運動不足と体重増加は「食の健康シフト」で対応?パンデミックで変わる世界の食トレンド

パンデミックと健康意識、食事に対する意識変化

心身のフィットネス/ウェルビーイングを実現するには、運動だけでなく様々な要素が必要になるが、食事の重要性は特に高いといえる。

このところ世界各地のミレニアル/Z世代において、アルコール摂取量が減ったり、ヨガをする人が増加するなど、健康意識が高まっていることを示すトレンドがいくつも確認されている。

パンデミックの影響は、このトレンドを一層強いものにしているようだ。思うように外出して運動できない状況下、人々は食事のあり方を見直し、食事の面で健康の増進を図ろうとしているのだ。このことは世界各地の様々なデータから読み取ることができる。

米国と英国などで展開する広告代理店Hunterが2020年4月に米国在住者を対象に行った調査では、パンデミックをきっかけに自炊するようになったとの回答が54%に上った。米国ではファストフードなど外食産業が発展しており、普段から自炊する人の割合は日本に比べ低いと推測されるが、レストランの閉鎖や健康意識の高まりから自炊率が増加したと思われる。

実際、自炊するようになった人にその理由を尋ねたところ、自炊することで健康的な食事ができるためという回答割合が52%と、いくつかある理由のなかで2番目の割合となったのだ。トップは、節約できるためというもので、その割合は58%だった。

プラントベース肉、スウェーデン発のブランドは売り上げ400%増

パンデミック下の食トレンドの1つとして、プラントベース肉人気の上昇も挙げられる。

英国の食品業界メディアFood Manufactureの2020年6月1日の記事によると、2020年第1四半期スウェーデン発のプラントベース肉「Oumph!」の英国における売上高が前年同期比で400%も上昇したことが判明した。

プラントベース肉「Oumph!」ウェブサイト
https://oumph.uk/

2015年にスウェーデンでローンチされた同ブランド。大豆、ハーブ、スパイスで生成された植物性の人工肉で、グルテンと乳製品が入っていないベジタリアン向けの食品として欧州で人気となっている。現在英国では、Tesco、Asda、Whole Foodsなどの小売り大手でも販売されており、入手しやすくなっている環境も売上増に貢献したと思われる。

プラントベース肉はグローバル市場でも拡大する見込みだ。Food Manufactureが伝えたResearch & Marketsの予測によると、同市場の規模は2020年に36億ドル(約3800億円)に達し、さらに2021年には42億ドル(約4400億円)に拡大する見通しだ。パンデミックをきっかけにした健康意識の高まりが市場拡大の要因の1つになっているという。

カリフラワーピザにカリフラワーステーキ、「カリフラワーイノベーション」への期待

運動不足により体重が増加傾向にある人々が増えていることが想定される中、炭水化物摂取量を減らそうとする動きも広がっているようだ。

米Consumer Reports2020年6月4日の記事では、米国では小麦粉ではなくカリフラワーを生地に使った「カリフラワーピザ」がスーパーマーケットで人気になっているという。

数年前から英語圏では「カリフラワーイノベーション」とも呼べる動きが強まっていたが、パンデミックの影響でその動きが加速しているようだ。

Food Business News2020年7月21日の記事では、カリフラワーイノベーションが今後も加速するとの見通しを展開。健康食の見本市Natural Product Expo Westにおいて、2017年カリフラワーを活用した製品数は28種類だった。これが2019年には15カテゴリ104種類に増加した。

米農業大手Van Drunen Farmsのマーケティング責任者ゲイリー・オーグスティン氏がFood Business Newsに語ったところでは、カリフラワーは2020年の農産物トレンドの1つであり、様々な料理に応用されている。カリフラワーピザのほか、カリフラワーパスタ、カリフラワータコスなどが人気で、カリフラワーステーキというメニューもあるとのこと。

低炭水化物ダイエットとともにパンデミックで再び注目されているのが、十分な量のタンパク質と脂肪を摂取し、炭水化物を可能な限り避ける「ケトダイエット」だ。グーグルトレンドのデータ(英国)がそのことを如実に示している。

グーグルでの「ケトダイエット」検索トレンドデータ

2018年末頃から注目され始めたケトダイエットだが、2019年夏からグーグルでの検索人気度は下落傾向に。その後2019年末頃に一時的な上昇を見せたが、その後すぐに下がった。しかし、世界各地でロックダウンが始まった2020年3月末から再び上昇傾向に入った。関連キーワードには「keto for beginners(初心者向けケトダイエット)」がランクインしており、パンデミックをきっかけに、ケトダイエットに興味を寄せる人が増えていることを示している。

米グローバル・ウェルネス・インスティテュート(GWI)の推計によると、2018年の世界ウェルネス市場の規模は4兆5000億ドル(約480兆円)で、このうち健康食に関する市場は7020億ドル(約74兆円)だった。

現在、世界各地で感染の第2波が懸念されており、また自由に外出するのが難しくなるかもしれない。食で健康増進というトレンドは、一層強まっていくのではないだろうか。

ヨガの世界で起こる先端テクノロジーとの融合・進化。「AIヨガマット」「スマート・ヨガウェア」も登場

ヨガの本場インド発、AI活用したスマート・ヨガマット「YogiFi」が登場

スマートフォン、ウェアラブルデバイスによって、距離、スピード、心拍数、消費カロリーなどを測定/記録できるようになり、スマートな運動が可能になった。

このテクノロジーを活用する流れはヨガの世界でも起こり始めている。AIやセンサーを駆使したハイテクヨガが登場しているのだ。

ヨガの本場インドで最近注目されているのが、地元スタートアップWellnesys Technologiesが開発しているAIヨガシステム「YogiFi」だ。

米半導体大手クアルコムがインドで毎年実施しているスタートアップコンペ「Qualcomm Design in India Challenge(QDIC)」2020年版で選出されたり、世界最大の家電見本市CES2020でイノベーションアワードを受賞するなど、インドのヘルステックやメディア界隈で関心が高まる有望株となっている。

どのような点が特徴的なのか。

YogiFiが評価される理由の1つは、「holistic(全体的)」なアプローチを採用している点だろう。アップルウォッチなどのウェアラブルウォッチに加え、スマホ、ヨガマットが1つのシステムとして機能するのだ。

ウェアラブルウォッチは、振動機能によってヨガの呼吸パターンを指示。また、ヨガの特定ポーズにおける心拍数をトラックすることもできる。

ウェアラブルウォッチは、スマホ、ヨガマットと連携。スマホはモーションキャプチャ機能で、ヨガポーズの精度を測ることが可能だ。また専用アプリには、自分のレベルに合わせてパーソナライズし、世界中のヨガインストラクターのクラスにアクセスできる機能が備わっている。

そして、YogiFiを最も特徴づける要素が「AIヨガマット」だ。このAIヨガマットには圧力センサーが組み込まれており、ヨガポーズの精度を身体圧力から測定し、AIを活用したトラッキングシステムにより、正しいヨガポーズに導くための音声・映像ガイダンスを流すという仕組みになっている。近々、Spotifyとの連携やライブストリーミング機能が追加されるようだ。

AIヨガマットは世界中に配送可能。英語メディアInternational Business Times6月4日の記事によると、ロックダウンで世界各地でヨガスタジオが閉鎖されたことを受け、自宅ヨガ需要が急騰。その需要を反映するかのように、YogiFiアプリ・ウェブサイトへのアクセスは300%増加したという。

シリコンバレー発のスマート・ヨガウェア「PIVOT Yoga」

2019年12月に北米市場でローンチされたシリコンバレー発のPIVOT Yogaもハイテクヨガの1つだが、YogiFiとは異なったアプローチをとっている。

PIVOT Yoga
https://pivot.yoga/

YogiFiはスマホのモーショントラックとAIヨガマットの圧力から利用者のヨガポーズを分析。一方、PIVOT Yogaはポーズ分析にスマートスーツを活用しているのだ。

2019年にEventbriteが米国で実施した調査によると、ヨガ実践者の67%が自宅でヨガを行っていると回答。パンデミックが始まる前からすでに、自宅ヨガが主流であったことを示している。自宅ヨガ実践者のほとんどが視聴しているのがYouTubeのヨガ動画だ。米国発の「Yoga With Adriene」は800万人以上のフォロワーを持つ人気ヨガチャンネルの1つ。累計視聴回数は6億8000万回。YouTubeのヨガ動画人気を示す数字といえるだろう。

自宅ヨガを余儀なくされる状況、YouTubeなどの動画がヨガ実践者のモチベーションアップに役立っているのは間違いないが、この方法では1つ大きな問題が発生する。ヨガポーズが正しいのかどうか、自分のヨガが向上しているのかどうかが分からないということだ。

こうした問題へのソリューションとして登場したPIVOT Yoga。スマートヨガスーツを着用し、専用アプリと接続することで、自分のヨガポーズをリアルタイム・アバターとしてディスプレイに映し出し、ヨガインストラクターのポーズとの比較で、精度を測ることができる。

トップとパンツ合わせて99ドル。クラス受講は月額19ドルのサブスクリプション制となっている。

PIVOT Yogaを開発するTuringSenseによると、PIVOT Yogaを開発するのにモーションキャプチャなど先端分野を専門とする博士号5人、修士号15人、計20人の研究者を要したとのこと。同社はヨガのほか、ズンバやエアロビクスなどもテクノロジーの応用領域として視野に入れているようだ。

インド発のARを活用したヨガアプリ「Prayoga」

YogiFiやPIVOT Yogaに加え、インド発でARテクノロジーを活用したヨガアプリ「Prayoga」という新アプリも存在する。

Prayogaアプリ
https://www.parjanya.org/prayoga

Prayogaでは、高度なトレーニングを受けたヨガインストラクターの3DアバターをiPhoneのAR機能を使い、自宅などユーザーがいる空間にARとして投影することができる。これにより、インストラクターとともに、ヨガを行っている感覚を得ることが可能となる。また、ARトラッキング機能を活用し、ユーザーのポーズをリアルタイムで分析することもできるという。

現状を見る限りでは「スマートヨガ」分野は萌芽期にある段階といえる。今後もAI、モーショントラック、ハプティックなど先端テクノロジーを駆使したハイテクヨガの登場が見込まれる。

Statistaの予測では、2016年に3600万人だった米国のヨガ実践者数は、2020年中には5500万人に増加する見込み。市場の拡大とともに、ヨガとテクノロジーの融合がどのように進むのか、この先の展開を楽しみにしたい。

アメリカ超えのフィットネス大国?ブラジル発のスタートアップ「Gympass」が注目される理由

人口あたりのフィットネスクラブ数は米国以上、ブラジルのフィットネス事情

世界でフィットネスクラブの数が最も多い米国。経済規模や人口規模を考えると不思議なことではない。米国のフィットネス業界団体IHRSAのデータ(2018年)によると、米国内のフィットネスクラブ数は3万8000カ所以上だった。

世界2位はどこか。IHRSAのデータでは意外な国がランクインしており、世界のフィットネス市場を見る目が変わるかもしれない。

フィットネスクラブ数3万4509カ所で米国に並ぼうとしているのがブラジルなのだ。ちなみに上記IHRSAのデータでは、日本におけるフィットネスクラブ数は4950カ所(日本国内の最新情報によると5800カ所ほどと推計されている)。

ブラジル、リオ・デ・ジャネイロ
Photo by Agustín Diaz on Unsplash

米国の人口は約3億3000万人、一方ブラジルの人口は2億1000万人。人口あたりのフィットネスクラブ数が多いのはどちらか、一目瞭然だろう。ブラジルでは「ジム文化」が根付いているといわれるほど、多くの人々にとってジムに通うことが生活の一部になっている。

かつて次のフロンティアとして注目を集めた新興市場「BRICS」、その最初の文字Bを示すブラジルでは、2003〜2011年に経済は大きく躍進。所得水準の向上、中間層の拡大にともないフィットネス市場も拡大し、ジム文化が広まったものと思われる。

調査会社Ken Researchによると、ブラジルのフィットネス市場では、BioRitmo、BodyTech、Companhia Athleticaの、Runnerの4ブランドが大きな影響力を持っている。コミュニティ醸成などを通じて、経済成長にともなうフィットネスブームをけん引してきたという。

経済成長だけでなく、文化・社会的要因もブラジルのフィットネス市場を押し上げた要因とみられる。

ブラジルでは男女とも「力強い」身体が評価される
Photo by Sven Mieke on Unsplash

中南米のビジネスメディアLABSが伝えたブラジル人女性起業家クリスティアナ・アルカンジェリ氏の分析によると、ビーチカルチャーなどの影響で、男性も女性もスキニーではなく「力強い」身体が評価されるという。英国などの他の文化圏で女性に「力強い」という言葉をかけると侮辱的とされる場合が多いが、ブラジルでは褒め言葉として受け取られるというのだ。

ソフトバンクも投資、ブラジルのフィットネス・スタートアップ「Gympass」

ブラジルは、中南米のスタートアップシーンを盛り上げる中心的存在でもある。フィットネス/ジム文化が強く根付いている状況を考慮すると、フィットネス分野でもスタートアップシーンが活況している状況が眼に浮かぶはずだ。

中南米ベンチャーキャピタル協会によると、中南米全域でのベンチャーキャピタル投資は、2017年・2018第1四半期に14億ドル(約1500億円)に達したが、そのうち73%がブラジルに投じられたという。

そんなブラジルで今最も注目されるフィットネス・スタートアップの1つがGympassだ。

Gympassウェブサイト
https://www.gympass.com/us

同社は企業向けのフィットネスプラットフォームを提供。会員企業の社員は、同ネットワークに参加する様々なフィットネスクラブやジムを利用することが可能となる。2019年6月には、ソフトバンクなどから3億ドルを調達したとして、英語圏メディアや中南米メディアで大々的に報じられた。

2012年にローンチされた同サービス、現在はブラジルを含め世界14カ国で展開している。ブラジル、ポルトガル、アルゼンチン、スペイン、メキシコなどのポルトガル語/スペイン語圏に加え、フランス、オランダ、アイルランド、英国、米国などが含まれる。社員の健康意識の高まりを背景に、同サービスへの関心を持つ企業が世界中で増加傾向にある模様。

2020年6月時点、Gympassの会員企業数は2000社以上。提携するフィットネスクラブは5万件を超え、提携ウェルネスアプリは60個、また同プラットフォームには2000人以上のパーソナルトレーナーが登録しているという。

Gympassの提供価格
https://www.gympass.com/us

世界中のフィットネス関連企業がコロナの影響を受けているが、同社も例外ではないようだ。損失を最小化すべく新たな取り組みを始めている。

Gympassは2020年6月末、会員企業における在宅勤務の増加を受け、3つの新サービスを導入することを発表した。1つは、メンタルヘルス改善のためのウェルネスサポート、2つ目はストリーミング・ライブクラス、3つ目は1対1のパーソナルトレーニング。

ウェルネスに関しては、メンタルヘルス専門家によるセラピーの導入、ヨガ/ウェルネスアプリとの連携を強化。

ストリーミング・ライブクラスは、すでに様々なフィットネス企業が導入しており、独自性が求められるところ。Gympassは、英語圏で人気のダンスバトルイベント/テレビ番組「World of Dance」との提携で、独自性をアピールしている。同イベント/番組は、ジェニファー・ロペス氏がプロディーサーを務め、米国だけでなく、ポーランド、ロシア、タイなど世界各地で実施・放送されており、これまでに世界中で10億回以上視聴されたといわれている。Gympassの会員は、その振り付け師らによるダンスのライブストリーミングに参加できる。

パンデミックをきっかけに強まる、企業に求めるウェルネス志向

Gympassが米国で独自に行った意識調査(2020年6月末発表)によると、65%がパンデミックをきっかけにメンタルヘルスを重要視するようになったと回答、また同等の割合がパンデミックによってメンタルヘルス含め健康全般を優先するようになったと回答していることが判明した。

同調査では、企業がウェルネスプログラムを提供しているかどうかで、その企業や経営者の評価が大きく変わる可能性も示唆されている。もし企業がウェルネスプログラムを提供していない場合、経営者に対する評価が下がるとの回答は54%だった。さらに、仕事の内定をもらったとしても、その企業がウェルネスプログラムを提供していないのなら、内定辞退を検討するとの回答割合は60%に上ったのだ。

フィットネス産業は苦境に立たされているが、パンデミックをきっかけに人々の健康意識は高まっている状況。世界の中で最も注目されるフィットネススタートアップの1つであるGympass、その影響力は無視できない。同社の施策は、状況を好転させる大きなきっかけになるかもしれない。

インド、中国の次に来る「ネクストビリオン市場」 ムスリム市場で興るフィットネス/ヨガトレンド

インド、中国より巨大な市場

人口10億人を超えるインドと中国、フィットネス含め様々なビジネスプレーヤーが注目する巨大市場。一方、これら2国に続く有望な「次の10億人市場」についてはあまり知られていない。

2060年に世界全体で人口30億人に迫るといわれる「ムスリム市場」のことだ。

米ピュー・リサーチ・センターの推計によると、2015年世界のムスリム人口は17億5000万人だった。国別で見ると、インドネシアが2億1900万人でトップ。次いで、インド1億9400万人、パキスタン1億8400万人、バングラデシュ1億4400万人、ナイジェリア9000万人、エジプト8300万人、イラン7700万人、トルコ7500万人などが続いた。

ムスリム文化圏では出生率が他国に比べ高く、人口は増加傾向。2060年には29億8700万人に増加すると見込まれているのだ。2015年世界で最多のムスリム人口を抱える国はインドネシアだったが、2060年にはインドが首位になる見通し。インド国内のムスリム人口は3億3300万人を超える予想だ。これに、パキスタン2億8300万人、ナイジェリア2億8300万人、インドネシア2億5300万人、バングラデシュ1億8100万人、エジプト1億2400万人と続く。

これらの多くが新興国と呼ばれる国。経済成長率は欧米諸国や日本を上回っており、所得水準も急速に増加、ムスリムの教義や文化に根ざした独自の消費者市場を形成するに至っている。ムスリム文化圏は若年層が多く、購買意欲も旺盛、ソーシャルメディアでは他の文化圏にはないユニークなトレンドが起こることもしばしば。

トムソン・ロイターなどによるムスリム市場レポート「State of the Global Islamic Economy(2018〜19年版)」でも、ムスリム市場の成長可能性が強調されている。それによると、経済セクターごとに見た場合、最大の市場となるのが「イスラム金融」。市場規模は、2017年の2兆4380億ドル(約260兆円)から2023年には3兆8090億ドル(約407兆円)に拡大する見込みだ。次いで、ハラル食品市場が2015年の1兆3030億ドルから2023年には1兆8630億ドル、ハラル旅行が1770億ドルから2740億ドル、モデストファッション(ムスリム向けアパレル)が2700億ドルから3610億ドルなど、どのセクターも顕著に伸びると予想されている。

ムスリム・ミレニアル世代ではハラル観光が人気(写真はイメージ)
Photo by Ifrah Akhter on Unsplash

同レポートでは、ムスリム文化圏の国ごとの成長ドライバーを分析、各国の「Islamic Economy Indicator(ムスリム経済指標)」を算出し、国別のムスリム市場の強さを順位付けしている。

そのランキングによると、ムスリム経済が最も強いとされるのがマレーシア。指標総合スコアは127ポイント。これに、アラブ首長国連邦が89ポイント、バーレーンが65ポイント、サウジアラビアが56ポイント、オマーンが51ポイントと続く。セクター別の指標では、モデストファッションでインドネシアが2位、シンガポールが3位にランクインするなど、東南アジア勢の存在も大きい。

アラブ首長国連邦でもヨガが人気

上記トムソン・ロイターのレポートは、ムスリム市場の概要を知るには役立つが、ムスリム市場全体を網羅できていない点には注意が必要といえる。ムスリムのフィットネス/ウェルネス市場が含まれていないからだ。

グローバル・ウェルネス・インスティテュートによると、世界全体のウェルネス市場は2018年4兆5000億ドル(約480兆円)に上った。このウェルネス市場は10セクターで構成されており、フィットネスやヨガなどの「フィジカルアクティビティ市場」はその1つに含まれる。

このフィジカルアクティビティ市場は世界全体で8280億ドル(約88兆円)。現時点のムスリム人口が18億人で、世界人口78億人のうちの23%を占めるとすると、ムスリムのフィジカルアクティビティ市場は1900億ドル(約20兆円)という計算になる。もちろん欧米諸国の消費水準の高さなどを考慮すると、ムスリムのフィジカルアクティビティ市場規模はこれより小さくなることが考えられるが、それでも無視できない規模であるのは間違いないはず。

こうしたマクロの数字に加え、ムスリム文化圏のフィットネス動向を追っていくと、ムスリムのフィットネス市場の可能性を感じることができる。

インドメディアConnectedToIndia2019年8月26日の記事では、アラブ首長国連邦におけるヨガトレンドについて取り上げている。

インド発祥のヨガはかつて、ヒンドゥー教と結びつけら、ムスリムがヨガを実践することに嫌悪感を持つ保守的なムスリムも多かったといわれている。しかし、ヨガのカジュアル化とグローバル化にともない、ムスリム文化圏においても広く実践者が増えているという。アラブ首長国連邦では、大臣らが「国際ヨガデー」のイベントに出席するだけでなく、ヨガを推奨する旨のスピーチを行ったとのこと。

一方、マレーシアやシンガポールではムスリム女性のフィットネス/ヨガ需要の高まりに応じて、女性専用のスタジオやオンラインクラスが登場している。

ムスリム女性向けにフィットネスクラスを提供するNawal Haddad
(Nawal Haddadウェブサイトより)
https://www.nawalhaddadfitness.com/nhfteam

シンガポール発のNawal Haddadは、ムスリム女性にフィットネス/ヨガクラスを提供するプラットフォーム。創業者のナワル・アルハダッド氏はムスリム女性であり、ズンバやピロキシング、ヨガのインストラクター経験を持つ人物。同プラットフォームのインストラクターはほぼムスリム女性、肌の露出や男性との接触に厳しいルールが課されるムスリム女性でも、気軽にフィットネスやヨガを実践できる環境を提供している。

2020年以降、このトレンドは北米でも広がるかもしれない。

北米初のムスリム女性専用ジム「Sister Fit」(Sister Fitインスタ投稿より)
https://www.instagram.com/p/B8p_klYgvnp/

2020年2月には、カナダ・トロントで北米初といわれるムスリム女性専用ジム「Sister Fit」が登場し話題となった。同ジムでは、ムエタイやイスラムの格闘術クラブ・マガのクラスを提供。創設者のファティマ・リー・ガルシ氏は、フィットネス、健康、強さはもともとイスラム教の重要な要素であったが、長らく失われていると指摘。ムスリム女性のフィットネス、健康、強さを取り戻すべく、同ジムを開設したという。

ムスリム市場におけるフィットネス/ヨガトレンドは始まったばかり。この先さらなる拡大を見せるのは間違いないだろう。

世界一不健康な国から世界一フィットな国へ。フィンランドに見るフィットネス促進のヒント。カギは「インセンティブ」にあり?

運動しない若い世代とフィットネス産業

このところ若い世代の運動不足が問題視されている。運動不足人口が増えると、肥満率や心臓疾患率が高まり医療費の増加につながることが懸念される。また、運動への関心が薄れることはフィットネス産業にとっても好ましいことではない。健康意識や運動意識をどのように高めていくべきなのか、国やフィットネス企業が頭を悩ます問題だ。

そんなときは海外の事例を観察してみるのがよいのではないだろうか。世界で最もフィットな国はどこで、なぜそうなのか、その理由を探ることで意外なヒントを発見できるかもしれない。

医学誌Lancetで2018年9月に掲載された論文では、世界168カ国のデータを分析し、国ごとの運動不足人口率を算出。その数値から、最もフィットな国とそうでない国を割り出している。

同論文によると、運動不足人口率が最も低い国、つまり最もフィットな国はアフリカのウガンダとなった。運動不足人口率の世界平均が27.5%だったのに対し、ウガンダでは5.5%という低い数字だったのだ。95%の国民が十分に運動できていることを示唆している。一方、運動不足人口率が最も高かったのが中東クウェートで、その割合は67%に上った。

ウガンダの運動不足率が低い理由はいくつか挙げられるが、交通インフラが十分に整っていないことや農業中心の経済など、生活のために体を動かさなければならない状況にあることが主な理由と思われる。BBCは、ウガンダで毎日片道2時間かけて徒歩で通勤し、9時から17時まで肉体労働に従事する女性の声を紹介している。この女性、もし十分な給与を得られるのならば、通勤は徒歩ではなく自動車を使うだろうと述べている。

交通インフラが十分に整っている日本と比較するのであれば、高所得国グループの中で運動不足率が最も低かったフィンランドが適当な対象となる。同論文では、世界全体の比較のほか、所得水準ごとの比較も行っている。高所得国において運動不足率が最も低かったフィンランド。その割合は16.6%だった。一方、高所得国グループで最も運動不足率が高かったのは、上記でも登場したクウェートだ。

日本の中でも「幸福度が高い」「健康的」というイメージが持たれているフィンランド。そのイメージを裏付ける数字といえるだろう。

世界一の不健康国家から世界一フィットな国になったフィンランド

現在、名実ともにフィット(健康的)な国であるフィンランドだが、もともとは運動不足人口割合と心臓疾患率が他国に比べ高く「不健康国家」のレッテルを貼られていたことはあまり知られていない。

高コレステロールな食事(写真はイメージ)
Photo by freestocks on Unsplash

医学誌 International Journal of Epidemiologyの論文(2000年2月1日掲載)によると、1960年代に実施された健康統計調査で、フィンランド男性の虚血性心疾患による死亡率が調査対象となった国の中で最も高いことが判明。コレステロールや血圧が高く、また喫煙率が高いことなどが、その理由だと疑われた。コレステロールや血圧が高いのは、運動しないことに加え、高脂肪・高塩分の食事が多いためだったといわれている。

フィンランド政府は、この調査結果を受け同国の健康水準を高めるための取り組みを本格始動。1970年代から運動を促進するための法規制やインフラ整備に加え、人々の意識を変えるキャンペーンを開始したのだ。

こうした取り組みが奏功し、およそ30年で不健康のイメージを払拭し、現在の「健康的」なイメージにたどり着いた。当時の大手メディアの報じ方を見てみると、フィンランドのイメージがどのように変わったのかを知ることができる。

英大手メディアThe Guardian紙の2005年1月15日の記事「Fat to fit:How to Finland did it」は、そのタイトル通り、フィンランドが不健康国家から健康国家になった過程を伝えるもの。この頃すでに、フィンランドが不健康国家というイメージを払拭できていたことを示す記事でもある。

同記事によると、1970年代に比べ、フィンランドの心臓疾患による死亡率は65%減少、また肺がんによる死亡率もほぼ同じ割合で減少したという。

フィンランドの町並み
Photo by Tapio Haaja onUnsplash

なぜここまで劇的な変化を実現することができたのか。

同記事から読み取れる成功要因の1つは、人間の行動原理をうまく活用したモチベーションアップ施策であろう。

たとえば、喫煙者の割合を減らすために実施されたのが、村/地域ごとの禁煙競争プログラムだ。1カ月間、禁煙すれば賞金/賞品が与えられるというもの。またコレステロール値の削減においては、村どうしの競争が行われたという。村人全員のコレステロール値を測り、2カ月でどこまで下げられるかを競うプログラムだ。コレステロール値を最も削減できた村に賞品/賞金が与えられた。

こうしたプログラムでは、どのようにコレステロール値を下げるのか、というハウツーに関する情報は与えられなかったという。なぜなら、人々はすでにコレステロール値を下げる方法を知っていたからだ。重要なのは、人々が行動を起こす動機であり、そのインセンティブを設定することだったという。

村/地域の単位の取り組みは、法規制の改革によって全国レベルでも実施されるようになった。新たな法規制によって、タバコ関連のあらゆる広告が規制されたほか、酪農業者には低脂肪牛乳の生産が義務付けられるなどしたという。フィンランドではかつて、食肉・乳製品の脂肪率に応じて酪農業者の報酬が決まる仕組みがあり、脂肪率が高い製品が供給されやすい環境にあったが、新たな法規制のもとでは、報酬基準は脂肪からタンパク質に変更されたとのこと。

タバコの広告禁止で、同国北カルラヤ地区では、1972年に50%ほどだった喫煙者率は2005年頃には30%ほどまで下がったという。

食事改善、禁煙促進、そして運動促進、通勤で自転車利用者が多い理由

喫煙と食事に関して成果を得たフィンランド政府は、次のステップとして運動を促進するための施策を導入していくことになる。

フィンランド・ヘルシンキ市内のスポーツイベントの様子
Photo by Ethan Hu on Unsplash

その一環で実施されたのが公共のプールや公園の整備。国家予算を地方政府に配分し、安価で利用できる衛生的なスポーツ施設の数を増やしていった。余暇の時間を、バーでのアルコール摂取から、運動で使うように仕向ける施策だ。寒い気候という条件もあり、もともと外出して運動する文化がなかったフィンランドだが、スポーツ施設ができたことで、屋内で運動にいそしむ人々が増えたという。

余暇だけでなく、通勤でも身体を動かす環境の整備が進められた。政府予算により、都市間を結ぶ徒歩/サイクリング専用ロードが次々と建設されていったのだ。

英語メディアWIREDは2019年6月27日に「The Most Bike-Friendly Cities on the Planet, Ranked」という記事の中で、自転車に優しい都市世界ランキングを公表しているが、フィンランドの首都ヘルシンキは10番目にランクイン。自転車インフラが整っており、通勤で自転車利用者が多いと伝えている。 フィンランドなどの北欧諸国は環境保全分野で先進的な取り組みを見せており、環境先進国と呼ばれている。自転車利用が盛んであることも、環境先進国と呼ばれる所以であるが、フィンランドで自転車利用が広がったもともとの理由が健康増進にあると知る人は少ないかもしれない。

フィットネス企業が観光ツアーを提供する時代?「ウェルネスツーリズム」の台頭とフィットネス企業の次の一手

2022年に100兆円規模に? ウェルネス/フィットネスツーリズムの台頭

このところ世界の観光産業では「ウェルネスツーリズム」という言葉が頻繁に登場するようになっている。ウェルネスツーリズムとは、ヨガやランニングによる心身機能の向上を主目的とする観光のこと。

これまで観光といえば「リラクゼーション」や「レクリエーション」を目的とするものだったが、人々の健康意識の高まりに伴い、積極的に心身の健康を「improve(向上)」させる観光の形が人気を博しているのだ。

米国の非営利団体グローバル・ウェルネス・インスティテュート(GWI)によると、2018年の世界ウェルネス市場の規模は4兆5000億ドル(約480兆円)。このウェルネス市場は10セクターで構成されており、そこにはウェルネスツーリズムも含まれている。このウェルネスツーリズム市場の規模は、6360億ドル(約68兆円)で、2022年には9190億ドル(約98兆円)に達する見込みだ。

ウェルネス・ツーリズム協会のアン・ダイモン氏がBBCに語ったところででは、ウェルネスツーリズムは広く一般に普及するトレンドであるが、特に30〜60歳の高学歴女性の増加が顕著だという。

GWIはウェルネスツーリズムの消費者をプライマリーとセカンダリーに分類。プライマリーとは、健康意識が非常に高く、観光目的を心身の健康向上に絞っている層のこと。一方、セカンダリーとは、一般的な観光にカジュアルな形で「ウェルネス要素」を追加する層。プライマリー層は全体の14%、セカンダリー層は86%を占めるという。

興味深いのは、プライマリー層の支出傾向だ。国内旅行においては、プライマリー層は平均的な旅行者に比べ178%、海外旅行では53%多く支出する傾向があるという。

米高級フィットネスEquinox、旅行プログラム提供にウェルネスホテル開業

ウェルネスツーリズムは、その名が示す通りウェルネスとツーリズムが融合した市場。これまでは、ウェルネス/フィットネス市場とツーリズム市場は別領域であり、プレーヤーもそれぞれの市場に活動領域を絞り、事業を展開してきた。

しかし、拡大を続けるウェルネスツーリズム需要を満たすため、ウェルネス/フィットネス市場のプレイヤー、観光市場のプレイヤーともに「アウトオブボックス」の思考で新たな試みを始めている。

米国の高級フィットネスブランドEquinoxの取り組みは、フィットネス企業がウェルネスツーリズム市場にどうアプローチすべきかなのかを示す試金石と見ることができる。

Equinox Exploreウェブサイト
https://equinoxexplore.com/trip/Explore-Morocco

Equinoxはフィットネス企業であるにも関わらず、ウェルネスツーリスト向けの旅行プログラム「Equinox Explore」を提供しているほか、ウェルネスコンセプトを前面に出したホテルを開業するに至っている。

Equinox Exploreでは、2020年モロッコでのハイキングやコスタリカでのサーフィントリップが計画されている。モロッコのプログラムは、ハイキングといいつつも4000メートルを超えるモロッコ最高峰ツブカル山の頂上を目指すもので、難度は「High-Performance」となっている。地元ガイドとEquinox専属コーチが同行する6日間のトリップ、費用は6250ドル(約67万円)。ハイキングだけでなく、睡眠コーチング、ヨガセッションも含まれている。当初は5月にツアーが予定されていたが、コロナの影響により9月に延期となった。

コスタリカでのサーフィントリップは、2020年11月に予定されている6日間のプログラム。費用は3450ドル(約37万円)。大自然の中でのサーフィンを通じて、心身の健康を向上させるのが目的だ。宿泊先は、ウェルネスコンセプトのホテル「Guilded Iguana」。地元の野菜やフルーツを使った健康的な食事によるウェルネス向上も期待できるとのこと。

フィットネスイメージをアピールするEquinox Hotels(Equinox Hotelsウェブサイト)
https://equinox-hotels.com/nyc/wellness/equinox-club/

こうしたウェルネスツアーを始めたことに加え、ウェルネス・ラグジュアリーホテル「Equinox Hotels」まで開業したところを見ると、ウェルネスツーリズム市場に対するEquinoxの本気度を垣間見ることができる。そのホテルの所在地がニューヨークで話題の新スポット「ハドソンヤード」であるからなおさらだ。また、2022年にはヒューストンとロサンゼルスで、2023年にはシカゴでも開業の予定。

ニューヨークのEquinox Hotelsが開業したのは2019年7月。ウォール・ストリート・ジャーナルは、同ホテルを「世界で最もフィットなホテル」だと評している。

一見よくある高級ホテルだが、Equinoxの本業であるフィットネス事業のリソースをフル活用したフィットネスプログラムが他のホテルとの大きな差別化要因になっている。ホテル内のジムでは、パーソナルトレーニングが受けられるほか、ヨガやHIITなど多様なグループフィットネスプログラムに参加することもできるようだ。デラックスルームは1泊900ドル(約9万6000円)前後、スイートルームは6000ドル(約64万円)ほどとなっている。

Pelotonはホテルと提携しウェルネスツーリズム市場に参入

上記Equinoxの取り組みは、フィットネス企業がほぼ単独でウェルネスツーリズム市場に参入した事例を示すもの。他のアプローチも存在する。

たとえば、英語圏で人気を博すインドアバイクPeloton。同社はウェスティンホテルなどと提携し、米国中のホテルにPelotonバイクを設置。その数はすでに500カ所近くに達しているといわれている。

Pelotonバイクを設置しているホテルのロケーションマップ(Pelotonウェブサイト)
https://hotelfinder.onepeloton.com/

Pelotonも自社のウェブサイトで、Pelotonバイクを設置しているホテルのロケーションマップを公開しており、Pelotonユーザーや宿泊先でPelotonバイクを試してみたい旅行者は簡単に検索できるようになっている。

Pelotonの競合でEquinox傘下のSoulCycleも2019年11月に、ラグジュアリーツアー運営会社Black Tomatoと提携し、ウェルネスツアープログラム「Retreats By SoulCycle」をローンチし話題となったところだ。

パンデミックの影響で人々の健康意識は以前よりも高まっていることが想定される。ウェルネスツーリズムの成長可能性は一層大きくなっているのではないだろうか。

フィットネス市場に新たな商機、ミレニアル世代女性に人気沸騰の「ヨガリトリート」とは?

このところ日本で「健康志向」という言葉をよく聞くようになった。生活の様々な側面において、健康を優先した意思決定を行う人が増えているという。このことはデータでも確認できる。日本政策金融公庫が2019年3月に公表した調査では、食に関して日本人の「健康志向」が過去最高を更新したことが明らかになった。

健康を志向するトレンドは日本に限ったことではない。欧米諸国でも健康志向は高まりを見せており、巨大な市場を形成するまでに至っている。

グローバル・ウェルネス・インスティテュートの推計によると、世界のウェルネス市場は、2014年に3兆4,000億ドル、2017年に4兆2,000億ドル、そして2019年に4兆5,000億ドル(約480兆円)と拡大の一途だ。

このウェルネス市場、10分野のサブセクターで構成される。最大セクターはパーソナルケアで、その規模は1兆830億ドルに上る。これに、フィジカルアクティビティ(8,280億ドル)、健康食(7,020億ドル)、ウェルネスツーリズム(6,360億ドル)などが続く。

新型コロナの影響で人々の健康志向は一層高まっていることが想定され、ウェルネス市場の拡大は今後しばらく継続する見込みだ。

米国ではヨガ「体験」への支出増加

ウェルネス市場を理解するためのキーワードはいくつかあるだろうが、その中でも「ヨガ」は特に重要度が高いと思われる。

世界最大の消費市場・米国。世界的なフィットネストレンドが生まれる同国ではヨガの人気が高まり続けている。最大の消費者層となったミレニアル世代を中心に、ヨガ実践者が増え、ヨガ関連の支出も増加傾向にある。

イベント企業EventBriteが2019年に米国で実施した調査では、ヨガ実践者のヨガ関連支出は月額90ドル(約9,600円)、生涯では6万2640ドル(約670万円)に上ることが判明。大半のヨガ実践者が1週間あたり2~3回ヨガを行っている。またモノより「体験」に支出する傾向が強いミレニアル世代は、ヨガイベントなどの「体験」に対し、1セッションあたり平均40ドル払ってもよいと考えていることも明らかになった。さらに、ヨガ実践者の6%は、記憶に残るようなヨガ体験であれば100ドル以上でも惜しまないと回答している。

こうしたヨガ実践者の傾向は、「ヨガリトリート(yoga retreat)」の人気上昇にも見て取ることができるだろう。

撤退、引きこもりなどネガティブな意味を持つ「retreat」だが、yoga retreatは「ヨガによる安静・療養」を意味し、ポジティブかつカジュアルに用いられる言葉。ミレニアル世代女性の休暇の過ごし方として人気を博している。

一般的には、ヨガリトリートプログラムを提供するリゾートホテルに1週間~1カ月ほど滞在し、ヨガ/瞑想の実践や健康的な食事を通じて、心身の休息を目指すもの。バリやインドなどが人気の渡航先となっている。

究極のヨガリトリート、ギリシャで帆船ヨガクルーズ

需要の伸びに伴い、ヨガリトリートの形も多様化している。関心を集めているプログラムの1つが帆船クルーズとヨガが合わさった「ヨガクルーズ」だ。

Yoga Ahoyウェブサイト
http://yogacruise.net/

ヨガクルーズは世界各地にいくつか存在するが、米国では「Yoga Ahoy」のヨガクルーズの認知度が高い。発行部数100万部を超えるアメリカンエクスプレスカードの季刊誌Departuresに「世界のベストヨガリトリート・トップ10」として紹介され、また女性誌で取り上げられることも多く、米国では広く知られたヨガリトリートの1つになっている。

Yoga Ahoyのヨガクルーズは過去9年に渡りトルコの海でプログラムを実施してきたが、2020年シーズンはギリシャでのプログラムを予定。7〜10月の予約はほぼ埋まっており、その人気のほどがうかがえる。

トルコのクルーズでは、木造の帆船が使われていたが、2020年シーズンでは2018年に製造された最新の小型ヨット(13メートル)が導入された。クルーズ先は、ギリシャのリゾート地、ケルキラ島やレフカダ島が含まれる。

スケジュールは、朝のヨガ、朝食、レジャータイム、ランチ、レジャータイム、ティータイム、レジャータイム、ヨガ、ディナーと、ヨガクラスとスノーケリングなどのレジャーが組み合わさったリラックスしたものとなっている。

女性誌やウェブメディアで言及されることが多く、バケットリスト(死ぬまでにしたいことリスト)に入れる読者も少なくないようだ。

ギリシャだけでなくタイでも、世界のヨガクルーズ

ギリシャではYoga Ahoyのほか、Viking Navitaによる帆船ヨガクルーズも提供されている。

Viking Navitaウェブサイト
https://www.vikings.tours/

Viking Navitaのヨガクルーズは20人以上のグループを対象にした10日間のプログラム。有名なミコノス島やデロス島をクルーズしつつ、ヨガを楽しむものになっている。Viking Navitaのウェブサイトによると、同プログラムの価格は1,995ユーロ(約24万円)から。寄港先などによって価格は変動するようだ。

BookRetreatsというサイトでは、世界各地のヨガクルーズを見つけ出し、予約することが可能だ。ギリシャのケファロニア島やタイのパンガン島周辺をクルーズするヨガプログラムなどが掲載されている。

冒頭で述べたように、世界のウェルネス市場は4兆5,000億ドル。そのうち、ヨガなどのフィジカルアクティビティは8,280億ドル、また今回紹介したヨガクルーズなどのウェルネスツーリズムは6,360億ドル。パンデミックをきっかけに人々の健康意識が以前にも増して高まった可能性を考えると、市場は今後さらに拡大していくことが考えられるだろう。

ヨガリトリートやヨガクルーズは、パンデミック収束後どのように発展するのか、その動向から目が離せない。

なぜ高級ジム業界の王者「EQUINOX」は顧客を魅了し続けられるのか

コワーキングスペース業界に突如現れ、今やコワーキングスペースの代名詞となったWeWork。センセーショナルなソフトバンクの投資や、派手な赤字が目立つ業績によって何かと問題点にフォーカスされがちな企業だが、WeWorkがコワーキングスペース業界にもたらしたものは大きい。

最も業界を革新した点で言えば「いわゆるコワーキングスペース」的な内装デザインと設備を高いデザイン性によって魅力あるものに変えたことだろう。加えて「イケてる企業、スタートアップ」が利用しているというブランディング、そしてオープンかつネットワーキング的な要素を盛り込んだ点にある。安売りによるマーケティングが横行していたコワーキングスペース市場の中で、WeWorkは相対的に「高級」な価格を提示したにも関わらず職場環境に革新をもたらしたことで世界中で多数の会員を獲得、今なおWeWorkを選ぶ企業は少なくない。

こうした流れが「フィットネスクラブ」業界にも起きている。今「高級ジム」「高級フィットネスクラブ」の代名詞になりつつある米「EQUINOX(イクイノックス)」だ。EQUINOXの現状と戦略を見ていく上で、なぜ同社は顧客を惹き付けるのか、高級ジムの成立要件とはなにか、今後の事業展開を考察していきたい。

通うことがステータス、米高級ジムEQUINOX(イクイノックス)

BRICKELL HEIGHTS店のプール(EQUINOX公式サイト)

EQUINOXは1991年に設立され、米ニューヨークに本社を置いている。店舗はニューヨーク、ワシントン、ボストン、シカゴ、フロリダ、ミシガン、カリフォルニアなどの全米だけでなく、カナダ・イギリスなどアメリカ以外にも出店しており、既に店舗数は106店舗に達している。

海外の報道では「世界で最も会費の高いジムの1つ」とも表現される価格も特徴の1つだ。EQUINOXの1店舗の会員になるためのベーシックな会費は年間2,200ドル(約24万円)が必要となり、全米の店舗に通うプランになると年間3,000ドル(約32万円)を超える。それでも全ての店舗内の施設を使えることにはならず、更に上位の年間5,000ドル(約54万円)を支払うことによって、ようやく全ての店舗、全ての施設が利用可能になる。

同社はハリウッドの俳優や著名人、CEOや弁護士などのエグゼクティブを初め多数の顧客を獲得し、アメリカでは既に「EQUINOXに通う」ことがステータスになっているという。

SEAPORT店のエントランス(EQUINOX公式サイト)

EQUINOXは、WeWork同様「いわゆるフィットネスクラブ」的なデザインを排し、一見フィットネスクラブとは思えないラグジュアリーな内装デザインを実現している。

もちろん内装デザインだけでなく、トレーニング施設も充実しており、トレーニングエリアや室内プール、スタジオなど日本で総合型フィットネスクラブと呼ばれる業態の施設は一通り揃っており、店舗によってはボクシングスタジオやキッズクラブもある。またマシンピラティス専用のスタジオは、EQUINOX店舗の大半に併設されており、あらゆるトレーニングのニーズに対応している。

パーソナルトレーニング業界のリーディングカンパニーとしての一面

ラグジュアリーなデザインや充実したトレーニング設備、高額な会費など表面的な部分に目が向きがちになるEQUINOXだが、パーソナルトレーニングのクオリティが高く、この業界でのリーディングカンパニーとしても一面もある。

EQUINOX店内に掲示されたパーソナルトレーナーカード(撮影:大下雅之)

設立以来20年にわたり、エクイノックス・フィットネス・トレーニング・インスティテュート(Equinox Fitness Training Institute:EFTI)という社内教育プログラムを磨き上げている。このEFTIパーソナルトレーニングコースのカリキュラムには、解剖学、運動生理学、運動生理学、リハビリ後のプロトコルなど専門的な座学や実地のロールプレイングによって構成されており、現場デビュー前には厳しいテストも実施されている。

EQUINOXのパーソナルトレーナーは、現場デビューをしてから更に厳しい競争環境に身を置くこととなる。「1年後に生き残るのは10人に1人」とも噂される厳しい環境の中で、「自分はどういう顧客から好まれるのか」「どういった顧客であれば最大のパフォーマンスを発揮できるか」というように、自分の得意不得意や強みを認識し、営業マンのようにトレーナー自身が顧客に自分を売り込んだ上で結果を出さないと生き残っていけない。

EQUINOXのパーソナルトレーナーを夢見て門を叩くも、現場へのデビューができずに退職していくスタッフがいる一方で、テレビ出演で有名になるスタートレーナーもいるこの環境が同社の競争力の源泉とも言える。

EQUINOXのパーソナルトレーニング部門は多様なポジションによって構成されている
https://careers.equinox.com/about-personal-training

20年以上ブラッシュアップを続けるEFTIパーソナルトレーニングコースによる社内教育プログラムと、現場での競争によって向上したサービス品質の向上によってこの業界のリーディングカンパニーとなったEQUINOX、同社のパーソナルトレーニング部門の上級幹部のほどんどは、内部昇格による現場のパーソナルトレーナー出身者で構成されている。

人材育成ノウハウの厚み、組織的な運用、個々のトレーナーのポテンシャルなどにより提供されるパーソナルトレーニングサービスは、EQUINOXに顧客が惹きつけられる大きな理由となっている。

EQUINOXのブランド戦略:フィットネスクラブの有名ブランドで終わるつもりはない

高額な会費にも関わらず、ラグジュアリーな内装デザイン、充実した店舗設備、高品質なトレーニングサービスによって、エグゼクティブやハリウッドの著名人の多くを惹き付けている同社は、アメリカでは既に「高級ジム」「良いジム」であることを超越し「ステータス化」しており、同社のプレゼンスは上がり続けている。

これは20年以上EQUINOX流のジムサービスを磨き上げた結果ではあるが、同社はこの数年は「意図的に」そういったブランドイメージを構築しており、更に言えば「EQUINOX」というブランドをフィットネスに留まらないブランドに育てようとしていると筆者は考察している。

EQUINOXのブランドメッセージ(EQUINOX公式サイト)

同社は「IT’S NOT FITNESS. IT’S LIFE.」というメッセージを打ち出している。食やライフスタイル、健康などの「非フィットネス領域」への事業展開を見据えた上で「EQUINOX」というブランドが「高級」「高品質」「ラグジュアリー」な証だということを認識させようとしているように思える。

例えば、EQUINOXの公式サイトからは「フィットネスクラブ」的な雰囲気は感じられず、ファッションブランドやセレクトショップのような雰囲気すら漂っている。広告クリエイティブを見れば、同社のブランド戦略への意識を更に垣間見ることができる。

もはやファッションブランドの広告クリエイティブと言っても過言ではないだろう。全米に展開する実店舗への短期的な集客を目的とした広告であれば、おそらくこのクリエイティブにGOは出ないはずだ。

つまり同社のマーケティング戦略のKPIは短期的な店舗集客とは明らかに違う方向、つまり「ブランドイメージの構築」を見ていると捉えるのが妥当だろう。逆説的には「いわゆるフィットネスクラブ的な広告」を打つことが、EQUINOXにとっては「ブランド価値」を毀損することに他ならない、という言い方もできるのである。

EQUINOXブランドでの非フィットネス領域展開、まずはホテル事業に参入

EQUINOX HOTEL公式サイト

同社は2019年7月に「Equinox Hotel New York City Hudson Yards」をオープン、ホテル事業への参入を果たしている。EQUINOXのブランド戦略からすれば当然の取り組みとも言えるだろう。

価格は1泊7万円前後に設定されている。ホテルでは、パーソナルトレーニング、グループフィットネス、プールを利用することができ、今までのホテル内フィットネスのクオリティからはEQUINOXブランドとともに一線を画す強みとなっている。

もちろんホテルの外観・内装デザインもフィットネス事業と同様にラグジュアリーなデザインとなっており、Booking.comの口コミを見ても既に人気のホテルとなっている。

既にヒューストン、ロサンゼルス、シカゴと3拠点のオープンが予定されている。フィットネスに続きホテルでの事業拡大を推進する同社、EQUINOXブランドが今後どこまで広がっていくのか、日本でもEQUINOXのサービスが体験できるのか楽しみに注目していきたい。

スウェーデン発のフィットネストレンド「プロッギング」に見る北欧の幸福哲学。心身の健康と自然は不可分?

北欧発のフィットネストレンド「プロッギング」

北欧というとIKEAなどにみる独特のデザインや環境先進国といったイメージを思い浮かべる人が多いかもしれないが、フィットネスというイメージを持つ人は少ないだろう。北欧諸国は寒く、活発に運動しているイメージを持ちにくいからだ。

しかし、北欧諸国はフィットネス/ウェルビーイング分野においても先進国と呼べる状態を実現しており、ロールモデルとして見られる場合も少なくない。

その北欧諸国の1つスウェーデンではこの数年「プロッギング(Plogging)」と呼ばれるフィットネストレンドが拡大、米国や英国など他の欧米諸国にも広がりを見せている。

プロッギングとはどのようなフィットネストレンドなのか。

これはスウェーデン語の「plocka upp(拾う)」と「jogga(ジョギング)」という言葉を組み合わせた造語。文字通り、ごみ拾いをしながらジョギングすることを意味する。

2016年頃にスウェーデンで始まったこのトレンド。現在では、欧米諸国だけでなく、日本、韓国、インドなどアジア圏にも拡散。インスタグラムの#ploggingを付けた投稿は12万件(2020年6月末現在)を超えるに至っている。ウェルネスメディアGetTheGloss2018年7月の記事によると、当時のインスタにおける#plogging投稿数は1万8000件だった。この2年で10倍近く増えた計算となる。

(画像)インスタグラムの#plogging関連投稿
https://www.instagram.com/explore/tags/plogging/

新型コロナによるロックダウン/外出自粛により世界各地のプロッギング活動は一時的に不活発化したようだが、ロックダウン緩和に伴い、再び活発化することが見込まれる。英語圏の主要メディアが使い捨てマスクや消毒液ボトルなどの「コロナごみ」による環境汚染問題を取り上げていることから、プロッギング実践者は以前よりも増える可能性がある。

環境面だけでなく、フィットネス効果の観点からもプロッギングへの注目度は高まるかもしれない。

スウェーデンのフィットネスアプリ「Lifesum」によると、30分のジョギングでは平均で235カロリーを消費するが、プロッギングでは288カロリー消費できるという。プロッギングでは、地面に落ちているごみを拾う動作が必要となるため、通常よりも多くのカロリーを消費するようだ。Lifesumアプリでは、エクササイズ項目にプロッギングが追加されており、ユーザーはプロッギングによる運動データをトラックできるとのこと。

北欧でプロッギングが生まれた理由、「friluftsliv」という思考様式

このプロッギングは、身体・心理・感情的な健康と環境は切り離せないという北欧諸国の哲学/思考様式の一端を示す事象。未来のフィットネスやウェルビーイングプログラムのあり方を考える上で、有益な示唆を与えてくれるものだ。

スウェーデンでプロッギングという活動が広まった理由の1つとして挙げられるのが「friluftsliv」という北欧の人々が持つ特有の考え方だ。ノルウェー語で「open air life(自然に根ざした生活)」を意味する言葉だが、ノルウェーだけでなく北欧諸国の多くで使われる言葉になっている。

自然の中でこそ、人間の精神的・身体的なウェルビーイングが高まるという発想であり、北欧諸国の人々をアウトドア活動やジョギングなどに駆り立てる要因の1つになっていると思われる。

人間は自然の一部であり、自分たちの健康状態は自然に大きく影響されるとの考え。その自然の健康状態が悪化すれば、自分たちにも跳ね返ってくる。このような危機感がプロッギングというトレンドを生み出したり、先進的な環境取り組みにつながっているのかもしれない。

(画像)ノルウェーの大自然、トロルトゥンガ
Photo by Tanya Tulupenko on Unsplash

friluftslivを反映していると思われるトレンドは、プロッギングのほかにも多数確認できる。

デンマークの首都コペンハーゲンでは、通勤者の50%が自転車を利用、また25%は公共交通機関と自転車の組み合わせで通勤しているという。コペンハーゲンは「世界一の自転車都市」と称されるほどに自転車利用が活発な都市となっているのだ。他の北欧都市でも、通勤時の自動車利用は減少し、自転車利用者が増加している。

また北欧は電気自動車シフトが世界で最も進む地域でもある。ノルウェーでは、新車販売に占める電気自動車の割合はすでに60%に到達している。政府による免税といった優遇策が電気自動車普及を後押ししている側面もあるが、friluftslivの影響も大きいと考えられるだろう。

北欧諸国の幸福度の高さとクリエイティビティ

北欧諸国は幸福度が高く、クリエイティブなビジネスが誕生しやすい環境にある。これは積極的に自然の中に身を置き心身の健康を保つという姿勢が大きく関係しているのかもれない。

国連が毎年発表している「世界幸福度ランキング」。2020年版ではトップ10のうち半分を北欧諸国が占めた。1位フィンランド、2位デンマーク、3位スイス、4位アイスランド、5位ノルウェー、6位オランダ、7位スウェーデン、8位ニュージーランド、9位オーストリア、10位ルクセンブルク。この国別ランキングは、1人あたりGDPや健康寿命などから算出された総合指数で順位付けされたもの。

このほか「主観的なウェルビーイング度合い」で都市ごとに順位付けされたランキングも発表されている。この主観的ウェルビーイング度合いのランキングでもトップ10を北欧都市が大半を占める。最新ランキング1位はフィンランド・ヘルシンキ。以下、2位デンマーク・オーフス、3位ニュージーランド・ウェリントン、4位スイス・チューリッヒ、5位デンマーク・コペンハーゲン、6位ノルウェー・ベルゲン、7位ノルウェー・オスロ、8位イスラエル・テルアビブ、9位スウェーデン・ストックホルム、10位オーストラリア・ブリスベンとなった。

(画像)「主観的なウェルビーイング度合い」世界1位のフィンランド・ヘルシンキ
Photo by Tapio Haaja on Unsplash

健康度や幸福度が高い状態は、人々のクリエイティブ活動を促進させる。人口が少ない中でも、世界的なクリエイティブ企業が多数誕生する秘訣なのかもしれない。日本でも広く知られた家具大手IKEAや音楽ストリーミングのSpotify、アパレル大手H&Mはスウェーデン発の企業。世界的に人気のゲーム「マインクラフト」もスウェーデン発。一方、世界的に大ヒットしたモバイルゲーム「アングリーバード」はフィンランドの企業が開発した。 未来のフィットネスのヒントは、身体の健康だけでなく、精神的・感情的な健康、そして環境やクリエイティビティを包含する北欧的なアプローチから見つけることができるのかもしれない。

本場インドで急成長、ヨガスタートアップ「SARVA」ジェニファー・ロペスなど著名人がこぞって投資

世界20億人以上?拡大するヨガ市場

日本でも女性を中心に増えているヨガ人口。海外では2016年頃に急拡大期が訪れ、それ以降も人気を維持している。

英ガーディアン紙が伝えたYoga Journal2016年のデータによると、米国における同年のヨガ人口は3670万人、2012年の2040万人から4年で79%増加(2008年は1580万人)。米国におけるヨガ市場は160億ドル(約1兆7000億円)に達した。また2016年時の世界ヨガ市場の規模は800億ドル(約8兆5000億円)に増加したという。2016年英国では「yoga」が、グーグルで最も検索されたワードの1つにもなった。

英語圏におけるヨガトレンドは関連市場にも波及。市場調査会社Technavioは、米国におけるヨガマット市場は2016年の110億ドル(約1兆1000億円)から、2020年には140億ドル(約1兆5000億円)になると予想。別の調査会社NPD Groupによると、米国におけるヨガウェアを含むスポーツウェアの売上高は2015年、350億ドル(約3兆7450億円)となり、同国のアパレル市場全体の17%を占めるまでに拡大したいという。

国連Newsの記事(2016年6月)によると、この時点における世界のヨガ人口は20億人だった。ヨガトレンドは英語圏から中国や東南アジアなどのアジア市場にも波及しており、2020年のヨガ人口は20億人を上回っていることが予想される。

ヨガの本場インドで注目されるヨガスタートアップ「SARVA」

海外大手メディアの多くは欧米のヨガトレンドを報じることがほとんど。ヨガの本場であるインドの事情についてはあまり語られてこなかった。しかし、この数年インドでは注目のヨガスタートアップがいくつか登場、インド市場への関心度合いの高まりも相まって話題になることが増えている。

SARVAウェブサイト(https://www.sarva.com/)

インドのヨガ市場で注目されているスタートアップの1つが「SARVA」だ。2016年にサービスを開始した同社、世界的に有名な歌手・俳優のジェニファー・ロペス氏など多くの著名人が投資をするヨガ企業としても国内外メディアの関心を集めている。

SARVAのメインビジネスは、ヨガスタジオの運営。インド地元紙EconomicTimesによると、2019年11月時点でSARVAはインド34都市に91カ所のスタジオを構え、5万5000人以上の利用者を抱えている。

SARVAの店舗検索ページ(引用:SARVAウェブサイト)

またインドのホテルチェーンOYOとも提携しており、今後は同社のミレニアル世代向けホテルブランド「OYO Townhouses」内に、500カ所のスタジオを開設する計画があるという。

海外にも目を向けており、英ロンドンではすでに3カ所のヨガスタジオを開設。欧州の主要フィットネスクラブDavid Lloyd Leisure Clubsと提携し、ヨガインストラクターの育成にも力を入れている。

ジェニファー・ロペスなど著名人がこぞって投資、豪華な株主で注目を集める

Crunchbaseによると、SARVAは既に5回の資金調達ラウンドをこなしており、調達金額が判明している2回のラウンドの調達金額は8.8Mドル(約10億円超)、内1回はSeedラウンドのため、既に2桁億円中盤〜後半程度の資金調達を実施している可能性が高い。

SARVAの投資家はウェブサイトで紹介されている(引用:SARVAウェブサイト)

ジェニファー・ロペス氏によるSARVAへの投資が報じられたのは2019年5月のこと。ロペス氏とその婚約者でメジャーリーガーのアレックス・ロドリゲス氏らがSARVAのシードラウンドをリードし、600万ドルを投じたという。このラウンドには、インドの人気テレビパーソナリティのマライカ・アローラ氏も含まれていた。ロペス氏によるインド・スタートアップへの投資はこれが第1号になるという。

この投資ラウンド以降も著名人による投資が続く。2019年7月には、インド映画界のスーパースター、ラジニ・カーント氏の長女で映画監督であるアイシャワリヤー・ダヌーシュ氏がSARVAに資金を投じたことが報じられた。ラジニ・カーント氏といえば映画「ムトゥ踊るマハラジャ」の主役を演じた俳優、日本でも広く知られた人物だ。このほか、フィットネス界のスティーブ・ジョブズと称される、24 Hour Fitness創業者マーク・マストロフ氏もSARVAの投資家として名を連ねている。

直近では2020年6月16日に、インドの国民的クリケット選手シカール・ダワン氏がSARVAに投資したとの報道があった。米スポーツチャンネルESPNが実施している「世界で最も有名なアスリート・ランキング100」で94位に位置する世界的なクリケット選手だ。ちなみに同ランキング1位はサッカーのクリスティアーノ・ロナウド氏、2位はNBAのレブロン・ジェームズ氏、3位はリオネル・メッシ氏。日本からは、錦織圭氏(28位)、羽生結弦氏(64位)がランクインしている。

SARVAが注目される理由、伝統的なヨガの現代風アレンジと市場成長ポテンシャル

SARVAの顧客定着率(relation rate)は90%以上。利用者ベースは拡大の一途で、特にミレニアル世代やZ世代など若い世代の利用者増が顕著という。著名人らが注目する理由、若い利用者が増加する理由はどこにあるのか。

その理由の1つとして、SARVAが伝統的なヨガを現代風にアレンジし、若い世代が気軽にヨガを実践できる仕組みを作り上げていることが挙げられる。

SARVAが提供する25種類のヨガクラス(引用:SARVAウェブサイト)

SARVAが提供するヨガクラスは現在25種類。ヴィンヤサヨガやハタヨガといった伝統的なものから「アクアヨガ」「バスケットボールヨガ」「ブロックヨガ」など現代風のヨガクラスが含まれる。アクアヨガは、水中での負荷軽減効果を活用し、通常のヨガが難しい高齢者や妊婦のヨガ実践を促すコース。一方、バスケットボールヨガは、コア筋肉や背筋、腕の筋肉を強化したい人向けにアレンジされたヨガクラスとなっている。

こうした多様なヨガプログラムの提供は、チェンナイのマウントロードにある最初のスタジオの頃から実践されており、これがメディアの注目を集める最初のキッカケとなった。結果的にSARVA最初のスタジオに口コミで顧客が殺到、同社の店舗展開が始まった。

SARVAも新型コロナの影響でヨガスタジオの一時閉鎖を余儀なくされている状態のようだが、調達した資金でデジタルコンテンツの制作に力を入れるとのこと。EconomicTimesによると、SARVAと女性に特化した姉妹ブランドDiva Yogaのグローバル・デジタル・リーチは2億人。若年層が多いインド、35歳未満の人口は5億人といわれている。市場の成長ポテンシャルは圧倒的だ。

同社は冒頭で述べたように既にインド以外の市場にも展開している。世界のフィットネス・ヨガ市場の動向を見る上で、SARVAは無視できない存在になるだろう。

【行ってみた】米高級フィットネスクラブ「EQUINOX」

【寄稿】本稿は女性専用パーソナルトレーニングジム「UNDEUX」を運営する株式会社トライアス取締役の大下氏による寄稿だ。米高級フィットネスクラブ・ジムの代名詞となりつつある「EQUINOX」のDOWNTOWN LA店を実際に見学した際のレポートとなる。

EQUINOX(イクイノックス)DOWNTOWN LA店

高級ジム・フィットネスクラブの代表格としてアメリカで破竹の勢いで成長を続けるEQUINOX。総合型のフィットネスクラブ業態だがパーソナルトレーニングにも強みを有し、現地ではすでに通うことがステータスになっているという。海外視察の一貫で機会があったためDOWNTOWN LA店を見学した。

エントランスからすでに高級感が漂っている。ヘルシーな食事を提供するレストランなども併設されており、エントランスの時点で総合型のジムのイメージを覆される。

サイネージには今日のスタジオレッスンの内容などが日々更新されている。

入会や施設案内を行うスタッフにはメンバーシップアドバイザーの肩書きが付いており、EQUINOXについての説明や入会に当たっての具体的な説明などは個室にて実施される。

EQUINOXウェブサイト

見学したDOWNTOWN LA店は特にエグゼクティブ会員が多いらしく、OPENは朝6時と早朝から営業(CLOSEは20時)している。日曜日は休館。EQUINOXのテラスに「仕事だけしに来る」会員もいるとのこと。価格は入会金600ドル、月会費は諸経費込みで約200ドルと説明してくれた。

いよいよ気になる施設見学だが、EQUINOXでは施設見学のことを「ツアー」と呼ぶ。EQUINOXが実践するブランディングを感じることができる一面かもしれない。

グループフィットネスエリア。天井が高いので広いスペースが更に広く感じられる。とにかく館内は広い。

フロアにもEQUINOXのロゴ。

マシンピラティスフロア。EQUINOXはプールがある店舗も多数有り、ここでトータルトレーニングを行うことができる。アメリカの物価を勘案しても、高い月会費を払う価値はあるように思う。

ヨガエリア。館内のアメニティはKIEHL’S(キールズ)で統一されていて、いくら使ってもいいとのこと。また「裸足で歩けるくらい常に清掃をしている」ことを売りにしているとアドバイザーが強調していた。

マシントレーニングエリア。マシンの種類、種類ごとの台数がとにかく多い。

EQUINOXはパーソナルトレーナーの品質が高いことで有名だ。トレーナーの育成プログラムが充実している反面、トレーナーにとってはEQUINOXのトレーナーで居続けることの競争が激しい(基準に満たない場合はクビ)が、結果を出しスタートレーナーになることができれば高い報酬も待っている。

壁にはパーソナルトレーナーの紹介カードが。

紹介カードのクリエイティブも洗練されている。

DOWNTOWN LAにはテラスが有り、確かに仕事だけしにくる会員が一定数いることも納得できる。

見学前は高い月会費や豪華な内装にばかり目が向いていたが、EQUINOX1店舗の入会であらゆるトレーニングを行えること、パーソナルトレーニングの品質が高いこと、トレーニング以外でも利用できること、清潔で洗練された環境を利用できることを考えれば、高額な入会費や月会費も納得という印象だった。

フィットネス界のネットフリックス「NEOU」が示す自宅エクササイズ市場の未来

パンデミックをきっかけに経済社会の側面が変化し様々な「ニューノーマル」が出現している。その1つといえるのが「自宅エクササイズ」だろう。

ロックダウンによるジム・フィットネスクラブの閉鎖によって、多くの人々は自宅でのエクササイズを余儀なくされた。アジアや欧州では感染増のピークは過ぎ、ジム・フィットネスクラブも通常運転に戻りつつあるようだが、自宅エクササイズの流れは継続すると見込まれている。

コロナのピークは過ぎても自宅エクササイズ需要は継続見込み

Pelotonウェブサイト

米フィットネススタートアップPelotonの数字は、自宅エクササイズのトレンドと今後のフィットネス市場の方向性を示す重要な指標といえるだろう。

フィットネスバイク、トレッドミルと専用の動画コンテンツを提供するPeloton。フィットネスバイクの価格2,245ドル(約24万円)に動画サブスクリプション月額39ドル(約4,100円)と、安くはない価格であるが、欧米における自宅エクササイズ需要の高まりを受け、売り上げが急増、フィットネス機器の生産が追いつかない状況になっているという。

同社2020年5月の発表によると、直近四半期における売上高は前年同期比66%増。サブスクリプション利用者は86万6100人と94%増加した。大手ジムなどの競合が危機的状況に陥る中、大幅な成長を記録している。同社株価は3月13日の19.72ドルから6月19日時点には50ドルと2倍以上増加している。

投資家注目、米フィットネス業界のニュースター「NEOU」

このPelotonと同様に、パンデミックによる自宅エクササイズ需要の高騰をきっかけに急成長が期待されているフィットネススタートアップが存在する。2015年ニューヨークで創設された「NEOU(ニューユー)」だ。フィットネス動画のストリーミング配信を通じて、「New You(新しい自分)」の実現を支援。動画配信に強みを持つことから「フィットネス界のネットフリックス」を謳い、利用者の拡大を狙ってきた。

NEOUウェブサイト
https://www.neoufitness.com/home

パンデミックの影響でNEOU利用者は急増。有料ユーザーは65カ国・5万人以上に拡大したという。料金は月額14.99ドル(約1,600円)、年間99.99ドル(約1万円)。

規模はまだまだPelotonには及ばないものの、自宅エクササイズ需要の継続から期待される成長ポテンシャルは非常に大きい。ブルームバーグが伝えたところでは、ウォールストリートの大物投資家らがこぞってNEOUに資金を投じている。6月初旬には、NEOUが新たなに500万ドル(約5億3,500万円)を調達したことが判明。2015年からの累計調達額は、3,000万ドル(約32億円)に達したという。さらなる拡大のため、機関投資家らとの交渉も開始。今年中に新たに2,500万〜5,000万ドルを調達することを計画している。

人気DJによるフィットネス動画が注目、NEOUの人気コンテンツ

テレビ、パソコン、スマートフォン、タブレットとあらゆる動画デバイスで、ストリーミング再生が可能なNEOUのコンテンツ。現時点で3,000以上のフィットネス動画を有しているという。これだけの動画があると、自然と人気動画も選りすぐられる。人気の動画の1つといわれているのが、人気DJスティーブ・アオキ氏の「Aoki Bootcamp」だ。

年間250回のライブをこなすスティーブ・アオキ氏。多忙な中でも、健康を維持するための運動方法を模索、たどり着いた手法を、フィットネストレーナーとともに配信している。配信が開始されたのは2019年3月頃。スティーブ・アオキ氏自身の知名度があることに加え、多忙な人向けにデザインされていること、ワークアウト音楽としてスティーブ・アオキ氏の楽曲が起用されていることなどが人気の理由と思われる。

英DJマガジンが毎年発表している世界のトップDJランキングで、2019年スティーブ・アオキ氏は10位にランクイン。2020年5月には、世界的人気オンラインゲームFortniteで行われたバーチャルライブに登場するなど、ゲームプレイヤー層にも広く認知されたDJだ。

Aoki BootcampとともにNEOUで人気となっているのが「The Program」。米ゲーム開発会社Take-Two InteractiveのCEOストラウス・ゼルニック氏(61歳)によるフィットネスコンテンツ。ゼルニック氏は、年齢による衰えを知らない経営者として、米ビジネス界隈で注目される人物。また、同氏が運営するTake-Two Interactiveは「NBA 2K」や「グランド・セフト・オート」などの人気ゲームで知られており、ゲームファンにも馴染みの人物になっているようだ。

「動画クリエイター視点」の重要性高まる今後のフィットネス市場

フィットネス界のネットフリックスを謳うNEOU。そのインタフェースはネットフリックスを彷彿とさせるものになっている。様々なフィットネス動画が、映画のように紹介されており、利用者は視聴したいジャンルや運動の長さの情報をもとに、コンテンツを選ぶことができる。

ネットフリックスを彷彿とさせるNEOUのインタフェース

常にフレッシュな気持ちで自宅エクササイズを行いたいと考える利用者にとっては、画期的なサービスといえるだろう。

一方で、NEOUのような動画ストリーミングプラットフォームは、ジム・フィットネスクラブやインストラクターらにとってもゲームチェンジャーになる可能性がある。

これまでのフィットネス市場においては、サービス提供側は物理的制限が非常に大きく、事業をスケールするには多額の資金を要し、大きなリスクを伴うものであった。

しかし、こうした動画配信プラットフォームを活用することで、低リスクで世界中にバーチャルサービスを展開することが可能となる。すでにYouTubeでも多くのフィットネスコンテンツが配信されているが、雑多なジャンルの中、真に求めるフィットネスコンテンツを探し出すのは至難。同じ動画ストリーミングでも、YouTube、ネットフリックス、そしてNEOUは目的ごとに棲み分けが進むことになるはずだ。

NEOUのネイサン・フォースターCEOは、ブルームバーグの取材で、NEOUは消費者にとってフィットネス界のネットフリックスだが、コンテンツクリエイターにとっては、アマゾンのようなマーケットプレイスだと指摘。ジム・フィットネスクラブやインストラクターは、市場が求めるコンテンツを制作し、NEOUで配信することで、ビジネスを拡大することが可能という。

音楽業界ではSpotifyによってデジタル化、プラットフォーム化が進み、映画の世界はネットフリックスがその動きを主導した。この流れが今フィットネス市場にも押し寄せているのではないだろか。この先、フィットネス産業のプレイヤーは「動画クリエイター視点」を持つこつが成功のカギとなるのかもしれない。

アフターコロナ、フィットネス市場の新成長分野は「eスポーツ」?ゲーム=不健康のイメージは時代遅れ

世界各地では、新型コロナ感染増のピークは過ぎ、ロックダウン解除・緩和の動きが加速している。それにともない経済活動も戻りつつあるが、外食や観光などではソーシャルディスタンス措置が導入され、コロナ前と様相は大きく異なっている。

フィットネス産業もコロナ前と比べ状況が大きく異なるセクターの1つだ。外出禁止・自粛が数カ月続いた中、多くの人々はフィットネスアプリや任天堂フィットなどを活用したホームフィットネスにシフト。この状況に慣れたため、コロナ収束後もジム・フィットネスクラブに戻らず、ホームフィットネスを続けようと考えている人が多いと推測されている。

米投資銀行Harrison Co. が4月に米国のフィットネスクラブ利用者1000人を対象に実施した調査では、コロナ収束後にフィットネスクラブの会員を停止しようと考えている人の割合が34%だった。同銀行は、この割合から全米で約2000万人分の会員がキャンセルされ、年間100億ドル(約1兆円)がフィットネス産業から流出する可能性があると推計している。

フィットネスメディアRunRepeat.comが世界各地のフィットネスクラブ利用者を対象に実施した調査でも同様の状況が浮き彫りになっている。4月24日〜5月1日、世界116カ国・1万人以上を対象に実施した同調査。それによると、コロナ収束後のフィットネスクラブの再開に際し、再開後すぐには戻らないとの回答割合が46%に上った。また36%がすでに会員を停止した/会員停止を検討していると回答している。

「フィットネスクラブ再開後すぐには戻らない」の割合を地域別で見ると、東南アジアが61%と世界平均を15ポイント上回る結果となった。

コロナ前、急速に拡大していた中国のフィットネス産業も苦境に立たされており、ビジネスモデルの変革が求められているところ。CNBCが伝えた中国調査会社Qichachaのデータによると、2020年第1四半期、北京だけですでに200社以上のフィットネス企業が閉鎖に追い込まれた。中国全土では7000社に上る。

コロナ収束後のフィットネス産業、求められる変革

甚大な損失を被っているフィットネス産業。その立て直しには、社会変化を考慮したこれまでにないアプローチが必要になるだろう。1つは、在宅勤務・リモートワークが常態化することを考慮したサービス提供。ロックダウン下、すでにZOOMなどビデオ会議システムを活用したオンラインフィットネスやヨガクラスなど、世界各地では様々な試みが実施されていた。コロナ収束後、永続的なサービスの1つとして確立しつつあるようだ。

新型コロナをきっかけとしたもう1つの大きな社会変化、それがゲーム利用の増加だ。ロックダウン下、ゲームのコンソール売り上げは通常時より大幅に増加。任天堂がリリースした「どうぶつの森」が歴代売り上げ記録を更新するなど、ソフトの需要も爆発的に伸びた。

不健康のイメージがつきまとうビデオゲーム(写真はイメージ)
Photo by Alexander Andrews on Unsplash

ビデオゲームというと「座りっぱなしで不健康になる」など、フィットネスとは対局にあるイメージだが、任天堂フィットなどのフィットネスゲームやeスポーツ認知の拡大によって、人々のゲームに対する印象は大きく変わりつつある。

この状況を考慮し、ゲームとフィットネスを関連付けるアプローチができれば、多くのゲームユーザーをフィットネス産業に取り込むことができるかもしれない。例えばゲーム/eスポーツ大国ともいえる中国で、そのようなアプローチが登場しても不思議ではない。特にeスポーツには今多額の投資資金が流れ込んでいる。それをフィットネス産業に還流させる手段を考えているプレイヤーは少なくないだろう。

ゲーム利用者6億人以上、eスポーツファン7500万人、中国のゲームを取り巻く動向

中国のゲーム/eスポーツ市場を俯瞰してみたい。中国メディアCGTNが伝えたiResearchのデータによると、スマホ・PC・コンソールを含めた国内のゲーム利用者数は6億人以上。2023年には8億7800万人へ拡大が予想され、これにともないeスポーツ市場も拡大する見込みだ。NewZooとPwCの推計によると、中国eスポーツ市場は年間20%以上で拡大しており、2023年には韓国を抜き世界2位に躍り出るという(世界最大のeスポーツ市場は米国)。

iResearchによる2019年の中国eスポーツ市場の収益推計額は1175億元(約1兆8000億円)。前年比で25%の増加となる。また2020年は約20%増の1405億元、2021年には1651億元に達すると予想している。iResearchはeスポーツ市場を、オンラインゲーム、モバイルゲーム、エコロジーの3つのサブカテゴリに分類。この先、モバイルとエコロジー分野が伸びてくる見込みだ。エコロジーとは、eスポーツイベントのチケット販売、関連商品の売り上げ、広告などを指す。

NewZooによると、世界中のeスポーツファン数は1億9800万人。国別で最大を占めるのは中国で、実に7500万人に上るという。

一方、eスポーツのプロプレイヤーは人材不足といわれており、中国では政府主導でカリキュラムや人材育成プログラムの作成が急ピッチで進められている。CGTNによると、中国人力資源社会保障部は、このまま行けば5年後には国内だけで約200万人の人材不足が起こるだろうと予想している。

eスポーツチームのトレーニングに組み込まれるフィットネスプログラム

オンラインゲームで対戦するeスポーツ。一見、フィットネスとは無縁のように思えるが、強烈なストレス下に置かれる選手たち、そしてマネジャーたちは、心身の健康がパフォーマンスに影響することに気付き、訓練メニューにフィットネスプログラムを取り入れ始めている。

アスリート並の身体負担がかかるeスポーツ
Photo by Florian Olivo on Unsplash

米国のeスポーツ組織FaZe Clanでは、フィットネス/栄養コーチとしてジャスパー・シェレンズ氏を起用。The Next Webによると、同氏のもと、FaZe Clanのeスポーツチームは、ボートこぎ運動、懸垂、腹筋など上半身を鍛える運動と有酸素運動を行っている。長時間座ることで起こる背中や首への負担をやわらげるとともに、疲労しにくい体づくりを目指しているとのこと。CNNによると、eスポーツのチャンピオンシップで優勝した中国のチームRNGも、トレーニングの一環で毎日に外に出てエクササイズを行っている。

ドイツ・ケルン大学のインゴ・フロベーゼ教授の研究によると、試合中eスポーツプレイヤーの体の中では、多量のコルチゾールが発生しており、その量はカーレース・ドライバーのコルチゾール量に匹敵するという。心拍数も160〜180回に達することもあり、マラソン選手に匹敵することもある。

フィジカルではなく、メンタルに焦点が当てられがちなeスポーツだが、フィジカルの不調がメンタルの不調につながると見る専門家もおり、eスポーツの世界ではフィットネスの重要性が認識されつつあるのだ。

中国だけでも7500万人のeスポーツファンがいる。プレイヤーとして活躍したいと考える人が多いことも想像に難くない。フィットネス産業が、eスポーツプレイヤーに特化したプログラムを開発し、その価値を伝えることができれば、これまでフィットネスとは無縁と思われてきた層を取り込むことができるのかもしれない。

ヨーロッパ フィットネス業界の市場規模と最新動向|Market Report 2020

日本のフィットネスクラブで海外展開を本格化させている会社はまだ少ない。日本市場が未だ成長を続け「発展途上」であり成長余地があると考えている経営者も多いし、それはこの数十年の市場動向のデータを見ても事実ではあるし同感だ。

しかし、日本は「高齢化社会」先進国でもある。世界を見ても、日本は先駆けて人口動態上の高齢化社会を先に迎える。介護業界ではこのトレンドを受けて「日本が高齢化社会で培ったノウハウをソフトとして海外輸出できるはずだ」というオピニオンがある。

最近のフィットネス業界では比較的年齢層の高い業態開発が進んでおり(カーブス、ルネサンスの元氣ジム等)このチャンスは相応にあると考えている。そうなると海外のフィットネス市場について今から目を向けていく必要がある。

本稿では、大手会計事務所のDeloitteが発表している「European Health & Fitness Market Report 2020」要約版の内容を紹介する。あまり目の向けられていないヨーロッパのフィットネス市場について理解を深める機会になれば幸いだ。なお、全文版に関してはオンラインから299ユーロで購入できる。

2020年版レポート(対象年度は2019年)のイントロとして昨今の新型コロナウイルスについてのコメントがある。ヨーロッパも日本と同様(それ以上)にロックダウンや自宅待機要請によってフィットネス産業が打撃を受けている。しかしポジティブな影響もあるとKarsten Hollasch、Herman Rutgersの両名は記している。

European Health & Fitness Market Report 2020

良いニュースは、私たちのセクターがデジタル時代に進化し、(フィットネス)クラブを超えて会員がいつでもどこでもアクティブに過ごすための様々な方法を開発してきたことです。

多くの事業者は、オンラインクラスを提供することで「デジタルフィットネス」を試していたり、多くのアプリやオンラインエクササイズビデオを活用して、自宅で運動できる可能性を会員に奨励しています。(翻訳:BtF編集部)

European Health & Fitness Market Report 2020

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2019年ヨーロッパのフィットネス市場サマリー|フィットネス参加率は8.1%

European Health & Fitness Market Report 2020
  • フィットネスクラブの会員数:6,480万人
  • 会員成長率(増加率):プラス3.8%
  • 上位30社のフィトネスクラブ会員数:1,720万人
  • 上位30社のフィトネスクラブ会員シェア:26.5%
  • フィットネスクラブ施設数:63,644施設
  • フィットネス参加率(対全人口):8.1%
  • フィットネス参加率(15歳以上):9.7%
  • M&A件数:17件
  • 全収益:282億ユーロ(約3.5兆円)
  • 平均月会費:38.4ユーロ(約4,760円)

比較の材料として日本のフィットネス市場データについて記載する。経済産業省「特定サービス産業動態統計調査※」によると、2019年度の日本のフィットネス市場売上高の合計は3,243億円、会員数321万人、指導員数(インストラクター・トレーナー等)3.7万人となっている(調査対象事業所数≒施設数:1,477)※「特定サービス産業動態統計調査」は他レポートと数値の乖離が大きく、実際の市場規模は公表数値の1.5倍〜3倍規模の可能性も有り。

  • 各数値の集計は欧州連合(EU)加盟28カ国に加え、ノルウェー、ロシア、スイス、トルコ、ウクライナも含まれる。
  • 収益面では、欧州のヘルス&フィットネス市場は2019年に3.0%増の282億ユーロ(約3.5兆円)となった。ただし、収益の伸びは為替レートの影響をわずかに受けており、為替変動の影響を除いた場合、前年同期比の伸び率は3.1%。
  • 市場規模は、各国のクラブ数が2.3%増加したことに加え、1施設あたりの平均会員数が1.5%増加したことにより3.8%増の6,480万人となり、市場は再成長した。一方で平均月会費収入は、低コスト事業者の拡大が続いていることなどから0.8%の減少となった。
  • 売上高の測定対象となったヨーロッパのフィットネス事業者トップ10は、2019年の総売上高36億ユーロ(約4,500億円)を達成した。これらの事業者の市場シェアは12.1%から12.9%に増加したが、それにもかかわらず、欧州のフィットネス市場は比較的細分化されたままである。
  • 会員数に関しては、2018年から2019年にかけて会員数が180万人(11.9%増)増加したことで1,720万人となり、大手30事業者の合計市場シェアは1.9ポイント増の26.5%となった。

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低コストジム業態がヨーロッパのフィットネス市場の成長を牽引、M&Aも活発

イギリス PureGym
https://www.puregym.com/about-us/
  • こうした市場成長は、蘭Basic-Fit(+38万人)、独cleverfit(+23万人)、独FitX(+133万人)、英PureGym(+123万人)、独EASYFITNESS(+11万人)、独RSG Group(+10万人)、西VivaGym Group(+8万人)、英The Gym Group(+7万人)などの低価格帯の事業者が中心となっており、これらの事業者は会員数の急成長を遂げている。
  • 会員数では蘭Basic-Fit(220万人)、独RSG Group(210万人)、英PureGym(110万人)はヨーロッパのトップ3に入り、独cleverfit(95万人)とノルウェーSATS Group(68.7万人)もが4位と7位に躍進した。
オランダBasic-Fit
https://allinstocks.com/basic-fit-vs-the-gym-group/
  • これらの数字は主にオーガニックな成長を表しているが、蘭Basic-Fit(蘭Fitlandを買収)、仏Fitness Park Group(仏Fitlaneを買収)、独LifeFit Group(独smile Xを買収)、西VivaGym Group(西Duet Fitを買収)のように、M&Aが成長に寄与した企業もある。
  • 全体的に見て、ヘルス&フィットネスクラブ運営会社は、業界内外の投資家にとって依然として非常に魅力的であり、2019年には17件の主要なM&Aが行われた(2020年初頭にはすでに2件のM&Aが行われている)
CompanyHQRevenue(€)収益(円)
David Lloyd Leisureイギリス5.87億€約730億円
Basic-Fitドイツ5.15億€約640億円
SATS Groupノルウェー4.05億€約500億円
Migros Groupスイス3.67億€約455億円
RSG Groupドイツ3.65億€約450億円
2019年ヨーロッパ市場の売上高順位(レポートを元に編集部作成)
  • 収益面では、イギリスのプレミアムオペレーターであるDavid Lloyd Leisure(DLL)が2019年の収益を5億8700万ユーロ(約730億円:2018年比7.7%増)とし、かなりの差をつけて1位をキープした。2位はBasic-Fit 5億1500万ユーロ(約640億円)で、2019年に155のクラブを追加したことが牽引している。ノルウェーを拠点とするSATS Group 4億500万ユーロ(約500億円)が3位にランクインし、スイスのMigros Group 3億6700万ユーロ(約455億円)、ドイツの市場リーダーRSG Group 3億6500万ユーロ(約450億円)が続いている。
  • 売上高別のトップ10には、蘭Basic-Fit、独clever fit、デンマークFitness World、英PureGym、独RSG Groupの5つの低コスト事業者が含まれている。

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ヨーロッパのフィットネス市場の成長はイギリスとドイツが規模・成長率ともに牽引

  • 本レポートでは、欧州最大のフィットネス市場(個別国)のプロファイルも掲載している。分析対象となった17カ国の会員数は5,580万人(欧州市場の86.2%)、売上高は248億ユーロ(88.3%)、クラブ数は51,511クラブ(80.9%)である。
  • 総市場規模は約282億ユーロで、ヨーロッパは世界第2位のフィットネス市場になっている。2019年のIHRSAグローバルレポートによると、2018年に286億ユーロ(323億米ドル)の収益を報告した米国市場がヨーロッパ市場をわずかに上回っている。
European Health & Fitness Market Report 2020
  • 図1に示すように、ドイツとイギリスは、それぞれ約55.1億ユーロの総収入で、ヨーロッパの2大国内フィットネス市場であり続けている。2019年のドイツ市場は3.4%増であったのに対し、イギリス市場は、恒常通貨ベースで4.1%増、ユーロベースで4.9%増となっている。フランス(26億ユーロ)、スペイン(24億ユーロ)、イタリア(23億ユーロ)を合わせると、主要5カ国で欧州のヘルス&フィットネス市場全体の65%を占めている。
  • 会員数では、ドイツが1,170万人(5.1%増)と依然として欧州最大の市場であり、次いでイギリス(1,040万人、4.9%増)、フランス(620万人、3.9%増)、イタリア(550万人、0.9%増)、スペイン(550万人、3.3%増)となっている。
European Health & Fitness Market Report 2020
  • 図2に示すように、ドイツと英国も2019年に平均を上回る会員数の伸び率を示しており、これは主に両国の低コスト事業者の継続的な拡大に牽引されている。
  • 個々の市場間にはかなりの差が残っている。スウェーデン(普及率22.0%)、ノルウェー(22.0%)、オランダ(17.4%)などの市場は、身体活動家の割合が高いこと、都市化率が比較的高いこと、平均所得が比較的高いこと、大手フィットネス事業者がこれらの国に存在することなどが主な要因で、人口に対して会員数が高い中規模の国を代表している。一方で、ポーランドのような専門市場では普及率が8.0%と、依然としてかなりの潜在的な市場の可能性を示している。

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ドイツのフィットネス市場インサイト

European Health & Fitness Market Report 2020
  • ドイツのフィットネス市場は2019年も成長を続け、会員数は1,166万人、総収入は55億1,000万ユーロに増加した。総人口の14.0%が9,669の民間フィットネスクラブのいずれかの会員となっていることになる。
  • クラブ数の増加(3.5%増)と会員数の増加(5.1%増)は、主に低価格帯のセグメントを中心としたチェーン経営者によるものでした。そのため、RSGグループ(135万人)、クレバーフィット(85.4万人)、FitX(78.3万人)、EASYFITNESS(37万人)が最も会員数が多く、2019年には約50.6万人の会員が追加され、絶対的にも最も急成長している事業者となった。
  • 大手事業者を合わせると、総会員数の38%を占めている。このリストには、フランチャイズ事業者のINJOY(スイスに本拠地を置くMigrosが所有)、Kieser Training、LifeFit Groupなどのプレミアム事業者やアッパーミッドマーケット事業者も含まれている。標準VAT率は19%で、フィットネスサービスの割引は無い。
European Health & Fitness Market Report 2020

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参考:スペインのフィットネス市場インサイト(2019年版レポート、対象2018年)

European Health & Fitness Market Report 2019
  • スペインでは、4,650のフィットネスクラブのいずれかで運動する会員数は533万人と推定されており、これは総人口の11.4%の普及率に相当する。
  • スペイン市場をリードする商業フィットネスクラブ事業者には、2018年も拡大を続けたスペインの低価格チェーン「Altafit」と「VivaGym」のほか「Anytime Fitness」「McFIT GLOBAL GROUP」「Basic-Fit」などの国際的な大手事業者が含まれている。
  • スペイン市場の特徴は、公共機関と協力して大型スポーツ施設を運営する、いわゆるコンセッション事業者(コンセッション方式とは施設等の所有権は公的機関や自治体で、運営権を民間事業者に売却するスキーム)である。
  • CMD Sportによると、4大コンセッションオペレーターであるServiocio/BeOne、Supera、Forus、GO fitの4社は約68万人の会員を抱えている。GO fitは、2018年末時点でスペインの17施設にまたがる20万5000人の会員を抱え、最高位にランクインしていると報じられている。スペインの標準VAT率は21%で、これはフィットネスにも適用される。
European Health & Fitness Market Report 2019

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