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2021年4月5日 分析と解説

消費税の総額表示義務化についてジム経営者が知っておきたいこと【税理士監修記事】

2021年4月1日から消費税の総額表示が「義務化」されました。消費税の総額表示義務化では「消費税法」ならびに「消費税転嫁対策特別措置法」という法律に基づいて、あらゆる商品・サービスで販売価格を消費税込みの総額金額で表示、つまり「税込金額を必ず表示しなければならない」と法律によって義務付けらました。

財務省が発表しているガイドラインによると、この総額表示の義務化は「不特定かつ多数の者に、あらかじめ販売する商品等の価格を表示する場合に税込価格を表示することを義務付けるものである」と記載がある通り、スーパーやコンビニ等の小売業に代表されるような一般的になにかを販売するあらゆる商品やサービス・業界が対象となります。そのため事業者間取引、B2B取引と言われる卸売等は対象外です。

ではフィットネスクラブはどうなのでしょうか。財務省が公表している「事業者が消費者に対して価格を表示する場合の価格表示に関する消費税法の考え方」によると「会員制のディスカウントストアやスポーツ施設(スポーツクラブ、ゴルフ場)など会員のみを対象として商品やサービスの提供を行っている場合であっても、その会員の募集が広く一般を対象に行われている場合には、総額表示義務の対象となる」という記載があり、フィットネス業界は明確に本制度の対象となっています。

「総額表示」の義務付けは、価格表示をする媒体・方法に関係なく、消費者に対して商品やサービスを販売する課税事業者が行う価格表示が対象となっています。つまり、フィットネスクラブ店頭で販売する場合の「値札や棚札・ポップ類」、「テレビ広告やウェブ広告」、「ホームページやECサイト」などで、価格表示をするときはすべて消費税込みの総額表示が必須となります。なお、「総額表示」の義務付けは、価格表示を行う場合を対象とするものであって、価格表示を行っていない場合について表示を強制するものではありません。

すでに総額表示の義務化は4月1日からスタートしています。もし未対応のジム経営者や店舗責任者の方がいれば、義務化に違反していないか、どう対応するべきなのか、この義務化に違反するとどうなるのか理解を深め、そしてどう対応していくのか知って頂くために、本稿で解説します。

なぜ総額表示の義務化されることになったのか

消費税総額表示の義務化自体は最近始まった話ではありません。「消費税転嫁対策特別措置法」は今から約6年半前の2013年10月1日付けで施行された法律です。

元々、消費税総額表示義務化のための準備期間は2018年(平成30年)9月30日と設定されていましたが、様々な業界のシステム改修や対応に時間がかかるといった事情から猶予期間が延長され、最終期限として2021年(令和3年)3月31日と設定されました。これ以降の猶予期間は設けられないことになります。つまり2021年4月1日以降は全て税込み価格で表示する必要があります。

なぜこのような法律が施行されたのか、それは消費税率が上がったことに関係しています。日本では2014年4月1日に消費税が5%から8%に、さらに2019年10月1日には消費税が8%から10%に引上げられたほか、軽減税率制度(8%)も始まりました。今まで主流であった「税抜価格表示」では、レジで請求されるまで最終的にいくら支払えばいいのか分かりにくく、また、同一の商品やサービスでありながら「税抜価格表示」のお店と「税込価格表示」のお店が混在しているため価格の比較がしづらいといった状況となりました。

例えばA社は税込表示、B社は本体価格表示、C社は本体価格+消費税といったように表示している金額がバラバラ、そこにクーポンを使うと●%OFFといった割引要素が入ると、最終的に支払う金額が大変分かりづらく、価格を比較したり購入の意思決定を行うことが難しくなります。

そこで、各社どの業界でも「消費税込みの総額表示」にルールを統一しましょう、という法律が施行されることになったのです。

総額表示への対応とは具体的になにか

消費税総額表示とは「税込価格」を表示するということです。今回の義務化によってフィットネスクラブは店頭で行う物販商材の値札やポップ、トレーニングコースや月会費等をホームページやECサイト、テレビCMやウェブ広告に表示する際は総額表示する必要があります。

注意しなければならないのは、税込価格をただ表示するだけでいいのではなく、この総額表示には「OKな表示」と「NGな表示」が分かれることになりました。

例えば、これまであったような「●●円+税」これはNG表示となります。消費者が「総額でいくらを支払うのか」がひと目で分かる表示であることがポイントです。

ただし、後に述べる具体的な事例にも関連してきますが大事なポイントがあります。それは「税込価格を明確に表示していれば、税抜価格等を併せて表示することも可能」という点です。上記の例でいうと「10,000円(税込価格11,000円)」という記載はこれに該当します。

総額表示義務を守らなかったらどうなるのか

消費税の総額表示義務は「消費税法」ならびに「消費税転嫁対策特別措置法」という法律によって実施されている制度ですが、総額表示義務に違反した際の罰則はこの2つの法律には規定されていません。

ただし「総額表示をしていないこと」自体が違法ということではなく、総額表示してないことは不当表示にあたり「景品表示法」に違反したものとして罰せられることになります。

画像:消費者庁ウェブサイト「景品表示法違反被疑事件の調査の手順」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/violation/

景品表示法に違反すると、違反の内容に応じて公正取引委員会や消費者庁から指導・助言をうけます。また違反行為があると認められた場合は、公正取引委員会・消費者庁が勧告を行い、その旨が公表されます。最終的には課徴金の納付を命ぜられることとなります。

総額表示でもこれはダメ!気をつけたい景品表示法の考え方

財務省のガイドラインには、景品表示法における(価格やPR)表記の禁止事項についての記載があります。わかりやすく要約すると「取引の相手(顧客)が誤認したり、不当に誘導する、合理的な選択を阻害するような表記はしてはいけない」というものです。

その上で今回の総額表示については「明瞭に表示」することが求められています。明瞭に表示されているか否か、これが総額表示をしていても不当表示に当たるか否かの線引になります。明瞭ではないとされている事例を見てみましょう。

明瞭でない事例としては、文字が小さすぎる、文字が読みづらい、色の組み合わせによって分かりづらくないか、といったポイントです。デザイン上、分かりづらい色の組み合わせの場合であっても、税込価格に下線部を引くなど一般消費者が誤認しないようにする努力が必要とされています。

これは広告も同様で、駅構内のポスターやテレビCM、車で走行中に見ることを想定した看板広告のような「短時間しか見ることができない広告」は、一般消費者がサービスや商品内容を特に誤認する可能性が高いため、税込価格が明瞭に表示されているか否かが厳しく問われる対象です。

実際、総額表示制度の導入後に、ガソリンスタンドがガソリンの販売価格をサインポールまたは看板に表示するに辺り「税抜価格」を記載したことが景品表示法に違反する可能性があるとして警告された事例(2005年12月27日 公正取引委員会が警告)もでてきています。

具体事例①:店頭でプロテインを販売しているが価格表はどう変更する?

まずこの事例では、総額表示の前に軽減税率制度について確認する必要があります。プロテインバーのような食品の場合、フィットネスクラブ内のイートインスペースで会員の方が食べる・飲む形式で販売しているときは「イートイン」扱いとなり消費税は10%、テイクアウト(持ち帰り)での販売は消費税8%(軽減税率)となり税率が異なります。

軽減税率制度は、現時点で終了時期は明確に示されていません。法改正されない限り軽減税率制度は継続されるため、今回の総額表示義務と併せて気をつけなければならないポイントです。

これを念頭に店頭でのプロテイン販売の価格表をどうするか、というこの事例の結論を考えると、イートインとテイクアウトの価格表(価格)はこれまで通り2つ作られることとなり、そしてそのどちらも総額表示する必要があります。

具体事例②:店舗もしくはECで売っているプロテインなどの物販商材に本体価格が表示されている。パッケージデザインを変更する必要がある?

オリジナルプロテインのパッケージデザイン変更には型代など追加費用が発生します。またプロテイン以外にもウェアやトレーニング器具、サプリなどを物販しているフィットネスクラブやヨガスタジオは多いので気になるポイントですよね。

結論から言うと、ほとんどの商品はパッケージデザインを変更する必要は有りません。ただし一部の場合はパッケージデザインの変更が必要となります。

総額表示義務化の制度では、プロテインなどのパッケージに表示されている本体価格などは総額表示の「対象外」となります。一方でその商品を陳列している棚に設置してあるポップや値札は総額表示の「対象」となります。

ほとんどの場合、商品の裏面に小さく「本体価格●●円」「希望小売価格●●円」といった表示がされていて、販売価格は陳列した棚に設置してあるポップや値札で価格を表示している事業者が多いでしょうから、パッケージデザインを変更せずにポップや値札の変更で総額表示義務化を満たしていることになります。

これは総額表示価格例のパートで記載した「税込価格が明確に表示されている場合は、税抜価格を併せて表示できる」という総額表示義務の大事なポイントに該当している点です。

ただし(こういった事例は少ないと思われますが)もしパッケージデザインの中に大きく価格が表示されており、それを視認して会員さんが購入意思を固めている場合、つまり値札不要なデザインでパッケージに印刷された価格のみで店頭販売を行っている場合は総額表示の対象となり得ますので、パッケージデザインを変更したほうが良いでしょう。

具体事例③:レジシステムを変更する必要がある?

変更する必要はありません。総額表示義務は値札や広告などの表示を義務付けるものです。あくまで消費者が支払総額を誤認しないことが目的の制度です。そのためレジシステムを義務付けるものではなく、変更の必要はありません。

注意!広告やホームページで記載することが禁止されている表現

最後に少し専門的なポイントです。今回の総額表示義務化に際し、禁止される具体的な表示例がいくつかあります。その中でも宣伝や広告表示などの「価格表示」でフィットネスクラブが間違えてしまう可能性の高い事例を紹介します。

例①「消費税は当店が負担しています」「消費税はいただきません」

こうした表示は禁止されています。「取引の相手に消費税を転嫁していない旨の表示」に該当しており、こうした文言による宣伝や広告は違反行為となります。

例②「消費税率が上がった分、値引きします」「消費税10%還元セール」

これも禁止です。取引の相手が負担するはずの消費税額に相当する全額または一部をサービスや商品対価から値引きする旨の表示、また価格変更を消費税と関連していることを明示することについても禁止されています。

例③「消費税分を次回の購入に使えるポイントで還元します」「消費税相当分のお好きな商品1つを提供します」

消費税に関連して取引の相手に「経済上の利益提供」をする表示、②に記載している関連した表示などに該当しているため禁止です。

この通り、総額表示義務制度には消費税法や景品表示法によって様々な禁止事項を含めたポイントがあります。もし迷う事例などがあれば弁護士、会計士、税理士などの専門家にきちんと相談しましょう。

この記事を監修してくれた先生のご紹介

和田貴美子税理士事務所
和田 貴美子(わだ きみこ)先生

税理士・中小企業診断士。税理士事務所、公的中小企業支援機関における勤務経験で得たノウハウとともに、会計・税務のみならず、公的支援施策を活用した中小企業支援に取り組む。その他、商工会議所、大学、企業研修などにおいて起業や資金調達、補助金申請、財務情報を使った経営分析をテーマにしたセミナー講師を務める。

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