平均寿命世界一のシンガポールで活況迎える「エイジテック・イノベーション」最新動向

先進国を中心に進む高齢化。「若い国々」の代名詞であった東南アジアにも高齢化の影は忍び寄っている。中でも「高所得国」に属し、東南アジアで最も経済発展を遂げたシンガポールでは、現在8人に1人が65歳以上。10年後にはその倍に増えることが予測され、高齢化は国が早急に対処すべき課題として浮上している。

多くのテック系スタートアップを輩出し、官民を挙げたテクノロジー開発が活発な同国では「エイジテック」を駆使したさまざまな取り組みが行われている。本記事では、シンガポールで進められるエイジテック・イノベーションの最新動向をお伝えする。

日本を抜いて世界一。高齢化が急速に進むシンガポール

日本が世界有数の長寿国であることは、誰もが知るところであろう。しかし、2017年にシンガポール保健省と米ワシントン大学付属健康測定・評価研究所(IHME)が行った平均寿命調査によると、シンガポールが日本を抜き世界1位に躍り出た。

シンガポール人の平均寿命は84.79歳、健康な状態で過ごす年月も74.2年とトップ。2位の日本は平均寿命が84.19歳、健康寿命は73.07歳という結果であった。1990年の同調査と比較すると、シンガポールは平均寿命が8.7歳、健康寿命が7.2歳も伸びているという。ここ30年で急速に高齢化し、本格的に「高齢化社会」の仲間入りをした形である。

なお、同じ東南アジアのタイでも高齢化が進んでおり、2021年には60歳以上が人口の20%を超えると予測される。今は若年層が多い東南アジアの他地域でも、子どもの出生率は減少傾向。国や地域に関係なく、高齢化は世界共通の問題であることが分かる。

テクノロジーの力で高齢者の生活向上を図る「SHINESeniorsプロジェクト」

2030年、シンガポールでは65歳以上の高齢者が96万人に達することが見込まれる。しかも、そのうち約1割である9万2000人が一人暮らしになると推定されている。

近年シンガポールでは、高齢者の生活の質と社会関与レベルを改善するため、エイジテック開発に力を入れている。シニアサポートのためのデジタル技術は、国内の医療機関や高齢者施設で急速に普及し始めている。

SHINESeniors公式紹介動画

シンガポール経営大学(SMU)はインド財閥系ITサービス&コンサル会社のタタ・コンサルタンシーサービス(TCS)と提携して「SMU-TCS iCity Lab」をローンチ。そこでAIなどを活用したエイジテックソリューションの開発に乗り出した。

SMU-TCS iCity Labが始めたプロジェクト「SHINESeniors」は、一人暮らしの高齢者を対象としたデータドリブン型のコミュニティケアである。

家族と同居する高齢者に比べ、独居の場合は精神的・身体的なサポートが難しく、身体の異変や事故があったときの対応が遅れ、最悪のケースに至ることも少なくない。しかし、施設での集団生活を望まず、リスクを感じながらも一人暮らしを続ける高齢者は多い。

SHINESeniorsは、最新機能を搭載したセンサーと在宅ケアによって、住み慣れた自宅やコミュニティで、高齢者が自立した生活を送れるようにすることを目指している。

プライバシーを損なわずにスマートに“監視”

センサー対応の家では、物理的環境(換気、騒音、温湿度など)と、高齢者の日常生活のパターン(自宅での移動パターン、服薬遵守、睡眠の質など)を監視することができる。

さらに、センサーは個々の生活パターンをデータとして蓄積。パターンに異常が見られた場合は、リアルタイムで介護者に通告される。なお、センサーによってプライバシーが損なわれることはない。

高齢者の生活パターンを経時的に観察・分析することで、健康状態が悪化する前に適切な処置をとることができる。特に転倒や事故など助けが必要な緊急事態においては、タイムリーな介入が可能となるだろう。

イノベーティブな取り組みで「SuperNova Awards」を受賞

SHINESeniorsプロジェクトは地域の介護・ソーシャルワーク団体と連携して行われており、2019年にはイノベーティブな技術で社会を変革するテック企業・チームに贈られる「SuperNova Awards」のAI&AugmentedHumanity部門においてを受賞した。

人との触れ合いを保ちながら、テクノロジーによる“さりげない見守り”によって、可能な限り自由で自立した生活を実現させることを目標としている。時代に即したシニアケアとして、ますます注目が高まるだろう。

次々と生み出されるエイジテック製品

https://www.healthstats.com/

シンガポールのテック企業Healthstats Internationalは、動脈波データをキャプチャして血圧を測定するウェアラブル端末「BPro」を開発した。

BProは手首に装着して、15分間隔で中心大動脈の脈波をキャプチャする。24時間経過後にデータからレポートが作成され、平均動脈圧や中枢動脈圧などが出力される。これにより、脳卒中や心臓発作のリスクが予測できる。同商品は臨床実験中だが、すでに20カ国以上から承認を得ている。

https://www.senescence.life/

テクノロジーによる認知症予防や脳機能の向上に取り組むヘルスケア企業Senescence Life Sciencesの栄養補助食品部門は、脳の健康を改善し、認知能力を高める脳サプリを開発。記憶力・認知力低下を防ぐ「REVIVE powered」とストレス耐性を高める「EDGE powered」の2種類を販売している。

また、同社の製薬部門では、アルツハイマー病の予防と治療のための医薬品を開発中。アルツハイマー病は高齢者に最も多い疾病の一つで、米国アルツハイマー病協会によると、高齢者の3人に1人はこれで亡くなっているという。

この割合は、乳がんと前立腺がんを足したものよりも高い。さらに、米国ではアルツハイマー病にかかる医療費は高額であり、2050年には年間1.1兆米ドルを超すと予測されている。同社の開発が成功すれば、アルツハイマー治療の大きな前進となることは間違いないだろう。

平均寿命世界一、急速に高齢化が進むシンガポールで生まれるエイジテック、そうしたテクノロジーがもたらす社会変革から、同じく高齢化が進む先進国として日本も目が離せない。

企画・編集:岡徳之(Livit)

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