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プロ野球セパ12球団の決算と自己資本比率から球団経営の戦略とロマンを読み解く

新型コロナウイルス感染拡大を受け、2020年4月17日に、5月中の開幕と交流戦を全て中止することを決めたプロ野球。報道では選手の年俸減額をプロ野球選手会に要請するか否かの話題も出ている。

プロ野球球団はスポンサー収入や放映権、チケット収入や球場での飲食・物販、ファンクラブ売上など多岐にわたる収入源を有しているが、試合が行われないとなると収入源のほとんどの根拠が失われ、逆に選手の年俸や球団職員の給与、球場の使用料の支払い等が残る状態となるため、一般の企業同様に球団経営にも厳しい状況となっている。

そこでBtF編集部は、各球団の決算公告から財務安全度を図る1つの指標「自己資本比率」をベースにプロ野球球団の財務安全度、そこから読み取れる球団の経営戦略や狙いについて考察を行った。

各球団の決算(財務諸表)の開示状況

BEHIND THE FITNESS編集部作成

まずはじめに、各球団は基本的に決算公告を通じて各年度の業績を発表している。損益計算書(PL)まで発表している球団は少なく、基本的には貸借対照表(BS)の開示に限定されている球団が多数であるため、各年度の売上高、販管費や営業利益については不明である。

また読売ジャイアンツ運営会社である株式会社読売巨人軍、中日ドラゴンズ運営会社である株式会社中日ドラゴンズについては、決算公告の開示が無いため財務状況については現時点では不明である。

自己資本比率はあくまで1つの指標

BEHIND THE FITNESS編集部作成

今回、財務安全度の指標にしている「自己資本比率」は、企業の純資産が総資産に対して何割占めているかという指標である。例えば、不動産や現金など資産を大量に持っており、負債(借入)が0に近い場合は、純資産が資産に対して80%〜100%に近い状態となる。これが自己資本比率である。銀行や知人からの借入は「他人資本」という考え方である。

これは、今回の新型コロナウイルスの影響などによって事業が完全に停止したとしても、資産を売却して現金化したり、保有している現預金によって長期間のコストの支払いを行えるため「安全」という見方となる。

しかし、自己資本比率が高ければ高いほど「安全」で、逆に低いと「危険」という見方は注意が必要だ。資産が1万円、借金が0円、資本金が1万円、この場合は自己資本比率100%ということになる。これを財務体質として安全と見るか否かという論点がある。

BEHIND THE FITNESS編集部作成

企業経営において、日々のキャッシュフローの大きさや、支払いサイトの長さを財務戦略の中心に置いている企業もあれば、借入を行いその資金を運用することで大きな利益を上げている会社もある。市場においては、他人資本を活用することで大きな事業、利益を生み出している会社がほとんどだ。

例えば、経済産業省の統計によると全業種の自己資本比率の平均値は42%、最も自己資本比率の低い業態は「クレジットカード業、割賦金融業」で11%だ。これを見てもらえば分かる通り「自己資本比率が低いからクレジットカード会社は常に危ない」という結論にはならない。

「自己資本比率」は企業の財務分析における「あくまで1つの指標」だということを意識して見ていただきたい。

自己資本比率最強は「北海道日本ハムファイターズ」

BEHIND THE FITNESS編集部作成

セパ10球団(読売ジャイアンツ、中日ドラゴンズを除く)直近3期間の自己資本比率の推移をまとめた。一番高い自己資本比率は北海道日本ハムファイターズの75%、次いで広島東洋カープの63%だ。逆に一番低い自己資本比率は3%でオリックス・バッファローズ、次いで6%で東北楽天ゴールデンイーグルスとなっている。

本稿の冒頭で申し上げた通り「自己資本比率が低い=ヤバい」ということではなく、自己資本比率があくまで1つの指標であることを示すために、当期純利益(該当年度の最終利益)と比較した図を御覧いただきたい。

BEHIND THE FITNESS編集部作成
BEHIND THE FITNESS編集部作成

例えば、直近3期間で最も利益を上げているのは横浜DeNAベイスターズで、それに伴って自己資本比率も右肩上がりに上昇しているが、上昇したと言っても直前期の自己資本比率は35%で、経済産業省の統計に掲載されている全業種の平均42%を下回っている。

セ・リーグトップの自己資本比率を誇る広島東洋カープは逆に当期純利益では3期間続けての減益となっている(それでも大きな黒字を計上している)。

パ・リーグでは、千葉ロッテマリーンズが横浜DeNAベイスターズと同様の右肩上がりの曲線を辿っているが自己資本比率は20%、自己資本比率全球団トップの北海道日本ハムファイターズは広島東洋カープと同様に3期続けて減益決算となっている。

横浜DeNAベイスターズと千葉ロッテマリーンズのように儲かっている=自己資本比率が上昇するのは当然だが、自己資本比率がトップクラスに高い北海道日本ハムファイターズと広島東洋カープの2球団が3期連続で減益している様子を見ると、自己資本比率が高い=絶好調で儲かっているとは限らない、ということでもある。

資産が大きいと自己資本比率は上がりにくい(福岡ソフトバンクホークスの事例)

反面、安定的に利益を上げているが自己資本比率が高いとは限らない球団もある。福岡ソフトバンクホークスだ。直近2期は7.8億円、5.4億円と毎期黒字計上で、利益計上額で言えば他球団とも遜色ない金額だが、自己資本比率は20%前半台で変化がない。

福岡ソフトバンクホークスが毎期黒字を計上しているにも関わらず、自己資本比率が20%台である理由は総資産の大きさにある。他球団が比にならないレベルの総資産を同社は保有しているのだ。

BEHIND THE FITNESS編集部作成

いくら純資産を増やそうとも、分母である総資産(自己資本比率=純資産÷総資産)が圧倒的に大きければ、自己資本比率は変わらない。福岡ソフトバンクホークスの資産の大きさは、総額1,000億円で取得した福岡PayPayドーム(旧ヤフオクドーム、福岡ドーム)によるもの。

見方を変えれば1,000億円を超える総資産に対して自己資本比率20%、純資産が200億円以上あるという点は、財務体質の強さを表す1面でもある。福岡ソフトバンクホークスの直近の財務内容は下記の通り。

  • 純資産251億円(全球団1位、2位の約3倍)
  • 利益剰余金83億円(全球団3位、1位は阪神88億円)
  • 流動負債167億円(全球団1位、2位は楽天114億円)
  • 固定負債662億円(全球団1位、2位の約10倍)

まさに「借入も多いが利益も多い」形の典型例。他人資本をフル活用し大きな利益をあげるビジネスモデルとなっており、その様は親会社のソフトバンクグループのDNAを感じることができる。

赤字決算、自己資本比率も低い東北楽天ゴールデンイーグルス

東北楽天ゴールデンイーグルスは2004年11月に創設された新設のプロ野球チームであり、本拠地である楽天生命パーク宮城は所有者が宮城県で、ネーミングライツを同社が保有しているだけで(3年契約2億円)同球場も保有していない。

株式会社楽天野球団決算公告

ここまで読んで頂くと「自己資本比率」があくまで財務健全性・安全性を見る1つの指標で、企業財務には様々な側面があるとご理解頂けたかと思うが、では赤字で自己資本比率の低い「東北楽天ゴールデンイーグルス」は、いよいよ「経営状態が危ない球団なのでは」と思っている読者も多いだろう。

同社の決算公告を見ると、総資産は約129億円で、他球団に比べても遜色ない規模だ。特筆すべきは流動負債の約116億円。固定負債と合わせた負債総額120億円は福岡ソフトバンクホークスを除くと、他球団の中ではトップに位置している。

問題はこの借入はどこからのものかという点だ。もしあなたが、毎期5,000万円〜7,000万円の赤字を出している事業に運営・投資資金として約120億円を貸し付けるだろうか。もちろんプロ野球ビジネスの将来性を考慮すれば「GO」の判断も有るだろうが、一般的に言えば厳しいと言わざるを得ない。借入120億円は親会社である楽天、それに付随する関係会社からのものであると考えるのが順当だろう。

2004年のプロ野球再編問題でも話題となったが、通常プロ野球に参入するのは容易ではなく、参入できる企業は「長く安定的に」球団運営ができる企業が否かを審査される。そのため、資金力を相応に有しており長期的に球団に対して投資を行っていけるか企業のみがプロ野球に参入できる。

つまり「東北楽天ゴールデンイーグルス」は「現在投資を行っている」段階であり、親会社の楽天が安泰で有る限り球団については経営的には踏ん張ることができる。(短絡的だが、資金繰りが厳しい場合は親会社等が資金注入する可能性が高いとも言える)

東北楽天ゴールデンイーグルス公式サイト

プロ野球ビジネスは地域とともに作っていく息の長いビジネスだ。広島東洋カープなど最も若く新規で創設された球団で現存している(チーム名やフランチャイズの変遷は有れど)チームでも1950年に創設されており、既に最低でも70年近い業歴がある。それと比べてしまうと、15年前に創設された楽天ゴールデンイーグルスを他球団と横並びに比較し同じモノサシを使うのは「酷」にも感じる。

もちろん楽天野球団は創設からベンチャー業界や投資銀行出身者など、極めて優秀なメンバーを職員として採用し球団経営に当たってきた。スポンサー獲得の営業手法も、非常に細かい戦略と小さな広告枠から販売していくなど普段永久な努力を続けているし、実際に実績も素晴らしいものがある。

福岡ソフトバンクホークスのように他人資本をフル活用し、大きな利益を生み出すためのチャレンジを行っていると捉えるのが正しいだろう。そういったチャレンジをしている球団に健全な自己資本比率や財務体質を求めるのが、彼らの挑戦を応援することになるのかは判断が分かれるが、楽天のDNAはあくまで「挑戦」と「ベンチャー企業」なのだろう。そのDNAがある限り、球団経営は維持されるはずだ。

自己資本比率トップの北海道日本ハムファイターズが、過去の利益の蓄積をほぼ全て投入してでも成し遂げたい「積年の思い」

株式会社北海道日本ハムファイターズ決算公告

株式会社北海道日本ハムファイターズの貸借対照表を見ると、現預金や売掛金などの流動的な資産が約20億円、不動産やテナント(野球球団であれば球場)子会社株式などの固定資産が102億円、合計122億円の総資産を保有している。逆に、借入金や買掛金等を計上する流動負債は28億円、固定負債は2億円と相対的に低い水準に保たれている。自己資本92億円の内、資本金は2億円で残り約90億円は利益剰余金(過去の利益の累積)だ

同社の直近の財務内容については特筆すべき点が有り、同社の財務体質の強固さと今後のビジョンを示す内容となっている。1期前、第16期(2018年12月期)の決算公告をご覧頂きたい。

株式会社北海道日本ハムファイターズ決算公告

第16期→第17期の決算公告を比較してみると、資産の大きな変動が分かる。

  • 流動資産は91億円→20億円に減少(71億円減少)
  • 固定資産は24億円→102億円に増加(78億円増加)
  • 流動負債は26億円→28億円とほぼ変わらず
  • 資本金は2億円→2億円と変化無し

まず、17期だけの決算公告を見ていると分かりづらいが、16期は現預金や売掛金などの勘定科目が構成する流動資産が元々91億円有り、これが過去の利益の積み上げである85億円とほぼバランスしており、過去の利益がほとんど現預金で残っていると推測できる。この時点で同社の財務体質の堅実さを象徴している。

直近の同社の当期純利益(年間の最終利益)は、第15期21.2億円、第16期7.4億円、第17期4.7億円となっているが、おそらく平均して毎期5億円前後の当期純利益を計上しており、同社が毎期の利益をコツコツと積み上げ財務体質を構築してきたと推測される。

そのコツコツと積み上げた過去の利益が17期になると70億円近くなくなっている。その代わり固定資産が80億円弱増加している。年間5億円としても約15年分の利益を突っ込んで何に投資したのか、ここに同社の強い意思が有る。

その答えは「新球場」だ。

新球場である「ES CON FIELD HOKKAIDO(エスコン フィールド HOKKAIDO)」とそれを中心に作られる「HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE(北海道ボールパークFビレッジ)」の設立への投資を行っている。

2023年3月開業を予定した、この3万5,000人を収容する同施設は、同社にとって長年の悲願だった。報道によると、北海道日本ハムファイターズは本拠地である「札幌ドーム」を札幌市(厳密には札幌市の第三セクターである札幌ドーム株式会社)から年間9億円のコストでリースしていた。

高額なリース料に加え、札幌ドームの年間売上の半分以上を北海道日本ハムファイターズの試合が稼ぎ出しているにもかかわらず、間接的なコストの増大、札幌市からの使用料の値上げ、球場の改善等の要望を聞き入れてもらえないまま、長年に渡って辛酸をなめ続けていた。

本来、流動的な資産である現預金等を固定資産に変えてしまうことは資産を「流動→固定する」ことになり、資産だがすぐには現金化できないことを意味する。資産間の移転とはいえ、本来流動資産の80%を固定資産取得に費やすことは、財務戦略上ナンセンスな戦略と評価する経営者や財務戦略担当は少なくない。それでもこのディールには意味があるのだ。

株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント 公式サイト

今回、新球場が開業するのは札幌市ではなく北広島市。完全に札幌市と決別した格好だ。本稿でお分かりの通り、球団経営は年間数百億円といった桁で利益が出る業態ではない。知名度とは裏腹に、球団の普段永久的な企業努力によって利益を計上し、チームの強化を行っている。

そのような状況で、球場への貢献度の高さと裏腹に、球場での飲食売上などを札幌市に吸い上げられ、要望をまともに聞き入れられないことに対してのフラストレーションがどの程度だったのかは察するに余りある。福岡ソフトバンクホークスが1,000億円の巨額をかけてでも球場を取得した理由にも通じる。

「観客はもっと間近で試合を見たいはずだ」「家族連れがリラックスして試合が楽しめる観客席を」「野球の試合だけでなく1日楽しめる球場と施設を作ろう」こうした「顧客主義」を徹底することで球団のファンを増やすこともでき、その結果業績を向上させることもできる。業績が向上すれば、チーム戦力の強化に当てる予算も増え、良いスパイラルが回り始める。メジャーリーグや海外スポーツリーグでは常識となっているこの「ボールパーク戦略」球団経営に球場運営の併設は不可欠な要素なのだ。

増えた固定資産は球場ではなく”子会社株式”

新しく設立する新球場の運営会社として株式会社 ファイターズ スポーツ&エンターテイメントが設立されている。株式会社北海道日本ハムファイターズは、2020年4月現在この会社の筆頭株主だ。

新会社の代表は、株式会社北海道日本ハムファイターズ川村社長が兼任している

新会社の設立当初の出資金は201億円、そのうち40.8%(82億円)を出資しており、16期→17期で増加した固定資産約80億円の大半は「子会社・関連会社株式」として計上されているはずだ。

北海道日本ハムファイターズは元々「日本ハムファイターズ」という球団名で2003年まで本拠地は東京ドームだった。2004年、北海道にフランチャイズが移り、本拠地を札幌ドームに移してから15年以上が経つ。

それが球団経営として札幌ドームとの軋轢の始まりだった。今回、札幌ドームと過ごした期間に生み出した利益のほとんど全てを投じて、球団が運営管理する新球場を建設する。こんなにも痛快でロマンを感じる瞬間があるだろうか。

この投資は、ただの投資ではない。辛酸を嘗めながらも、普段永久な企業努力によって生み出した利益を「積年の思い」に乗せて投資しているのだ。

“How can you not be romantic about baseball”
“野球にはやっぱりロマンがある”
(映画『Moneyball』)

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