レアル・マドリードも注目、アマゾン傘下の動画配信プラットフォーム「Twitch」コンテンツ多角化でスポーツ配信強化

ゲーム以外のジャンル強化に乗り出したアマゾン傘下ソーシャル「Twitch」

ソーシャルメディアが一般化した今、コンシュマービジネスは様々なプラットフォームを活用し、ファンのエンゲージメントを高める施策が求められる。

スポーツの世界も例外ではない。ここ最近米国のスポーツエンタメ業界では、ソーシャルメディアを活用した施策の導入が顕著になっている。以前お伝えした米プロバスケットボールNBAのインスタ活用やその動画シェア新機能「Reels」を使った施策が好例といえる。

ソーシャルメディアといえば、日本ではツイッター、フェイスブック、インスタ、YouTubeなどが有名だろう。日本のスポーツ業界でも、これらのプラットフォームは活発に利用されている印象だ。

一方、海外では日本で馴染みのないソーシャルメディアがスポーツビジネス界隈で注目され始めており、今後日本でも話題になる可能性が高まっている。

それがアマゾン傘下の動画ライブ配信プラットフォーム「Twitch(ツイッチ)」だ。

Twitchウェブサイト
https://www.twitch.tv/directory/esports

もともと、主にゲーム/eスポーツの実況ライブ配信のプラットフォームとして発展してきたが、現在さらなるユーザー獲得に向けゲーム以外のジャンル強化が進められている。その一環でスポーツ分野が強化されており、2020年6月には英プロサッカーリーグ「プレミアリーグ」の配信計画が発表されたばかりだ。

また7月には、スペイン・サッカーチーム「レアル・マドリード」、イタリアの「ユベントス」、フランスの「パリ・サンジェルマン」、英国の「アーセナル」の4チームが独自コンテンツ配信で、Twitchと戦略的パートナーシップを提携したことが報じられた。各チームは、普段放映されないようなビハインドシーン映像を公開し、ファンのエンゲージメントを高めることを目指す。

レアル・マドリードTwitch公式チャンネル
https://www.twitch.tv/realmadrid/about

アマゾンはこの数年、同社の動画配信サービスAmazon Prime Videoのユーザー獲得施策の1つとして、スポーツコンテンツの拡充に注力してきたが、Twitchにおけるスポーツ分野の強化は、この動きと軌を一にするもの。

Amazon Prime Videoは、電子書籍や家電デリバリーなどアマゾン本来のサービスに付随するものであり、ユーザーの年齢層はかなり広いものと想定される。一方、Twitchはユーザーの大半が若年層であり、ユーザーのオーバーラップは少ないと考えれる。Twitchウェブサイトによると、ユーザーの50%以上が18〜34歳、14%が13〜17歳とのこと。Z世代とミレニアル世代が7割近くを占める構図となっている。

スポーツ・エンタメビジネスが無視できないTwitchのユーザーベース

スポーツビジネス界隈で、Twitchの動きが注目されるのは、Twitchが世界的なソーシャルメディアであること、また若いユーザーを抱えており、この先さらに拡大することが見込まれているため。パンデミックによる影響で、チケット収入が大幅に減少し苦しい状況にあるスポーツプロリーグやクラブチームがファンとのつながりを生み出し、事業を継続させる上で、非常に重要な存在になっているのだ。

Twitchウェブサイトによると、世界230カ国以上からユーザーが同プラットフォームにアクセスしているという。

月間アクティブユーザー数に関する明確な数字は公表されていないが、eMarketerの推計によると、Twitchの世界最大市場である米国の月間ユーザー数は、2019年に3290万人だった。この数は、2020年に3750万人、2021年に4120万人、2022年に4420万人、2023年に4700万人に増加する見込みという。

StatistaがまとめたTwitchの2020年7月の世界視聴者シェアは、米国が22.53%で最大。これにドイツが6.85%、ロシアが5.85%、韓国が4.99%、フランスが4.13%で続く。eMarketerの推計値とStatistaのデータを合わせると、世界全体の月間ユーザー数は、およそ1億4500万人と計算できる。これに年齢層別の利用者割合を当てはめると、世界1億人以上のZ世代とミレニアル世代にリーチできることになる。

Twitch配信で視聴者獲得に成功した米女子プロサッカーリーグ

プレミアリーグ試合配信やレアル・マドリードなどの有名クラブとの提携が報じられる数カ月前には、Twitchは米女子プロサッカーの「ナショナル・ウーマンズ・サッカーリーグ(NWSL)」の放映権を獲得。これについても海外のスポーツメディアは大々的に報じている。

「ナショナル・ウーマンズ・サッカーリーグ(NWSL)」のTwitchチャンネル
https://www.twitch.tv/nwslofficial/videos?filter=archives&sort=time

NWSLは2020年3月に、米スポーツチャンネルCBS SportsとTwitchの2社と3年間の放映契約を締結したことを明らかにした。

当時Twitchとの提携について疑問を持つ関係者は少なくなかったようだが、蓋を開けてみるとNWSLはTwitchで多くの視聴者を獲得することに成功しており、他のスポーツリーグやチームの関心ごとになっている。

英語スポーツメディアSpoticoが7月17日に伝えたTwitchTrackerの分析データによると、6月27日に開催された「Challenge Cup」以来、NWSLの海外向けTwitchチャンネルでは、各試合平均21万7000回の視聴数を獲得。3週間の累計視聴回数は350万回を超えたという。Spoticoの同記事は、スポーツチャンネルとしては大きな成功であると評価している。

Twitchはもともとゲーム/eスポーツのプラットフォームとして発展したきた経緯がある。何かを競う「ゲーム要素」を含むコンテンツは、既存ユーザーの関心事と親和性が高く、スポーツの試合はスムーズに受けいられる傾向が強いようだ。また、ライブ配信プラットフォームでもあるTwitchは、リアルタイムのチャット機能が充実しており、チャンネルと視聴者、また視聴者どうしのコミュニケーションが活性化しやすい空間となっている。

試合観戦でのリアルタイムの応援を他の視聴者とシェアできるという点も魅力の1つになっていると考えられる。この先「スポーツ観戦といえばTwitch」といわれる時代がやって来るのかもしれない。

「スポーツポッドキャスト」が活況、人気番組買収でスポティファイも本格参入

2020年もポッドキャスト市場の成長が止まらない。新型コロナウイルスの影響で、上半期のポッドキャスト広告はキャンペーン中止などのダメージを受けたものの、年間の広告収入は前年比で約15%拡大する見通しで、向こう2年間には10憶ドル(1060億円)に達するとみられている。

なかでも注目されるのがスポーツジャンル。ある調査ではポッドキャストの広告市場でトップシェアを誇っており、すでに音楽・ポッドキャスト配信アプリの「Spotify」が本格参入し始めた。

ポッドキャストのスポーツ番組はドル箱

 広告代理店Interactive Advertising Bureau(IAB)と、大手コンサルティング会社のPrice Waterhouse Coopers(PwC)が2020年7月に発表した調査結果によると、アメリカにおけるポッドキャストの推定広告収入は2019年に7億810万ドル(約750億円)に達し、前年比では48%の伸びを示した。

「Voxnest」によるポッドキャストの広告収入のジャンル別内訳
「Voxnest」によるポッドキャストの広告収入のジャンル別内訳
https://www.iab.com/wp-content/uploads/2020/07/Full-Year-2019-IAB-Podcast-Ad-Rev-Study_v20200710-FINAL-IAB_v2.pdf

 一方、ポッドキャスト向けにマーケティング関連の技術ソリューションを提供する「Voxnest」によると、2019年のアメリカのポッドキャスト広告収入の内訳は、「スポーツ」が首位で28.8%、続いて「カルチャー」が17.1%、「歴史」が8.8%、「政治」が7.5%、「コメディ」が4.3%を占めた。同調査は、Voxnestの独自システム「Vox Audience Network(VAN)」のカテゴリー分別に基づいている。

「Voxnest」によるポッドキャストの広告収入のジャンル別内訳
「Voxnest」によるポッドキャストの広告収入のジャンル別内訳
https://blog.voxnest.com/report-top-podcast-revenue-categories-advertisers/

 Voxnestによれば、スポーツジャンルの広告収入が多いことは、驚くべきことではない。「スポーツにこだわる私たちのカルチャーを見れば、それは当たり前」との見方を示している。マーケッターが狙っているのは、前夜の試合についてキャッチアップしたいスポーツファンたち。このため、アメリカ市場ではスポーツ番組の広告ピークの時間帯は朝7時なのだという。

 スポーツジャンルの人気は個別企業のデータにも表れており、ディズニー傘下のスポーツ専門メディア「ESPN」のポッドキャストもこのところダウンロード数が大幅に伸びている。同社はテレビ・ラジオでスポーツ番組を展開してきたが、2005年からはポッドキャストにも参入。同社提供のポッドキャスト番組のダウンロード数は、2019年に月平均で600万回だったが、2020年5月には1カ月で4420万回となり、前年同月を32%上回っている。

Spotifyもスポーツコンテンツをてこ入れ

 スポーツ番組の人気は、Spotifyの注目するところにもなった。同社は今年に入って、スポーツやカルチャー関連のポッドキャスト番組を制作する「The Ringer」を買収。スポーツ分野のコンテンツを本格的にてこ入れする姿勢を示した。

 The Ringerはスポーツジャーナリストのビル・シモンズ氏が2016年に立ち上げたポッドキャスト制作会社で、番組数は30、総ダウンロード数は1カ月で1億回に上るという。なかでもシモンズ氏が自ら手掛けるスポーツトーク番組『The Bill Simmons Podcast』は2019年、『フォーブス』の番組別広告収入ランキングで5位にランクインした人気番組で、2019年は700万ドル(7億4300万円)を稼ぎ出した。

 ちなみに番組別広告収入ランキングで首位となったのは、コメディアン/格闘技コメンテーターのジョー・ローガン氏による『The Joe Rogan Experience』。政治家やコメディアン、MMA(総合格闘技)ファイターなどをローガン氏がインタビューする番組で、2019年の広告収入は3000万ドル(約32億円)。

 2位は2人の女性ホストが実際にあった殺人事件について話す『My Favorite Murder』、3位はファイナンス講座の『The Dave Ramsey Show』、4位は俳優のダックス・シェパード氏による有名人インタビュー番組『Armchair Expart』となっており、ジャンルは「コメディ」「ファイナンス」「犯罪ドキュメンタリー」と多岐に分かれている。

 The Ringerはポップカルチャー分野にも強みを発揮しているが、Spotifyの最高コンテンツ責任者、ドーン・オストロフ氏は、The Ringerを得たことで「グローバルスポーツ戦略を推進する」ことに意欲を表明。一方のThe Ringerのシモンズ氏もSpotifyの傘下に入ることで、「世界の基幹的スポーツ・オーディオ・ネットワーク」にスケールアップすることに期待感を示している。

メインテーマは「パッション」と「ストーリー」

「The Bill Simmons Podcast」はホストのビル・シモンズ氏がスポーツ選手やセレブなどとスポーツにまつわるあれこれを話し合うトーク番組

 シモンズ氏のポッドキャスト『The Bill Simmons Podcast』は、スポーツ選手やセレブ、メディア関係者などをゲストに呼んで、スポーツにまつわる話題を話し合うトーク番組で、毎週3つのエピソードがアップロードされている。同番組が惹きつけているのは、ツイッターのフォロワー数580万人を誇るシモンズ氏にほかならず、スポーツトーク番組ではホストの魅力が人気を左右する大事な要素となっていることが分かる。

 このほかの人気スポーツ番組にはどのようなものがあるのだろうか?以下にアメリカで人気のスポーツポッドキャストを紹介しよう。

ESPN Daily

スポーツ界のビッグニュースを綿密に伝える平日朝のポッドキャスト。同社の持つレポーターやアナリストの膨大なネットワークを生かし、興味深いスポーツニュースの内側を伝えている。

The Herd with Colin Cowherd

スポーツ専門のメディアパーソナリティ、コリン・カウハード氏によるスポーツトーク番組。毎日更新されており、「今日のトップスポーツストーリー」をゲストとともに語り合うというもの。

Men in Blazers

2人のブレザーを着たイギリス人のホスト、マイケル・デイビス氏とロジャー・ベネット氏が過去1週間の試合を熱く語り合うというもの。彼らは「サッカーは将来のアメリカのスポーツ」と見込んで、アメリカでサッカーを盛り上げることを目指している。試合レビューのほかには、スポーツ選手のインタビューなどもある。

30 for 30

スポーツドキュメンタリー番組。「ニューヨーク・ヤンキースとボストン・レッドソックスのライバル関係」、「オール女性隊員による初の北極遠征」「器械体操メダル獲得の裏にある過酷な状況」など、スポーツ界の歴史や裏話などに迫る興味深いストーリーテリングがリスナーを惹きつけている。

Gradiator: Aaron Hernandez and Football Inc.

アメリカンフットボールのスター、アーロン・ヘルナンデス選手の殺人と死に迫るドキュメンタリー番組。彼は2013年に殺人事件で逮捕され、2015年に有罪判決を受け、2017年に獄中で自殺した。ヘルナンデス氏やその周辺人物の過去のインタビューなどを通じて、企業の「マシン」と化したヘルナンデス氏の没落と、スター選手が栄光の陰で負う物理的なリスクが明らかにされる。

Skip and Shannon:Undisputed

スキップ・ベイレス、シャノン・シャープ、ジェニー・タフトによるトーク番組。野球、バスケットボール、アメリカンフットボールなど、アメリカ人に人気のスポーツを中心に試合分析や予想などを語り合う。

「30 for 30」はスポーツ界の歴史や裏話に迫るドキュメンタリー番組。
「30 for 30」はスポーツ界の歴史や裏話に迫るドキュメンタリー番組。

 これらのコンテンツは大きく分けて「ストーリー」系と「パッション」系に分けられる。上記では『30 for 30』や『Gradiator: Aaron Hernandez and Football Inc.』がストーリー系で残りはパッション系となる。

 リスナーは数年前まで、スポーツコンテンツを聴取しようと思えば、1~2種類しかない地元のスポーツラジオ番組を聞くしか選択肢がなかった。しかし、ポッドキャストの浸透で、どんなにニッチなスポーツのファンも、その情熱を共有できる番組を楽しめるようになった。出版・セミナー事業を手掛ける「オライリー・メディア」はこの現象を「解放の感覚」と表現している。

 オライリー・メディアによれば、スポーツポッドキャスト番組の成功のカギは、「誠実さと情熱」。これはほかのジャンルにも当てはまりそうだが、熱いファンの多いスポーツには一段と求められる資質なのかもしれない。

企画・編集:岡徳之(Livit)

アップルの「スポーツビジネス戦略」 重要人物引き抜きやスタートアップ買収など大きな関心

8月20日、民間企業として初めて時価総額2兆ドル(約212兆円)を超えたとして注目を集めたアップル。iPhone、Mac、iPadなどのハードウェアを主力とするテック企業であり、スポーツビジネスとの強いつながりがある印象はない。

しかし、最近海外メディアでは、アップルがスポーツ分野に注力するのではないかという憶測が飛び交い始めている。時価総額世界最大の民間企業が動くとき、そのインパクトはかなり大きなものになることが想定され、スポーツ関連各メディアはその動向を注視している。

アップルはスポーツ分野で何を狙っているのか。その動向を追ってみたい。

Apple TV +、アップルの新たな成長事業

Photo by Jens Kreuter on Unsplash

アップルのスポーツ市場への関わり、それは同社が昨年ローンチしたストリーミングサービス「Apple TV +」を通じて深まるのではないかいう憶測が広がっている。

2019年11月に登場したApple TV +、アップル公式サイトまたはアップルTVアプリを介してドラマや映画などが視聴できる月額4.99ドルのサブスクリプションサービスだ。

Apple TV +は同社事業のさらなる成長には欠かせない要素。米CNBCが伝えたモルガン・スタンレーのアナリスト、カティー・ヒューバティー氏の予想では、2020年Apple TV +事業は20%成長する可能性があるという。またヒューバティー氏は、2025年にはアップルユーザーの10人に1人がApple TV +に登録し、Apple TV +ユーザーは1億3600万人となり、売り上げは90億ドル(約9500億円)に達するだろうと見込んでいる。

動画ストリーミングサービスのユーザーを拡大させるには、コンテンツを拡充することが必須となる。この市場は、Netflix、Amazon Prime、Hulu、Disney +など様々プレーヤーがしのぎを削っており、独自のコンテンツを配信し独自性を打ち出すほか、マスマーケットのニーズに迅速に対応することが求められる。

マスマーケットへの対応として挙げられるのが「スポーツコンテンツ」の拡充だ。

ストリーミング市場でアップルの競合となるアマゾンは、Amazon Primeにおけるスポーツ分野の拡充に力を入れている。これまでに、英国プレミアリーグやテニス全米オープン、NFLの放映権を獲得し、スポーツファンの取り込みを図ってきた。

また最新情報によると、アマゾンはクリスマス前シーズンを見越し、11月に開催予定のラグビー大会「エイトネーションズ」の放映権の獲得に向け交渉を開始したとの報道がなされている。

一連のスポーツコンテンツ拡充の取り組みにより、Amazon Primeはスポーツ分野のストリーミングにおいてキープレーヤーになったといわれている。実際、米老舗テックメディア「PCマガジン」が7月3日に公開した「ベスト・スポーツ・ストリーミングサービス2020」という記事において、Amazon Primeは、1位Hulu、2位YouTubeに次ぐ3位にランクイン。スポーツ系大手メディアCBS(5位)やESPN(7位)を上回る評価を得ている。

Amazon Primeのスポーツコンテンツ拡充立役者、アップルが引き抜き

Photo by Medhat Dawoud on Unsplash

アップルは、Apple TV +におけるスポーツコンテンツの拡充において、アマゾンを追随する公算が大きい。2020年6月Recode Mediaが報じたところによると、アップルはAmazon Primeのスポーツ放送事業部門の責任者ジェームズ・デロレンツォ氏を引き抜いたというのだ。

2016年4月にアマゾンに参画したデロレンツォ氏。デューク大学とニューヨーク大学で法律を学び、卒業後に法律事務所に入り、音楽プラットフォームNapsterなどを担当したメディア分野の法律専門家だ。

CBSやOctagonなどいくつかの大手スポーツメディアを渡り歩いた後アマゾンに参画し、Amazon Primeの大型スポーツ放映契約をいくつも成功させた重要人物。この引き抜きが、アップルのスポーツ分野拡充の憶測を呼ぶ理由の1つになっている。

スポーツイベントVR配信スタートアップも買収

デロレンツォ氏の引き抜きとともに、注目されているのが、アップルによるVRスタートアップ「NextVR」の買収だ。

2020年5月、米CNBCの報道によると、アップルはカリフォルニア拠点のスタートアップNextVRを買収。CNBCは、アップルがVR・ARを新たなプロダクトカテゴリに加える計画を練っていると指摘、その上でNextVRの買収はこの計画の現実味を高めるものだと報じている。一方、アップルの広報はCNBCの取材に対し、買収の目的や計画についてはコメントしないと述べている。

このNextVRのこれまでの取り組みを見てみると、NextVRの技術や経験がアップルのスポーツコンテンツの拡充に活用される見込みは十分にあると判断できる。

もともとスポーツイベントやコンサートのVR配信を行っていたNextVR。2019年5月には、同年のNBAファイナルのハイライトシーンVR配信で、NBAと提携したことがNBA側から発表された。

CNBCが伝えたPitchBookのデータによると、NextVRは2019年時点で1億1600万ドルを調達し、95人の社員を抱えていた。投資家にはエンタメ産業の人物が多く、NBAゴールデンステイト・ウォリアーズの共同オーナーのピーター・グーバー氏などが名を連ねていたという。 こうした動きはここ数カ月の間に起こったもの。その影響や結果が目に見える形であらわれてくるのはこれから。今後の動きから目が離せない。

NBAとVRのオキュラスが複数年契約、進むVR導入の最前線

まだまだ先だと思われていたバーチャルリアリティ(VR)によるスポーツ観戦が今後数年で一気に広がる可能性が見えてきた。米プロバスケットボールリーグNBAやメジャーリーグなどでVRを活用した視聴サービスを拡充する動きが加速しているためだ。

スポーツ観戦においてもソーシャルディスタンスが求められる中、家でもスタジアムの臨場感を味わいたいという声が高まっている。需要が高まり、供給側の体制が整いつつある状況、市場拡大は間近だと考えることができる。

米国スポーツ界で起こるVR導入の動き、その最前線をお伝えしたい。

NBAとVRのオキュラスが複数年契約、VR配信を強化

米国で2020年8月中旬、NBAがフェイスブック傘下のVRプラットフォーム「オキュラス」と複数年契約を締結したとの報道が関心を集めた。これまでNBAはオキュラスとコンテンツベースの契約を結んでいたが、これを複数年とし、既存の提携関係を強化する形となったためだ。

オキュラスにとってはスポーツ団体との初の複数年契約となり、NBAにとっては初の公式VRパートナーの獲得になると報じられている。この契約は、NBAだけでなく、女性リーグ「WNBA」やNBA選手育成を目的にした「NBA Gリーグ」にも適用される。

このNBAとオキュラスの提携、VRを活用した試合観戦体験の向上を主な目的としている。NBAではこれまで、試合を間近で体験できる「NBA Rail Cam Replay」という放送を行ってきた。これは、コート横に設置されたレールカメラが試合状況に応じて移動し、選手の動きや試合運びを間近に観戦できるようにする仕組み。今回の提携強化により「Oculus Front Row View」という名称に変更されるとのこと。レールカメラに設置された360度カメラが捉える映像を、オキュラスVRヘッドセットで観戦できるようになるようだ。

NBAの試合の様子
NBAの試合の様子
Photo by NeONBRAND on Unsplash

いくつかあるプロスポーツリーグの中で、VR活用に関してNBAは特に活発な動きを見せている。

上記オキュラスとの複数年契約発表の1カ月前には、VRコンテンツ配信の拡大などを目的に、米通信大手ベライゾンと複数年契約を締結。この提携により、ベライゾン傘下のVRコンテンツ制作企業RyotがNBAのVRコンテンツ制作における公式パートナーになったと報じられている。このほど再開されたNBAリーグのVRコンテンツ制作を手掛けていくという。

現在、NBAはサブスクリプション制の放送サービス「リーグパス」の会員向けにVR放送を行っている。オキュラスのソーシャルアプリ「Venue」とオキュラスVRヘッドセット「Quest」または「Go」を使ってVR観戦できるようになっている。

NBA選手、VRトレーニングでフリースロー成功率が大幅に向上

NBAのVR活用は観戦向けだけではない。選手育成にも活用されている事例もある。

2020年2月、クリーブランド・キャバリアーズに移籍したアンドレ・ドラモンド選手。古巣のデロイト・ピストンズではフリースローが苦手なことで知られていた。

NBA全体でフリースロー成功率は約75%ほどといわれているが、2016/17年シーズンにおけるドラモンド選手のフリースロー成功率は38.6%にとどまるものだった。

同シーズン後にフリースロー改善を決意したドラモンド選手、VRによるトレーニングを導入。仮想空間でフリースローの成功イメージを強く持つ訓練などを実施した。2017/18年シーズンでは、同選手のフリースロー成功率は60%に上昇。このことはESPNなど様々なスポーツメディアが報じ、当時話題となったようだ。

メジャーリーグもVR観戦の取り組み強化

NBAとともに野球メジャーリーグでもVR観戦の取り組みが加速中だ。

メジャーリーグは2020年7月末、オキュラスVRヘッドセット「Quest」向けのVR観戦コンテンツの配信を開始。360度カメラが捉えるVR映像に、選手ごとの統計や3次元ストライクゾーンを表示できる仕組みになっているとのこと。

この数年、メジャーリーグではインテルのVRシステム「True View」を使ったVR配信を週1回行ってきた。この取り組み、メジャーリーグとインテルが2017年に締結した3年間の提携契約の一環で行われきたもの。オキュラスでのVRコンテンツ配信の頻度は、これより高くなるという。

ソニーとオキュラスが競うVRヘッドセット市場

オキュラスのVRヘッドセットは現在「Rift S」「Quest」「Go」の3種類ある。Rift Sはパソコンへの接続が必須。一方、QuestとGoはパソコン接続を必要としないスタンドアロン型。「Quest」が上位モデル、「Go」が下位モデルとなる。

オキュラス販売中の製品一覧
オキュラスウェブサイトより
https://www.oculus.com/compare/

ブルームバーグが2020年5月に伝えたところでは、フェイスブックは現在Questの新モデルを開発中という。当初は、2020年9月の恒例イベント「オキュラス・コネクト」で発表される予定だったが、パンデミックの影響で、2021年に延期される可能性が高いといわれている。

Statistaのまとめによると、2019年VRヘッドセットの出荷量でトップだったのはソニー。市場シェアは36.7%だった。これにオキュラスが28.7%で追いかける形となっている。 米スポーツ界におけるVRの取り組みは世界のスポーツ市場にどのような影響を与えるのか、今後の展開が気になるところだ。

インスタ新機能「Reels」利用がNBAで活発化、スポーツビジネスでインスタを無視できない理由

スポーツビジネスで必須のソーシャルメディア

スポーツビジネスにおいても必須となったソーシャルメディア。フェイスブックを通じたコミュニティ形成、ツイッターによるリアルタイムの情報発信などすでに多くのプレイヤーが行っている施策だ。

日本では、上記に挙げたフェイスブックとツイッターの利用が圧倒的に多い印象だが、海外のスポーツビジネス界隈では、ここ最近フェイスブック傘下のインスタグラムの利用が増え、ファンのエンゲージメントを高めている。

インスタグラムといえば、利用者のほとんどが若い女性で、ファッション系のコンテンツが多い印象がある。実際そうではあるが、インスタの新機能Reelsの登場によって、スポーツコンテンツとの相性が高まり、NBAなどでの活用が進んでいるのだ。

インスタの全体像を俯瞰しつつ、Reelsとはどのような機能なのか、そしてどう活用されているのか、その最前線を追ってみたい。

世界10億人のユーザーを抱えるインスタ

日本で2600万人の月間アクティブユーザーを抱えるインスタ。世界全体のユーザー数は10億人。ユーザー数1位のフェイスブック(27億人)、2位Youtube(20億人)、Whatsapp(20億人)、3位フェイスブック・メッセンジャー(13億人)、4位WeChat(12億人)に次ぐ5番目の規模を誇っている。

国別で見ると、インスタユーザー数が最も多いのが米国。Hootsuiteのまとめによると、約1億1000万人のユーザーがいるという。次いで、ブラジル(7000万人)、インド(6900万人)、インドネシア(5900万人)、ロシア(4000万人)が続く。

利用者の増加率が顕著なのはカナダ。eMerketerによると、同国における利用者増加率は、2018年に20%、2019年に7.3%を記録。2020年中には6.1%増となり、1260万人に達する見込みだ。

国別の普及率で見ると最大はブルネイ。実に全人口の60%がインスタユーザーであるという。このほか、アイスランド(57%)、トルコ(56%)、スウェーデン(55%)、クウェート(55%)などでの普及率が高い。

このインスタ、最近の中国アプリTikTok利用禁止騒動で、一層注目を浴びる存在になっている。動画シェアアプリとして若年層に人気があるといわれるTikTokだが、安全保障上の懸念があるとして、インドではすでに利用禁止され、米国でも禁止措置が取られる公算が高まっている。

インドではTikTokが禁止されたタイミングで、インスタが動画シェア新機能「Reels」をローンチ。短期間で多くのユーザーを集めたといわれている。

NBAやサッカーリヴァプールによる「Reels」活用、通常よりエンゲージメント高め

インスタReelsとは、音楽に合わせて自分がダンスしている姿やクリエイティブな映像を撮影し、インスタ上でシェアできる機能。

2019年11月、ブラジルで「Cenas」という名称で試験的運用が開始され、2020年6月には「Reels」としてフランスとドイツで、7月12日にインドでそれぞれローンチされた。また8月5日には、米国、英国、日本、オーストラリア、スペイン、メキシコ、アルゼンチンなど世界50カ国でサービスが開始された。

8月5日に公開されたインスタグラムReelsの紹介ページ
8月5日に公開されたインスタReelsの紹介ページ
https://about.instagram.com/blog/announcements/introducing-instagram-reels-announcement

インドメディアTimes Of Indiaが伝えたApptopiaのデータによると、Reelsローンチ1カ月前、インスタのダウンロード数は月間700万回だったが、Reelsローンチ後の1カ月は780万回に増加した。

米国では、早速NBAのチームがReelsによるファンエンゲージメント施策を開始。すでにその効果が出始めている。

データアナリティクス企業Convivaの調査によると、NBAチームのReelsコンテンツは、通常のインスタコンテンツに比べ、ファンのエンゲージメント率が平均で22%上昇したことが判明。

現時点で最も高いReels効果を得ているのは、ロサンゼルス・レイカーズで、エンゲージメントは38万5000回、Reels動画の1つが拡散され400万回再生されたという。レイカーズに次いでReels効果が高いのはヒューストン・ロケッツ。3つの動画で再生回数は計630万回を超えたとのこと。

このほかNBAチームのReelエンゲージメントトップ5には、ボストン・セルティックス、シカゴ・ブルズ、マイアミ・ヒートが続く。NBAチームの多くは、Reelsで試合のハイライトシーンをシェアしている模様。

リバプールがReelsで公開した「Nike」の発音に関する動画
リヴァプールが公開した「Nike」の発音に関する動画
https://www.instagram.com/reel/CDg7oM2Fw9i/?utm_source=ig_embed

NBAのほか、イングランドサッカーのリヴァプールもReelsを積極的に活用している。英国でReelsが解禁された翌日8月6日に「Nike」の発音に関する動画を公開。9月1日時点で53万いいね、4000件近いコメントを得ている。

ニューヨーク拠点の調査企業Jeffreiesがこのほど公開した調査によると、Reelsの動画は、IGTVなどインスタの他の動画コンテンツに比べ、5〜10倍視聴される傾向があることが判明。一部ではすでに視聴回数6000万回を超えたReels動画もあるという。

2020年2月、ブルームバーグはフェイスブック社がインスタグラム事業の2019年の広告収入が200億ドルに上ったと報道。Jeffreiesのアナリストらは、2022年にはReelsだけで、25億ドルの広告収入を生み出すだろうと予想している。

このところTikTok米事業責任者が辞任、またTikTokインフルエンサーが他のプラットフォームに流出する事態が続いている。安定しているインスタグラムReelsへの関心が高まっていくことは想像に難くない。Reelsの動向から目が離せない。

Facebookも参入、スポーツビジネスの主役となったOTTの現在

デジタルデバイスが日常ツールとなった今、若年層を中心にテレビ離れが進んでいる。OTT(over the top:通信業者以外のネットサービス企業)によるスポーツコンテンツの配信も急増し、テレビ以外のデバイスを介した視聴は世界中でスタンダードになりつつある。このOTTによってスポーツ観戦スタイルも急速に変化している。

デジタル環境の進化による、視聴ツールの多様化

これまでテレビ一強であったスポーツ中継。無料の地上波放送または有料チャンネルなど「視聴料の有無」の差こそあれ、「スポーツはテレビで見る」という行為は不動のものであった。

しかしここ10年ほどで、デジタル技術の飛躍的な進化とネット通信の高速大容量化により、PC、スマートフォン、タブレットといったデジタルデバイスが個人レベルにまで普及。誰もがいつでもどこでも快適に、動画配信サービスにアクセスできるようになった。

それに伴い、デジタルデバイスを利用したスポーツ観戦も急増している。アメリカの調査会社eMarketerによると、同国でスポーツをデジタルデバイス経由で視聴するユーザーは、2020年には3650万人に増加すると予測している。この数字は、2018年の約2倍に当たる。

ドル箱のスポーツ中継

スポーツ人気は世界の場所を問わず突出しており、「最も視聴率を取れる」コンテンツがスポーツの生中継である。

2019年の日本のテレビ番組の年間視聴率を見てみると、上位20位のうち、NHKニュースと紅白歌合戦を除いた6番組すべてがスポーツ中継である。トップ2はラグビーW杯、11〜13位には、ラグビー、全豪オープンテニス、箱根駅伝が入っている。

ラグビーワールドカップ2019の観客席の様子
ラグビーワールドカップ2019は日本で開催され連日話題となった
Photo by Stefan Lehner on Unsplash

アメリカでは有料放送加入者の中では、スポーツファンが最も解約しにくい層だと言われている。アメリカのコンサルティング会社Altman Vilandrie & Coによると、日常的にスポーツ番組を見る人の有料放送加入率は79%で、そうでない人の61%と比較すると遥かに高い。さらに、スポーツ中継の動画配信サービスを利用している人のうち57%が「テレビで放映されていない競技を見たいから」と述べている。

一方、新型コロナウイルスの感染拡大により、スポーツゲームは中止を余儀なくされた。感染が拡大し始めた3月末の時点で、ビジネスインサイダー・インテリジェンスの調査によると、スポーツ中継の延期を理由に有料放送の解約を考えている人は11%に上った。

スポーツ動画配信サービスの利用者が急増

冒頭に触れたように、OTTによるスポーツコンテンツの配信が盛んになっている。Netflix、Amazon Prime、DAZNなど定額動画配信サービスから、Facebookやtwitterといったソーシャルメディアプラットフォームも参入。その他、既存のメディア会社が運営するサービスや、NBAやNFLのようなスポーツリーグが配信するものもあり、スポーツ動画配信業界の競争は激化している。

2020年5月、調査会社ニールセンスポーツが日本で行った「OTTサービスとスポーツ観戦に関する調査」によると、スポーツコンテンツを放映している動画配信サービスの利用数は、一人あたり3.18個と、昨年の2.01個よりも大幅に数を増やしている。

スポーツコンテンツメディアの雄「DAZN」

現在、日本のスポーツファンの心をがっちり掴んでいる、スポーツ動画配信サービス「DAZN」。DAZNはイギリスに本社を置くデジタルコンテンツ配信会社であり、2016年に日本マーケットに参入してから、たった数年でシェアを急激に伸ばしている。

DAZNが日本で配信している契約リーグやチームの一覧画像
DAZNが日本で配信している契約リーグやチーム
https://www.dazn.com/ja-JP/redeem

DAZN急成長の理由の一つに、人気コンテンツの充実度が挙げられる。特にサッカーリーグは目を見張るものがあり、イギリスのプレミアリーグ、スペインのラ・リーガ、イタリアのセリエA、フランスのリーグ・アンなど、世界のトップリーグの放映権を総取りしている。

Jリーグは2017年、これまでタッグを組んでいたスカパーからDAZNに乗り換えて、10年間2100億円という破格の放映権契約を交わしたことで話題をさらった。2020年8月にはさらに2年更新し、12年間2239億円の新契約を締結したことを発表した。

利用料金がリーズナブルかつ分かりやすいのも魅力である。月額1750円(税抜、2020年8月現在)で、すべてのコンテンツが視聴可能。従来の有料チャンネルのように、視聴ジャンルによって細分化されていないのもユーザーの満足度を上げている。

Facebookが仕掛けるスポーツ配信を利用した戦略

ソーシャルメディア会社もスポーツ中継配信に乗り出している。Facebookはワールド・サーフ・リーグの放映権を2年間3000万米ドルで購入した。

Facebookはインド亜大陸の8カ国(インド、バングラデシュ、ネパール、パキスタンなど)で、スペインサッカーのトップリーグ「ラ・リーガ」の全試合を2018年より3シーズン無料でライブ中継している。ゲームはラ・リーガのFacebookページと個々のクラブページを介して配信される。

インドは13億人以上の人口を抱える大国だ。経済成長も著しく、中国を追い抜かす存在として注視されている。Facebookユーザーは大陸全体で3億4800人(2018年)であり、今後の伸びが期待できる。Facebookがラ・リーガに支払った放映権の金額は明らかにされていないが、2014〜2018年に同地で放映権を持っていたソニー・ピクチャーズ・ネットワークは3200万米ドルを支払っていたという。

Facebookはサッカーという人気コンテンツを利用して、同地の覇権を狙っているのだろう。

Facebookが生んだファン同士が交流できるスポーツ中継アプリ「Venue」

そうした流れを更に強化するべく、Facebookは2020年5月にスポーツ中継アプリ「Venue」を発表した。

Facebookが2020年5月にローンチしたスポーツ中継アプリ「Venue」
Facebookが2020年5月にローンチしたスポーツ中継アプリ「Venue」
https://npe.fb.com/2020/05/29/introducing-venue-the-live-event-companion-experience/

スポーツのライブ配信はどんなに大勢の人が視聴していても、基本的には「一人で見る」という単独・受け身の体験である。しかし、ファンたちは他の視聴者(ファン)との交流や試合に参加しているような感覚を得られる「インタラクティブな体験」を求めている。

Venueは中継画面の他にコミュニティ用の画面を用意し、画面上で視聴者同士の交流や試合予測などができるようにしている。まるで会場で隣り合ったファンたちが、おしゃべりするような感覚でゲームを視聴できる。Venueは今後、スポーツ動画配信のスタイルを変えていくかもしれない。

※「Venue」は現在のところ、同アプリはまだベータ版であり、使用はアメリカ国内に限定されている。

企画・編集:岡徳之(Livit)

登録者6500万人・世界最大のYouTubeスポーツチャンネルに見るスポーツビジネスにおけるYouTube活用ヒント

スポーツビジネスでアクティブシニアを狙うためのSNS選び

スポーツビジネスにおいても必須となったソーシャルメディア。フェイスブック、LINE、インスタグラム、YouTubeなどターゲット/用途別に使い分けるマルチチャンネル戦略が求められる。日本では「SNS」と一括にされているが、ソーシャルメディアごとに利用者の年齢層/性別に特徴があるためだ。

たとえば、国内の月間アクティブユーザー数、約2600万人(Gaiax調査より)とされるフェイスブックでは、40代の利用者が多いという特徴がある。男女比率はほぼ同じ。一方、月間アクティブユーザー3300万人のインスタグラムでは、20代女性が最も大きな層となる。

最近海外のスポーツ市場で「アクティブシニア」という言葉がよく聞かれるようになっている。時間とお金に余裕のある層の健康意識が高まり、スポーツ市場にとって重要な顧客となっているためだ。

一般的に若年層の利用が多いといわれるソーシャルメディアだが、フェイスブックのように40代が最も多いという事例もあり、そうとは言い切れない状況になっている。国内で40〜60代の層をターゲットにしたいと考えたとき、最適なソーシャルメディアの1つとして挙げられるのがYouTubeだ。

シニアフィットネスインフルエンサー Joan Macdonaldチャンネル

YouTubeは今やLINEに次ぐ国内2番目のソーシャルメディアとなり、かつ40代以上の利用者が多いという特徴を持っている。Gaiaxによると、LINEの国内月間アクティブユーザー数は8400万人。一方YouTubeは6000万人と推計されている。

このYouTube、年齢層別で最大は40代で、その数は1400万人に迫るものとなっている。40代に次いで多い年齢層は50代で、約1200万人。そして30代と60代が1000万人ほどでほぼ同じ水準となっている。

芸能人のYouTube進出も進んでおり、テレビからYouTubeに切り替える視聴者が増えることが想定される。若い世代はもともとテレビを見ていないといわれており、テレビからのYouTubeシフトは、おそらく40代以上で進むものと思われる。アクティブシニアをターゲットにする上で、YouTubeの重要性はこの先一層高まってくることが考えられる。

登録者6500万人、世界最大のYouTubeスポーツチャンネルとは?

スポーツビジネスにおいてYouTubeを活用しようとしたとき、どのようなコンテンツをつくるべきか悩むところだろう。そんなときはYouTubeの海外事例から学ぶのが得策。海外ではどのようなチャンネル/コンテンツが人気なのか、なぜ人気なのかを調査/考察することが出発点となる。以下では、YouTubeスポーツ分野における人気チャンネルに関して、海外の最新動向を紹介したい。

世界で最も多い登録者を持つYouTubeスポーツチャンネルはどこか。野球やサッカーのリーグ/チームのチャンネルを想像するかもしれないが、少なくとも、2020年8月26日時点のデータは、野球でもサッカーでもないということを示している。

世界最大のYouTubeスポーツチャンネル「WWE」のキャプチャ画面
世界最大のYouTubeスポーツチャンネル「WWE」
https://www.youtube.com/c/WWE/about

現時点で世界最大のフォロワーを持つYouTubeスポーツチャンネル、それは米国のプロレス団体World Wrestling Entertainmentが運営するYouTubeチャンネル「WWE」だ。

2019年10月に登録者5,000万人超え、2020年5月に6,000万人超えを達成した同チャンネル。2020年8月26日時点では約6,500万人と、この3カ月間だけでも500万人増加している。

NBAやNFLなど他のプロスポーツチャンネルと比べると、WWEチャンネル登録者数が如何に突出しているのかが分かる。ソーシャルメディア分析プラットフォームSocial BladeのYouTubeスポーツチャンネル登録者ランキングで、NBAチャンネルの登録者数は1460万人で、4位に位置している。NFLチャンネルは661万人で、20位だ。

リーグや団体ではなく、チームで見た場合、登録者が最も多いのは、スペインのサッカーチーム「FCバルセロナ」。登録者989万人で、スポーツチャンネルランキング9位に位置している。

YouTubeWWEチャンネル人気の秘密

WWEチャンネルの人気の秘密はどこにあるのか。

WWEでは日本人レスラーも多数活躍している

YouTubeは基本的に国境の無いプラットフォーム。英語によるコンテンツ制作によってグローバルオーディエンスにリーチすることが可能だ。WWEは米国発のコンテンツ、基本言語はもちろん英語だ。

かつて北米や欧州で人気といわれたWWEだが、いま最も視聴者が多いのはインドだ。インドメディアRepublicWorldによると、WWEの幹部ジェームズ・ローゼンストック氏はこのほど、WWEチャンネルが最も視聴されている国はインドであることを明らかにした。WWEフェイスブックページでも、インドのフォロワーが最も多いという。インドで、WWEはソニーピクチャーズと提携、ソニーピクチャーズのネットワークが同国でのファンベースの拡大に寄与しているとのこと。

またWWEはプロレスではあるものの、「スポーツエンターテイメント」という言葉を用い、ショーとしてコンテンツを制作・配信している。このことがYouTubeでフォロワーを広く獲得する結果を生み出しているようだ。

さらにWWEは家族が揃って視聴できるファミリー路線を採用しているといわれている。今回のパンデミックで「Stay Home」におけるエンタメの重要性が問われる中、WWEは家族が視聴できるコンテンツの重要性がこれまでにないほど高まっているとの声明を出しており、そうした意向がコンテンツに反映され、一層多くのファンを引きつけているとも考えられる。

スポーツチャンネルではあるものの、「エンタメ」や「ファミリー」を意識したコンテンツ制作のあり方は、YouTube活用の大きなヒントとなるはずだ。

世界1番人気のスポーツはサッカー。では、2番目は?日本人が知らない「意外なスポーツ」拡大見込まれる10億人市場の可能性

日本で人気のスポーツといえば野球とサッカー。中央調査社が2015年に実施した意識調査によると、日本で一番人気のスポーツは「野球」(41.7%)であることが判明。2番目は「サッカー」(29%)、3番目は「プロテニス」(22.4%)となった。

調査サンプル時期やサンプルの違いで多少の変動はあると考えられるが、野球とサッカーが2大人気スポーツであることは間違いないといえるだろう。

一方、世界全体のスポーツ人気はどうなっているのか。日本と同じように野球とサッカーが2大人気のスポーツなのか。スポーツビジネスに携わる上で、世界全体のスポーツトレンドは知っておいても損はないといえるだろう。

世間には様々な「世界人気スポーツランキング」関連の記事が氾濫しているが、そのほとんどはデータ出典が明確になっておらず、信頼できる情報とは言い難い。しかし、個別に調べていくことで、世界ではどのようなスポーツが人気なのか、ぼんやりとではあるが全体像が見えてくる。

世界人気スポーツランキング

グーグル検索で「most popular sports in the world」と入力したときトップ表示される記事の1つが、Reunion Technologyという企業が運営するメディア「WorldAtlas」の記事だ。

その記事によると、ファン数で見た世界人気スポーツランキングの1位は、サッカーであるという。ファン数は約40億人。

2位には野球がランクインすると思う人もいるかもしれないが、同ランキングで野球は8位にとどまる結果となっている。ファン数は5億人だ。では、どのスポーツが2位なのか。2位にランクインしたのは、日本ではほとんど知られていないスポーツ「クリケット」だ。ファンは世界中に25億人もいるという。

オーストラリアのクリケット試合の様子
クリケット試合の様子(オーストラリア)
Photo by Aksh yadav on Unsplash

3位も日本ではメジャーではないスポーツ「フィールドホッケー」がランクイン。ファン数は20億人となっている。

以下、4位テニス(ファン数10億人)、5位バレーボール(9億人)、6位卓球(8億7500万人)、7位バスケットボール(8億2500万人)、8位野球(5億人)、9位ラグビー(4億7500万人)、10位ゴルフ(4億5000万人)という順位だ。

日本人にはピンと来ないランキングといえるかもしれない。実際、同記事ではデータ出典が明記されておらず、ランキングの信憑性はない。グーグル検索でトップ表示される他の記事についても状況は同じ。信頼に足りる「世界人気スポーツランキング」を見つけることができない。調査規模が膨大になることから、いまだ実施されていないものと思われる。

しかし、WorldAtlasの記事を出発点とし、他のデータを照らし合わせることで、ある程度全体図は見えてくる。

まず、サッカーについて。米CNNが2014年6月5日に公開した記事では、当時のブラジル・ワールドカップに関する報道を行っている。その中で、ワールドカップ期間中に、どれほどの人が大会を視聴するのかというFIFAの予測に言及。その数は約32億人と伝えている。

またFIFAは同組織ウェブサイトで、2018年ロシア・ワールドカップでの視聴者数を公開。テレビとデジタルプラットフォームを合計した視聴者数は、35億7200万人に上ったという。

米国で一番人気のスポーツ、アメフトの試合中の写真
米国で一番人気のスポーツ、アメフト
Photo by Keith Johnston on Unsplash

一方、野球はどうか。野球は、米国、日本、台湾、中南米で人気だが、他の地域ではあまり知られていないスポーツといえる。本場米国においても、人気は低迷中。米世論調査会社ギャラップのデータによると、2017年米国で最も人気のあるスポーツはフットボール(アメフト)であることが判明。調査対象者の37%が好きなスポーツに選んだ。次いで人気が高かったのは、バスケットボール(11%)。野球は3位で9%だった。米国では1940〜60年代にかけて野球は人気1番のスポーツだったが、1970年代アメフト人気が野球を上回り、それ以来米国ではアメフトが1番人気のスポーツに君臨し続けている。

AP通信が2019年10月に伝えた消費者調査大手ニールセンのデータによると、米メジャーリーグ・ワールドシリーズでの最初の5試合、各試合の平均視聴者数は1160万人だった。過去のワールドシリーズの中で、最も低い数字と伝えている。

世界10億人の「クリケット」ファン、公式調査が示す市場規模

一方、クリケットはどうか。グーグルで「cricket fans in the world」で検索すると「25億人」という数字があがってくる。しかし、データ出典が不明であり、この数にも疑問が残る。

クリケットに関して、最も信頼できる数字はおそらく国際クリケット評議会(ICC)の委託で実施された2018年の調査だろう。

ICCウェブサイトで公開されている調査結果によると、クリケットファンの数は世界中で10億人に上るという。ファンの平均年齢は34歳で、男女比率は61%が男性で39%が女性。視聴だけでなく、学校での部活など含め実際にクリケットをプレーする人は世界に3億人もいる。

国際クリケット評議会(ICC)のウェブサイト
国際クリケット評議会(ICC)ウェブサイト
https://www.icc-cricket.com/

16世紀の英国で興ったとされるクリケット。英国の影響が強いオーストラリア、ニュージーランド、インドなどで人気を博している。上記ICCの調査では、世界中にいるクリケットファン10億人のうち90%以上はインドのファンであるというこが判明したという。

世界最大のクリケット市場といえるインド。そのプロリーグ「Indian Premier League(IPL)」の評価額は年々高まっている。

米CNBCは2018年7月、メディア企業GroupMの話として、IPLは2017年にスポンサーシップだけで10億ドル(約1000億円)の収益をあげたと伝えている。同年、米メジャーリーグのスポンサーシップ収益8億9200万ドルを上回ったという。

ファイナンシャルアドバイザリー企業Duff&Phelpsによると、2017年IPLの評価額は前年比26%増の53億ドル(約5300億円)に上昇したとのこと。

少子高齢化が進む他の国とは異なり、インドは人口増加トレンドが続いている。若年層が多く、クリケット市場はこの先も拡大することが見込まれている。世界のスポーツビジネスを俯瞰する上で、クリケットは無視できない市場といえるだろう。

「女子スポーツ市場」拡大の立役者たち。専門メディアや新設プラットフォーム、キャンペーンが後押し

メディアにより広がる、「清く正しく美しい」イメージ

米国のマーケティングリサーチ会社、ニールセンが2018年に「ザ・ライズ・オブ・ウィメンズ・スポーツ(女性スポーツの台頭)」という調査書を発表している。男性スポーツにありがちな金もうけ主義や不正行為が少ない点で、女子スポーツは子どもを交え、家族で観戦するのに最適で「清く正しく美しい」女子スポーツのイメージはメディアにも受け、1つのジャンルとして定着してきている。

例えば昨年には、英国の『デイリー・テレグラフ』紙のオンライン版、『ザ・テレグラフ』が「テレグラフ・ウィメンズ・スポーツ」のページを開設している。英国放送協会(BBC)は、『ザ・テレグラフ』を追う形で、昨年5月から期間限定ながら、女性の夏期スポーツの試合を無料で生放送した。

また北米・カナダのスポーツに特化したウェブサイトである『ジ・アスレチック』は米国女子プロバスケットボールリーグ(WNBA)や、女子カレッジ・バスケットボールを専門に取り上げたページを設けている。

今年に入ってからは、英国の衛星放送事業者スカイが運営するスポーツ専用チャンネル、スカイスポーツが女子スポーツの扱いを多くすることを約束している。ニュースでは「女性スポーツ」というくくりをなくし、24時間いつでも女性が活躍するスポーツのニュースを流す。またYouTubeで女子スポーツの試合をライブで配信するほか、女子スポーツに焦点を当てたオリジナル番組などを制作・放映する。

徐々に実現し始めた報奨金や報酬のアップ

米国の女子プロバスケットボールリーグ(WNBA)のコミッショナーに昨年就任したキャシー・エンゲルハートさんは今年に入ってすぐ、新たな労使協定の締結を成功させている。WNBAと選手労働組合であるウィメンズ・ナショナル・バスケットボール・プレイヤーズ・アソシエーション間のもので、2027年のシーズンまで有効だ。この協定のおかげで選手への報酬は全体的にみて53%上昇した。またほかには移動時の待遇の向上、育児手当支給、シーズンオフ時のキャリア育成の機会提供など、画期的な内容だ。

一方、今年3月に行われた女子クリケット・ワールドカップの決勝戦で、優勝を決めたオーストラリア・チームは1万USドル(約106万円)の優勝賞金を手に入れた。国際クリケット評議会(ICC)は昨年10月に賞金金額をアップ。2018年のトーナメントと比較して320%増え、男子の優勝賞金と肩を並べた。オーストラリア国内のプロ・アマチュアのクリケットを統括する団体、クリケット・オーストラリアは、もし男子と差が生じた場合には、差額を埋め合わせることを約束していた。

企業も加わり女子プロバスケットボールリーグ(WNBA)を盛り立てるプラットフォーム

人々の関心を集めつつある女子スポーツをさらにプッシュし、露出度を上げるキャンペーンも盛んに行われている。

WNBAは今年1月、「WNBAチェンジメーカーズ」というプラットフォームを立ち上げた。女性の地位向上とスポーツの発展にコミットメントを示し、インクルーシブ・リーダーシップを発揮する企業が集まる。マーケティングやブランディング、選手とファンとの対話などにおいて、WNBAへの直接的な支援を行うのだ。代表的な企業としてはAT&T、デロイト、ナイキが挙げられる。

右から3人目がWNBAコミッショナーのキャシー・エンゲルハートさん
右から3人目がWNBAコミッショナーのキャシー・エンゲルハートさん
© 2020 NBA Media Ventures, LLC | Turner Sports Interactive, Inc.

世界的にみると、企業スポンサーシップのうち、女性スポーツにあてられるのはわずか1%に過ぎないそうだ。しかし、同プラットフォームを立ち上げることで少しでも男子スポーツとの差を縮めたいとエンゲルハートさんは意欲的だ。新たな切り口のスポンサーシップに投資してもらい、WNBAはもとより、女子スポーツ、社会における女性の立場の改善を目指す。

コロナに負けない、英国のキャンペーン

英国では「アンロックト」というキャンペーンが、今年1月から5カ月間の計画で行われることになっていた。中心になったのは、女子スポーツの発展に助力する慈善団体、ウィメンズ・スポート・トラスト(WST)。同キャンペーンを通して、女子スポーツを次のレベルへと押し上げることを目標としていた。

計画では、国内のエリート女子アスリート40人は「アクティベーター(活動的にする人)」と呼ばれるマーケティングやスポーツ、メディア分野の第一人者40人とペアを組む。そして、アスリートは自分たちが直面する問題などをアクティベーターに話し、アクティベーターはアスリートが挙げた問題などの解決はもとより、どのようにすれば、それをバネにして変化をもたらすことができるかを共に考える。投資家への売り込みといった具体的な行動に出る際の支援も行う。

WST主宰の「アンロックト」キャンペーンの初日の様子
WST主宰の「アンロックト」キャンペーンの初日
© Women’s Sport Trust

しかし、キャンペーン開始後すぐに新型コロナウイルスの影響で、試合などができなくなってしまう。ファンも多いネットボールやサッカーのリーグ戦はキャンセル、サッカーのFA女子カップやラグビーの女子シックス・ネーションズも延期になった。東京オリンピックとパラリンピックも同様だ。

昨年ネットボール、サッカー、クリケットと国際的な試合で、女子チームが活躍し、観客数やファンも増えた。しかし今年試合を中止したり、延期したりすることで女子スポーツの知名度は10年前に逆戻りしてしまうのではないかと危惧されている。

そんな心配をよそに「アンロックト」は4月ごろから週に1度、Zoomミーティングを開くという、計画とは違った形をとりつつ続行されている。女子アスリートたちもそれに参加。選手同士で話し合ったり、ゲストスピーカーの話を聴いたりしながら、スキルを身に付けた。どのようにして自分の意見を言うか、どのようにすれば意義深い発言ができるかなどを学んだという。

「計画通りにはいかなかったが、WST主宰のアンロックトは1つのコミュニティとして、知名度を上げるための方法を選手は習得できたはず」とザラ・アル・クドシーさんは言う。アル・クドシーさんは、女子クリケット・ワールドカップやラグビーイングランド代表のマーケティング責任者を経験し、現在WSTの役員であり、フォーミュラ1のビジネスパートナー責任者でもある。「アンロックト」を通して得た経験を、「人生を変える」に値するものだったと感じるアスリートもいた。

ポストコロナに待ち受ける、厳しいスポンサー市場

新型コロナウイルスは世界経済に大きな影響を及ぼしている。スポーツの奨励を通して、女性をエンパワーする、世界で最も大きな規模のネットワーク、インターナショナル・ワーキンググループ・オン・ウィメン&スポートは、リソース面・予算面で男子チームを優先させる傾向があるために、女子スポーツが後回しにされることを懸念する。

女子スポーツがポストコロナの時代に知名度を上げ、成功し続けるためにはブランドとの関係を築き上げ、投資を招くことが重要だ。女子アスリートたちも、自分たちの価値観やビジョンに共感してくれるスポンサーを求めていることを表に出し、チームとしてより積極的にスポンサー探しを行わなくてはならないという自覚が芽生え始めている。

アディダスやFIFAが本腰、スポーツビジネスも無視できない「SDGs」の最新動向

このところ日本でも新聞や雑誌に登場することが増えている「SDGs」という言葉。「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字、世界中の政府や企業に持続可能な世界を実現するための行動を求める国連主導のイニシアチブだ。

このSGDs、スポーツの世界でも無視できないトピックになっている。アディダスなどのスポーツ企業、FIFAやIOCなどの国際スポーツ組織はすでにSDGsに関する取り組みを開始。他のプレイヤーにとってもビジネスをする際のニューノーマルになりつつある。

世界のスポーツ産業では、どのようなSDGs取り組みが行われているのか、その最新動向をお伝えしたい。

スポーツ産業とSDGs

SDGsとは、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された2030年までに達成すべき国際目標。貧困問題や環境問題など世界が抱える諸問題の解決に向けた17の目標と169の詳細ターゲットから構成されている。

法的拘束力はないものの、世界各国の政府や企業による自発的な行動を促しており、人々の危機意識/問題意識の高まりも相まって認知は広がりつつある。日本では、政府官邸にSDGs推進本部が設置され、国内でのSDGs関連取り組みを推進中だ。

17の目標のうち、スポーツ産業との関連が強いと思われるのは、目標3「健康的な生活の実現」、目標5「ジェンダー平等の達成」、目標12「持続可能な生活消費形態の確保」、目標13「気候変動影響の軽減」、目標14「海洋・海洋資源の保全」、目標15「生態系の保護」、目標16「包括的な社会の促進」など。この中でも、最近は環境負荷を減らす取り組みが顕著になっている。

2030年までにプラスチックごみゼロ目指すアディダス

スポーツ産業における環境取り組みをけん引する企業の1つがアディダスだ。

同社は、国連における気候変動議論が活発化した2015年頃から、持続可能戦略を本格化。同年4月には、海洋保全団体Parleyと提携し、海洋に流出したプラスチックごみから靴やウェアを製造する取り組みを開始した。

アディダス「Loop Gen2」ウェブサイト
アディダス「Loop Gen2」ウェブサイト
https://www.adidas.com.sg/futurecraft

アディダスは2015年、海洋プラスチックを活用した靴7000足を生産。この取り組みは拡大し、2019年には1100万足を生産するに至ったという。現在、100%リサイクル可能なランニングシューズ「Loop Gen2」の2021年販売開始に向けたプロジェクトを実施中だ。

アディダスは2030年までにプラスチックごみゼロを目指すという大胆な目標を掲げており、上記の個別プロジェクトは、その目標を達成するための要素となる。

同社ブランド戦略担当者ジェームズ・カーネス氏が英語メディアFastCompanyに語ったところでは、3段階でこの目標を達成することを計画しているという。

アディダスの環境戦略の図解
アディダスの環境戦略(アディダスウェブサイトより)
https://www.adidas-group.com/en/sustainability/managing-sustainability/general-approach/

第1段階では、プロダクト生産においてリサイクルされたプラスチックの利用を大幅に増やす。2020年末までに、生産に利用するポリエステルの半分をリサイクルされたものにシフトし、2024年にはその比率を100%にする計画だ。

また第1段階では、リサイクルされたプラスチックの利用を示すラベルを導入。ペットボトルからリサイクルされたプラスチックが利用されている場合「PrimeGreen」、海洋プラスチックごみが利用されている場合「PrimeBlue」のラベルが付与される。ポリエステル以外の材料についてもリサイクル利用を目指すという。

第2段階では、プロダクトデザインを刷新し、リサイクルが容易になる仕組みを構築することを計画している。期限は2030年。

そして第3段階は、生分解する商品を開発すること。これによりリサイクルの負荷を減らすとともに、環境へのダメージも減らすことが可能になる。しかし、現在の技術では難しいこともあり、目標達成の明確な期限は設けていないという。

このほか、アディダスは2050年までに事業にかかる電力の利用を代替可能エネルギーに完全シフトし「climate neutrality」を達成することも明文化。本拠地ドイツではすでに、電力のほとんどを代替可能エネルギー源から得ているとのこと。

FIFAやIOCなど、大型スポーツイベント組織もSDGs取り組みに本腰

アディダスのような個別企業による取り組みだけでなく、ワールドカップやオリンピックなど大規模スポーツイベントを管轄する国際組織においてもSDGs関連の取り組みが増えている。

何百万人という人が移動する大規模イベントでは、交通・宿泊・食事などで多くの温室効果ガスが発生する。これを削減しようという取り組みが実施されているのだ。

2018年ロシア・ワールドカップでは、イベント観戦のため500万人以上が移動したといわれている。このうち290万人が国外からの観戦者だ。FIFAの環境レポート「Greenhouse gas accounting report(2018年版)」によると、ロシア・ワールドカップでは、観戦者の移動や宿泊などで約160万トンの二酸化炭素が発生した。

こうした状況を鑑み、直近で計画されている大型スポーツイベントでは、温室効果ガス削減のためのプログラムが実施される見込みだ。2021年に開催延期となったサッカー大会「ユーロ2020」では、各地のスタジアムを訪れる観戦者に、公共交通のチケットが配布されるといわれている。これによりタクシー利用などを減らし、二酸化炭素の排出を減らす計画のようだ。

2022年開催予定のカタール・ワールドカップでも持続可能性に焦点が当てられている。カタールのスタジアムでは、従来より40%効率的な冷却システムを導入、このほか水を節約する仕組みや電力利用を抑えるLEDの導入など、ワールドカップ初の「Carbon neutral」を目指す施策が実施されている。

アディダスやFIFAの取り組みを筆頭に、スポーツ産業におけるSDGs取り組みは今後一層活発化していくことになるだろう。

人工知能が米スポーツビジネスを変革中、チャットボットや自動ジャーナリズムは既に現役稼働

このところメディアで頻繁に取り上げられる「第4次産業革命」。ロボット工学、人工知能(AI)、ブロックチェーン、ナノテクノロジー、IoTなど主にデジタル技術による産業革命のあり方を指す言葉だ。

経済・社会の様々な側面に影響を及ぼすことが想定されるが、スポーツ産業も例外ではない。

すでに、AIやIoTの活用は始まっており、テクノロジーの普及と進化に伴い、スポーツの形は大きく変化することが見込まれている。

今回は、海外のスポーツ産業におけるAI活用に注目し、今後スポーツはどのように変わっていくのか、その未来像を探ってみたい。

NBAではチャットボットが当たり前に

米ボストンのAI専門コンサルティング会社Emerjによると、米国では現時点でスポーツ産業におけるAI活用は、「チャットボット」「コンピュータビジョン」「自動ジャーナリズム」「ウェアラブル」の4つの分野で活発化している。

各分野ではどのようなことが起こっているのだろうか。

まずチャットボットに関して、見ていきたい。

米国スポーツ産業におけるチャットボットの活用は、2016年頃から始まっている。

口火を切ったのは、米プロバスケットリーグNBA所属のサクラメント・キングス。2016年6月、カリフォルニア州のテクノロジー企業Sapienと提携し、同チーム専属チャットボット「KAI(Kings Artificial Intelligence)」をローンチした。フェイスブック・メッセンジャー上で、試合や選手に関する質問の受け答えができるチャットボット。最高得点をあげた選手やアシスト数が最も多かった選手など、試合の詳細についての情報も質問することが可能だ。

NBAの試合
(画像)NBAの試合
Photo by Corleone Brown on Unsplash

米国の若いスポーツファンは、テクノロジーによる新しい体験を求める傾向が強いといわれている。チャットボットはもはやスポーツだけでなく、ショッピングなどでもスタンダードになっている。

またサクラメント・キングスの会長自身がもともとシリコンバレーのエンジニアであったことも、キングスが他のチームに先駆けてチャットボットを導入した理由であるようだ。会長であるビベク・ラナディベ氏はインド・ムンバイ出身のインド系アメリカ人。現在4000人以上の従業員を抱えるテクノロジー企業TIBCOを1997年に創業したテック起業家でもある。

チャットボットの活用は、シンプルな質問の応答にとどまるものではない。

NBAの2017〜18年シーズン・ファイナルで優勝したゴールデンステート・ウォリアーズでは、チームのチャットボットによるクイズイベントを実施し、ファンのエンゲージメントを高めていた。同シーズンにおいては、フェイスブック・メッセンジャーを通じて、チャットボットからクオーターごとに誰が一番得点するのか、などの質問がファンに届き、ファンはその質問に回答。正解率が集計され、最も高い正解率を出したファンに、特別賞が与えられるというものだった。

このようなチーム別のチャットボット取り組みに加え、2019年11月には、NBAが協会としてフェイスブック・メッセンジャーにチャットボットを導入することを発表。AI企業GameOn Technologyと提携し、NBAのアカウント上でチャットボットサービスを提供する。同チャットボットは、質問の応答だけでなく、試合結果速報、得点アラート、試合スケジュールなどの配信も行うという。

2018年10月、英プロサッカーチームのアーセナルがチャットボットを導入することを発表し話題となったが、NBAと同じGameOn Technologyのチャットボットが活用されている。

既にスポーツ関連記事の多くはAIが執筆

AIの発展は、スポーツジャーナリズムの形も大きく変えつつある。米野球マイナーリーグの報道では、すでにAIジャーリストが活躍しているのだ。

米AP通信は、マイナーリーグの報道で、Automated Insights社が開発したAIプラットフォーム「Wordsmith」を導入。マイナーリーグの数字に関連する報道を自動化している。これにより報道範囲は10倍以上広がり、報道対象は13リーグ、142チームに拡大したという。

マイナーリーグチームの1つ「ジャクソンビル・ジャンボシュリンプ」
(画像)マイナーリーグチームの1つ「ジャクソンビル・ジャンボシュリンプ」
Photo by Wade Austin Ellis on Unsplash

このWordsmithが大きな話題となったのは、2014年にさかのぼる。同年6月、AP通信はWordsmithを企業決算記事に活用する計画を発表したのだ。一般的に企業決算時期には、記者は数字の正確性の確認に多くの時間を費やし多忙を極める。自動化することで、記者は数字の処理から開放され、よりジャーナリズムにフォーカスできるようになるとして期待を集めた。AP通信は、企業決算記事に関して、自動化によりそれまでと比較し15倍の量を生産できると述べていた。企業決算記事の自動化がうまくいき、マイナーリーグ報道にも拡大した形となるようだ。

AIとウェアラブルによるスポーツ訓練の未来

ウェアラブルもAIと融合し、スポーツの形を大きく変える存在になるかもしれない。

スイス・ローザンヌに拠点を置くスポーツ・スタートアップ「PIQ」は、AIを活用したボクシング用ウェアラブルを開発している。機械学習による分析により、ボクシングの細かい動きを評価し、スマホアプリとの連携で改善のためのアドバイスを与えてくれる。

ボクシングだけでなく、テニスやゴルフ版のウェアラブルも開発しており、AIによるスポーツ訓練の効率アップが期待される。同社はこれまでに、550万ドルを調達している。 このほか、スポーツ分野におけるAI活用としては、ウィンブルドンでのIBMワトソンを使ったハイライトシーンの自動選出やコンピュータビジョンを活用したテニスの判定システムなど、様々な取り組みが実施されている。AIによるスポーツ変革は今後どのように進展するのか、目が離せない。

5Gの普及で変わるスポーツの形、バーチャル観戦がニューノーマルに?

日本で2020年3月に開始された5G、海外では2019年から導入する国が急増し「5G元年」などと呼ばれていた。この5Gの普及で様々な産業が大きく変化するとみられているが、スポーツ産業も例外ではない。VR・ARやホログラムなど先端テクノロジーとの融合で、スポーツビジネスのあり方を大きく変える可能性があるのだ。

実際、日本に先行し5Gを導入した米国や欧州では、スポーツ産業における5Gを活用した取り組みが増えている。

どのような取り組みが実施されているのか。最新動向から、5Gがもたらすスポーツビジネスへのインパクトを考察してみたい。

5Gの普及とそのインパクト

まずは世界各地の5Gの普及状況を俯瞰してみたい。米ネットワークテスト企業VIAVIが2020年2月に発表したレポートによると、同時点における世界の5G導入国・都市の数は、34カ国・378都市だった。

欧米地域では、米国、英国、ドイツ、スペイン、スイス、イタリア、フィンランド、スウェーデン、アイルランドなどが5Gを導入。アジア太平洋地域では、オーストラリア、ニュージーランド、中国、韓国、モルディブの名前が挙がっている。

これに2020年8月現在では、日本や台湾などが加わるかたちとなる。

5Gスマホのイメージ
(画像)5Gスマホのイメージ
Photo by Mika Baumeister on Unsplash

5Gが普及すると何が変わるのか。英テックメディアRacounterが伝えたVodafoneの説明によると、5Gの通信速度は4Gの約10倍。4Kなどの高画質動画のライブストリーミングが可能になる水準に達するという。また、VR向けの8K動画のライブストリーミングも可能になる。

世界経済全体への影響は計り知れない。市場調査会社IHS Markitは、2035年には5Gによって世界経済全体は12兆3000億ドル(約1300兆円)の価値を生み出すと予想している。また5G関連のバリューチェーンにも影響を及ぼし、同年には2200万人の雇用を創出すると見込んでいる。

5Gとスポーツビジネスの変化、スポーツイベントが5Gサービス開始のきっかけに?

急速に普及する5G。スポーツビジネスの文脈では、どのように捉えられているのか。

イスラエル発の通信メディア多国籍企業Amdocsが2019年2月に発表した調査では、スポーツの世界でも5Gがニューノーマルになる日はそう遠くはないことが示されている。

世界の通信・メディア大手60社の経営層を対象に実際された同調査によると、スポーツイベントで5Gを活用したVR・AR施策の導入を検討しているとの回答割合が63%に上ったのだ。スタジアムでの観戦だけでなく、自宅でのテレビ観戦にVR・ARを組み合わせ、これまでにない体験を提供しようとしている。

延期になった東京オリンピックだが、同調査では、このオリンピックに合わせて5Gサービスの導入を計画していた通信企業は少なくないことも判明。実に、26%がオリンピック開催のタイミングで、5Gサービスの開始を計画していた。また、同じく来年に延期となったサッカーイベントEuro 2020では、当初の開催予定だった6〜7月に5Gサービスの開始を計画していた企業の割合は28%だった。

米フォーチュン誌(2019年9月)が伝えたところでは、米国ではスポーツスタジアムにおける5Gネットワークの整備が進められている。米通信大手ベライゾンは、プロフットボールリーグNFLと提携し、NFLスタジアムで5Gネットワークを開設している。2019年9月時点で、31カ所のうち13カ所のスタジアムで5Gサービスを展開する計画を明らかにしている。

プロアメリカンフットボールリーグ「NFL」の画像
アメリカンフットボールはアメリカで最も人気のあるプロスポーツ
Photo by HENCE THE BOOM on Unsplash

スタジアムでのスポーツ観戦に関して、現在各プレーヤーが実験しているのがホログラムやバーチャル応援システムを活用した新しい体験の創出だ。

デロイトのスポーツ市場レポート(2020年版)によると、テレビ局が5Gを活用したホログラム放送のあり方を模索しており、実際そのような試みを始めているという。エリクソンが2018年11月に、ボーダフォン・ドイツと提携し、ホログラムを活用したコミュニケーションの実験を行っているが、スポーツ観戦においても同様のテクノロジーが使われていると考えられる。

インドでは財閥系大手テック企業が5Gによるバーチャルスポーツ観戦に本腰

インドでは財閥系のテクノロジー大手企業が、5G活用によるホログラム観戦の取り組みに乗り出している。

Business Insider India(2020年5月28日)によると同国マヒンドラ財閥を母体とするテクノロジー多国籍企業Tech Mahindraは、カナダのテックスタートアップChampTraxと提携し、家にいながらスタジアムの雰囲気を体験できる仕組みの構築を進めているという。

Tech Mahindraの最高技術責任者ジャグディシュ・ミトラ氏が同メディアに語ったところによると、5GスマホにARでスタジアムの様子を投影し、どの角度からでも視聴できる仕組みの構築を目指すとのこと。スタジアム側で、選手の動きを複数のカメラで撮影し、スマホ側で3Dとして映し出す仕組みのようだ。

一方、ChampTraxは、スポーツファンの声をリアルタイムでスタジアムに届ける仕組みを提供。視聴者は自宅にいながら、スマホを通じてスタジアムにいる選手やチームを自分の声で応援できる。各ユーザーの声は統合され、スタジアムでよく聞く大人数による声援にまとめられ、選手やチームに届けられる。この仕組は、サッカーのプレミアリーグでも導入される可能性が報じられている。 5Gとバーチャルテクノロジーによって、変わるスポーツ観戦のかたち。ソーシャルディスタンスの解除はしばらく見込めない状況、バーチャル化の流れは一層強くなることが想定される。

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