高齢者向けフィットネスを提供するベンチャー「AgeBold」「Motitech」に学ぶシニアの運動習慣促進のヒント

毎日1万人ペースで退職者が出ている米国。ベビーブーマー世代も高齢に差し掛かり、シニア対象のビジネスはいずれの分野でも活況である。仕事に趣味にアクティブに生きてきた彼らだが、身体的な衰えから、ちょっとしたケガでも大事に至るケースは少なくない。

米国ではシニアのケガによる医療支出は年間500億米ドルを超え、政府の財政をひっ迫。重大な経済・社会問題として注視される中、それらをテクノロジーの力で解決しようという動きも活発になってきている。そこで、本記事ではフィットネス分野で注目を浴びるエイジテックスタートアップ2社に着目。それぞれの取り組みとインパクトを解説する。

高齢者による莫大な医療費支出が社会問題に

米国国勢調査局によると、2050年には65歳以上の人口が8,370万人を超え、2012年のほぼ2倍の数になるという。特に85歳以上の“超高齢者”は、労働人口よりも速いスピードで増加すると予測され、様々な分野での影響が懸念されている。

米国メディケア・メディケイト・サービスセンターよると、2010年の高齢者による医療費支出は全体の34%を占め、一人当たりの医療費は年間約18,000米ドルであった。この額は子どもの5倍、成人の3倍に相当するという。

米国では65歳以上の高齢者は、連邦政府による公的医療保険「メディケア」の加入資格を持つ。シカゴ連邦準備銀行の研究グループがまとめた報告によると、1996年から2010年の高齢者医療費の政府負担は65%を占め、その多くは低所得層による利用であったという。広がる貧富の差と待ったなしの超高齢化問題。増え続ける医療費は、国の喫緊の課題として立ちはだかっている。

シニア向けオンライン運動プログラムを提供「AgeBold」

オンラインのシニア向け運動プログラムを提供するカリフォルニアのスタートアップ「AgeBold」のウェブサイト
https://www.agebold.com

身体を動かすことで健康寿命を延ばし、医療費を抑える。健康に気遣う人なら、ジム通いやジョギングなどなんらかのフィットネスを生活に取り入れていることだろう。しかし高齢になると、病気や足腰の衰えから外出が難しくなることも少なくない。さらに今はコロナ感染拡大の影響で、誰もが家に引きこもりがちになっている。

そんな中、オンラインのシニア向け運動プログラムを提供するカリフォルニアのスタートアップ「AgeBold」が注目されている。

AgeBoldの共同設立者アマンダ・リースは、祖母の介護経験から、高齢者が自立して過ごすためにはフィットネスが欠かせないことを身にしみて感じたという。そこでリースは、自宅でプロのトレーナーが作った専用プログラムを受けられる、シニア向けオンライントレーニング「Bold」を考案した。

アルゴリズムを通じてメニューをパーソナル化

オンラインのシニア向け運動プログラムを提供するカリフォルニアのスタートアップ「AgeBold」のウェブサイト
https://www.agebold.com/tests/

利用者はまず、筋力、柔軟性、バランス力を測る簡単なテストを受ける。いずれもオンライン上で無料で受けられ、所要時間も1項目につき1分程度だ。その結果をもとにアルゴリズムが診断し、当人に最も適したクラスやプログラムが示される。

コースは「ベーシック(無料)」「年額制(180米ドル/年)」「月額制(25米ドル/月)」の3つ(診断によるパーソナルメニューは有料コースのみ)。リーズナブルな価格設定で、所得が少なくても出せる金額であることが、支持拡大の一端になっている。

有料コースを選択すると、AgeBoldメンバーによる個別のアドバイスやフィードバックをもらうことができる。漫然とプログラムをこなすのではなく、状況に合わせてプロから適切な助言をもらえることは、利用者にとって励みになる。手軽かつあらゆる側面でパーソナル化した取り組みが高齢者の心を掴んでいる。

高齢者向けのバーチャルサイクリングを開発「Motitech」

ノルウェーのテック系スタートアップ「Motitech」が開発した、高齢者向けのバーチャルサイクリング「Motiview」のウェブサイト
https://motitech.co.uk

ノルウェーのテック系スタートアップ「Motitech」が開発した、高齢者向けのバーチャルサイクリング「Motiview」も話題だ。現在はノルウェーのほか北欧諸国や英国、カナダ、オーストラリアなどで広まり、高齢者施設やデイケアセンター、コミュニティセンターなど数百カ所に導入されている。

Motiviewは柔軟性の向上、転倒防止、怪我のリハビリ、食欲向上、肥満防止、不眠解消など身体機能向上のほか、メンタルヘルスにも効果があることが確認されている。

「懐かしい場所を走る」ことで認知症予防に

(Motiviewのデモ動画)

Motiviewは、映像を見ながら専用のエアロバイクを漕ぐことで「世界を旅している」ような感覚が得られる。利用者は1,700以上あるプレイリストの中から好きな国・地域を選択して「サイクリング」をする。バックミュージックも好きな音楽を設定でき、細かいカスタマイズが可能である。

Motiviewは、運動と視覚刺激を組み合わせることで脳の動きを活発化し、特に認知機能を飛躍的に改善する。お年寄りは、サイクリングをしながら若い頃に訪れた旅先や、自分の住んでいた場所の近くを通るかもしれない。

故郷や懐かしい場所にアクセスすることは脳に刺激を与え、豊かな感情を呼び起こす。楽しい思い出は自己肯定感を高め、施設スタッフや入所者との会話のきっかけにもなるだろう。

最高齢の参加者は103歳。シニア向け自転車イベントを開催

ノルウェーのテック系スタートアップ「Motitech」が開発した、高齢者向けのバーチャルサイクリング「Motiview」の実際の利用シーン
https://motitech.co.uk/news-roadworlds/gramps-get-their-own-champs

Motitechは英国の自転車競技団体British Cyclingや公的機関Sport Englandと提携し、Motiviewを使った高齢者向けサイクリングイベント「Road Worlds for Seniors」を毎年開催している。

Road Worlds for Seniorsは、高齢者施設やデイケアセンター等を対象にしたグローバルアクティビティプログラムの一つ。毎年9月、英国のヨークシャー地方で開催される国際自転車レースUCI Road World Championshipsと並行して行われる。

2019年大会には英国、ノルウェー、スウェーデン、カナダ、オーストラリアなど計7カ国から194チーム、4,333名が参加した。最高齢参加者は103歳の英国人女性であったという。

同イベントは1ヶ月の間に、どれだけ「走った」かで競われる。施設(チーム)そして個人(男女別)で走行距離を競い、優勝者にはトロフィーも贈られる。2019年の男性個人総合1位に輝いた84歳のカナダ人ノーマン・コテ氏は、25日間で約5,300kmを走行した。

自立して生活する高齢者に比べ、施設入所者は行動範囲が限られ、不自由な生活を強いられがちである。Road Worlds for Seniorsは、そんな彼らの「生きがい」にもなっているようだ。実際イベント期間中、ノルウェーのある施設では、入所者の希望によりエアロバイクの使用時間を延長することもあったという。

人生100年時代を迎える今、健康を維持するだけでなく、充実したシニアライフを送れるかどうかは大きな関心事であろう。それを叶える手段として、エイジテックの役割は今後より重要性を増していくに違いない。

企画・編集:岡徳之(Livit)

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