世界一不健康な国から世界一フィットな国へ。フィンランドに見るフィットネス促進のヒント。カギは「インセンティブ」にあり?

運動しない若い世代とフィットネス産業

このところ若い世代の運動不足が問題視されている。運動不足人口が増えると、肥満率や心臓疾患率が高まり医療費の増加につながることが懸念される。また、運動への関心が薄れることはフィットネス産業にとっても好ましいことではない。健康意識や運動意識をどのように高めていくべきなのか、国やフィットネス企業が頭を悩ます問題だ。

そんなときは海外の事例を観察してみるのがよいのではないだろうか。世界で最もフィットな国はどこで、なぜそうなのか、その理由を探ることで意外なヒントを発見できるかもしれない。

医学誌Lancetで2018年9月に掲載された論文では、世界168カ国のデータを分析し、国ごとの運動不足人口率を算出。その数値から、最もフィットな国とそうでない国を割り出している。

同論文によると、運動不足人口率が最も低い国、つまり最もフィットな国はアフリカのウガンダとなった。運動不足人口率の世界平均が27.5%だったのに対し、ウガンダでは5.5%という低い数字だったのだ。95%の国民が十分に運動できていることを示唆している。一方、運動不足人口率が最も高かったのが中東クウェートで、その割合は67%に上った。

ウガンダの運動不足率が低い理由はいくつか挙げられるが、交通インフラが十分に整っていないことや農業中心の経済など、生活のために体を動かさなければならない状況にあることが主な理由と思われる。BBCは、ウガンダで毎日片道2時間かけて徒歩で通勤し、9時から17時まで肉体労働に従事する女性の声を紹介している。この女性、もし十分な給与を得られるのならば、通勤は徒歩ではなく自動車を使うだろうと述べている。

交通インフラが十分に整っている日本と比較するのであれば、高所得国グループの中で運動不足率が最も低かったフィンランドが適当な対象となる。同論文では、世界全体の比較のほか、所得水準ごとの比較も行っている。高所得国において運動不足率が最も低かったフィンランド。その割合は16.6%だった。一方、高所得国グループで最も運動不足率が高かったのは、上記でも登場したクウェートだ。

日本の中でも「幸福度が高い」「健康的」というイメージが持たれているフィンランド。そのイメージを裏付ける数字といえるだろう。

世界一の不健康国家から世界一フィットな国になったフィンランド

現在、名実ともにフィット(健康的)な国であるフィンランドだが、もともとは運動不足人口割合と心臓疾患率が他国に比べ高く「不健康国家」のレッテルを貼られていたことはあまり知られていない。

高コレステロールな食事(写真はイメージ)
Photo by freestocks on Unsplash

医学誌 International Journal of Epidemiologyの論文(2000年2月1日掲載)によると、1960年代に実施された健康統計調査で、フィンランド男性の虚血性心疾患による死亡率が調査対象となった国の中で最も高いことが判明。コレステロールや血圧が高く、また喫煙率が高いことなどが、その理由だと疑われた。コレステロールや血圧が高いのは、運動しないことに加え、高脂肪・高塩分の食事が多いためだったといわれている。

フィンランド政府は、この調査結果を受け同国の健康水準を高めるための取り組みを本格始動。1970年代から運動を促進するための法規制やインフラ整備に加え、人々の意識を変えるキャンペーンを開始したのだ。

こうした取り組みが奏功し、およそ30年で不健康のイメージを払拭し、現在の「健康的」なイメージにたどり着いた。当時の大手メディアの報じ方を見てみると、フィンランドのイメージがどのように変わったのかを知ることができる。

英大手メディアThe Guardian紙の2005年1月15日の記事「Fat to fit:How to Finland did it」は、そのタイトル通り、フィンランドが不健康国家から健康国家になった過程を伝えるもの。この頃すでに、フィンランドが不健康国家というイメージを払拭できていたことを示す記事でもある。

同記事によると、1970年代に比べ、フィンランドの心臓疾患による死亡率は65%減少、また肺がんによる死亡率もほぼ同じ割合で減少したという。

フィンランドの町並み
Photo by Tapio Haaja onUnsplash

なぜここまで劇的な変化を実現することができたのか。

同記事から読み取れる成功要因の1つは、人間の行動原理をうまく活用したモチベーションアップ施策であろう。

たとえば、喫煙者の割合を減らすために実施されたのが、村/地域ごとの禁煙競争プログラムだ。1カ月間、禁煙すれば賞金/賞品が与えられるというもの。またコレステロール値の削減においては、村どうしの競争が行われたという。村人全員のコレステロール値を測り、2カ月でどこまで下げられるかを競うプログラムだ。コレステロール値を最も削減できた村に賞品/賞金が与えられた。

こうしたプログラムでは、どのようにコレステロール値を下げるのか、というハウツーに関する情報は与えられなかったという。なぜなら、人々はすでにコレステロール値を下げる方法を知っていたからだ。重要なのは、人々が行動を起こす動機であり、そのインセンティブを設定することだったという。

村/地域の単位の取り組みは、法規制の改革によって全国レベルでも実施されるようになった。新たな法規制によって、タバコ関連のあらゆる広告が規制されたほか、酪農業者には低脂肪牛乳の生産が義務付けられるなどしたという。フィンランドではかつて、食肉・乳製品の脂肪率に応じて酪農業者の報酬が決まる仕組みがあり、脂肪率が高い製品が供給されやすい環境にあったが、新たな法規制のもとでは、報酬基準は脂肪からタンパク質に変更されたとのこと。

タバコの広告禁止で、同国北カルラヤ地区では、1972年に50%ほどだった喫煙者率は2005年頃には30%ほどまで下がったという。

食事改善、禁煙促進、そして運動促進、通勤で自転車利用者が多い理由

喫煙と食事に関して成果を得たフィンランド政府は、次のステップとして運動を促進するための施策を導入していくことになる。

フィンランド・ヘルシンキ市内のスポーツイベントの様子
Photo by Ethan Hu on Unsplash

その一環で実施されたのが公共のプールや公園の整備。国家予算を地方政府に配分し、安価で利用できる衛生的なスポーツ施設の数を増やしていった。余暇の時間を、バーでのアルコール摂取から、運動で使うように仕向ける施策だ。寒い気候という条件もあり、もともと外出して運動する文化がなかったフィンランドだが、スポーツ施設ができたことで、屋内で運動にいそしむ人々が増えたという。

余暇だけでなく、通勤でも身体を動かす環境の整備が進められた。政府予算により、都市間を結ぶ徒歩/サイクリング専用ロードが次々と建設されていったのだ。

英語メディアWIREDは2019年6月27日に「The Most Bike-Friendly Cities on the Planet, Ranked」という記事の中で、自転車に優しい都市世界ランキングを公表しているが、フィンランドの首都ヘルシンキは10番目にランクイン。自転車インフラが整っており、通勤で自転車利用者が多いと伝えている。 フィンランドなどの北欧諸国は環境保全分野で先進的な取り組みを見せており、環境先進国と呼ばれている。自転車利用が盛んであることも、環境先進国と呼ばれる所以であるが、フィンランドで自転車利用が広がったもともとの理由が健康増進にあると知る人は少ないかもしれない。

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