侮れないシニアパワー、コロナ禍でも「長寿経済」は拡大する

「高齢者は社会・経済のお荷物」というのは本当?

「エイジズム」という言葉を聞いたことがあるだろうか。「レイシズム(人種差別)」や、「セクシズム(性的差別)」に倣った言葉で、「高齢者差別」のことだ。高齢者をステレオタイプ化し、偏見を持ち、差別することを指す。

ヘルスケアの普及や質の向上で、私たちの寿命は伸び続け、最近では「人生100年時代」といわれるようになっている。長く生きれば、身体的・知的能力の後退は仕方がないこと。そのたった一面だけを捉え、攻撃の対象にしている。

老人ホームを「現代の姥捨て山」だと嘲笑したり、高齢者福祉に税金があてられるのを納税する若者ばかりに負担がかかってかわいそうと文句を言ったり、高齢者を社会・経済の邪魔者扱いする傾向がある。

実はこれが大きな間違いであることをどれだけの人が認めているだろうか。

国民の長寿化がもたらす利益

街で自転車にまたがる高齢者の様子
Image by Martin Vorel from LibreShot.

「人生100年時代」は寿命の伸びを表しているのみに留まらない。人生の後半においても健康を維持し、生産性を維持することも意味する。これは人類が未経験だったことだ。

にも関わらず、シニアといえば、慢性病や認知症などと結び付け、長寿は社会・経済に負担をかけるだけという考えがいまだにはびこっている。

これが時代遅れであることを証明しているのが、米国のAARP(旧米国退職者協会)のエコノミスト・インテリジェンス・ユニットによる、『ロンジェビティ・エコノミー・アウトルック』という2019年末に発表された報告書だ。

「ロンジェビティ・エコノミー」は「長寿経済」と訳される。米国を例に挙げると、国民の長寿化によりもたらされる国全体へ影響は大きい。

50歳以上の人口や米国人の消費習慣、ワーク/ライフにおける嗜好に留まらず、米国全体に影響を与えていることが、同報告書を読めば一目瞭然。さらに、シニアが将来担う役割にも言及する。長寿化がもたらす経済・社会的可能性を具体的に挙げ、取り組み方を示唆している。

数字を見れば明らか、50歳以上人口の経済への貢献

街を手をつないで歩く高齢者夫婦
Image by pasja1000 from Pixabay

『ロンジェビティ・エコノミー・アウトルック』によると、米国内の50歳以上の人口は1億1740万人で、全人口の35%にあたる。うち4400万人が退職している。

50歳以上の人々が支出、仕事、税金を通して国内経済に貢献する額は8兆3000億USドル(約874兆円)でGDPの40%を占める。前回調査が行われた2013年時の7兆1000億USドル(約748兆円)からかなりアップしている。

年齢に関係なく国民の雇用にも大きく貢献している。8860万人の雇用の創生にも寄与しているのだ。これは全雇用者数の44%にも上る。賃金においても同様で、5兆7000USドル(約600兆円)に及ぶ。これは支払われる全賃金の46%だ。

税金もしかり。連邦税として1兆4000億USドル(約147兆円)、州税・ 地方税として6500億USドル(約68兆円)を納めている。各々全体の43%、37%を占めていることになる。

無報酬の仕事の価値は約79兆円にも

現役で仕事を続け、賃金を得て働く人がいる一方で、無報酬で仕事をする50歳以上の人もいる。無報酬の仕事には例えば、年を取った親や祖父母の介護、孫の世話、ボランティアなどが挙げられる。

親や祖父母の介護と、ボランティアは各々全体の55%、孫の世話は12%を、50歳以上の人びとが行っている。50歳以上が行うこうした無報酬の仕事を貨幣として評価してみると、親や祖父母の介護は2600億USドル(約27兆円)、孫の世話は3440億USドル(約36兆円)、ボランティアは1400億USドル(約15兆円)となる。合計では7450億USドル (約79兆円)にもなる。

社会で重要なポジションに就くシニア層

財務関連の情報を関係者に提供する企業、アドバイザー・パースペクティブがまとめた8月更新時の労働人口調査では、65歳以上の人々は2000年以降、労働人口における人数は約2倍に増えている。それが全労働者に占める割合は米国労働省労働統計局による年齢別労働人口調査で7%となっている。年齢を下げて55歳以上とすると、23%以上を占めるまでになる。

現在、シニア層の労働者は、経済全体で重要な位置を占める。55歳以上は、建設労働者の22%、製造業の労働者の25%を占める。また農業従事者の平均年齢は58歳。医療保険業界では、開業医の3分の1が60歳以上、病院で働く公認看護士の4分の1が55歳以上だという。

さらに大きく成長が予測される「ロンジェビティ・エコノミー」

iPadでゲームをする高齢者女性の手元の様子
Image by Sabine van Erp from Pixabay

シニア層の経済面での貢献は、将来も続くものと考えられている。『ロンジェビティ・エコノミー・アウトルック』では、2050年までにGDPへの貢献は28兆2000億USドル(約3000兆円)に、賃金は2兆USドル(約210兆円)に、連邦税として5兆.8000億USドル(約611兆円)、州税・地方税として2兆5000億USドル(約263兆円)を納めることが予測されている。

同報告書で将来的に有望と分析されたのは、金融サービス、テクノロジー、看護・介護、不動産・建設、娯楽、教育の分野だ。中でも特に進むだろうと考えられているのがテクノロジーの分野だ。スマホとアプリ以上のアイテムを求める傾向にあり、スマートホームや、自動運転車、コンピュータでの遠隔教育に興味を持っているそうだ。

コロナでも、ロンジェビティ・エコノミーは拡大する?

今後もロンジェビティ・エコノミーはますます成長を続けることが予測・期待される中、今年に入ってすぐ未曾有の出来事が世界を席巻した。新型コロナウイルスのパンデミックだ。

シニア層が新型コロナウイルスに感染すると、病状が重くなることは今では誰もが知るところとなっている。米国疾病予防管理センター(CDC)によれば、米国においてコロナが原因で亡くなる人の10人に8人が65歳以上だそうだ。

科学全般に関する論文誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』で7月末に、カリフォルニア大学バークレー校の人口統計学者2人が発表した、米国におけるコロナによる死亡率に関連する論文では、コロナが寿命にどのような影響を与えているかに触れられている。

それによれば、コロナの影響で平均余命、余寿命ともに短くなっていることが分かり、前者では約3年、後者では約12年短くなったと筆者たちは計算している。

資産運用を行うアクサ・インベストメント・マネージャーズのロンジェビティ・アンド・バイオテック・ストラテジー部門で、資産運用の副責任者を務めるピーター・ヒューズ博士は、5月『ロンジェビティ・エコノミー・アウトルック』で将来有望と触れられている6産業分野のうち、テクノロジー分野は、コロナ後にも順調に伸びを続けるだろうと自社の報告書で語っている。

コロナ蔓延という負担が加わり、医療システムのキャパシティはギリギリにきている。テクノロジーを利用し、感染を心配せずに自宅でかかりつけの医者に相談ができる、「テレヘルス」はいまやブームともなっている。

依然としてパンデミックは続いている。人びとはコロナ以前とは違った生活を送るようになった。しかし変わらないこともある。それは、私たちが年を取るということ、そして高齢化が進んでいくということだ。

ヒューズ博士は、ポストコロナにはシニア層の消費パターンが変化するかもしれないが、推進力である「高齢化」という現象が続く限り「ロンジェビティ・エコノミー」も損なわれることはないと述べている。

企画・編集:岡徳之(Livit)

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