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【M&A事例教室】明治がフィットネスクラブを買収した過去と失敗の理由

皆さん、食品メーカーの株式会社明治といえば何を思い浮かべるだろうか。チョコレート、おいしい牛乳、明治エッセルスーパーカップ、などなど食品のベストセラーの印象が強いと思う。そんなベストセラーの中に、フィットネスクラブ・ジム業界には馴染みの深い商品が存在する。それは、プロテイン「SAVAS(ザバス)」だ。

https://www.meiji.co.jp/sports/savas/about/

大手おかしメーカーや乳製品メーカーは、健康や美容といった領域の近くで事業を行っていることもあり、各社とも明治のように少なくとも何か1つは健康関連、フィットネス関連に馴染みの深い商品を展開している企業が多い。例えば、森永製菓を例にあげると、商品ラインナップの中には「inゼリー(旧ウィダーinゼリー)」を有している。

各社がおかしや乳製品以外にも、フィットネス領域の食品についても熾烈な競争を繰り広げている。マーケティングやPRなどにおいても競争は熾烈で、森永製菓の「inゼリー」はプロテニスプレイヤーの錦織圭選手のスポンサーである。他にも森永製菓は、子会社にゴルフ場を有しているし(森永高滝カントリー株式会社)、ウイダーと契約したアスリートを対象とした「トレーニングラボ」なるジムを運営している。「トレーニングラボ」については、初期は広く店舗展開するような構想を有していた可能性はあるが、現在はひっそりと運営されている状況だ。

さて、明治の話に戻そう。明治はこのザバスを始めとした、健康イメージや実際の商品販促において、既存のマーケティングやPRのみならず、特にザバスが直接的にシナジーが見込まれるフィットネスクラブの経営を行っていた。このジムは現在「ザバススポーツクラブ」として、「SAVAS(ザバス)」ブランドを冠し未だに運営中である。今回は明治のスポーツクラブ事業の沿革と変遷について解説していく。

明治のフィットネスクラブ事業の始まり

1990年7月、明治製菓(現:株式会社明治)の子会社として「株式会社明治スポーツプラザ」が設立され、フィットネスクラブ事業がスタートしている。フィットネスクラブの名称は「ザバススポーツクラブ」であり、1号店は大阪府の高槻店。この当時、フィットネスクラブといえば、プールやスカッシュコートといった様々な施設を併設した大型の店舗が主流であり、当社も同様の戦略に基づき大型店の出店を重ねていった。

現在の高槻店|https://meijisp.jp/shop/

2019年6月現在、当社はスポーツクラブ事業(フィットネスクラブ直営7店舗)、スイミングスクール事業(直営7店舗全店にてスイミングスクールを実施)、スポーツ用品/食品/飲料の販売事業(各ショップ併設のプロショップ)での物販を行っている。

現在の概況を御覧頂いた通り、プロテイン「SAVAS(ザバス)」や他に明治が展開する商品の販促シナジー、明治自体のイメージ向上、ブランディング等も狙った事業展開だと分かる。

東京ガススポーツ株式会社を買収

株式会社明治スポーツプラザは、これまで2度M&Aによって他社のスポーツクラブを買収している。この動きを見ても、明治がフィットネスクラブ事業に非常にアグレッシブであったと用意に推測できるだろう。当社の最初のM&Aは、当時東京ガスグループ会社であった東京ガススポーツ株式会社の買収だ。

2005年3月31日付けで開示されている情報によると、東京ガスグループはいわゆる選択と集中戦略にともない、グループ会社のノンコア事業であるスポーツクラブ事業(店舗名称は「AQA:アクア」)を明治スポーツプラザに譲渡すると発表している。残念ながら譲渡価額等についての情報を見つけられていないが、東京ガススポーツの概況は以下の通りだ。

東京ガススポーツ株式会社

(1)設 立 昭和48年10月1日
(2)本 社 神奈川県横浜市鶴見区
(3)社 長 鷹箸 有宇寿(たかのはし ゆうじ)
(4)資本金 1億円(東京ガス都市開発100%)
(5)売上高 17.8億円(平成15年度)
(6)従業員 78名(平成17年1月)
(7)店舗数 直営3店舗(鶴見、金沢八景、藤が丘)、受託2店舗  

施設を見てみると、明治スポーツプラザが出店していた店舗と同様、フィットネスジムやスタジオだけでなく、プールを併設しスイミングスクールの運営や、テニスコート、体育館までついているような大型のフィットネス総合施設であり、コンセプトや施設環境に関しても非常に近い業態であった。

この時点の明治スポーツプラザは、従業員49名、2003/3期 売上高13.5億円、直営4店舗という規模であったため、連結ベースでは倍以上(東京ガススポーツの方がやや大きい規模)に一気に拡大した。

なお、東京ガススポーツ株式会社は明治グループ入りし、社名を「明治アクアスポーツ株式会社」と変更している。

株式会社フォレスタクリエーションのスポーツクラブ事業を買収

東京ガススポーツ株式会社の買収から2年後の2007年3月、今度は株式会社フォレスタクリエーションが「スポーツスクェア」の名称で千葉県内に展開していた3店舗を買収することを発表している。買収した該当事業の運営会社情報と事業業績の概要は以下の通りだ。

株式会社フォレスタクリエーション

1.設立時期 昭和61年12月
2.本社 千葉県松戸市
3.社長 森谷 茂樹
4.資本金 4,000万円
5.売上高 9.3億円(平成17年度、スポーツクラブ事業)

この株式会社フォレスタクリエーションのスポーツクラブ事業を買収したのは、明治アクアスポーツ株式会社(旧 東京ガススポーツ)で、この発表と同時に明治スポーツプラザとの合併も発表している。

これは成長か?膨張か?

文章だけではなかなか分かりづらいため、ここまでの動きをまとめてみると以下のようになる。

明治の開示資料を元に編集部作成
明治の開示資料を元に編集部作成

上記の期間、約2年間の出来事である。明治スポーツプラザは、1990年7月の設立から2003年までの約13年間で直営店舗を4店舗出店し売上高は13.5億円という成長ペースだったが、2005年から2007年までの間に売上高が約3倍と激増しているのである。

RIZAP(ライザップ)の赤字決算にあたり、「成長ではなく膨張」といった言葉がよく聞かれるようになった。この時の明治スポーツプラザは、現在のライザップのように別業態を買収しているわけでもない、そこまで派手な数字を振り回しているわけでもない。しかし、こうした急激な成長の影には、様々なシワ寄せや、ゆがみが起きているものだ。

仮に、ザバススポーツクラブが絶好調で、どこに出しても集客でき、初期投資を一気に回収できるとしたらどうだろうか。他社のブランドを購入して維持する必要があるだろうか。もちろん、初期投資を抑え時間を買ったという議論も有るし、買収先の従業員の士気を維持するという側面もあったかもしれない。

だがもしそうだとすれば、そもそも「SAVAS(ザバス)」というブランドの認知を広げる目的はどこにいってしまったのか。「アクア」ブランドを「SAVAS(ザバス)」ブランドに統一したのは、なんと合併から5年後の2012年だ。

「13年間で4店舗、売上13.5億円というスローペースの事業で、SAVAS(ザバス)の認知拡大という当初の目的は果たせるのか!」というプレッシャーに、焦って買収を繰り返したとすれば、買収したジムのブランドをなぜ維持しているのか説明がつかない。例えば初期投資の安い小規模店舗業態を日本全国に「SAVAS(ザバス)」ブランドで展開した方が認知度も物販への貢献も有ったかもしれないし、投資がかけられないとすればフランチャイズにて展開してもよかった。

単純にショップ併設のプロショップで販売できれば良い、ということであれば買収の必要はあったのだろうか。社内文化の融合など、経営のハンドリングの観点から言えば、課題が増えることも明らかだ。時間を金で買って、施設を増やし、経営を安定させた後に、ブランドを統一すれば一気に増やせるから?そんなに経営は甘くない。

当事者からすれば、当該2案件の必然性があるのかもしれない。しかし、どうしても説明がつかない。合理性が感じられない。一貫した意思や狙いが見えてこない。雑な意思決定、戦略に見えてしまう。当時の社内の「空気」によって作られた焦りと非常に安直な戦略によって意思決定されたのではないか。これが膨張のもたらす「ゆがみ」の影なのだ。

膨張のツケ

2007年の新生明治スポーツプラザの誕生、ここから同社の事業実態は下降線を辿り始める。

  • 2009年:新潟店閉店(大教スイミングに譲渡)
  • 2011年:行徳店、本八幡店を閉店
  • 2012年:「アクア」店舗を「ザバス」ブランドに統一

2011年には2007年に買収した3店舗の内、2店舗を閉店している。4年後の出来事だ。その後焦ったかのように「ザバス」ブランドへの統一を行っている。売上高の拡大とは裏腹に足元の収益性のコントロールが正確にできていなかった、と言われても仕方のない施策が連続している。

旅の終わり

そして2013年8月、株式会社明治スポーツプラザの親会社である明治ホールディングス株式会社は、明治スポーツプラザの全株式をセントラルスポーツ株式会社に売却することを開示した。譲渡価格は11億8,100万円だった。開示資料から売却される前3期間の明治スポーツプラザの決算を見てみよう。

2013年7月26日|セントラルスポーツ株式会社|開示資料より抜粋

2011年3月期は、営業利益で3億円、当期純利益では約15億円の赤字を計上している。これは2011年に閉店した行徳店、本八幡店の特別損失の計上が12億円近く計上されたということである(買収金額が15億円程度か、譲受資産の固定資産除却損が12億円程度発生したか)

だが、それよりもこの時点で18億円の債務超過に陥っている。2012年3月期からは営業黒字になっているものの、譲渡直前の2013年3月期でも解消できず17億円の債務超過であった。控えめに見ても、2010年3月期の時点から債務超過であった。買収したセントラルスポーツは、「買収後に増資を実施し債務超過を解消、明治からの借入金を全額返済する」と発表している。

事業実態も、2007年3月の合併時に単純合算で500名程度いた人員は、2013年7月時点で173名に、直営店舗10店舗あったものは7店舗に減少していた。

ブランディング強化のための別業態運営をどう考えるか

現在、株式会社明治スポーツプラザは、セントラルスポーツ傘下で現在も経営中である。また運営されているジムの名称は「SAVAS SPORTS CLUB(ザバススポーツクラブ)」で変わらず「SAVAS(ザバス)」のブランドが使われている。店舗は、高槻、川崎、鶴見、金沢八景、藤が丘、和光、新松戸と、セントラルスポーツ資本傘下になってからは減少していない。おそらく、セントラルのノウハウの元、安定した経営を行っているとみられる。

現在のHP|https://meijisp.jp/

ここで、明治のフィットネスクラブ事業がなぜこうなったのか考えたい。シナジーがあるからといって、安易に新規事業に参入するケースは多々散見されるが、門外漢の「業態」を経営することについては、いくら「SAVAS(ザバス)」というブランドが使用できるとはいえ、慎重に検討すべきであった。

なぜなら、店舗の収益性をコントロールすることこそが「経営」であって、看板だけで集客しても利益を出すという行為とはそもそも別な論点であるということ。そして、消費者は「有名な認知したジム」に行くのであって、「認知している有名な商品名がついたジム」に行くわけではなく、この微妙な差に対して気づく必要がある。

明治スポーツプラザとセントラルスポーツは、開示資料にも記載の通り、商品仕入れなど従来より取引があった。おそらくそれ以外についてもセントラルとは協業関係にあり、株式譲渡につながったと考えられるが、現在、明治スポーツプラザが運営する店舗の看板には「SAVAS(ザバス)」のブランドが冠して有る。

個別契約にかかる内容なので真実はわからないが、セントラルスポーツから、明治に対して「SAVAS(ザバス)」の商標使用料が支払われている可能性は高い。また併設されたプロショップでは「SAVAS(ザバス)」が売られているはずだ。セントラルスポーツ傘下で店舗の経営は安定し、雇用は安定している。結果的に非常に幸せなスキームになっているのではないだろうか。

明治は、最初からこうした取り組みはできなかったのか。畑違いの業態に安易に「当事者」として踏み込むことは非常にリスキーだ。さらに言えば安易すぎるM&Aはリスクを更に増大させる。

「SAVAS(ザバス)」の認知度拡大が目的であれば、それをフィットネスクラブ・ジムに冠したいのであれば、ジョイントベンチャー形式や、FC本部形式、またはライセンスアウト、もしくはショップのレベニューシェア型など、低コストで早くリーチを増やすことができる様々な選択肢が考えられる。

大企業でありがちなトップダウンの指示を受け、手段が目的化するケースを如何に避け、フィットネスクラブ・ジム業界と共存するか、これは間違いなく今後も問われ続ける課題だ。

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