスのAgeTech最新事例

ではそうしたフランスの戦略で実際に成長したスタートアップの例を見ていこう。

まず、「CetteFamille」は、高齢者が「里親」と一緒に暮らす、退職後コミュニティに相当するシェアリングエコノミーを中核に置いたビジネスだ。CetteFamilleは、設立から5年間で6000の里親を提供し、直近もVCから200万ユーロを調達した。

「CetteFamille」https://www.cettefamille.com/

また、「Silver in Touch」は一見、フリーランス向けのプラットフォームサイトのようだが、実は高齢者の社会的孤立を解決するものである。これを利用し、若年層と高齢者のスキルを通じたマッチングを成立させる。

スキルは例えば、コンピュータや家具の修理、家事や料理、映画鑑賞や話をする、といったものまで。有料・無償の活動が含まれる。

「Silver in Touch」https://www.silverintouch.fr/

そして、「Le Talents D’Alphonse」は、より若かしく、生き生きと働けるシニアに特化したもので、ベビーシッター、裁縫、編み物のレッスン、語学指導、音楽のレッスン、写真撮影のコースなど、独自のスキルを提供できるプラットフォームとなっている。

「Le Talents D’Alphonse」https://lestalentsdalphonse.com/

前出のモンテイロ氏は、AgeTechの起業家は、通常より多くの調査とユーザーテストを行う必要があると強調している。

それは、イノベーションワークショップなどの場において、高齢者をテクノロジーによって管理する存在から、起業家が「貢献する」存在として捉え直すべきと考えているからだ。 ケアではなく、レクリエーションを提供するサービスやプロダクトが中心となる傾向は、健康寿命・平均寿命の延伸からも理にかなっている。健康でアクティブなシニアの増加により、世界的に大きな需要がこのセクターには見込まれるだろう。

企画・編集:岡徳之(Livit)

高齢化は「課題」から「機会」へ、シニアエコノミーを考えるこれからの視点「Aging 2.0」

日本国内で100兆円を超えると言われるシニア市場。次々と生まれるテクノロジーを活用した製品やサービス「エイジテック」も話題となっている。そんなシニアエコノミーの最新動向を知る上でキーワードとなるのが「アクティブシニア」という言葉だ。シニア市場では、介護や医療に関連したものだけでなく、活発な消費行動をとる活動的な高齢者の存在が注目されている。

そうした背景から、「アクティブシニア」を掲げたイベントやスタートアップも増えてきており、高齢者限定のマッチングアプリやスキルシェアといったイノベーティブなサービスが提供されるようになっている。

一方、「アクティブシニア」以外に高齢化に関連して急浮上している注目ワードが「Aging 2.0」。アクティブシニアと同様、高齢化を既存の医療・介護上の解決すべき「国家の課題」としてだけでなく、もっと新しい視点から捉えるべきとの意味が込められた言葉だ。カリフォルニアからスタートし、いまや世界に広まっている「Aging2.0」というキーワード。それが提示する新たなモノの見方をお伝えする。

高齢化は「課題」でなく「機会」

高齢化を「課題」でなく「機会」と捉える視点
(AGING 2.0公式サイトより)

これまで「高齢化」という言葉から連想されるのは、国が取り組むべき医療や介護といった様々な「課題」であり、政府や非営利組織による個別のサポートに焦点があてられることが多かった。

そのような視点を「Aging1.0」、いわば旧バージョンの高齢化に対する考え方だとすると、「Aging2.0」は高齢化は「課題」であると同時に、ヘルス、ウェルネス、ライフスタイルビジネスの「機会」でもあるという考え方だ。サービス提供の主体としても、公的機関だけでなく、地域コミュニティにおける民間企業とNPOが重視される。

たとえば、独居高齢者の増加という現象を考えるなら、「Aging1.0」では公的機関による訪問サポートなどの提供だけが期待される。しかし「Aging2.0」という視点からは、公的サービスに加えて、若い層の住宅不足問題と高齢者の見守り問題、双方に同時にアプローチする多世代シェアハウスやハウスシェアマッチングサービス創出の機会という見方がなされるだろう。

高齢化に焦点を当てた世界最大のイノベーション・プラットフォーム

エイジング関連イノベーションプラットフォーム「Aging2.0」
(AGING 2.0公式サイトより)

そんな新たなシニアエコノミーにおけるイノベーションをサポートするために生まれたのが、この「Aging2.0」という視点そのものをその名に冠したグローバル・イノベーション・プラットフォーム「Aging2.0」だ。

「Aging2.0」の目的は、起業家や専門家、技術者、投資家、ヘルスケア事業者、そして高齢者自身が「Aging2.0」をテーマに集うコミュニティを構築し、エコシステムを生み出し、イノベーションを創出すること。

カリフォルニアで生まれたこの小さな団体は、いまやボランティアが運営する支部ネットワークを入れると、日本を含む65カ国以上に展開するまでになり、野村総研、損保デジタルラボといったスポンサーをのもと、様々なイベントの開催を通じてシニアエコノミーのイノベーションをサポートし続けている。

「Aging 2.0」の優先課題「8つのグランドチャレンジ」

介護分野のイノベーションは「Aging2.0」の優先事項

高齢社会でイノベーションが求められている分野には様々なものがあるが、Aging2.0コミュニティでは、その中で8つの優先領域を設定し、「8つのグランドチャレンジ」と名づけている。

そのグランドチャレンジとは、高齢者の屋内外の移動全般を支援する「モビリティ&ムーブメント」、日常生活で必要な食事、入浴、着替えなどの動作を支援する「日常生活・ライフスタイル」 、 認知症やうつ病といった老年期のメンタルヘルスにフォーカスする「脳の健康」、複数の病院、ケア事業者のサービス連携をサポートする「ケアコーディネーション」、個人の人生観を尊重した死の迎え方を支える「終活」など。

「8つのグランドチャレンジ」に掲げられた課題の多くは、これまでも医療・介護従事者によって取り組まれてきたものだ。

しかし、「Aging 2.0」では、そこにテクノロジーや介護・医療保険だけに留まらない様々な形のビジネスの創出という視点を持ち込むことで、専門家の業務をサポートし、高齢者やその家族がより暮らしやすいサービスや製品を生み出すことを目指す。

 「8つのグランドチャレンジ」で、特にコアとなるテーマとして重視されているのは「介護」。

Aging2.0では、様々なプレイヤーが協働して社会課題解決に取り組むプロジェクトを「コレクティブ」と呼んでいるが、Aging2.0は昨年、米コンサルティング会社「シェイパブル」と提携して「ケアギビング・コレクティブ」を発表。ビッグデータ分析に基づいたインサイトやソリューション提案、メンバーのマッチング・プラットフォームの構築を行った。

高齢者が主体的に社会と関わることもサポート

 「8つのグランドチャレンジ」には、上記のような高齢者にとって困難なことをどのようにサポートするかというものだけではなく、高齢者がアクティブに社会と関わる機会をつくることを目指すものもある。

シニア層のスキルや経験が発揮できる環境の整備や、生涯学習の機会を創出する「エンゲージメントと目的」はそのひとつ。高齢者の社会的孤立という課題に挑むという意味ももちろんあるが、労働人口減少へのソリューションとしても注目されている。

また、老後のファイナンスに焦点を当てたグランドチャレンジ「ファイナンシャル・ウェルネス」でも、高齢者がアクティブに就労、社会参加する機会の確保は重要な要素だ。

日本でも開催「Aging 2.0」関連イベント

世界最速で高齢化する日本においても「Aging 2.0」関連イベントはもちろん開催されており、ピッチイベント、ミートアップなど2015年から行われている。

その最新版は、必ずしも高齢者のみを対象にしたものではないが、経済産業省主催のヘルスケア産業を対象としたビジネスコンテストで、薬剤師向け服薬指導支援ツール「Musubi」を開発する株式会社カケハシがグランプリを受賞をした。

経済産業省は、このところヘルスケア分野のスタートアップ支援に力を入れており、昨年夏にはワンストップ相談窓口として「Healthcare Innovation Hub」、通称イノハブの設置も行っている。

高齢化は国から地域社会を中心とした取り組みにシフト

今年、菅首相が政策理念として「自助・互助」という言葉に言及し、政府が責務を投げ出すのかとの批判が多く聞かれた。

しかし、高齢化社会への対応を政府中心のものからローカルコミュニティ、高齢者本人や市民、非営利団体や企業、スタートアップを中心にしたものへシフトしていこうという考えは、この「Aging2.0」がすでに65カ国に展開していることから分かるように、決して目新しいものではない。 

もちろん政府は医療、介護を可能な限り充実させる責務があるが、急増する高齢人口と減少する勤労人口のバランスを考えると、これからの高齢化社会を公的なサポートだけで支えきれないのは明確だ。  なにより、世界各国が高齢化している今、シニアエコノミーを経済活性化、ビジネスの「機会」と捉える視点は、フランス政府などをはじめ世界各国が打ち出すようになっている。今後の高齢化社会を考える上で、「Aging2.0」という視点の重要性はますます増していくだろう。

企画・編集:岡徳之(Livit)

高齢者向けフィットネスを提供するベンチャー「AgeBold」「Motitech」に学ぶシニアの運動習慣促進のヒント

毎日1万人ペースで退職者が出ている米国。ベビーブーマー世代も高齢に差し掛かり、シニア対象のビジネスはいずれの分野でも活況である。仕事に趣味にアクティブに生きてきた彼らだが、身体的な衰えから、ちょっとしたケガでも大事に至るケースは少なくない。

米国ではシニアのケガによる医療支出は年間500億米ドルを超え、政府の財政をひっ迫。重大な経済・社会問題として注視される中、それらをテクノロジーの力で解決しようという動きも活発になってきている。そこで、本記事ではフィットネス分野で注目を浴びるエイジテックスタートアップ2社に着目。それぞれの取り組みとインパクトを解説する。

高齢者による莫大な医療費支出が社会問題に

米国国勢調査局によると、2050年には65歳以上の人口が8,370万人を超え、2012年のほぼ2倍の数になるという。特に85歳以上の“超高齢者”は、労働人口よりも速いスピードで増加すると予測され、様々な分野での影響が懸念されている。

米国メディケア・メディケイト・サービスセンターよると、2010年の高齢者による医療費支出は全体の34%を占め、一人当たりの医療費は年間約18,000米ドルであった。この額は子どもの5倍、成人の3倍に相当するという。

米国では65歳以上の高齢者は、連邦政府による公的医療保険「メディケア」の加入資格を持つ。シカゴ連邦準備銀行の研究グループがまとめた報告によると、1996年から2010年の高齢者医療費の政府負担は65%を占め、その多くは低所得層による利用であったという。広がる貧富の差と待ったなしの超高齢化問題。増え続ける医療費は、国の喫緊の課題として立ちはだかっている。

シニア向けオンライン運動プログラムを提供「AgeBold」

オンラインのシニア向け運動プログラムを提供するカリフォルニアのスタートアップ「AgeBold」のウェブサイト
https://www.agebold.com

身体を動かすことで健康寿命を延ばし、医療費を抑える。健康に気遣う人なら、ジム通いやジョギングなどなんらかのフィットネスを生活に取り入れていることだろう。しかし高齢になると、病気や足腰の衰えから外出が難しくなることも少なくない。さらに今はコロナ感染拡大の影響で、誰もが家に引きこもりがちになっている。

そんな中、オンラインのシニア向け運動プログラムを提供するカリフォルニアのスタートアップ「AgeBold」が注目されている。

AgeBoldの共同設立者アマンダ・リースは、祖母の介護経験から、高齢者が自立して過ごすためにはフィットネスが欠かせないことを身にしみて感じたという。そこでリースは、自宅でプロのトレーナーが作った専用プログラムを受けられる、シニア向けオンライントレーニング「Bold」を考案した。

アルゴリズムを通じてメニューをパーソナル化

オンラインのシニア向け運動プログラムを提供するカリフォルニアのスタートアップ「AgeBold」のウェブサイト
https://www.agebold.com/tests/

利用者はまず、筋力、柔軟性、バランス力を測る簡単なテストを受ける。いずれもオンライン上で無料で受けられ、所要時間も1項目につき1分程度だ。その結果をもとにアルゴリズムが診断し、当人に最も適したクラスやプログラムが示される。

コースは「ベーシック(無料)」「年額制(180米ドル/年)」「月額制(25米ドル/月)」の3つ(診断によるパーソナルメニューは有料コースのみ)。リーズナブルな価格設定で、所得が少なくても出せる金額であることが、支持拡大の一端になっている。

有料コースを選択すると、AgeBoldメンバーによる個別のアドバイスやフィードバックをもらうことができる。漫然とプログラムをこなすのではなく、状況に合わせてプロから適切な助言をもらえることは、利用者にとって励みになる。手軽かつあらゆる側面でパーソナル化した取り組みが高齢者の心を掴んでいる。

高齢者向けのバーチャルサイクリングを開発「Motitech」

ノルウェーのテック系スタートアップ「Motitech」が開発した、高齢者向けのバーチャルサイクリング「Motiview」のウェブサイト
https://motitech.co.uk

ノルウェーのテック系スタートアップ「Motitech」が開発した、高齢者向けのバーチャルサイクリング「Motiview」も話題だ。現在はノルウェーのほか北欧諸国や英国、カナダ、オーストラリアなどで広まり、高齢者施設やデイケアセンター、コミュニティセンターなど数百カ所に導入されている。

Motiviewは柔軟性の向上、転倒防止、怪我のリハビリ、食欲向上、肥満防止、不眠解消など身体機能向上のほか、メンタルヘルスにも効果があることが確認されている。

「懐かしい場所を走る」ことで認知症予防に

(Motiviewのデモ動画)

Motiviewは、映像を見ながら専用のエアロバイクを漕ぐことで「世界を旅している」ような感覚が得られる。利用者は1,700以上あるプレイリストの中から好きな国・地域を選択して「サイクリング」をする。バックミュージックも好きな音楽を設定でき、細かいカスタマイズが可能である。

Motiviewは、運動と視覚刺激を組み合わせることで脳の動きを活発化し、特に認知機能を飛躍的に改善する。お年寄りは、サイクリングをしながら若い頃に訪れた旅先や、自分の住んでいた場所の近くを通るかもしれない。

故郷や懐かしい場所にアクセスすることは脳に刺激を与え、豊かな感情を呼び起こす。楽しい思い出は自己肯定感を高め、施設スタッフや入所者との会話のきっかけにもなるだろう。

最高齢の参加者は103歳。シニア向け自転車イベントを開催

ノルウェーのテック系スタートアップ「Motitech」が開発した、高齢者向けのバーチャルサイクリング「Motiview」の実際の利用シーン
https://motitech.co.uk/news-roadworlds/gramps-get-their-own-champs

Motitechは英国の自転車競技団体British Cyclingや公的機関Sport Englandと提携し、Motiviewを使った高齢者向けサイクリングイベント「Road Worlds for Seniors」を毎年開催している。

Road Worlds for Seniorsは、高齢者施設やデイケアセンター等を対象にしたグローバルアクティビティプログラムの一つ。毎年9月、英国のヨークシャー地方で開催される国際自転車レースUCI Road World Championshipsと並行して行われる。

2019年大会には英国、ノルウェー、スウェーデン、カナダ、オーストラリアなど計7カ国から194チーム、4,333名が参加した。最高齢参加者は103歳の英国人女性であったという。

同イベントは1ヶ月の間に、どれだけ「走った」かで競われる。施設(チーム)そして個人(男女別)で走行距離を競い、優勝者にはトロフィーも贈られる。2019年の男性個人総合1位に輝いた84歳のカナダ人ノーマン・コテ氏は、25日間で約5,300kmを走行した。

自立して生活する高齢者に比べ、施設入所者は行動範囲が限られ、不自由な生活を強いられがちである。Road Worlds for Seniorsは、そんな彼らの「生きがい」にもなっているようだ。実際イベント期間中、ノルウェーのある施設では、入所者の希望によりエアロバイクの使用時間を延長することもあったという。

人生100年時代を迎える今、健康を維持するだけでなく、充実したシニアライフを送れるかどうかは大きな関心事であろう。それを叶える手段として、エイジテックの役割は今後より重要性を増していくに違いない。

企画・編集:岡徳之(Livit)

台頭する「Age Tech」海外イベントに見る最新トレンドと成功の鍵

2020年現在は9%→2050年には22%。2020年現在は59%→2050年には90%。この数字が何を示しているかお分かりだろうか。

最初の数字は、世界人口に対する60歳以上の比率、次の数字は世界人口に対するインターネットユーザー率である(どちらも国連のレポートより)。先進国では高齢化が一層進んでおり、65歳以上は2019年でもEU圏22.8%、アメリカ16.5%だ(Statistaより)。ちなみにトップを走る日本は28.4%となっている(総務省の資料より)。

1980年から2050年の地域別60歳以上の増加の推移グラフ
1980年から2050年の地域別60歳以上の増加の推移
出典: United Nations (2017). World Population Prospects: the 2017 Revision

国による差はあるものの、60歳以上の人口は増え続け、そう遠くない将来、ほぼ全世界でインターネットの使用が可能になる。この傾向は最近になって「発見」された事実ではなく、こうなることは予想されていた。それにも関わらず、ITといえば、ミレニアル世代やZ世代などのデジタルネイティブが主流で、60歳以上は傍流と捉えられがちだった。

ITが旺盛な「シルバー・エコノミー」に後発参入

第二次大戦後のベビーブーム時代を筆頭に旺盛な消費を行うシニア世代に、マーケットが目をつけないわけがない。「シルバー・エコノミー(高齢層経済)」という言葉も誕生し、医療・介護はもとより、消費財、ホスピタリティなど様々な産業が参入している。そして今、台頭しているのが傍流だったIT産業だ。

ITがこのセクターで後発になったのには理由がある。シニア用ITといえば、機能を減らしたり、分かりやすいデザイン設計でユーザビリティを高めるデバイス開発に重きが置かれていた。その間にもIoT、生体認証、AI、ロボティクス、5G、VRにARなど情報テクノロジーは着々と進化を遂げていた。

その結果、高齢者対象のテクノロジーが多様になり、応用の可能性が爆発的に広がったのだ。現在は、技術でなにが実現できるのか、どんなサービスが創出できるのか研究、検証が行われているフェーズだと言える。つまり、「Age Tech」は黎明期を迎えているのだ。

ITのディスラプション「Age Tech」

その動きが顕著なのが、高齢化先進国の欧米だ。高齢者に特化したテクノロジー分野は「Age Tech」という名前で認知されつつあり、ITの新たなディスラプションとして期待がかかっている。

Age Techは高齢者×テクノロジー、あるいは高齢化社会で発生する課題解決のためのテクノロジーのことだが、その特徴はすそ野の広さにある。というのも、主体となるのは高齢者だけではないからだ。高齢化社会は少子化が進んでいるということでもあり、現役層がより多くの高齢者を支えることになる。

つまり、Age Techは高齢者だけではなく、その家族、地域社会、医療・介護機関など、さまざまなプレイヤーが参加する、いや、しなくては成り立たない分野なのである。2025年にはAge Techのマーケット規模は2.7兆米ドル(約285兆円)になる可能性があると言われている(「’Age-Tech’: The Next Frontier Market For Technology Disruption」Forbesより)。

Age Tech先進国のヨーロッパで2021年に予定されている主な展示会を概観し、その概要を探ってみたい。

フランス「AgeingFit」

フランスの経済開発局Eurasantéが主催。2021年で第5回目を迎える、イノベーションパートナーシップに特化したヨーロッパ初のパートナーイベント。展示内容は健康・医療デバイス、データマイニング、リサーチ、保険など全方向を網羅している。20カ国以上が参加、50の展示、75人のスピーカーが招待され、高齢者の心身、社会的な健康を支えるイノベーションを育成する。

イギリス「Dementia, Care & Nursing Home Expo」

イギリスの展示会「Dementia, Care & Nursing Home Expo」のウェブサイト
https://www.carehomeexpo.co.uk/welcome

新しいソーシャルケアモデルを提案する展示会。ケアホーム、老人ホーム、在宅ケアなど、人を中心にした高品質なケアを提供するためのテクノロジーや製品を紹介。認知症を疑似体験する「The Virtual Dementia Tour」を開発した企業も参加。最新テクノロジーでケアの向上、持続可能なモデルを探るCare Tech Liveも開催される。Care Tech Liveでは、ケアビジネスのオーナーやマネジャを対象に最新テクノロジのレクチャが行われる。

イギリス「Longevity Leaders Forum」

イギリスの展示会「Longevity Leaders Forum」のウェブサイト
https://www.lsxleaders.com/longevity-leaders-congress

Age Techを語る上で、Longevityの概念をはずすことはできない。Longevityは「長生き」という意味だが、現在、盛んに議論されているLongevityは単に寿命の長さだけではなく「健康に、健やかに長生きする」ための仕組みづくりやイノベーションを差す。ヴァーチャルで開催されるこのフォーラムでは、エイジングサイエンス、エイジングウェル、ロンジェビティリスクの3つのテーマで会議を設け、各テーマを深く掘り下げる。また、全体会議とネットワーキングセッションで学術的な交流も促す。Longevityは、サイエンス、テクノロジー、ビジネス、ファイナンスを包括してロンジェビティ・エコノミーとも呼ばれている。

イタリア「AAL Forum」

イタリアの展示会「AAL Forum」のウェブサイト
https://www.aalforum.eu/

AALは高齢者のクオリティオブライフをサポートし、医療システムの持続性を確保しながらビジネスを活性化することを目的としたヨーロッパのイニシアチブ。2008年以来、220を超えるプロジェクトに資金提供している。デンマークで開催された2019年のイベントでは、スタートアップが企業にプレゼン(エレベータピッチ)を行う新たなワークショップを開催。終末期をオープンに語るゲームソフト、異文化とケア、失禁対策などAge Techが必要とする斬新な切り口から高齢者とテクノロジーのマッチングを発表した。AALは、Active and Assisted Living の略。

スウェーデン「Vitalis」

スウェーデンの展示会「Vitalis」のウェブサイト
https://en.vitalis.nu/

スウェーデンは、2025年までにデジタル化とeヘルスの普及が世界トップになると目されている。スカンジナビア最大のeヘルスイベントであるVitalisでは、ヘルスケアと社会福祉の変革に焦点をあて、在宅モニタリング、位置測位システム、異常行動検出、遠隔医療、AI、ロボットロボティクスなど、主に高齢者の自立した生活を支援するサービス、テクノロジを紹介する。2020年はデジタルコンフェレンスという形で開催された。

柔軟な発想が求められるAge Tech

このような展示会やイベントが頻繁に行われることで今後もAge Techの注目度が上がり、異業種スタートアップやベンチャー企業の参入も盛んになり、期待通りのディスラプションが起こるかもしれない。そのきっかけとなるのは最新の技術だけだろうか。そうとは言えない好例がある。

ヘルス・フィットネスを業種とするノルウェーの企業Motitechは、高齢者の健康問題は身体の老化よりもむしろ、運動量の低下と孤独にあることに注目。

ベルゲン市のナーシングホームと協力して屋内のエアロバイクとサウンド付きビデオを接続したMotiviewを開発。老人がバイクを漕ぐと目の前のスクリーンに自分が見知っているストリートが映し出され、あたかも本人が自転車でその通りを走っているような体験が得られる。

代表者のひとりStian Lavik氏は、ケアホームでは、「質の良いケア」に心血を注いでしまいがちだが、運動も同様に大切だと説く。動画と連動したエアロバイクを設置して2か月後、ケアホームの入居者の体力、睡眠と食欲のバランスすべてが向上したことが明らかになった。

ROAD WORLDS FOR SENIORSのウェブサイト
https://www.roadworlds.com/

ROAD WORLDS FOR SENIORSというプロジェクト名で、各国で展開。7カ国4,300人のサイクリストが参加したワールドカップも開催している。

ケアという分野は、対象が高齢者だけに視野が狭くなりがちだ。そこに外部から風を通すことで健全なイノベーションが発生する。プライオリティは高度なテクノロジーではなく、Motitechのように、盲点に気づく柔軟な発想力ではないだろうか。それがAge-tech発展の鍵を握っていると思う。

企画・編集:岡徳之(Livit)

平均寿命世界一のシンガポールで活況迎える「エイジテック・イノベーション」最新動向

先進国を中心に進む高齢化。「若い国々」の代名詞であった東南アジアにも高齢化の影は忍び寄っている。中でも「高所得国」に属し、東南アジアで最も経済発展を遂げたシンガポールでは、現在8人に1人が65歳以上。10年後にはその倍に増えることが予測され、高齢化は国が早急に対処すべき課題として浮上している。

多くのテック系スタートアップを輩出し、官民を挙げたテクノロジー開発が活発な同国では「エイジテック」を駆使したさまざまな取り組みが行われている。本記事では、シンガポールで進められるエイジテック・イノベーションの最新動向をお伝えする。

日本を抜いて世界一。高齢化が急速に進むシンガポール

日本が世界有数の長寿国であることは、誰もが知るところであろう。しかし、2017年にシンガポール保健省と米ワシントン大学付属健康測定・評価研究所(IHME)が行った平均寿命調査によると、シンガポールが日本を抜き世界1位に躍り出た。

シンガポール人の平均寿命は84.79歳、健康な状態で過ごす年月も74.2年とトップ。2位の日本は平均寿命が84.19歳、健康寿命は73.07歳という結果であった。1990年の同調査と比較すると、シンガポールは平均寿命が8.7歳、健康寿命が7.2歳も伸びているという。ここ30年で急速に高齢化し、本格的に「高齢化社会」の仲間入りをした形である。

なお、同じ東南アジアのタイでも高齢化が進んでおり、2021年には60歳以上が人口の20%を超えると予測される。今は若年層が多い東南アジアの他地域でも、子どもの出生率は減少傾向。国や地域に関係なく、高齢化は世界共通の問題であることが分かる。

テクノロジーの力で高齢者の生活向上を図る「SHINESeniorsプロジェクト」

2030年、シンガポールでは65歳以上の高齢者が96万人に達することが見込まれる。しかも、そのうち約1割である9万2000人が一人暮らしになると推定されている。

近年シンガポールでは、高齢者の生活の質と社会関与レベルを改善するため、エイジテック開発に力を入れている。シニアサポートのためのデジタル技術は、国内の医療機関や高齢者施設で急速に普及し始めている。

SHINESeniors公式紹介動画

シンガポール経営大学(SMU)はインド財閥系ITサービス&コンサル会社のタタ・コンサルタンシーサービス(TCS)と提携して「SMU-TCS iCity Lab」をローンチ。そこでAIなどを活用したエイジテックソリューションの開発に乗り出した。

SMU-TCS iCity Labが始めたプロジェクト「SHINESeniors」は、一人暮らしの高齢者を対象としたデータドリブン型のコミュニティケアである。

家族と同居する高齢者に比べ、独居の場合は精神的・身体的なサポートが難しく、身体の異変や事故があったときの対応が遅れ、最悪のケースに至ることも少なくない。しかし、施設での集団生活を望まず、リスクを感じながらも一人暮らしを続ける高齢者は多い。

SHINESeniorsは、最新機能を搭載したセンサーと在宅ケアによって、住み慣れた自宅やコミュニティで、高齢者が自立した生活を送れるようにすることを目指している。

プライバシーを損なわずにスマートに“監視”

センサー対応の家では、物理的環境(換気、騒音、温湿度など)と、高齢者の日常生活のパターン(自宅での移動パターン、服薬遵守、睡眠の質など)を監視することができる。

さらに、センサーは個々の生活パターンをデータとして蓄積。パターンに異常が見られた場合は、リアルタイムで介護者に通告される。なお、センサーによってプライバシーが損なわれることはない。

高齢者の生活パターンを経時的に観察・分析することで、健康状態が悪化する前に適切な処置をとることができる。特に転倒や事故など助けが必要な緊急事態においては、タイムリーな介入が可能となるだろう。

イノベーティブな取り組みで「SuperNova Awards」を受賞

SHINESeniorsプロジェクトは地域の介護・ソーシャルワーク団体と連携して行われており、2019年にはイノベーティブな技術で社会を変革するテック企業・チームに贈られる「SuperNova Awards」のAI&AugmentedHumanity部門においてを受賞した。

人との触れ合いを保ちながら、テクノロジーによる“さりげない見守り”によって、可能な限り自由で自立した生活を実現させることを目標としている。時代に即したシニアケアとして、ますます注目が高まるだろう。

次々と生み出されるエイジテック製品

https://www.healthstats.com/

シンガポールのテック企業Healthstats Internationalは、動脈波データをキャプチャして血圧を測定するウェアラブル端末「BPro」を開発した。

BProは手首に装着して、15分間隔で中心大動脈の脈波をキャプチャする。24時間経過後にデータからレポートが作成され、平均動脈圧や中枢動脈圧などが出力される。これにより、脳卒中や心臓発作のリスクが予測できる。同商品は臨床実験中だが、すでに20カ国以上から承認を得ている。

https://www.senescence.life/

テクノロジーによる認知症予防や脳機能の向上に取り組むヘルスケア企業Senescence Life Sciencesの栄養補助食品部門は、脳の健康を改善し、認知能力を高める脳サプリを開発。記憶力・認知力低下を防ぐ「REVIVE powered」とストレス耐性を高める「EDGE powered」の2種類を販売している。

また、同社の製薬部門では、アルツハイマー病の予防と治療のための医薬品を開発中。アルツハイマー病は高齢者に最も多い疾病の一つで、米国アルツハイマー病協会によると、高齢者の3人に1人はこれで亡くなっているという。

この割合は、乳がんと前立腺がんを足したものよりも高い。さらに、米国ではアルツハイマー病にかかる医療費は高額であり、2050年には年間1.1兆米ドルを超すと予測されている。同社の開発が成功すれば、アルツハイマー治療の大きな前進となることは間違いないだろう。

平均寿命世界一、急速に高齢化が進むシンガポールで生まれるエイジテック、そうしたテクノロジーがもたらす社会変革から、同じく高齢化が進む先進国として日本も目が離せない。

企画・編集:岡徳之(Livit)

「高齢者=ITに弱い」という先入観は捨てよ。パンデミックで拡大するアクティブ・シニアのデジタル消費

今や世界的アイコンの「ゲーマーおばあちゃん」

 世界中が不安と陰鬱を抱えて家に引きこもっていた今年初夏、彗星のように現れて世界中のネチズンの心を癒した90歳の日本人女性ゲーマーがいる。「あ、ゲーマーグランマね」とピンと来る人もいるはずだ。

主な発信の場であるYouTubeにおけるチャンネル名を流用した「Gamer Grandma」の呼び名で世界のゲーマーの話題をさらったのは、「世界最高齢のゲーム実況者(ギネス公式記録)」こと森浜子さん。彼女のもとには、AFP通信(フランス)やGulf News(アラブ首長国連邦)など、世界各国のメディアが殺到した。

森浜子さん
https://www.youtube.com/watch?v=Tpqj47mMlY0

その小柄で楚々とした90歳日本人女性らしいビジュアルとは裏腹なコントローラーさばきで、「Ghost of Tsushima」や「バイオハザードRE:3」などの殺伐とした最新ゲームの中で楽しげに殺戮を重ねる。

そしてやはり年齢からは想像もつかない、かくしゃくとした口調でゲームの楽しさを語ったり、「同年代のゲーム仲間が見つからない」と愚痴をこぼしたりする(そりゃそうだ)。

しかし、ときにはバトルゲームで戦時中のことを思い出していきなり昔話を始めてしまったり、「クリアするまでに若い人の10倍時間がかかる」と嘆いたりといった、おばあちゃんらしいおちゃめな姿も見せる。

そんな彼女は、「ゲーム=不健康」「シニア=機械に弱い」「年を取る=刺激のない毎日を送るようになる」といった、自分の身に起こると想像するとちょっと憂鬱になる高齢者ステレオタイプをキルしてくれる新時代シニアのアイコンとして、100年人生の歩み方を模索する先進国社会に歓迎された。

シニア世代をデジタル利用へ誘ったパンデミック

そもそもアクティブ・シニアをアクティブ・シニアたらしめる要因はさまざまなものが考えられるが、日常のさまざまなシステムがIT化されていくこれからの時代を「アクティブ」に過ごすには、彼らのデジタル消費の増加が重要な一端を担うことは疑いようがないだろう。

実際、先述の森浜子さんほどのスクリーンタイムを日々費やさずとも、デジタル親和性の高いシニアが急増しているという。

特に今年は、年明け早々に始まりいまだ出口が見えない新型コロナウイルスのパンデミックにより、いわゆる「リアル」のコミュニケーションや行動が遮断され、デジタルデバイス・サービスの利用を強いられた高齢者が多く、結果としてさまざまなデジタル手段を使いこなすシニアが急増する事態となったといわれている(詳しくは後述)。

 また、パンデミックの最中、運動不足が気になってオンラインでエクササイズ動画を物色した人も少なくないだろうが、シニアにとって運動不足は、筋力や認知力の低下といったもっと深刻な問題と隣り合わせだ。そこで気軽に外出や面会ができなくなった高齢者向けに、自宅でできる運動の動画を作成・公開した自治体や企業は少なくない。

 さらに施設で暮らす高齢者の脳トレや家族とのコミュニケーションツールとしてのeスポーツの活用推進を決定した神戸市、同様の目的の使いやすいアプリを開発した企業など、高齢者の老化の加速や孤独の問題をデジタル技術で解決しようとする取り組みがさかんになった。

Photo by Ben Collins on Unsplash

 個人レベルでも、スマホやタブレットを活用して離れて暮らす両親と連絡を取ったり、子どもの写真を共有したりといった「デジタル親孝行」を実践する人も増えているが、そういった場合もやはり、ツールを導入するところからサポートするケースが多いという。

 なかなか会えなくなってしまった子どもや孫の近況見たさにSNSの利用を始めたシニアが、同じプラットフォームを利用する同世代の知人を見つけ、その知人が趣味に関する投稿をよくしたりしていると、自分も刺激を受けて日常のちょっとした出来事を共有してみたりと、横のつながりが広がっていくケースも。

 「なんか難しそう」「俺はそういうのいいよ」とデジタルツールを敬遠してきたシニア層に、必要に迫られての利用を爆発的に拡大させたのが今年のパンデミックだったようだ。

注目はEコマース利用とウェアラブル

 経済的な意味でひときわ注目を浴びるのが、高齢者によるEコマース利用の増加だ。

中でもいわゆる戦後生まれの「団塊の世代」(1947年~1949年生まれ)は、いまだ人口ピラミッドにおいても最も厚い層をなし、大量消費時代に成人期を過ごし、現在安定した老後を送っているといった経済的な影響力が無視できない要素の揃ったグループ。

だが、そんな彼らは激動の時代を自らの手で築いてきた背景から、70代となった今でも従来の高齢者よりも新しい技術やサービスを試すことに心理的な抵抗が低いと言われている。

米マッキンゼーのパートナーであるエコノミストのJaana Remes氏は同社ポッドキャストで、ベビーブーム世代は既存の価値観を打ちこわし、教育を受け、多様な社会を切り開いてきたこと、特に都市部の高齢者がいまだ高い購買力を保っていることを踏まえ、これからのビジネスは従来の「高齢者」のイメージをいったん捨てた上で、消費者としての彼らを注視する必要があると指摘した。

また、2002年から全世代のオンライン購入行動に関する調査を継続している総務省のデータによれば、それまでにも徐々に増加しつつあった50代以上のオンラインショッピング利用は今年5月の時点で飛躍的に増加している。

50代を中心に若年層よりも一人当たりの支出が大きく、特に食料品やより年齢の高い層の伸び率が大きいことから、高齢者の感染への恐れが新しい買い物習慣への抵抗感を上回り、その結果、日常的な買い物のオンラインへのシフトを後押しした可能性が指摘されている。

欧米で「ベビーブーマー」と呼ばれる層はもっと広く1960年あたりまでに生まれた世代を指すことが多いが(定義による)、彼らの消費行動が注目を浴びている傾向は世界共通だ。

アメリカのマーケティング専門メディアeMarketerによると、パンデミック以前の昨年末の時点ではブーマーの87%がオンラインよりもリアル店舗での買い物を好み、7割前後が2020年も実店舗で買い物をすると回答。

 一方、今年2~3月の時点ですでに34%のブーマーが買い物をオンラインにシフトし、6月に行われた調査では45%がオンライン購入に費やす金額が増加したと回答している。また83%がオンラインでの買い物は簡単だったと体験しており、「一度この学習曲線を乗り越えた人は、オンライン利用を継続するだろう」といった予測も。

ただし導入部分には何らかの「不慣れ感」軽減の要素は必要なようで、彼らの多くが従来利用していたリアル店舗のオンラインサービスを好んで利用するという指摘もされている。

 しかしここで留意したいのは、先述の米経済学者Jaana Remes氏のポッドキャストで「体験が重要」という指摘が丁寧になされていたこと。日本には特に、買い物や医者通いが日々の刺激兼社会とのつながりになっている高齢者も多い。買い物をオンラインにシフトした分、それに代わる体験の提供、もしくは代替のサービスが求められることだろう。

健康に関する分野では「ウェアラブル」に注目

また高齢者と切っても切れないテーマが「健康」だが、先述のように身体的な運動や認知機能サポートのためのデバイスやアプリ、オンラインサービスはパンデミックを機に開発が加速している。またこのジャンルでは最近特に、利用者が持ち運んだり電源を入れたりといった心配の少ない「ウェアラブル」が熱視線を浴びているようだ。

Photo by Fabian Albert on Unsplash

 高齢者向けの経済情報を発信するメディア「SilversFan」は、今年前半に自身の健康状態のモニタリングのためにスマートウォッチを購入する人が急増したこと、ウェアラブル医療機器の世界市場が2025年までに466億米ドルに達するという分析結果などを踏まえ、高齢者にとってのウェアラブル医療機器の意義を考察。

 下着に取りつけたり、タトゥーのような形で体内に埋め込んだりできる健康モニター・サポート機器の利用により、本人の命や健康を守るだけでなく、より多くのデータの集積、本人や介護者の自由と独立の拡大、より個人に適したカスタマイズなどが可能になるとその利点を主張している。

まずは「高齢者=IT機器に弱い」という先入観を捨てて

  今回、高齢者のデジタル利用について調べてみて、各方面の専門家が「これからの高齢者には、従来の高齢者のイメージを捨ててサービスを考える必要がある」と主張するのが目についた。新しいことを試し続けることが脳の老化の防止につながることは周知の事実だが、そういう意味でもこの新しい「高齢者」の時代の到来は朗報だ。

 高齢者を意識してデザインされたデバイスやサービスは、誰にとっても使いやすいグローバルデザインに発展する可能性もある。私たちはITと高齢者を切り離して考える癖を改める時期に立っているようだ。

企画・編集:岡徳之(Livit)

「オンデマンド孫」「シニア版Tinder」孤独な高齢者を救うシニア向けサービスがロックダウン下で活躍

 孤独と社会的孤立は「1日15 本のタバコを吸う」ほど健康に悪影響。そんな比喩を聞いたことはあるだろうか。パンデミックによる社会的隔離措置が世界中で実施された2020年、孤独が心身の健康にもたらすリスクが、これまで以上にクローズアップされるようになった。

 特に身近な人との死別や退職、子供の独立など、環境が激変するシニア世代ではもとより孤独が大きな問題となっていたのだが、今年の社会的隔離措置でより深刻化。孤独感の軽減を図る取り組みが強く求められるようになっている。

 一方で、シニアの中には趣味やさまざまな活動に積極的に参加する「アクティブ・シニア」と呼ばれる人びともいる。その多くは隔離期間中も、電話やデジタルデバイスを活用して人とのつながりを維持していたようだ。

 このような「アクティブ・シニア」の人びとはおおむね積極的な性格であり、自ら多様なチャレンジをするという人もいる。しかし中には、アクティブに人と交流したいものの、どうしたらよいか分からない、潜在的「アクティブ・シニア」というべき人たちも少なくない。孤独が健康にもたらす影響がこれだけ問題視されている今、そんなシニア層をいかにしてサポートできるかにも、関心が向けられるべきであろう。

 孤独による健康リスクは今、なぜこれほど重要視されているのだろうか。そして、パンデミックの最中でも、シニアの人間関係がアクティブであり続けるためにはーー。

パンデミックで深刻化。心身の健康に大きな影響を与える「孤独」

 孤独が抑うつや不安感の増大といった、精神面に良くない影響をおよぼすのは想像に難くない。しかし、実は孤独によって引き起こされる健康問題はもっと多様だ。

 日本人の主な死因でもある冠動脈疾患、脳卒中、ガンの発症率や死亡率を、孤独が増加させることがこれまで報告されている。認知症についても、孤独感、さまざまな社会の活動への参加や人と会う機会の少なさなどが、発症率増加の要因の一つとされている。

おじいちゃんんと孫が笑顔で会話する様子
人との関わりは心身の健康上、重要な役割を果たす
Photo by Nathan Anderson on Unsplash

 健康増進というと、食事やエクササイズをまず思い浮かべることが多いと思うが、それと同じように孤独の軽減も重要なのだ。

 日本では、高齢者の一人暮らしが2015年の625万世帯から年々増加、2040年までに896万世帯になると予測されているが、今年のパンデミックでは、特に一人暮らしの高齢者世帯の孤立と孤独が問題視された。

 これまで、高齢者の孤独への対応策は、地域社会に交流の場を設けるといったものが主だったが、物理的に集まることをできるだけ避ける必要がある今、その実施も困難になっている。

 パンデミックが長期化する中で、元々は社交的なシニアであっても習い事や友人と会う機会が減少しているだけでなく、別世帯の親族との交流も控える傾向にあり、世界各国はウイルスと戦うだけでなく、この「孤独問題」にいかに対処するかが喫緊の課題となっている。

ロックダウン下のアメリカで広まる、テクノロジーを活用した孤独軽減策

 日本よりもさらに厳格なロックダウンが行われ、この問題がより深刻なアメリカでは、いくつかのテクノロジーを活用した対応策が注目されるようになっている。

 その一つが、シニアユーザーに特化したタブレット端末だ。外部からの訪問が禁止された病院や施設では、患者・利用者と家族や友人をタブレットでつなぐ取り組みが広く実施されているが、独居高齢者の場合、「誰かと顔を見て会話をしたい」という気持ちがあっても、タブレットの操作に馴染めないという人も多い。

 そんな高齢者向けに開発されたのが、大きなボタンとシンプルな操作で、簡単にビデオチャット、写真の閲覧、ニュース閲覧、メッセージ、ゲームや音楽視聴などが可能な「Grandpad」だ。

 このシニア向けデバイスは、移動が極端に制限されたパンデミックの最中でも、高齢者が家族や友人と顔の見えるコミュニケーションをとり続ける大きな助けとなっている。

https://youtube.com/watch?v=N6_RM_1f3Rs
高齢者ユーザーに特化したタブレットの開発
(Grandpad YouTubeチャンネルより)

 Grandpadのほかにも、例えば「Grandkids on demand(オンデマンドの孫)」を掲げる「PAPA」は、職種や趣味、好きな映画のジャンルといった共通の趣味や関心を持つシニアと、地域の若い世代のサポーターをマッチング、おしゃべりといった交流や、通院の付き添いなどを提供している。

 利用者は1時間に20ドルから25ドルを支払い、そこから何割かがサポーターに支払われる。有給のサポーターは面接、身元調査による審査が行われ、その多くは看護師やソーシャルワーカー、医療系の学生など、ヘルスケア分野の経験を持っている。

 パンデミック前は、病院の予約など簡単な用事を手伝ったり、一緒に映画を見たりといった対面のサービスが主だったというが、外出制限が実施されてからも、「PAPA」を通じて出会ったペアは、電話やインターネットで連絡を取り合っている。それがシニア側だけでなくサポーター側の孤独感さえも軽減する手助けにもなっているという。

地域の人びとをマッチングさせるサービス
(PAPA YouTubeチャンネルより)

  「PAPA」は世代間交流を目的としているが、同世代の高齢者同士をつなぐデジタルサービスとしては「Stitch」が人気だ。

 「シニア向けのTinder」とも呼ばれるこのサービスだが、設立者はこの呼び方をあまり好意的には受け取っていないようだ。ほぼ外見の好みだけでプロフィールを「あり」か「なし」か、左右にスワイプして仕分けていく、カジュアルなデートアプリの要素が強いティンダーとは異なり、「Stitch」はあくまでもネットワーキングのためのサービスだからだ。

 もちろんデートの相手を探すことができるが、それ以外にも同じ趣味の友人をつくる、地域のさまざまなグループ活動に参加するといった多様な機能があり、交友関係全般を広げることができる。

「シニア向けのTinder」とも呼ばれる同世代の高齢者同士をつなぐデジタルサービス「Stitch」
高齢者向けネットワーキングサービスも人気(Stitchウェブサイトより)

 2014年に設立され、現在では世界中で2万5000人を超えるユーザーにサービスを提供しているこの「Stitch」も、対面でのネットワーキングが困難になった今年、他の国に住むランゲージエクスチェンジパートナーを探す、地域のメンバーとチャットを楽しむといった形でオンラインで人と人をつなぎ、シニア層の孤独感軽減に一役買っている。

 このようなデジタル機器やサービスは、シニア層にとって使い始めるきっかけ作りがなかなか難しいのだが、「GrandPad」の場合、高齢者に居宅介護を提供する企業「Comfort Keepers」と提携、利用者にタブレットを提供するといった形で連携を図っており、医療や介護従事者が入り口となるのも、一つの有効な手段なのかもしれない。  地域コミュニティや大家族といった伝統的な人のネットワークが減少しつつある現代。一方で、アクティブなデジタルサービスを使いこなすシニアは増えつつあり、これまでとは違った形の新しいシニア世代の交流が、これからも世界各地で生みだされていくだろう。

フィンテック、エドテックの次に来る「エイジテック」 巨大シニア市場を席巻するテクノロジー

パンデミックが変えたシニアのテクノロジー利用

医療の発達や生活環境の向上などで人間の寿命は伸び続けており、いまでは「人生100年時代」といわれるまでに至っている。

これまで高齢化社会について議論されるとき、「医療費増大」などネガティブな側面にフォーカスが向けられがちだったが、近年では「アクティブ・シニア」などポジティブな側面への言及も増えている。

一般的に、メディアやリサーチ会社が消費者市場について語るとき、ミレニアル世代(20〜30代)やZ世代(10〜20代)などデジタル消費が活発な若い世代に焦点を当てることが多い。実際、「ネット時代」「ソーシャルメディア時代」などと呼ばれる現代において、新たな消費トレンドを作り出しているのは、これらの若い世代。ビジネスパーソンに注目されやすい世代であるのは間違いない。

しかしパンデミックをきっかけに状況は大きく変わってきている。ロックダウンや外出自粛により、デジタルデバイスやデジタルサービスの利用を余儀なくされたシニア層のデジタル化が進み、デジタル経済における主要な消費者グループとして台頭し始めているのだ。

もともと若い世代に比べ、時間と資金に余裕のあるシニア層。デジタル経済での消費活動が活発化すれば、若い世代にも影響を及ぼす消費トレンドを作り出す可能性も十分にある。

米国にある退職者団体AARPのレポートによると、同国50歳以上の人口は約1億1740万人で、全人口の35%を占める。その経済規模はGDPの40%に相当する8兆3000億ドル(約870兆円)に上ると推計しているのだ。米国の50歳以上の人々だけの国をつくったとすると、その経済は、米国、中国に次ぐ世界3番目の規模になる。

冒頭で述べたように、いまは「人生100年時代」。50歳以上の人口は増え続ける計算になる。AARPは、2050年には米国50歳以上の人口は1億5730万人に増加し、経済規模は28兆2000億ドル(約2960兆円)に達すると予想している。特に、金融サービス、保険、ヘルスケア分野が活発化する見込みという。

シニア発のデジタル消費トレンドが生まれる時代

これまで、こうしたシニア市場におけるサービスやプロダクトは、非デジタルなものが前提となっていた印象がある。しかし、デジタルサビーなシニア層が登場したことで、シニア向けのデジタルサービスやデジタルプロダクトの重要性が高まったといえる。

この傾向は年が経つにつれ顕著になってくる。なぜなら、いまデジタル経済の主要な担い手であるミレニアル世代もZ世代も2050年には50歳以上になっているからだ。2050年には、いまシニア向けに提供されている非デジタルなサービスやプロダクトがデジタル化するのは必然ともいえる。

こうしたシニア市場の拡大やシニアのデジタル化という状況を背景に、起業家や投資家の間で注目され始めているのが「エイジテック」という分野だ。

文字通り、シニア消費者を対象にしたテクノロジーサービス/プロダクトを指す言葉。

ニューヨーク、ロンドンを拠点とするベンチャーキャピタル企業Nauta Capitalの、ドミニク・エンディコット氏がForbes誌に語ったところによると、現在、テクノロジーを活用した金融サービス「フィンテック」が世界的な広がりを見せているが、現在のエイジテックは、10年ほど前のフィンテックと同様の状況にあるという。

シニア向け通信サービス会社GreatCall社のウェブサイト
https://www.greatcall.com/

Nauta Capitalは、シニア向け通信機器販売・サービスのGreatCallというスタートアップに投資をしていた。GreatCallは、2018年8月に米家電量販店大手Best Buyに8億ドル(約840億円)で買収され、Nauta Capital最大のエグジットになった。

この経験で、エイジテックの可能性を確信したエンディコット氏は、2019年エイジテックに特化ベンチャーキャピタル「4Gen Ventures」を設立、同分野のスタートアップを精査し、投資を始めている。

世界のエイジテック市場は73兆円、今後も拡大余地あり

エンディコット氏曰く、現在広く普及しているフィンテックだが、2007年頃に「フィンテック」という言葉を使い、同分野への投資をしていた起業家や投資家はほんの一部だったという。いまのエイジテックの状況は、これに似ていると指摘している。

エイジテックの市場規模について、エンディコット氏は以下のように見立てている。2018年の世界GDPは87兆ドル(約9100兆円)。そのうちシニア経済は20%ほどを占めており、規模は17兆ドル(約1785兆円)になる。IMFの推計では、世界GDPに占めるデジタル経済の割合は8%。シニア層におけるデジタル普及率は平均より低いと仮定し4%とすると、世界のエイジテック市場は約7000億ドル(約73兆5000億円)となる。高齢者割合と高齢者のデジタル化の2要素は今後拡大することが見込まれるため、市場規模は急速に拡大することになる。

米国ではすでに大手テック企業による高齢者向けサービスが展開されている。たとえば、ウーバーの競合Lyftは、上記高齢者通信サービスGreatCallと提携し、高齢者向けの配車サービス「GreatCall Rides」を提供。GreatCallは、高齢者でも使いやすいモバイルデバイスを開発する企業。高齢者は、スマホを使わなくとも、GreatCallのモバイルデバイスから配車をオーダーできる。

「GreatCall Rides」紹介ページ
https://www.greatcall.com/services-apps/senior-rides-service-by-lyft

スポーツ/フィットネス分野のエイジテックも今後増えてくることが見込まれる。すでにサービス展開する企業としてBoldやMotitechが挙げられる。Boldは、高齢者向けの運動カスタマイズサービスを提供。高齢者向けにアレンジしたヨガプログラムなどをオンラインで展開している。Motitechもオンラインで老人ホーム向けの運動プログラムを提供する企業だ。

冒頭で紹介したように米国では50歳以上の人口割合は35%。一方、日本はすでに50%近くに達しているといわれている。日本の高い貯蓄率などを考慮すると、他国に先駆けエイジテック産業が開花するシナリオもあるのかもしれない。

侮れないシニアパワー、コロナ禍でも「長寿経済」は拡大する

「高齢者は社会・経済のお荷物」というのは本当?

「エイジズム」という言葉を聞いたことがあるだろうか。「レイシズム(人種差別)」や、「セクシズム(性的差別)」に倣った言葉で、「高齢者差別」のことだ。高齢者をステレオタイプ化し、偏見を持ち、差別することを指す。

ヘルスケアの普及や質の向上で、私たちの寿命は伸び続け、最近では「人生100年時代」といわれるようになっている。長く生きれば、身体的・知的能力の後退は仕方がないこと。そのたった一面だけを捉え、攻撃の対象にしている。

老人ホームを「現代の姥捨て山」だと嘲笑したり、高齢者福祉に税金があてられるのを納税する若者ばかりに負担がかかってかわいそうと文句を言ったり、高齢者を社会・経済の邪魔者扱いする傾向がある。

実はこれが大きな間違いであることをどれだけの人が認めているだろうか。

国民の長寿化がもたらす利益

街で自転車にまたがる高齢者の様子
Image by Martin Vorel from LibreShot.

「人生100年時代」は寿命の伸びを表しているのみに留まらない。人生の後半においても健康を維持し、生産性を維持することも意味する。これは人類が未経験だったことだ。

にも関わらず、シニアといえば、慢性病や認知症などと結び付け、長寿は社会・経済に負担をかけるだけという考えがいまだにはびこっている。

これが時代遅れであることを証明しているのが、米国のAARP(旧米国退職者協会)のエコノミスト・インテリジェンス・ユニットによる、『ロンジェビティ・エコノミー・アウトルック』という2019年末に発表された報告書だ。

「ロンジェビティ・エコノミー」は「長寿経済」と訳される。米国を例に挙げると、国民の長寿化によりもたらされる国全体へ影響は大きい。

50歳以上の人口や米国人の消費習慣、ワーク/ライフにおける嗜好に留まらず、米国全体に影響を与えていることが、同報告書を読めば一目瞭然。さらに、シニアが将来担う役割にも言及する。長寿化がもたらす経済・社会的可能性を具体的に挙げ、取り組み方を示唆している。

数字を見れば明らか、50歳以上人口の経済への貢献

街を手をつないで歩く高齢者夫婦
Image by pasja1000 from Pixabay

『ロンジェビティ・エコノミー・アウトルック』によると、米国内の50歳以上の人口は1億1740万人で、全人口の35%にあたる。うち4400万人が退職している。

50歳以上の人々が支出、仕事、税金を通して国内経済に貢献する額は8兆3000億USドル(約874兆円)でGDPの40%を占める。前回調査が行われた2013年時の7兆1000億USドル(約748兆円)からかなりアップしている。

年齢に関係なく国民の雇用にも大きく貢献している。8860万人の雇用の創生にも寄与しているのだ。これは全雇用者数の44%にも上る。賃金においても同様で、5兆7000USドル(約600兆円)に及ぶ。これは支払われる全賃金の46%だ。

税金もしかり。連邦税として1兆4000億USドル(約147兆円)、州税・ 地方税として6500億USドル(約68兆円)を納めている。各々全体の43%、37%を占めていることになる。

無報酬の仕事の価値は約79兆円にも

現役で仕事を続け、賃金を得て働く人がいる一方で、無報酬で仕事をする50歳以上の人もいる。無報酬の仕事には例えば、年を取った親や祖父母の介護、孫の世話、ボランティアなどが挙げられる。

親や祖父母の介護と、ボランティアは各々全体の55%、孫の世話は12%を、50歳以上の人びとが行っている。50歳以上が行うこうした無報酬の仕事を貨幣として評価してみると、親や祖父母の介護は2600億USドル(約27兆円)、孫の世話は3440億USドル(約36兆円)、ボランティアは1400億USドル(約15兆円)となる。合計では7450億USドル (約79兆円)にもなる。

社会で重要なポジションに就くシニア層

財務関連の情報を関係者に提供する企業、アドバイザー・パースペクティブがまとめた8月更新時の労働人口調査では、65歳以上の人々は2000年以降、労働人口における人数は約2倍に増えている。それが全労働者に占める割合は米国労働省労働統計局による年齢別労働人口調査で7%となっている。年齢を下げて55歳以上とすると、23%以上を占めるまでになる。

現在、シニア層の労働者は、経済全体で重要な位置を占める。55歳以上は、建設労働者の22%、製造業の労働者の25%を占める。また農業従事者の平均年齢は58歳。医療保険業界では、開業医の3分の1が60歳以上、病院で働く公認看護士の4分の1が55歳以上だという。

さらに大きく成長が予測される「ロンジェビティ・エコノミー」

iPadでゲームをする高齢者女性の手元の様子
Image by Sabine van Erp from Pixabay

シニア層の経済面での貢献は、将来も続くものと考えられている。『ロンジェビティ・エコノミー・アウトルック』では、2050年までにGDPへの貢献は28兆2000億USドル(約3000兆円)に、賃金は2兆USドル(約210兆円)に、連邦税として5兆.8000億USドル(約611兆円)、州税・地方税として2兆5000億USドル(約263兆円)を納めることが予測されている。

同報告書で将来的に有望と分析されたのは、金融サービス、テクノロジー、看護・介護、不動産・建設、娯楽、教育の分野だ。中でも特に進むだろうと考えられているのがテクノロジーの分野だ。スマホとアプリ以上のアイテムを求める傾向にあり、スマートホームや、自動運転車、コンピュータでの遠隔教育に興味を持っているそうだ。

コロナでも、ロンジェビティ・エコノミーは拡大する?

今後もロンジェビティ・エコノミーはますます成長を続けることが予測・期待される中、今年に入ってすぐ未曾有の出来事が世界を席巻した。新型コロナウイルスのパンデミックだ。

シニア層が新型コロナウイルスに感染すると、病状が重くなることは今では誰もが知るところとなっている。米国疾病予防管理センター(CDC)によれば、米国においてコロナが原因で亡くなる人の10人に8人が65歳以上だそうだ。

科学全般に関する論文誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』で7月末に、カリフォルニア大学バークレー校の人口統計学者2人が発表した、米国におけるコロナによる死亡率に関連する論文では、コロナが寿命にどのような影響を与えているかに触れられている。

それによれば、コロナの影響で平均余命、余寿命ともに短くなっていることが分かり、前者では約3年、後者では約12年短くなったと筆者たちは計算している。

資産運用を行うアクサ・インベストメント・マネージャーズのロンジェビティ・アンド・バイオテック・ストラテジー部門で、資産運用の副責任者を務めるピーター・ヒューズ博士は、5月『ロンジェビティ・エコノミー・アウトルック』で将来有望と触れられている6産業分野のうち、テクノロジー分野は、コロナ後にも順調に伸びを続けるだろうと自社の報告書で語っている。

コロナ蔓延という負担が加わり、医療システムのキャパシティはギリギリにきている。テクノロジーを利用し、感染を心配せずに自宅でかかりつけの医者に相談ができる、「テレヘルス」はいまやブームともなっている。

依然としてパンデミックは続いている。人びとはコロナ以前とは違った生活を送るようになった。しかし変わらないこともある。それは、私たちが年を取るということ、そして高齢化が進んでいくということだ。

ヒューズ博士は、ポストコロナにはシニア層の消費パターンが変化するかもしれないが、推進力である「高齢化」という現象が続く限り「ロンジェビティ・エコノミー」も損なわれることはないと述べている。

企画・編集:岡徳之(Livit)

VRでシニアをアクティブにする仕掛け続々。フェイスブックはオキュラスでフィットネス産業へ参入

シニアを「アクティブ」する仕掛け

スポーツ/フィットネス界隈で関心を集める「アクティブ・シニア」。文字通り、高齢者でありつつも、スポーツを含め様々な活動に積極的に取り組むシニア層を指す。

高齢化がますます進展する国々において、医療費削減や経済効果などの観点からも注目を集めている。

このアクティブ・シニアには2つのタイプがあると想定される。1つは、すでに活動へのモチベーションが高く自発的に行動する「アクティブタイプ」だ。アクティブ・シニアという言葉が用いられるとき、暗にアクティブタイプを指している場合が多い。シニア層の中でも比較的若い層に多いと思われる。

もう1つは、行動するモチベーションが低いが何らかのきっかけや外部からの影響によって、活動的になる「パッシブタイプ」。シニア層の中では、このタイプの方がマジョリティーなのではないかと考えられる。身体を動かさない生活が長らく続き、活動的になることを諦めたものの、人間が元来持つ「好奇心」を刺激され、再び活動的になろうとする高齢者だ。

スポーツ/フィットネス産業がアクティブ・シニア市場を活性化させるには、後者のパッシブタイプを念頭に、如何に高齢者を「アクティブ」にするのかという課題に取り組む必要があるかもしれない。

ベンチで休む
一般的な高齢者イメージ
Photo by Matthew Bennett on Unsplash

この点で、VRは無視できないテクノロジーだ。VRは、活動的ではない高齢者のメンタルとフィジカルを刺激し、「アクティブ・シニア」に変化させる可能性を秘めているからだ。そのような研究結果がいくつか報告されている。

また、VR市場の主要プレイヤーであるフェイスブックは同社VR「オキュラス」に関してこのほど、最新機種「オキュラス・クエスト2」のリリースに加え、オキュラスVRにフィットネス機能を追加したことを発表。これまでゲームの文脈で語られることが多かったVRだが、フィットネスやウェルネス分野での活用が本格化する兆しを見せている。

以下では、VRがどのようにして高齢者を「アクティブ・シニア」に変貌させるのか、その可能性を探ってみたい。

オキュラスVRゲームでシニアがアクティブに?

フェイスブックが開発するVRヘッドセット「オキュラス」。同プラットフォーム上では、様々なVRゲームやコンテンツを購入することができる。

人気ゲームの1つ「ビートセイバー」。音楽に合わせて飛んでくるキューブを切り落としていくシンプルな音楽ゲームだが、娯楽性が高いことに加え、フィットネスの要素を含んでおり、非常に高い評価を受けている。

オキュラスVRゲーム「ビートセイバー」のウェブサイト
オキュラスVRゲーム「ビートセイバー」(オキュラスウェブサイトより)
https://www.oculus.com/experiences/quest/2448060205267927/

VRによる高齢者のアクティブ化において、ビートセイバーのようなVR音楽ゲームは重要な役割を担う可能性がある。

ビートセイバーは一見、若者向けのVRゲームだが、高齢者も楽しみながらメンタルとフィジカルを活性化させる要素を持っている。実際、オキュラスプラットフォーム上のビートセイバー販売ページレビューにおいて、あるユーザーから、自分が楽しむために購入したが、両親もこのゲームにはまってしまったというコメントが寄せられている。

また、別のユーザーは、自身の下半身が不自由であり義足をつけているが、ビートセイバーはそれに関係なく十分に楽しめること、さらには上半身のトレーニングにちょうど良いとのコメントを寄せている。

高齢者の中には、下半身が思うように動かなくなった人も多い。そのことが影響して、活動が不活発化したというケースは少なくないだろう。しかし、上記事例は、その状況を変えられることを示唆している。

またフェイスブックはこのほど、オキュラスVRにフィットネス機能を追加したことを発表。ビートセイバーなどでのカロリー消費量、運動時間、運動目標の進捗度合いをトラックできるようになっている。この機能は、高齢者に運動を続けるモチベーションを与えるものにもなり得る。

高齢者の嗜好に特化したデザインの重要性

ビートセイバーは高齢者向けにデザインされたものではない。もし、高齢者向けにデザインされた音楽VRゲームが登場すれば、より多くの高齢者をアクティブにできるかもしれない。

高齢者向けVRコンテンツ制作に特化した企業はすでに複数存在しており、これらの取り組みから得られるヒントは多いはずだ。米国のVR企業MyndVRの取り組みは興味深いものだ。

MyndVRウェブサイト
MyndVRウェブサイト
https://www.myndvr.com/vr-for-senior-living-communities

同社は、バンドがフランク・シナトラの曲を演奏する様子を360度カメラで撮影、あたかもコンサートの最前列でバンド演奏を視聴しているかのようなVR空間を作り出した。またこのVR空間では、他のオーディエンスは1950年代のファッションを身に着けており、高齢者が若い頃を思い出せる演出が施されている。

この取り組みでは、ビートセイバーのようなインタラクティブ性やフィットネス性はないものの、高齢者のメンタル活性化において効果があったことは間違いないだろう。

高齢者の「孤独」を解消し、「アクティブ化」する仕掛け

MITスローン経営大学院の卒業生らが立ち上げた高齢者向けVRスタートアップ「Rendever」の取り組みも、シニアを「アクティブ」にするヒントを与えてくれる。

同社創業者のリード・ヘイズ氏は、VRで高齢者のうつや孤独を解消したいというアイデアを持ち、スローン経営大学院に進学。同氏は、とある老人ホームでこのアイデアを試すことにした。

そこにいたのは、認知症を患う老人。車椅子に座り、ほとんど動かない。目もかすかに開いている程度。ヘイズ氏は、この老人にクラシックピアノ曲をBGMにゴッホの絵画が3次元で表現されるVR動画を視聴させた。すると、この老人にみるみる活力が戻り、笑いながら足を床にタップし、喜びを表現したというのだ。

この経験で、VR効果を確信したヘイズ氏はクラスメートとRendeverを立ち上げることになる。同社は、高齢者向けのバーチャル旅行やダイビング、またゲームなどのVRコンテンツを提供。またクラウドを活用し、多人数が同時に、同じVRコンテンツを共有できるソーシャルの仕組みを構築した。

Rendeverウェブサイト
Rendeverウェブサイト(https://rendever.com/)

パリへのバーチャル旅行を体験したとある高齢者が1955年にパリに行ったことがあり、そこには小さなカフェがあった、などと詳細な記憶を語り始めることもたびたびあるという。高齢化が進む米国でも、高齢者の孤独化は社会問題になっているようだが、VRによるメンタル刺激や体験シェアによって、同問題を大きく改善できる可能性が示されている。

VR市場の拡大にはヘッドセットの普及がボトルネックになっていると思われているが、今回フェイスブックが発表した「オキュラス・クエスト2」は299ドル。価格的な障壁はなくなりつつあると見て差し支えないだろう。 高齢化社会でVRはどのような役割を担っていくのか、今後の展開を楽しみにしたいところだ。

歳を取っても運動を続ける人はなにが違う? アクティブ・シニアを生み出す「4つ」の心理的・社会的要素

 急速に高齢化の進む日本。いまや日本人口の約4人に1人は65歳以上の高齢者となっている。昨年の政府統計によると、日本の高齢者人口は3587万人、過去最高の割合となった。

 このような人口構造の変化は、速度の差はあれ、世界各国で生じており、それに伴って、スポーツ産業も高齢化社会への対応という視点が求められるようになっている。特に「アクティブ・シニア」と呼ばれる、スポーツなどの趣味や地域活動に活発に取り組む層は、マーケティングの観点から重要なグループと認識されている。

 一般的に、歳を重ねるほどスポーツ人口は減る傾向にあるのだが、なぜ一部の高齢者はスポーツに積極的に取り組み続けることができるのか?

 これまで世界各国で行われた調査を概観すると、シニア層がアクティブにスポーツ参加を続ける心理的・社会的要素は大きく「4つ」に分けられるようだ。その理解を深めることは、高齢化社会におけるフィットネス・スポーツ産業を盛り上げるカギとなるのではないだろうか。

健康増進だけじゃない、高齢者のスポーツ活動参加4つの動機

 高齢者が運動する動機として、1つめの要素は「健康ファクター」だ。真っ先に思い浮かぶのが心身の健康増進、そして要介護状態の予防ではないだろうか。

 実際、日本でこれまで行われてきたアンケート調査でも、このような「健康ファクター」の回答が目立つ。運動が生活習慣病をはじめとした、多くの病気を予防することは広く知られているし、最近では足腰が弱る、転びやすくなるといった「歳だから仕方ない」とされてきた身体の不具合が、実際には運動である程度予防できることが分かってきた。

 しかし、このような「健康ファクター」以外にも、シニア層のスポーツ参加にとって重要な要素がいくつかあるようだ。

 その2つめは「競争/目標達成感ファクター」。「試合に勝ちたい」「より良い記録を出したい」「もっと上手くなりたい」といった競争心や目標達成感のことだ。これがスポーツに励む強力なモチベーションであることは周知の事実だが、シニアスポーツに関しては、体操や軽い筋トレのようなイメージが強いためか、競争や達成感は動機として想像しづらいところがある。

 しかし、このところバスケットボール、バレーボールなどのチーム競技、陸上、水泳、トライアスロンなどの単独競技まで、アクティブシニアが取り組むスポーツは多様化しており、この「競争/目標達成感ファクター」は無視できない存在となっている。

バスケットボールに取り組むシニアチーム(ESPNチャンネル)

 例えば、今年のパンデミックでは高齢者の活動性の低下が懸念されているが、アメリカの平均年齢80代の女子バスケットボールチーム「スプラッシュ」のメンバーが、ステイホームの最中でも、次の試合に向け、自宅周辺での持久力トレーニングやドリブル練習を続ける様子が話題となった。このチームのある選手は、若いころから憧れの競技だったバスケットボールをプレイするという目標を叶えるため、70代になってから練習を始めたという。

 3つめの要素は「コミュニティ・ファクター」だ。これは「住む地域のコミュニティとのつながりをもっと深めたい」「友達と一緒になにかに取り組みたい」など、既存の人間関係をさらに深めたり、帰属意識を感じたりしたい気持ちが、スポーツに取り組む動機になっているケースだ。

シニアがゴルフを行う様子
スポーツ参加を通じて新たな人間関係の構築を目指すシニアも(画像:PIXABAY)

  4つめが「ネットワーキングファクター」。こちらはすでにある人間関係を「深める」ためではなく、「新たな」人間関係を構築することが、スポーツ参加の意欲の源となっているような場合だ。

 職場や子どもの親同士といった、それまでの生活のおいて中核を占めていた人間関係が大きく変動するシニア世代では、新しい人間関係を構築する必要性を感じている人は多く、それがスポーツを始めるモチベーションとなっている。

 日本においても、高齢者向けサークル活動では、食事会のような交流系や英会話のような教養系に加え、テニスやゴルフといったスポーツ系の活動も人気となっている。

世界各国で盛り上がる、アクティブシニアを生み出す取り組み  

 このようなアクティブシニアを生み出す各要素にアプローチし、高齢者のスポーツ参加のモチベーションを高める取り組みが、このところ、世界各国で盛り上がりをみせている。

 平均寿命で世界一になったこともある欧州のアンドラ公国では、増加するシニア層の国民のスポーツ参加を促進するため、2016年より国際オリンピック委員会の資金提供を受け、アンドラオリンピック委員会、政府、自治体の協力のもと、初の高齢者スポーツ大会を開催した。

 初回大会には約400人の高齢者が、水泳や陸上競技といった13種類のスポーツで賞金獲得を目指し競い合った。大会に参加するシニア選手は、子どもを含む多様な世代の市民やスポーツ大会関連の専門家と一緒にイベント運営にも参加、世代を超えたネットワーキングをサポートするイベントともなったようだ。

 若いころと比べて、身体能力に大きな差が生まれるシニア層では、持病や障がいのある高齢者は競技スポーツへの参加が難しいのでは、という懸念はある。しかし、オーストラリアでは、ルールに修正を加えた「モディファイド(修正版)・スポーツ・プログラム」でこの問題に対処しようとしている。

  「モディファイド・スポーツ」とは、バスケットボールやサッカーのフィールドの広さを変えたり、走行やジャンプを禁止するといった修正を加えることで、より多様な健康状態の人が参加できるようにしたスポーツだ。

 すでに確立されている「モディファイド・スポーツ」以外にも、各種団体や個人向けに、新しい「モディファイド・スポーツ」クラブや大会の企画、運営を行うためのオンライン・マニュアルも用意されており、地域の様々な年代、多様な身体能力の住民が一緒に楽しめるようなスポーツを生み出す機会を提供している。

サーフィンを行うシニアの様子
シニア世代になってからサーフィンに取り組む人も(画像:PIXABAY)

 競技スポーツに限らず、その競技をよく知るインストラクターが適切な調整をすることで、かなりアクティブなスポーツにも高齢者が参加できるようだ。

 例えば、バランスや上半身の筋力など要求される身体能力は比較的高いものの、波を捉えたときの「達成感」が他にはない魅力の一つであるサーフィン。横で華麗に波に乗るベテランサーファーへの憧れがモチベーションになることもあり、シニア層の挑戦者が増えている。

 オーストラリアのサーフィンスクール「Lets Go Surfing」では、7歳から90歳までのあらゆるレベルのサーファーに適したプログラムを用意しており、日本の敬老の日にあたるイベント「シニアウィーク」では、シニアに向けた無料のサーフィンプログラムを提供、人気を博している。

 もちろん、寝たきり防止、生存率向上、健康寿命維持といった動機が高齢者のスポーツにおいて重要なことは間違いない。しかし、ますますアクティブなシニア層が増える昨今、運動しないと弱ってしまうという「恐れ」だけでなく、昨日より上手くなった、試合に勝った、仲間との一体感を感じられた、といったスポーツならではの「気持ち良さ」もモチベーションの源として、これからはもっとクローズアップされていくのではないだろうか。

企画・編集:岡徳之(Livit)

レアル・マドリードも注目、アマゾン傘下の動画配信プラットフォーム「Twitch」コンテンツ多角化でスポーツ配信強化

ゲーム以外のジャンル強化に乗り出したアマゾン傘下ソーシャル「Twitch」

ソーシャルメディアが一般化した今、コンシュマービジネスは様々なプラットフォームを活用し、ファンのエンゲージメントを高める施策が求められる。

スポーツの世界も例外ではない。ここ最近米国のスポーツエンタメ業界では、ソーシャルメディアを活用した施策の導入が顕著になっている。以前お伝えした米プロバスケットボールNBAのインスタ活用やその動画シェア新機能「Reels」を使った施策が好例といえる。

ソーシャルメディアといえば、日本ではツイッター、フェイスブック、インスタ、YouTubeなどが有名だろう。日本のスポーツ業界でも、これらのプラットフォームは活発に利用されている印象だ。

一方、海外では日本で馴染みのないソーシャルメディアがスポーツビジネス界隈で注目され始めており、今後日本でも話題になる可能性が高まっている。

それがアマゾン傘下の動画ライブ配信プラットフォーム「Twitch(ツイッチ)」だ。

Twitchウェブサイト
https://www.twitch.tv/directory/esports

もともと、主にゲーム/eスポーツの実況ライブ配信のプラットフォームとして発展してきたが、現在さらなるユーザー獲得に向けゲーム以外のジャンル強化が進められている。その一環でスポーツ分野が強化されており、2020年6月には英プロサッカーリーグ「プレミアリーグ」の配信計画が発表されたばかりだ。

また7月には、スペイン・サッカーチーム「レアル・マドリード」、イタリアの「ユベントス」、フランスの「パリ・サンジェルマン」、英国の「アーセナル」の4チームが独自コンテンツ配信で、Twitchと戦略的パートナーシップを提携したことが報じられた。各チームは、普段放映されないようなビハインドシーン映像を公開し、ファンのエンゲージメントを高めることを目指す。

レアル・マドリードTwitch公式チャンネル
https://www.twitch.tv/realmadrid/about

アマゾンはこの数年、同社の動画配信サービスAmazon Prime Videoのユーザー獲得施策の1つとして、スポーツコンテンツの拡充に注力してきたが、Twitchにおけるスポーツ分野の強化は、この動きと軌を一にするもの。

Amazon Prime Videoは、電子書籍や家電デリバリーなどアマゾン本来のサービスに付随するものであり、ユーザーの年齢層はかなり広いものと想定される。一方、Twitchはユーザーの大半が若年層であり、ユーザーのオーバーラップは少ないと考えれる。Twitchウェブサイトによると、ユーザーの50%以上が18〜34歳、14%が13〜17歳とのこと。Z世代とミレニアル世代が7割近くを占める構図となっている。

スポーツ・エンタメビジネスが無視できないTwitchのユーザーベース

スポーツビジネス界隈で、Twitchの動きが注目されるのは、Twitchが世界的なソーシャルメディアであること、また若いユーザーを抱えており、この先さらに拡大することが見込まれているため。パンデミックによる影響で、チケット収入が大幅に減少し苦しい状況にあるスポーツプロリーグやクラブチームがファンとのつながりを生み出し、事業を継続させる上で、非常に重要な存在になっているのだ。

Twitchウェブサイトによると、世界230カ国以上からユーザーが同プラットフォームにアクセスしているという。

月間アクティブユーザー数に関する明確な数字は公表されていないが、eMarketerの推計によると、Twitchの世界最大市場である米国の月間ユーザー数は、2019年に3290万人だった。この数は、2020年に3750万人、2021年に4120万人、2022年に4420万人、2023年に4700万人に増加する見込みという。

StatistaがまとめたTwitchの2020年7月の世界視聴者シェアは、米国が22.53%で最大。これにドイツが6.85%、ロシアが5.85%、韓国が4.99%、フランスが4.13%で続く。eMarketerの推計値とStatistaのデータを合わせると、世界全体の月間ユーザー数は、およそ1億4500万人と計算できる。これに年齢層別の利用者割合を当てはめると、世界1億人以上のZ世代とミレニアル世代にリーチできることになる。

Twitch配信で視聴者獲得に成功した米女子プロサッカーリーグ

プレミアリーグ試合配信やレアル・マドリードなどの有名クラブとの提携が報じられる数カ月前には、Twitchは米女子プロサッカーの「ナショナル・ウーマンズ・サッカーリーグ(NWSL)」の放映権を獲得。これについても海外のスポーツメディアは大々的に報じている。

「ナショナル・ウーマンズ・サッカーリーグ(NWSL)」のTwitchチャンネル
https://www.twitch.tv/nwslofficial/videos?filter=archives&sort=time

NWSLは2020年3月に、米スポーツチャンネルCBS SportsとTwitchの2社と3年間の放映契約を締結したことを明らかにした。

当時Twitchとの提携について疑問を持つ関係者は少なくなかったようだが、蓋を開けてみるとNWSLはTwitchで多くの視聴者を獲得することに成功しており、他のスポーツリーグやチームの関心ごとになっている。

英語スポーツメディアSpoticoが7月17日に伝えたTwitchTrackerの分析データによると、6月27日に開催された「Challenge Cup」以来、NWSLの海外向けTwitchチャンネルでは、各試合平均21万7000回の視聴数を獲得。3週間の累計視聴回数は350万回を超えたという。Spoticoの同記事は、スポーツチャンネルとしては大きな成功であると評価している。

Twitchはもともとゲーム/eスポーツのプラットフォームとして発展したきた経緯がある。何かを競う「ゲーム要素」を含むコンテンツは、既存ユーザーの関心事と親和性が高く、スポーツの試合はスムーズに受けいられる傾向が強いようだ。また、ライブ配信プラットフォームでもあるTwitchは、リアルタイムのチャット機能が充実しており、チャンネルと視聴者、また視聴者どうしのコミュニケーションが活性化しやすい空間となっている。

試合観戦でのリアルタイムの応援を他の視聴者とシェアできるという点も魅力の1つになっていると考えられる。この先「スポーツ観戦といえばTwitch」といわれる時代がやって来るのかもしれない。

「スポーツポッドキャスト」が活況、人気番組買収でスポティファイも本格参入

2020年もポッドキャスト市場の成長が止まらない。新型コロナウイルスの影響で、上半期のポッドキャスト広告はキャンペーン中止などのダメージを受けたものの、年間の広告収入は前年比で約15%拡大する見通しで、向こう2年間には10憶ドル(1060億円)に達するとみられている。

なかでも注目されるのがスポーツジャンル。ある調査ではポッドキャストの広告市場でトップシェアを誇っており、すでに音楽・ポッドキャスト配信アプリの「Spotify」が本格参入し始めた。

ポッドキャストのスポーツ番組はドル箱

 広告代理店Interactive Advertising Bureau(IAB)と、大手コンサルティング会社のPrice Waterhouse Coopers(PwC)が2020年7月に発表した調査結果によると、アメリカにおけるポッドキャストの推定広告収入は2019年に7億810万ドル(約750億円)に達し、前年比では48%の伸びを示した。

「Voxnest」によるポッドキャストの広告収入のジャンル別内訳
「Voxnest」によるポッドキャストの広告収入のジャンル別内訳
https://www.iab.com/wp-content/uploads/2020/07/Full-Year-2019-IAB-Podcast-Ad-Rev-Study_v20200710-FINAL-IAB_v2.pdf

 一方、ポッドキャスト向けにマーケティング関連の技術ソリューションを提供する「Voxnest」によると、2019年のアメリカのポッドキャスト広告収入の内訳は、「スポーツ」が首位で28.8%、続いて「カルチャー」が17.1%、「歴史」が8.8%、「政治」が7.5%、「コメディ」が4.3%を占めた。同調査は、Voxnestの独自システム「Vox Audience Network(VAN)」のカテゴリー分別に基づいている。

「Voxnest」によるポッドキャストの広告収入のジャンル別内訳
「Voxnest」によるポッドキャストの広告収入のジャンル別内訳
https://blog.voxnest.com/report-top-podcast-revenue-categories-advertisers/

 Voxnestによれば、スポーツジャンルの広告収入が多いことは、驚くべきことではない。「スポーツにこだわる私たちのカルチャーを見れば、それは当たり前」との見方を示している。マーケッターが狙っているのは、前夜の試合についてキャッチアップしたいスポーツファンたち。このため、アメリカ市場ではスポーツ番組の広告ピークの時間帯は朝7時なのだという。

 スポーツジャンルの人気は個別企業のデータにも表れており、ディズニー傘下のスポーツ専門メディア「ESPN」のポッドキャストもこのところダウンロード数が大幅に伸びている。同社はテレビ・ラジオでスポーツ番組を展開してきたが、2005年からはポッドキャストにも参入。同社提供のポッドキャスト番組のダウンロード数は、2019年に月平均で600万回だったが、2020年5月には1カ月で4420万回となり、前年同月を32%上回っている。

Spotifyもスポーツコンテンツをてこ入れ

 スポーツ番組の人気は、Spotifyの注目するところにもなった。同社は今年に入って、スポーツやカルチャー関連のポッドキャスト番組を制作する「The Ringer」を買収。スポーツ分野のコンテンツを本格的にてこ入れする姿勢を示した。

 The Ringerはスポーツジャーナリストのビル・シモンズ氏が2016年に立ち上げたポッドキャスト制作会社で、番組数は30、総ダウンロード数は1カ月で1億回に上るという。なかでもシモンズ氏が自ら手掛けるスポーツトーク番組『The Bill Simmons Podcast』は2019年、『フォーブス』の番組別広告収入ランキングで5位にランクインした人気番組で、2019年は700万ドル(7億4300万円)を稼ぎ出した。

 ちなみに番組別広告収入ランキングで首位となったのは、コメディアン/格闘技コメンテーターのジョー・ローガン氏による『The Joe Rogan Experience』。政治家やコメディアン、MMA(総合格闘技)ファイターなどをローガン氏がインタビューする番組で、2019年の広告収入は3000万ドル(約32億円)。

 2位は2人の女性ホストが実際にあった殺人事件について話す『My Favorite Murder』、3位はファイナンス講座の『The Dave Ramsey Show』、4位は俳優のダックス・シェパード氏による有名人インタビュー番組『Armchair Expart』となっており、ジャンルは「コメディ」「ファイナンス」「犯罪ドキュメンタリー」と多岐に分かれている。

 The Ringerはポップカルチャー分野にも強みを発揮しているが、Spotifyの最高コンテンツ責任者、ドーン・オストロフ氏は、The Ringerを得たことで「グローバルスポーツ戦略を推進する」ことに意欲を表明。一方のThe Ringerのシモンズ氏もSpotifyの傘下に入ることで、「世界の基幹的スポーツ・オーディオ・ネットワーク」にスケールアップすることに期待感を示している。

メインテーマは「パッション」と「ストーリー」

「The Bill Simmons Podcast」はホストのビル・シモンズ氏がスポーツ選手やセレブなどとスポーツにまつわるあれこれを話し合うトーク番組

 シモンズ氏のポッドキャスト『The Bill Simmons Podcast』は、スポーツ選手やセレブ、メディア関係者などをゲストに呼んで、スポーツにまつわる話題を話し合うトーク番組で、毎週3つのエピソードがアップロードされている。同番組が惹きつけているのは、ツイッターのフォロワー数580万人を誇るシモンズ氏にほかならず、スポーツトーク番組ではホストの魅力が人気を左右する大事な要素となっていることが分かる。

 このほかの人気スポーツ番組にはどのようなものがあるのだろうか?以下にアメリカで人気のスポーツポッドキャストを紹介しよう。

ESPN Daily

スポーツ界のビッグニュースを綿密に伝える平日朝のポッドキャスト。同社の持つレポーターやアナリストの膨大なネットワークを生かし、興味深いスポーツニュースの内側を伝えている。

The Herd with Colin Cowherd

スポーツ専門のメディアパーソナリティ、コリン・カウハード氏によるスポーツトーク番組。毎日更新されており、「今日のトップスポーツストーリー」をゲストとともに語り合うというもの。

Men in Blazers

2人のブレザーを着たイギリス人のホスト、マイケル・デイビス氏とロジャー・ベネット氏が過去1週間の試合を熱く語り合うというもの。彼らは「サッカーは将来のアメリカのスポーツ」と見込んで、アメリカでサッカーを盛り上げることを目指している。試合レビューのほかには、スポーツ選手のインタビューなどもある。

30 for 30

スポーツドキュメンタリー番組。「ニューヨーク・ヤンキースとボストン・レッドソックスのライバル関係」、「オール女性隊員による初の北極遠征」「器械体操メダル獲得の裏にある過酷な状況」など、スポーツ界の歴史や裏話などに迫る興味深いストーリーテリングがリスナーを惹きつけている。

Gradiator: Aaron Hernandez and Football Inc.

アメリカンフットボールのスター、アーロン・ヘルナンデス選手の殺人と死に迫るドキュメンタリー番組。彼は2013年に殺人事件で逮捕され、2015年に有罪判決を受け、2017年に獄中で自殺した。ヘルナンデス氏やその周辺人物の過去のインタビューなどを通じて、企業の「マシン」と化したヘルナンデス氏の没落と、スター選手が栄光の陰で負う物理的なリスクが明らかにされる。

Skip and Shannon:Undisputed

スキップ・ベイレス、シャノン・シャープ、ジェニー・タフトによるトーク番組。野球、バスケットボール、アメリカンフットボールなど、アメリカ人に人気のスポーツを中心に試合分析や予想などを語り合う。

「30 for 30」はスポーツ界の歴史や裏話に迫るドキュメンタリー番組。
「30 for 30」はスポーツ界の歴史や裏話に迫るドキュメンタリー番組。

 これらのコンテンツは大きく分けて「ストーリー」系と「パッション」系に分けられる。上記では『30 for 30』や『Gradiator: Aaron Hernandez and Football Inc.』がストーリー系で残りはパッション系となる。

 リスナーは数年前まで、スポーツコンテンツを聴取しようと思えば、1~2種類しかない地元のスポーツラジオ番組を聞くしか選択肢がなかった。しかし、ポッドキャストの浸透で、どんなにニッチなスポーツのファンも、その情熱を共有できる番組を楽しめるようになった。出版・セミナー事業を手掛ける「オライリー・メディア」はこの現象を「解放の感覚」と表現している。

 オライリー・メディアによれば、スポーツポッドキャスト番組の成功のカギは、「誠実さと情熱」。これはほかのジャンルにも当てはまりそうだが、熱いファンの多いスポーツには一段と求められる資質なのかもしれない。

企画・編集:岡徳之(Livit)

アップルの「スポーツビジネス戦略」 重要人物引き抜きやスタートアップ買収など大きな関心

8月20日、民間企業として初めて時価総額2兆ドル(約212兆円)を超えたとして注目を集めたアップル。iPhone、Mac、iPadなどのハードウェアを主力とするテック企業であり、スポーツビジネスとの強いつながりがある印象はない。

しかし、最近海外メディアでは、アップルがスポーツ分野に注力するのではないかという憶測が飛び交い始めている。時価総額世界最大の民間企業が動くとき、そのインパクトはかなり大きなものになることが想定され、スポーツ関連各メディアはその動向を注視している。

アップルはスポーツ分野で何を狙っているのか。その動向を追ってみたい。

Apple TV +、アップルの新たな成長事業

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アップルのスポーツ市場への関わり、それは同社が昨年ローンチしたストリーミングサービス「Apple TV +」を通じて深まるのではないかいう憶測が広がっている。

2019年11月に登場したApple TV +、アップル公式サイトまたはアップルTVアプリを介してドラマや映画などが視聴できる月額4.99ドルのサブスクリプションサービスだ。

Apple TV +は同社事業のさらなる成長には欠かせない要素。米CNBCが伝えたモルガン・スタンレーのアナリスト、カティー・ヒューバティー氏の予想では、2020年Apple TV +事業は20%成長する可能性があるという。またヒューバティー氏は、2025年にはアップルユーザーの10人に1人がApple TV +に登録し、Apple TV +ユーザーは1億3600万人となり、売り上げは90億ドル(約9500億円)に達するだろうと見込んでいる。

動画ストリーミングサービスのユーザーを拡大させるには、コンテンツを拡充することが必須となる。この市場は、Netflix、Amazon Prime、Hulu、Disney +など様々プレーヤーがしのぎを削っており、独自のコンテンツを配信し独自性を打ち出すほか、マスマーケットのニーズに迅速に対応することが求められる。

マスマーケットへの対応として挙げられるのが「スポーツコンテンツ」の拡充だ。

ストリーミング市場でアップルの競合となるアマゾンは、Amazon Primeにおけるスポーツ分野の拡充に力を入れている。これまでに、英国プレミアリーグやテニス全米オープン、NFLの放映権を獲得し、スポーツファンの取り込みを図ってきた。

また最新情報によると、アマゾンはクリスマス前シーズンを見越し、11月に開催予定のラグビー大会「エイトネーションズ」の放映権の獲得に向け交渉を開始したとの報道がなされている。

一連のスポーツコンテンツ拡充の取り組みにより、Amazon Primeはスポーツ分野のストリーミングにおいてキープレーヤーになったといわれている。実際、米老舗テックメディア「PCマガジン」が7月3日に公開した「ベスト・スポーツ・ストリーミングサービス2020」という記事において、Amazon Primeは、1位Hulu、2位YouTubeに次ぐ3位にランクイン。スポーツ系大手メディアCBS(5位)やESPN(7位)を上回る評価を得ている。

Amazon Primeのスポーツコンテンツ拡充立役者、アップルが引き抜き

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アップルは、Apple TV +におけるスポーツコンテンツの拡充において、アマゾンを追随する公算が大きい。2020年6月Recode Mediaが報じたところによると、アップルはAmazon Primeのスポーツ放送事業部門の責任者ジェームズ・デロレンツォ氏を引き抜いたというのだ。

2016年4月にアマゾンに参画したデロレンツォ氏。デューク大学とニューヨーク大学で法律を学び、卒業後に法律事務所に入り、音楽プラットフォームNapsterなどを担当したメディア分野の法律専門家だ。

CBSやOctagonなどいくつかの大手スポーツメディアを渡り歩いた後アマゾンに参画し、Amazon Primeの大型スポーツ放映契約をいくつも成功させた重要人物。この引き抜きが、アップルのスポーツ分野拡充の憶測を呼ぶ理由の1つになっている。

スポーツイベントVR配信スタートアップも買収

デロレンツォ氏の引き抜きとともに、注目されているのが、アップルによるVRスタートアップ「NextVR」の買収だ。

2020年5月、米CNBCの報道によると、アップルはカリフォルニア拠点のスタートアップNextVRを買収。CNBCは、アップルがVR・ARを新たなプロダクトカテゴリに加える計画を練っていると指摘、その上でNextVRの買収はこの計画の現実味を高めるものだと報じている。一方、アップルの広報はCNBCの取材に対し、買収の目的や計画についてはコメントしないと述べている。

このNextVRのこれまでの取り組みを見てみると、NextVRの技術や経験がアップルのスポーツコンテンツの拡充に活用される見込みは十分にあると判断できる。

もともとスポーツイベントやコンサートのVR配信を行っていたNextVR。2019年5月には、同年のNBAファイナルのハイライトシーンVR配信で、NBAと提携したことがNBA側から発表された。

CNBCが伝えたPitchBookのデータによると、NextVRは2019年時点で1億1600万ドルを調達し、95人の社員を抱えていた。投資家にはエンタメ産業の人物が多く、NBAゴールデンステイト・ウォリアーズの共同オーナーのピーター・グーバー氏などが名を連ねていたという。 こうした動きはここ数カ月の間に起こったもの。その影響や結果が目に見える形であらわれてくるのはこれから。今後の動きから目が離せない。

NBAとVRのオキュラスが複数年契約、進むVR導入の最前線

まだまだ先だと思われていたバーチャルリアリティ(VR)によるスポーツ観戦が今後数年で一気に広がる可能性が見えてきた。米プロバスケットボールリーグNBAやメジャーリーグなどでVRを活用した視聴サービスを拡充する動きが加速しているためだ。

スポーツ観戦においてもソーシャルディスタンスが求められる中、家でもスタジアムの臨場感を味わいたいという声が高まっている。需要が高まり、供給側の体制が整いつつある状況、市場拡大は間近だと考えることができる。

米国スポーツ界で起こるVR導入の動き、その最前線をお伝えしたい。

NBAとVRのオキュラスが複数年契約、VR配信を強化

米国で2020年8月中旬、NBAがフェイスブック傘下のVRプラットフォーム「オキュラス」と複数年契約を締結したとの報道が関心を集めた。これまでNBAはオキュラスとコンテンツベースの契約を結んでいたが、これを複数年とし、既存の提携関係を強化する形となったためだ。

オキュラスにとってはスポーツ団体との初の複数年契約となり、NBAにとっては初の公式VRパートナーの獲得になると報じられている。この契約は、NBAだけでなく、女性リーグ「WNBA」やNBA選手育成を目的にした「NBA Gリーグ」にも適用される。

このNBAとオキュラスの提携、VRを活用した試合観戦体験の向上を主な目的としている。NBAではこれまで、試合を間近で体験できる「NBA Rail Cam Replay」という放送を行ってきた。これは、コート横に設置されたレールカメラが試合状況に応じて移動し、選手の動きや試合運びを間近に観戦できるようにする仕組み。今回の提携強化により「Oculus Front Row View」という名称に変更されるとのこと。レールカメラに設置された360度カメラが捉える映像を、オキュラスVRヘッドセットで観戦できるようになるようだ。

NBAの試合の様子
NBAの試合の様子
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いくつかあるプロスポーツリーグの中で、VR活用に関してNBAは特に活発な動きを見せている。

上記オキュラスとの複数年契約発表の1カ月前には、VRコンテンツ配信の拡大などを目的に、米通信大手ベライゾンと複数年契約を締結。この提携により、ベライゾン傘下のVRコンテンツ制作企業RyotがNBAのVRコンテンツ制作における公式パートナーになったと報じられている。このほど再開されたNBAリーグのVRコンテンツ制作を手掛けていくという。

現在、NBAはサブスクリプション制の放送サービス「リーグパス」の会員向けにVR放送を行っている。オキュラスのソーシャルアプリ「Venue」とオキュラスVRヘッドセット「Quest」または「Go」を使ってVR観戦できるようになっている。

NBA選手、VRトレーニングでフリースロー成功率が大幅に向上

NBAのVR活用は観戦向けだけではない。選手育成にも活用されている事例もある。

2020年2月、クリーブランド・キャバリアーズに移籍したアンドレ・ドラモンド選手。古巣のデロイト・ピストンズではフリースローが苦手なことで知られていた。

NBA全体でフリースロー成功率は約75%ほどといわれているが、2016/17年シーズンにおけるドラモンド選手のフリースロー成功率は38.6%にとどまるものだった。

同シーズン後にフリースロー改善を決意したドラモンド選手、VRによるトレーニングを導入。仮想空間でフリースローの成功イメージを強く持つ訓練などを実施した。2017/18年シーズンでは、同選手のフリースロー成功率は60%に上昇。このことはESPNなど様々なスポーツメディアが報じ、当時話題となったようだ。

メジャーリーグもVR観戦の取り組み強化

NBAとともに野球メジャーリーグでもVR観戦の取り組みが加速中だ。

メジャーリーグは2020年7月末、オキュラスVRヘッドセット「Quest」向けのVR観戦コンテンツの配信を開始。360度カメラが捉えるVR映像に、選手ごとの統計や3次元ストライクゾーンを表示できる仕組みになっているとのこと。

この数年、メジャーリーグではインテルのVRシステム「True View」を使ったVR配信を週1回行ってきた。この取り組み、メジャーリーグとインテルが2017年に締結した3年間の提携契約の一環で行われきたもの。オキュラスでのVRコンテンツ配信の頻度は、これより高くなるという。

ソニーとオキュラスが競うVRヘッドセット市場

オキュラスのVRヘッドセットは現在「Rift S」「Quest」「Go」の3種類ある。Rift Sはパソコンへの接続が必須。一方、QuestとGoはパソコン接続を必要としないスタンドアロン型。「Quest」が上位モデル、「Go」が下位モデルとなる。

オキュラス販売中の製品一覧
オキュラスウェブサイトより
https://www.oculus.com/compare/

ブルームバーグが2020年5月に伝えたところでは、フェイスブックは現在Questの新モデルを開発中という。当初は、2020年9月の恒例イベント「オキュラス・コネクト」で発表される予定だったが、パンデミックの影響で、2021年に延期される可能性が高いといわれている。

Statistaのまとめによると、2019年VRヘッドセットの出荷量でトップだったのはソニー。市場シェアは36.7%だった。これにオキュラスが28.7%で追いかける形となっている。 米スポーツ界におけるVRの取り組みは世界のスポーツ市場にどのような影響を与えるのか、今後の展開が気になるところだ。

インスタ新機能「Reels」利用がNBAで活発化、スポーツビジネスでインスタを無視できない理由

スポーツビジネスで必須のソーシャルメディア

スポーツビジネスにおいても必須となったソーシャルメディア。フェイスブックを通じたコミュニティ形成、ツイッターによるリアルタイムの情報発信などすでに多くのプレイヤーが行っている施策だ。

日本では、上記に挙げたフェイスブックとツイッターの利用が圧倒的に多い印象だが、海外のスポーツビジネス界隈では、ここ最近フェイスブック傘下のインスタグラムの利用が増え、ファンのエンゲージメントを高めている。

インスタグラムといえば、利用者のほとんどが若い女性で、ファッション系のコンテンツが多い印象がある。実際そうではあるが、インスタの新機能Reelsの登場によって、スポーツコンテンツとの相性が高まり、NBAなどでの活用が進んでいるのだ。

インスタの全体像を俯瞰しつつ、Reelsとはどのような機能なのか、そしてどう活用されているのか、その最前線を追ってみたい。

世界10億人のユーザーを抱えるインスタ

日本で2600万人の月間アクティブユーザーを抱えるインスタ。世界全体のユーザー数は10億人。ユーザー数1位のフェイスブック(27億人)、2位Youtube(20億人)、Whatsapp(20億人)、3位フェイスブック・メッセンジャー(13億人)、4位WeChat(12億人)に次ぐ5番目の規模を誇っている。

国別で見ると、インスタユーザー数が最も多いのが米国。Hootsuiteのまとめによると、約1億1000万人のユーザーがいるという。次いで、ブラジル(7000万人)、インド(6900万人)、インドネシア(5900万人)、ロシア(4000万人)が続く。

利用者の増加率が顕著なのはカナダ。eMerketerによると、同国における利用者増加率は、2018年に20%、2019年に7.3%を記録。2020年中には6.1%増となり、1260万人に達する見込みだ。

国別の普及率で見ると最大はブルネイ。実に全人口の60%がインスタユーザーであるという。このほか、アイスランド(57%)、トルコ(56%)、スウェーデン(55%)、クウェート(55%)などでの普及率が高い。

このインスタ、最近の中国アプリTikTok利用禁止騒動で、一層注目を浴びる存在になっている。動画シェアアプリとして若年層に人気があるといわれるTikTokだが、安全保障上の懸念があるとして、インドではすでに利用禁止され、米国でも禁止措置が取られる公算が高まっている。

インドではTikTokが禁止されたタイミングで、インスタが動画シェア新機能「Reels」をローンチ。短期間で多くのユーザーを集めたといわれている。

NBAやサッカーリヴァプールによる「Reels」活用、通常よりエンゲージメント高め

インスタReelsとは、音楽に合わせて自分がダンスしている姿やクリエイティブな映像を撮影し、インスタ上でシェアできる機能。

2019年11月、ブラジルで「Cenas」という名称で試験的運用が開始され、2020年6月には「Reels」としてフランスとドイツで、7月12日にインドでそれぞれローンチされた。また8月5日には、米国、英国、日本、オーストラリア、スペイン、メキシコ、アルゼンチンなど世界50カ国でサービスが開始された。

8月5日に公開されたインスタグラムReelsの紹介ページ
8月5日に公開されたインスタReelsの紹介ページ
https://about.instagram.com/blog/announcements/introducing-instagram-reels-announcement

インドメディアTimes Of Indiaが伝えたApptopiaのデータによると、Reelsローンチ1カ月前、インスタのダウンロード数は月間700万回だったが、Reelsローンチ後の1カ月は780万回に増加した。

米国では、早速NBAのチームがReelsによるファンエンゲージメント施策を開始。すでにその効果が出始めている。

データアナリティクス企業Convivaの調査によると、NBAチームのReelsコンテンツは、通常のインスタコンテンツに比べ、ファンのエンゲージメント率が平均で22%上昇したことが判明。

現時点で最も高いReels効果を得ているのは、ロサンゼルス・レイカーズで、エンゲージメントは38万5000回、Reels動画の1つが拡散され400万回再生されたという。レイカーズに次いでReels効果が高いのはヒューストン・ロケッツ。3つの動画で再生回数は計630万回を超えたとのこと。

このほかNBAチームのReelエンゲージメントトップ5には、ボストン・セルティックス、シカゴ・ブルズ、マイアミ・ヒートが続く。NBAチームの多くは、Reelsで試合のハイライトシーンをシェアしている模様。

リバプールがReelsで公開した「Nike」の発音に関する動画
リヴァプールが公開した「Nike」の発音に関する動画
https://www.instagram.com/reel/CDg7oM2Fw9i/?utm_source=ig_embed

NBAのほか、イングランドサッカーのリヴァプールもReelsを積極的に活用している。英国でReelsが解禁された翌日8月6日に「Nike」の発音に関する動画を公開。9月1日時点で53万いいね、4000件近いコメントを得ている。

ニューヨーク拠点の調査企業Jeffreiesがこのほど公開した調査によると、Reelsの動画は、IGTVなどインスタの他の動画コンテンツに比べ、5〜10倍視聴される傾向があることが判明。一部ではすでに視聴回数6000万回を超えたReels動画もあるという。

2020年2月、ブルームバーグはフェイスブック社がインスタグラム事業の2019年の広告収入が200億ドルに上ったと報道。Jeffreiesのアナリストらは、2022年にはReelsだけで、25億ドルの広告収入を生み出すだろうと予想している。

このところTikTok米事業責任者が辞任、またTikTokインフルエンサーが他のプラットフォームに流出する事態が続いている。安定しているインスタグラムReelsへの関心が高まっていくことは想像に難くない。Reelsの動向から目が離せない。

Facebookも参入、スポーツビジネスの主役となったOTTの現在

デジタルデバイスが日常ツールとなった今、若年層を中心にテレビ離れが進んでいる。OTT(over the top:通信業者以外のネットサービス企業)によるスポーツコンテンツの配信も急増し、テレビ以外のデバイスを介した視聴は世界中でスタンダードになりつつある。このOTTによってスポーツ観戦スタイルも急速に変化している。

デジタル環境の進化による、視聴ツールの多様化

これまでテレビ一強であったスポーツ中継。無料の地上波放送または有料チャンネルなど「視聴料の有無」の差こそあれ、「スポーツはテレビで見る」という行為は不動のものであった。

しかしここ10年ほどで、デジタル技術の飛躍的な進化とネット通信の高速大容量化により、PC、スマートフォン、タブレットといったデジタルデバイスが個人レベルにまで普及。誰もがいつでもどこでも快適に、動画配信サービスにアクセスできるようになった。

それに伴い、デジタルデバイスを利用したスポーツ観戦も急増している。アメリカの調査会社eMarketerによると、同国でスポーツをデジタルデバイス経由で視聴するユーザーは、2020年には3650万人に増加すると予測している。この数字は、2018年の約2倍に当たる。

ドル箱のスポーツ中継

スポーツ人気は世界の場所を問わず突出しており、「最も視聴率を取れる」コンテンツがスポーツの生中継である。

2019年の日本のテレビ番組の年間視聴率を見てみると、上位20位のうち、NHKニュースと紅白歌合戦を除いた6番組すべてがスポーツ中継である。トップ2はラグビーW杯、11〜13位には、ラグビー、全豪オープンテニス、箱根駅伝が入っている。

ラグビーワールドカップ2019の観客席の様子
ラグビーワールドカップ2019は日本で開催され連日話題となった
Photo by Stefan Lehner on Unsplash

アメリカでは有料放送加入者の中では、スポーツファンが最も解約しにくい層だと言われている。アメリカのコンサルティング会社Altman Vilandrie & Coによると、日常的にスポーツ番組を見る人の有料放送加入率は79%で、そうでない人の61%と比較すると遥かに高い。さらに、スポーツ中継の動画配信サービスを利用している人のうち57%が「テレビで放映されていない競技を見たいから」と述べている。

一方、新型コロナウイルスの感染拡大により、スポーツゲームは中止を余儀なくされた。感染が拡大し始めた3月末の時点で、ビジネスインサイダー・インテリジェンスの調査によると、スポーツ中継の延期を理由に有料放送の解約を考えている人は11%に上った。

スポーツ動画配信サービスの利用者が急増

冒頭に触れたように、OTTによるスポーツコンテンツの配信が盛んになっている。Netflix、Amazon Prime、DAZNなど定額動画配信サービスから、Facebookやtwitterといったソーシャルメディアプラットフォームも参入。その他、既存のメディア会社が運営するサービスや、NBAやNFLのようなスポーツリーグが配信するものもあり、スポーツ動画配信業界の競争は激化している。

2020年5月、調査会社ニールセンスポーツが日本で行った「OTTサービスとスポーツ観戦に関する調査」によると、スポーツコンテンツを放映している動画配信サービスの利用数は、一人あたり3.18個と、昨年の2.01個よりも大幅に数を増やしている。

スポーツコンテンツメディアの雄「DAZN」

現在、日本のスポーツファンの心をがっちり掴んでいる、スポーツ動画配信サービス「DAZN」。DAZNはイギリスに本社を置くデジタルコンテンツ配信会社であり、2016年に日本マーケットに参入してから、たった数年でシェアを急激に伸ばしている。

DAZNが日本で配信している契約リーグやチームの一覧画像
DAZNが日本で配信している契約リーグやチーム
https://www.dazn.com/ja-JP/redeem

DAZN急成長の理由の一つに、人気コンテンツの充実度が挙げられる。特にサッカーリーグは目を見張るものがあり、イギリスのプレミアリーグ、スペインのラ・リーガ、イタリアのセリエA、フランスのリーグ・アンなど、世界のトップリーグの放映権を総取りしている。

Jリーグは2017年、これまでタッグを組んでいたスカパーからDAZNに乗り換えて、10年間2100億円という破格の放映権契約を交わしたことで話題をさらった。2020年8月にはさらに2年更新し、12年間2239億円の新契約を締結したことを発表した。

利用料金がリーズナブルかつ分かりやすいのも魅力である。月額1750円(税抜、2020年8月現在)で、すべてのコンテンツが視聴可能。従来の有料チャンネルのように、視聴ジャンルによって細分化されていないのもユーザーの満足度を上げている。

Facebookが仕掛けるスポーツ配信を利用した戦略

ソーシャルメディア会社もスポーツ中継配信に乗り出している。Facebookはワールド・サーフ・リーグの放映権を2年間3000万米ドルで購入した。

Facebookはインド亜大陸の8カ国(インド、バングラデシュ、ネパール、パキスタンなど)で、スペインサッカーのトップリーグ「ラ・リーガ」の全試合を2018年より3シーズン無料でライブ中継している。ゲームはラ・リーガのFacebookページと個々のクラブページを介して配信される。

インドは13億人以上の人口を抱える大国だ。経済成長も著しく、中国を追い抜かす存在として注視されている。Facebookユーザーは大陸全体で3億4800人(2018年)であり、今後の伸びが期待できる。Facebookがラ・リーガに支払った放映権の金額は明らかにされていないが、2014〜2018年に同地で放映権を持っていたソニー・ピクチャーズ・ネットワークは3200万米ドルを支払っていたという。

Facebookはサッカーという人気コンテンツを利用して、同地の覇権を狙っているのだろう。

Facebookが生んだファン同士が交流できるスポーツ中継アプリ「Venue」

そうした流れを更に強化するべく、Facebookは2020年5月にスポーツ中継アプリ「Venue」を発表した。

Facebookが2020年5月にローンチしたスポーツ中継アプリ「Venue」
Facebookが2020年5月にローンチしたスポーツ中継アプリ「Venue」
https://npe.fb.com/2020/05/29/introducing-venue-the-live-event-companion-experience/

スポーツのライブ配信はどんなに大勢の人が視聴していても、基本的には「一人で見る」という単独・受け身の体験である。しかし、ファンたちは他の視聴者(ファン)との交流や試合に参加しているような感覚を得られる「インタラクティブな体験」を求めている。

Venueは中継画面の他にコミュニティ用の画面を用意し、画面上で視聴者同士の交流や試合予測などができるようにしている。まるで会場で隣り合ったファンたちが、おしゃべりするような感覚でゲームを視聴できる。Venueは今後、スポーツ動画配信のスタイルを変えていくかもしれない。

※「Venue」は現在のところ、同アプリはまだベータ版であり、使用はアメリカ国内に限定されている。

企画・編集:岡徳之(Livit)

登録者6500万人・世界最大のYouTubeスポーツチャンネルに見るスポーツビジネスにおけるYouTube活用ヒント

スポーツビジネスでアクティブシニアを狙うためのSNS選び

スポーツビジネスにおいても必須となったソーシャルメディア。フェイスブック、LINE、インスタグラム、YouTubeなどターゲット/用途別に使い分けるマルチチャンネル戦略が求められる。日本では「SNS」と一括にされているが、ソーシャルメディアごとに利用者の年齢層/性別に特徴があるためだ。

たとえば、国内の月間アクティブユーザー数、約2600万人(Gaiax調査より)とされるフェイスブックでは、40代の利用者が多いという特徴がある。男女比率はほぼ同じ。一方、月間アクティブユーザー3300万人のインスタグラムでは、20代女性が最も大きな層となる。

最近海外のスポーツ市場で「アクティブシニア」という言葉がよく聞かれるようになっている。時間とお金に余裕のある層の健康意識が高まり、スポーツ市場にとって重要な顧客となっているためだ。

一般的に若年層の利用が多いといわれるソーシャルメディアだが、フェイスブックのように40代が最も多いという事例もあり、そうとは言い切れない状況になっている。国内で40〜60代の層をターゲットにしたいと考えたとき、最適なソーシャルメディアの1つとして挙げられるのがYouTubeだ。

シニアフィットネスインフルエンサー Joan Macdonaldチャンネル

YouTubeは今やLINEに次ぐ国内2番目のソーシャルメディアとなり、かつ40代以上の利用者が多いという特徴を持っている。Gaiaxによると、LINEの国内月間アクティブユーザー数は8400万人。一方YouTubeは6000万人と推計されている。

このYouTube、年齢層別で最大は40代で、その数は1400万人に迫るものとなっている。40代に次いで多い年齢層は50代で、約1200万人。そして30代と60代が1000万人ほどでほぼ同じ水準となっている。

芸能人のYouTube進出も進んでおり、テレビからYouTubeに切り替える視聴者が増えることが想定される。若い世代はもともとテレビを見ていないといわれており、テレビからのYouTubeシフトは、おそらく40代以上で進むものと思われる。アクティブシニアをターゲットにする上で、YouTubeの重要性はこの先一層高まってくることが考えられる。

登録者6500万人、世界最大のYouTubeスポーツチャンネルとは?

スポーツビジネスにおいてYouTubeを活用しようとしたとき、どのようなコンテンツをつくるべきか悩むところだろう。そんなときはYouTubeの海外事例から学ぶのが得策。海外ではどのようなチャンネル/コンテンツが人気なのか、なぜ人気なのかを調査/考察することが出発点となる。以下では、YouTubeスポーツ分野における人気チャンネルに関して、海外の最新動向を紹介したい。

世界で最も多い登録者を持つYouTubeスポーツチャンネルはどこか。野球やサッカーのリーグ/チームのチャンネルを想像するかもしれないが、少なくとも、2020年8月26日時点のデータは、野球でもサッカーでもないということを示している。

世界最大のYouTubeスポーツチャンネル「WWE」のキャプチャ画面
世界最大のYouTubeスポーツチャンネル「WWE」
https://www.youtube.com/c/WWE/about

現時点で世界最大のフォロワーを持つYouTubeスポーツチャンネル、それは米国のプロレス団体World Wrestling Entertainmentが運営するYouTubeチャンネル「WWE」だ。

2019年10月に登録者5,000万人超え、2020年5月に6,000万人超えを達成した同チャンネル。2020年8月26日時点では約6,500万人と、この3カ月間だけでも500万人増加している。

NBAやNFLなど他のプロスポーツチャンネルと比べると、WWEチャンネル登録者数が如何に突出しているのかが分かる。ソーシャルメディア分析プラットフォームSocial BladeのYouTubeスポーツチャンネル登録者ランキングで、NBAチャンネルの登録者数は1460万人で、4位に位置している。NFLチャンネルは661万人で、20位だ。

リーグや団体ではなく、チームで見た場合、登録者が最も多いのは、スペインのサッカーチーム「FCバルセロナ」。登録者989万人で、スポーツチャンネルランキング9位に位置している。

YouTubeWWEチャンネル人気の秘密

WWEチャンネルの人気の秘密はどこにあるのか。

WWEでは日本人レスラーも多数活躍している

YouTubeは基本的に国境の無いプラットフォーム。英語によるコンテンツ制作によってグローバルオーディエンスにリーチすることが可能だ。WWEは米国発のコンテンツ、基本言語はもちろん英語だ。

かつて北米や欧州で人気といわれたWWEだが、いま最も視聴者が多いのはインドだ。インドメディアRepublicWorldによると、WWEの幹部ジェームズ・ローゼンストック氏はこのほど、WWEチャンネルが最も視聴されている国はインドであることを明らかにした。WWEフェイスブックページでも、インドのフォロワーが最も多いという。インドで、WWEはソニーピクチャーズと提携、ソニーピクチャーズのネットワークが同国でのファンベースの拡大に寄与しているとのこと。

またWWEはプロレスではあるものの、「スポーツエンターテイメント」という言葉を用い、ショーとしてコンテンツを制作・配信している。このことがYouTubeでフォロワーを広く獲得する結果を生み出しているようだ。

さらにWWEは家族が揃って視聴できるファミリー路線を採用しているといわれている。今回のパンデミックで「Stay Home」におけるエンタメの重要性が問われる中、WWEは家族が視聴できるコンテンツの重要性がこれまでにないほど高まっているとの声明を出しており、そうした意向がコンテンツに反映され、一層多くのファンを引きつけているとも考えられる。

スポーツチャンネルではあるものの、「エンタメ」や「ファミリー」を意識したコンテンツ制作のあり方は、YouTube活用の大きなヒントとなるはずだ。

世界1番人気のスポーツはサッカー。では、2番目は?日本人が知らない「意外なスポーツ」拡大見込まれる10億人市場の可能性

日本で人気のスポーツといえば野球とサッカー。中央調査社が2015年に実施した意識調査によると、日本で一番人気のスポーツは「野球」(41.7%)であることが判明。2番目は「サッカー」(29%)、3番目は「プロテニス」(22.4%)となった。

調査サンプル時期やサンプルの違いで多少の変動はあると考えられるが、野球とサッカーが2大人気スポーツであることは間違いないといえるだろう。

一方、世界全体のスポーツ人気はどうなっているのか。日本と同じように野球とサッカーが2大人気のスポーツなのか。スポーツビジネスに携わる上で、世界全体のスポーツトレンドは知っておいても損はないといえるだろう。

世間には様々な「世界人気スポーツランキング」関連の記事が氾濫しているが、そのほとんどはデータ出典が明確になっておらず、信頼できる情報とは言い難い。しかし、個別に調べていくことで、世界ではどのようなスポーツが人気なのか、ぼんやりとではあるが全体像が見えてくる。

世界人気スポーツランキング

グーグル検索で「most popular sports in the world」と入力したときトップ表示される記事の1つが、Reunion Technologyという企業が運営するメディア「WorldAtlas」の記事だ。

その記事によると、ファン数で見た世界人気スポーツランキングの1位は、サッカーであるという。ファン数は約40億人。

2位には野球がランクインすると思う人もいるかもしれないが、同ランキングで野球は8位にとどまる結果となっている。ファン数は5億人だ。では、どのスポーツが2位なのか。2位にランクインしたのは、日本ではほとんど知られていないスポーツ「クリケット」だ。ファンは世界中に25億人もいるという。

オーストラリアのクリケット試合の様子
クリケット試合の様子(オーストラリア)
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3位も日本ではメジャーではないスポーツ「フィールドホッケー」がランクイン。ファン数は20億人となっている。

以下、4位テニス(ファン数10億人)、5位バレーボール(9億人)、6位卓球(8億7500万人)、7位バスケットボール(8億2500万人)、8位野球(5億人)、9位ラグビー(4億7500万人)、10位ゴルフ(4億5000万人)という順位だ。

日本人にはピンと来ないランキングといえるかもしれない。実際、同記事ではデータ出典が明記されておらず、ランキングの信憑性はない。グーグル検索でトップ表示される他の記事についても状況は同じ。信頼に足りる「世界人気スポーツランキング」を見つけることができない。調査規模が膨大になることから、いまだ実施されていないものと思われる。

しかし、WorldAtlasの記事を出発点とし、他のデータを照らし合わせることで、ある程度全体図は見えてくる。

まず、サッカーについて。米CNNが2014年6月5日に公開した記事では、当時のブラジル・ワールドカップに関する報道を行っている。その中で、ワールドカップ期間中に、どれほどの人が大会を視聴するのかというFIFAの予測に言及。その数は約32億人と伝えている。

またFIFAは同組織ウェブサイトで、2018年ロシア・ワールドカップでの視聴者数を公開。テレビとデジタルプラットフォームを合計した視聴者数は、35億7200万人に上ったという。

米国で一番人気のスポーツ、アメフトの試合中の写真
米国で一番人気のスポーツ、アメフト
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一方、野球はどうか。野球は、米国、日本、台湾、中南米で人気だが、他の地域ではあまり知られていないスポーツといえる。本場米国においても、人気は低迷中。米世論調査会社ギャラップのデータによると、2017年米国で最も人気のあるスポーツはフットボール(アメフト)であることが判明。調査対象者の37%が好きなスポーツに選んだ。次いで人気が高かったのは、バスケットボール(11%)。野球は3位で9%だった。米国では1940〜60年代にかけて野球は人気1番のスポーツだったが、1970年代アメフト人気が野球を上回り、それ以来米国ではアメフトが1番人気のスポーツに君臨し続けている。

AP通信が2019年10月に伝えた消費者調査大手ニールセンのデータによると、米メジャーリーグ・ワールドシリーズでの最初の5試合、各試合の平均視聴者数は1160万人だった。過去のワールドシリーズの中で、最も低い数字と伝えている。

世界10億人の「クリケット」ファン、公式調査が示す市場規模

一方、クリケットはどうか。グーグルで「cricket fans in the world」で検索すると「25億人」という数字があがってくる。しかし、データ出典が不明であり、この数にも疑問が残る。

クリケットに関して、最も信頼できる数字はおそらく国際クリケット評議会(ICC)の委託で実施された2018年の調査だろう。

ICCウェブサイトで公開されている調査結果によると、クリケットファンの数は世界中で10億人に上るという。ファンの平均年齢は34歳で、男女比率は61%が男性で39%が女性。視聴だけでなく、学校での部活など含め実際にクリケットをプレーする人は世界に3億人もいる。

国際クリケット評議会(ICC)のウェブサイト
国際クリケット評議会(ICC)ウェブサイト
https://www.icc-cricket.com/

16世紀の英国で興ったとされるクリケット。英国の影響が強いオーストラリア、ニュージーランド、インドなどで人気を博している。上記ICCの調査では、世界中にいるクリケットファン10億人のうち90%以上はインドのファンであるというこが判明したという。

世界最大のクリケット市場といえるインド。そのプロリーグ「Indian Premier League(IPL)」の評価額は年々高まっている。

米CNBCは2018年7月、メディア企業GroupMの話として、IPLは2017年にスポンサーシップだけで10億ドル(約1000億円)の収益をあげたと伝えている。同年、米メジャーリーグのスポンサーシップ収益8億9200万ドルを上回ったという。

ファイナンシャルアドバイザリー企業Duff&Phelpsによると、2017年IPLの評価額は前年比26%増の53億ドル(約5300億円)に上昇したとのこと。

少子高齢化が進む他の国とは異なり、インドは人口増加トレンドが続いている。若年層が多く、クリケット市場はこの先も拡大することが見込まれている。世界のスポーツビジネスを俯瞰する上で、クリケットは無視できない市場といえるだろう。

「女子スポーツ市場」拡大の立役者たち。専門メディアや新設プラットフォーム、キャンペーンが後押し

メディアにより広がる、「清く正しく美しい」イメージ

米国のマーケティングリサーチ会社、ニールセンが2018年に「ザ・ライズ・オブ・ウィメンズ・スポーツ(女性スポーツの台頭)」という調査書を発表している。男性スポーツにありがちな金もうけ主義や不正行為が少ない点で、女子スポーツは子どもを交え、家族で観戦するのに最適で「清く正しく美しい」女子スポーツのイメージはメディアにも受け、1つのジャンルとして定着してきている。

例えば昨年には、英国の『デイリー・テレグラフ』紙のオンライン版、『ザ・テレグラフ』が「テレグラフ・ウィメンズ・スポーツ」のページを開設している。英国放送協会(BBC)は、『ザ・テレグラフ』を追う形で、昨年5月から期間限定ながら、女性の夏期スポーツの試合を無料で生放送した。

また北米・カナダのスポーツに特化したウェブサイトである『ジ・アスレチック』は米国女子プロバスケットボールリーグ(WNBA)や、女子カレッジ・バスケットボールを専門に取り上げたページを設けている。

今年に入ってからは、英国の衛星放送事業者スカイが運営するスポーツ専用チャンネル、スカイスポーツが女子スポーツの扱いを多くすることを約束している。ニュースでは「女性スポーツ」というくくりをなくし、24時間いつでも女性が活躍するスポーツのニュースを流す。またYouTubeで女子スポーツの試合をライブで配信するほか、女子スポーツに焦点を当てたオリジナル番組などを制作・放映する。

徐々に実現し始めた報奨金や報酬のアップ

米国の女子プロバスケットボールリーグ(WNBA)のコミッショナーに昨年就任したキャシー・エンゲルハートさんは今年に入ってすぐ、新たな労使協定の締結を成功させている。WNBAと選手労働組合であるウィメンズ・ナショナル・バスケットボール・プレイヤーズ・アソシエーション間のもので、2027年のシーズンまで有効だ。この協定のおかげで選手への報酬は全体的にみて53%上昇した。またほかには移動時の待遇の向上、育児手当支給、シーズンオフ時のキャリア育成の機会提供など、画期的な内容だ。

一方、今年3月に行われた女子クリケット・ワールドカップの決勝戦で、優勝を決めたオーストラリア・チームは1万USドル(約106万円)の優勝賞金を手に入れた。国際クリケット評議会(ICC)は昨年10月に賞金金額をアップ。2018年のトーナメントと比較して320%増え、男子の優勝賞金と肩を並べた。オーストラリア国内のプロ・アマチュアのクリケットを統括する団体、クリケット・オーストラリアは、もし男子と差が生じた場合には、差額を埋め合わせることを約束していた。

企業も加わり女子プロバスケットボールリーグ(WNBA)を盛り立てるプラットフォーム

人々の関心を集めつつある女子スポーツをさらにプッシュし、露出度を上げるキャンペーンも盛んに行われている。

WNBAは今年1月、「WNBAチェンジメーカーズ」というプラットフォームを立ち上げた。女性の地位向上とスポーツの発展にコミットメントを示し、インクルーシブ・リーダーシップを発揮する企業が集まる。マーケティングやブランディング、選手とファンとの対話などにおいて、WNBAへの直接的な支援を行うのだ。代表的な企業としてはAT&T、デロイト、ナイキが挙げられる。

右から3人目がWNBAコミッショナーのキャシー・エンゲルハートさん
右から3人目がWNBAコミッショナーのキャシー・エンゲルハートさん
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世界的にみると、企業スポンサーシップのうち、女性スポーツにあてられるのはわずか1%に過ぎないそうだ。しかし、同プラットフォームを立ち上げることで少しでも男子スポーツとの差を縮めたいとエンゲルハートさんは意欲的だ。新たな切り口のスポンサーシップに投資してもらい、WNBAはもとより、女子スポーツ、社会における女性の立場の改善を目指す。

コロナに負けない、英国のキャンペーン

英国では「アンロックト」というキャンペーンが、今年1月から5カ月間の計画で行われることになっていた。中心になったのは、女子スポーツの発展に助力する慈善団体、ウィメンズ・スポート・トラスト(WST)。同キャンペーンを通して、女子スポーツを次のレベルへと押し上げることを目標としていた。

計画では、国内のエリート女子アスリート40人は「アクティベーター(活動的にする人)」と呼ばれるマーケティングやスポーツ、メディア分野の第一人者40人とペアを組む。そして、アスリートは自分たちが直面する問題などをアクティベーターに話し、アクティベーターはアスリートが挙げた問題などの解決はもとより、どのようにすれば、それをバネにして変化をもたらすことができるかを共に考える。投資家への売り込みといった具体的な行動に出る際の支援も行う。

WST主宰の「アンロックト」キャンペーンの初日の様子
WST主宰の「アンロックト」キャンペーンの初日
© Women’s Sport Trust

しかし、キャンペーン開始後すぐに新型コロナウイルスの影響で、試合などができなくなってしまう。ファンも多いネットボールやサッカーのリーグ戦はキャンセル、サッカーのFA女子カップやラグビーの女子シックス・ネーションズも延期になった。東京オリンピックとパラリンピックも同様だ。

昨年ネットボール、サッカー、クリケットと国際的な試合で、女子チームが活躍し、観客数やファンも増えた。しかし今年試合を中止したり、延期したりすることで女子スポーツの知名度は10年前に逆戻りしてしまうのではないかと危惧されている。

そんな心配をよそに「アンロックト」は4月ごろから週に1度、Zoomミーティングを開くという、計画とは違った形をとりつつ続行されている。女子アスリートたちもそれに参加。選手同士で話し合ったり、ゲストスピーカーの話を聴いたりしながら、スキルを身に付けた。どのようにして自分の意見を言うか、どのようにすれば意義深い発言ができるかなどを学んだという。

「計画通りにはいかなかったが、WST主宰のアンロックトは1つのコミュニティとして、知名度を上げるための方法を選手は習得できたはず」とザラ・アル・クドシーさんは言う。アル・クドシーさんは、女子クリケット・ワールドカップやラグビーイングランド代表のマーケティング責任者を経験し、現在WSTの役員であり、フォーミュラ1のビジネスパートナー責任者でもある。「アンロックト」を通して得た経験を、「人生を変える」に値するものだったと感じるアスリートもいた。

ポストコロナに待ち受ける、厳しいスポンサー市場

新型コロナウイルスは世界経済に大きな影響を及ぼしている。スポーツの奨励を通して、女性をエンパワーする、世界で最も大きな規模のネットワーク、インターナショナル・ワーキンググループ・オン・ウィメン&スポートは、リソース面・予算面で男子チームを優先させる傾向があるために、女子スポーツが後回しにされることを懸念する。

女子スポーツがポストコロナの時代に知名度を上げ、成功し続けるためにはブランドとの関係を築き上げ、投資を招くことが重要だ。女子アスリートたちも、自分たちの価値観やビジョンに共感してくれるスポンサーを求めていることを表に出し、チームとしてより積極的にスポンサー探しを行わなくてはならないという自覚が芽生え始めている。

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