【M&A事例教室】RIZAP(ライザップ)が山口県のジム1店舗を買収?

今やフィットネスクラブ・ジム業界では飛ぶ鳥を落とす勢いで成長し確固たる地位を確立したRIZAP(ライザップ)。運営会社のRIZAPグループ株式会社といえば、企業再生が必要もしくは再生途上の財務状態が芳しくない企業を次々と買収し再生させるM&A戦略が印象的だが、RIZAPグループ株式会社の前進である健康コーポレーション時代は、現在とは異なるM&Aへの取り組みがあった。

今回は、2013年4月に健康コーポレーション(現RIZAPグループ株式会社)が発表したフィットネスクラブの買収事例について解説していく。フィットネスクラブ・ジムの全国展開や拡大を考えている経営者にとっては、非常に示唆に富む事例かと思いピックアップした。

2013年のRIZAP(ライザップ)事業の状況

トータルボディメイクジム「RIZAP(ライザップ)」は、2012年2月に第1号店(神宮前店)をスタートしている。今回の買収事例は2013年4月に開示された内容で、この時点でRIZAPは大型直営店舗8店舗、サテライト店5店舗(開示資料原文ママ)という、まだ大手の一角とは呼べない規模の店舗数であった。なお、この当時のRIZAP運営会社は、健康コーポレーションの100%子会社であるグローバルメディカル研究所株式会社である。

RIZAPグループ株式会社|2013年3月期|決算説明会資料

健康コーポレーショングループ全体では、2013年3月期の売上高178億円、経常利益9億円という規模。

RIZAPグループ株式会社|2013年3月期|決算説明会資料

RIZAP事業は累計会員数が3,000名を突破したところ。(備考:2019年3月期では累計会員数13万人)

RIZAPグループ株式会社|2013年3月期|決算説明会資料

2012年2月にスタートしたRIZAP事業、この時点では年商も20億円程度の「伸び盛りの中堅ジムチェーン」規模で推移していた。

RIZAPグループ株式会社|2013年3月期|決算説明会資料

この当時の財務状況は、PLでは利益計上できているものの、RIZAPへの先行投資も含め借入でアクセルを踏んでいる状態で、自己資本比率も20%程度と改善の途上に有り、そこまで財務が強固では無い状態であった。

RIZAPの買収対象

RIZAPを運営していた健康コーポレーション(当時)が開示した買収対象は以下の通りである。

ウイングスポーツクラブ 下関|施設外観 :引用ウイングスポーツ
  • 株式会社スポーツアカデミーが運営していた事業部門
  • ウイングスポーツクラブ及びゴルフガーデン事業
  • 当該事業は山口県下関市に所在しているスポーツ施設1店舗
  • 会員1,300名(当時)
  • ゴルフ練習場設備を併設
  • その他スカッシュルーム等も有している複合施設

ウイングスポーツクラブ及びゴルフガーデン事業の財務状況

RIZAPグループ株式会社|平成25年4月22日|開示資料より抜粋

売上高は275百万円、売上総利益(粗利)263百万円、営業利益13百万円(営業利益率4.7%)という損益計算書(PL)の構成となっている。また、譲渡対象事業の貸借対照表(BS)は、流動資産(現預金や売掛金等)は1百万円、固定資産62百万円(施設や設備の金額)、流動負債11百万円となっている。

おそらく流動負債11百万円は、人件費や家賃等の支払いなど月締めで支払う運転資金の金額と推測される。対象事業の販管費が年間250百万円と開示資料から読み取れるため、約1ヶ月分の販管費が約21百万円、その中の11百万円(52%)であるため、借入等を引き継いだということでは無いと読み取れる。

買収金額は1.7億円だが、これは割高?割安?

RIZAPグループ株式会社|平成25年4月22日|開示資料より抜粋

この1施設の買収金額は170百万円。全て現金による決済となっている。PBRベースでは対象事業の純資産52百万円の約3.3倍、PERベースでは13倍と、EBITDAが仮に20百万円としてもEBITDA倍率8.5倍だ。これを割高と感じるか、割安と感じるか、読者の方はどのように感じられるだろうか。

業種や業態によって差は当然あるが、一般的な事業会社におけるM&A案件の取得コストの目線としては若干割高に見受けられる。100百万円~120百万円くらいの取得に抑えられると比較的「良い目線で取得できた」という感覚として評価する方もいらっしゃるかもしれない。

しかし、当該案件を買収せずに対象エリア(山口県下関市)に新規出店すると仮定した場合どうだろう。当該案件と類似した物件を取得(もしくは賃貸)、内装工事を行い、施設で働くスタッフの募集と、会員1,000名超を目標とした会員募集のマーケティングを実施等々考えた場合、イニシャルコストだけでも容易に1億前後のコストが想定される。

且つ、2013年時点の山口県下関市の人口は約27万人、ウイングスポーツクラブ及びゴルフガーデンの商圏での対象ユーザーの母数は多くても3-5万人。その中において既に1,300名(2.6% – 4.3%の市場占有率)で、日本のフィットネス参加人口比率3%台と比較しても違和感の無いシェアと考えられる。つまり1,300名の会員をこのエリアで獲得している当該施設は、そのエリアのいわばトップシェア施設であったと推測される。

また、RIZAPは当時13店舗とはいえ、かなりのペースで事業成長を行っていたが、健康コーポレーショングループ(当時)全体で見ると健康機器事業や「どろあわわ」などの美容商材の通販事業も好調で、1,300名の会員に対して商材を販売促進できると考えれば、RIZAPにとって見れば「妥当」もしくは「割安」だったのかもしれない。

フィットネス事業は特に新規出店時のイニシャルコストの高い事業構造であるため施設資産の価値に目がいきがちだが、実態は会員資産や既存事業とのシナジーなど多岐に渡るポイントによって評価を行い買い手に売り込むことで、思っても無い金額でM&Aが成約することもあるのだ。

買収後は?RIZAPのPMIと店舗拡大時の出店戦略

ここからが面白く非常に示唆に富む内容といっても過言ではない。RIZAPが買収したこのウイングスポーツクラブ及びゴルフガーデン事業だが、2019年5月現在もRIZAP傘下で、且つ名称もそのままで健在である。

2013年4月に当該施設(事業)の買収を発表した後、8ヶ月後の2013年12月に開示された内容は以下の通りだ。

RIZAPグループ株式会社|平成25年12月10日|開示資料より抜粋

RIZAPはなんと、この買収した施設内に、「RIZAP ウイング下関店」をオープンしたのだ。ポイントは、スカッシュルームとして使用していたスペースをRIZAPのブースとして改装しオープンした点だ。

RIZAPグループ株式会社|平成25年12月10日|開示資料より抜粋

ウイングスポーツクラブはスポーツ複合施設であるため、様々な競技に対応した施設を有しているが、当然その施設内のスペースごとに収益効率が異なる。おそらく、当該施設においてはスカッシュルームが収益性としては低い部類に有り、ここをRIZAPのブースに転換することで、施設全体の売上並びに利益効率も向上させ、且つ簡易の内装工事によって新規出店を果たしている点にある。当然、既存会員1,300名はこの施設に通った経験があるため、興味を持てば施設に対しての再来訪につながる、休眠会員の掘り起こしの効果も期待できる。

まとめ

RIZAPは、RIZAP事業のみならず、グループで展開する他事業とのシナジーもフル活用で想定しつつ、RIZAPの新規出店を思いがけない形で実現し、且つ当該施設の他スペースでの売上も確保している。山口県下関市という必ずしも商圏的に恵まれているとは言えないエリアにおいて、トップシェアと推測される当該施設を買収できたことは大きい。

もしかすると、RIZAP単体でこのエリアに出店すると、投資回収期間の長期化や、損益分岐点までの到達に対して何らかの課題があった可能性もある。それを複合施設の買収という形で一気に解決したスキームである可能性も高い。

またスカッシュルームをRIZAPブースに転換するなど、現在のRIZAPの不採算企業や事業を買収して再生するといった側面も若干垣間見えるが、それでも現在のM&A戦略からは想像し得ない対象であることが分かる。

しかし、事業や企業の成長フェーズによって経営戦略は変化していく。M&Aは経営戦略のツールの1つであるため、M&A戦略に関しても柔軟に対応していく必要がある。この事例は、フィットネス業界の経営者の皆様にとって、出店戦略や成長戦略を描く上で非常に示唆に富む内容であることは間違いないと確信している。

FOLLOW US
BEHIND THE FITNESSの最新情報を受け取れます

FOLLOW US

BTFの最新情報をチェック



関連記事