「高齢者=ITに弱い」という先入観は捨てよ。パンデミックで拡大するアクティブ・シニアのデジタル消費

今や世界的アイコンの「ゲーマーおばあちゃん」

 世界中が不安と陰鬱を抱えて家に引きこもっていた今年初夏、彗星のように現れて世界中のネチズンの心を癒した90歳の日本人女性ゲーマーがいる。「あ、ゲーマーグランマね」とピンと来る人もいるはずだ。

主な発信の場であるYouTubeにおけるチャンネル名を流用した「Gamer Grandma」の呼び名で世界のゲーマーの話題をさらったのは、「世界最高齢のゲーム実況者(ギネス公式記録)」こと森浜子さん。彼女のもとには、AFP通信(フランス)やGulf News(アラブ首長国連邦)など、世界各国のメディアが殺到した。

森浜子さん
https://www.youtube.com/watch?v=Tpqj47mMlY0

その小柄で楚々とした90歳日本人女性らしいビジュアルとは裏腹なコントローラーさばきで、「Ghost of Tsushima」や「バイオハザードRE:3」などの殺伐とした最新ゲームの中で楽しげに殺戮を重ねる。

そしてやはり年齢からは想像もつかない、かくしゃくとした口調でゲームの楽しさを語ったり、「同年代のゲーム仲間が見つからない」と愚痴をこぼしたりする(そりゃそうだ)。

しかし、ときにはバトルゲームで戦時中のことを思い出していきなり昔話を始めてしまったり、「クリアするまでに若い人の10倍時間がかかる」と嘆いたりといった、おばあちゃんらしいおちゃめな姿も見せる。

そんな彼女は、「ゲーム=不健康」「シニア=機械に弱い」「年を取る=刺激のない毎日を送るようになる」といった、自分の身に起こると想像するとちょっと憂鬱になる高齢者ステレオタイプをキルしてくれる新時代シニアのアイコンとして、100年人生の歩み方を模索する先進国社会に歓迎された。

シニア世代をデジタル利用へ誘ったパンデミック

そもそもアクティブ・シニアをアクティブ・シニアたらしめる要因はさまざまなものが考えられるが、日常のさまざまなシステムがIT化されていくこれからの時代を「アクティブ」に過ごすには、彼らのデジタル消費の増加が重要な一端を担うことは疑いようがないだろう。

実際、先述の森浜子さんほどのスクリーンタイムを日々費やさずとも、デジタル親和性の高いシニアが急増しているという。

特に今年は、年明け早々に始まりいまだ出口が見えない新型コロナウイルスのパンデミックにより、いわゆる「リアル」のコミュニケーションや行動が遮断され、デジタルデバイス・サービスの利用を強いられた高齢者が多く、結果としてさまざまなデジタル手段を使いこなすシニアが急増する事態となったといわれている(詳しくは後述)。

 また、パンデミックの最中、運動不足が気になってオンラインでエクササイズ動画を物色した人も少なくないだろうが、シニアにとって運動不足は、筋力や認知力の低下といったもっと深刻な問題と隣り合わせだ。そこで気軽に外出や面会ができなくなった高齢者向けに、自宅でできる運動の動画を作成・公開した自治体や企業は少なくない。

 さらに施設で暮らす高齢者の脳トレや家族とのコミュニケーションツールとしてのeスポーツの活用推進を決定した神戸市、同様の目的の使いやすいアプリを開発した企業など、高齢者の老化の加速や孤独の問題をデジタル技術で解決しようとする取り組みがさかんになった。

Photo by Ben Collins on Unsplash

 個人レベルでも、スマホやタブレットを活用して離れて暮らす両親と連絡を取ったり、子どもの写真を共有したりといった「デジタル親孝行」を実践する人も増えているが、そういった場合もやはり、ツールを導入するところからサポートするケースが多いという。

 なかなか会えなくなってしまった子どもや孫の近況見たさにSNSの利用を始めたシニアが、同じプラットフォームを利用する同世代の知人を見つけ、その知人が趣味に関する投稿をよくしたりしていると、自分も刺激を受けて日常のちょっとした出来事を共有してみたりと、横のつながりが広がっていくケースも。

 「なんか難しそう」「俺はそういうのいいよ」とデジタルツールを敬遠してきたシニア層に、必要に迫られての利用を爆発的に拡大させたのが今年のパンデミックだったようだ。

注目はEコマース利用とウェアラブル

 経済的な意味でひときわ注目を浴びるのが、高齢者によるEコマース利用の増加だ。

中でもいわゆる戦後生まれの「団塊の世代」(1947年~1949年生まれ)は、いまだ人口ピラミッドにおいても最も厚い層をなし、大量消費時代に成人期を過ごし、現在安定した老後を送っているといった経済的な影響力が無視できない要素の揃ったグループ。

だが、そんな彼らは激動の時代を自らの手で築いてきた背景から、70代となった今でも従来の高齢者よりも新しい技術やサービスを試すことに心理的な抵抗が低いと言われている。

米マッキンゼーのパートナーであるエコノミストのJaana Remes氏は同社ポッドキャストで、ベビーブーム世代は既存の価値観を打ちこわし、教育を受け、多様な社会を切り開いてきたこと、特に都市部の高齢者がいまだ高い購買力を保っていることを踏まえ、これからのビジネスは従来の「高齢者」のイメージをいったん捨てた上で、消費者としての彼らを注視する必要があると指摘した。

また、2002年から全世代のオンライン購入行動に関する調査を継続している総務省のデータによれば、それまでにも徐々に増加しつつあった50代以上のオンラインショッピング利用は今年5月の時点で飛躍的に増加している。

50代を中心に若年層よりも一人当たりの支出が大きく、特に食料品やより年齢の高い層の伸び率が大きいことから、高齢者の感染への恐れが新しい買い物習慣への抵抗感を上回り、その結果、日常的な買い物のオンラインへのシフトを後押しした可能性が指摘されている。

欧米で「ベビーブーマー」と呼ばれる層はもっと広く1960年あたりまでに生まれた世代を指すことが多いが(定義による)、彼らの消費行動が注目を浴びている傾向は世界共通だ。

アメリカのマーケティング専門メディアeMarketerによると、パンデミック以前の昨年末の時点ではブーマーの87%がオンラインよりもリアル店舗での買い物を好み、7割前後が2020年も実店舗で買い物をすると回答。

 一方、今年2~3月の時点ですでに34%のブーマーが買い物をオンラインにシフトし、6月に行われた調査では45%がオンライン購入に費やす金額が増加したと回答している。また83%がオンラインでの買い物は簡単だったと体験しており、「一度この学習曲線を乗り越えた人は、オンライン利用を継続するだろう」といった予測も。

ただし導入部分には何らかの「不慣れ感」軽減の要素は必要なようで、彼らの多くが従来利用していたリアル店舗のオンラインサービスを好んで利用するという指摘もされている。

 しかしここで留意したいのは、先述の米経済学者Jaana Remes氏のポッドキャストで「体験が重要」という指摘が丁寧になされていたこと。日本には特に、買い物や医者通いが日々の刺激兼社会とのつながりになっている高齢者も多い。買い物をオンラインにシフトした分、それに代わる体験の提供、もしくは代替のサービスが求められることだろう。

健康に関する分野では「ウェアラブル」に注目

また高齢者と切っても切れないテーマが「健康」だが、先述のように身体的な運動や認知機能サポートのためのデバイスやアプリ、オンラインサービスはパンデミックを機に開発が加速している。またこのジャンルでは最近特に、利用者が持ち運んだり電源を入れたりといった心配の少ない「ウェアラブル」が熱視線を浴びているようだ。

Photo by Fabian Albert on Unsplash

 高齢者向けの経済情報を発信するメディア「SilversFan」は、今年前半に自身の健康状態のモニタリングのためにスマートウォッチを購入する人が急増したこと、ウェアラブル医療機器の世界市場が2025年までに466億米ドルに達するという分析結果などを踏まえ、高齢者にとってのウェアラブル医療機器の意義を考察。

 下着に取りつけたり、タトゥーのような形で体内に埋め込んだりできる健康モニター・サポート機器の利用により、本人の命や健康を守るだけでなく、より多くのデータの集積、本人や介護者の自由と独立の拡大、より個人に適したカスタマイズなどが可能になるとその利点を主張している。

まずは「高齢者=IT機器に弱い」という先入観を捨てて

  今回、高齢者のデジタル利用について調べてみて、各方面の専門家が「これからの高齢者には、従来の高齢者のイメージを捨ててサービスを考える必要がある」と主張するのが目についた。新しいことを試し続けることが脳の老化の防止につながることは周知の事実だが、そういう意味でもこの新しい「高齢者」の時代の到来は朗報だ。

 高齢者を意識してデザインされたデバイスやサービスは、誰にとっても使いやすいグローバルデザインに発展する可能性もある。私たちはITと高齢者を切り離して考える癖を改める時期に立っているようだ。

企画・編集:岡徳之(Livit)

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