皆さんは、住友不動産グループの「ésforta(エスフォルタ)」をご存知だろうか。エスフォルタは、住友不動産グループでフィットネス事業を運営する、住友不動産エスフォルタ株式会社が展開する総合フィットネスクラブの名称である。フィットネス業界では「高級フィットネスクラブ」の代名詞とも言える存在だ。
現在運営されているエスフォルタは六本木、渋谷、赤坂、市ヶ谷、横浜の5店舗。同社はエスフォルタ以外にも、インドアゴルフスクールの「マイゴルフスタイル」、ダンススタジオの「ベイリズム」などのブランドも展開しており、これらは先述したエスフォルタ5店舗の内外にてサービス提供を行っている。これに加え「ésforta prime」というブランドで、パーソナルトレーニングやパーソナルゴルフレッスン、ゴルフラウンジなど、複数のプレミアム業態も展開している。
今回、本稿で紹介するのは、この「ésforta prime」ブランドで、同社が新たに開始したキッズスイミングスクール事業「KIDS SWIM ésforta prime(キッズスイム エスフォルタプライム)」だ。
「KIDS SWIM ésforta prime」の客単価は2.6万円〜3万円、レッスンは1人のコーチに対して未就学児で最大5名・小学生は最大6名までの少人数制で提供している。レッスンの高付加価値化には、開業当初から「スマートスイミングレッスン」を導入。また、観覧エリアには子どもの様子を見守れる大型モニターを3台設置するなど、ラグジュアリーな空間に仕上げている。これだけを聞いても、明らかに従来のスイミングスクールとは一線を画す「高級スイミングスクール」だ。

読者の中には「当社に高級業態は関係ない」「低価格を売りにしている」と考えている方もいるだろうが、少し待ってほしい。例えば、最近では一般的なスイミングスクールの中にも、一部にはハイエンドクラスを設置している事業者がいたり、それこそ同じ価格帯の中で通常のレッスンを「高付加価値レッスン」にサービスを進化させることで差別化を実現し、エリアNo1になったスイミングスクールも存在する。
今回のインタビューでは、高級業態の代名詞ともいえる同社が、キッズスイミングスクール事業を開始した理由や背景、運営方針について聞いた。その結果「高級業態が高級たり得る理由」「高級業態を構成する付加価値」「同社の企業文化や矜持」など、普段なかなか聞くことのできない視点についても知ることができた。これらは一般的なスイミングスクールを提供する事業者にとっても、今後の戦略や業界の方向性を考える上でも、大いに参考になる内容だった。ぜひ最後までご覧いただきたい。
短期間で業態変更を達成「住友不動産グループの結束」
ーーこちらの建物、以前は「エスフォルタ 水道橋店」でしたよね。(聞き手:BEHIND THE FITNESS 岩本)
田辺 和人さん:そうです。1992年にこのビルが竣工してから2023年7月末までは、総合フィットネスクラブ「エスフォルタ 水道橋店」として運営していました。そこから少し空いて、2024年9月1日に、未就学児から小学生を対象としたキッズ専用のスイミングスクール「KIDS SWIM ésforta prime」として再オープンしました。業態変更ですね。
ーー住友不動産エスフォルタとして初の高級スイミングスクールですか。
田辺さん:自社ブランドとしては初ですね。私は受託事業部に所属しているのですが、受託事業部ですと、公共の指定管理施設であったりとか、PFI施設を主に担当しておりまして、これらの施設運営の中でスイミングスクールの運営には携わっていました。
ーー受託としてご実績はあったわけですね。しかし受託事業部が直営店舗の運営を担うのは珍しいですね。
田辺さん:仰るとおりで、キッズスイミングを立ち上げるにあたって当社内でも「どの部署が担当するか」という議論がありました。どちらかというと、既存の直営店は大人にフォーカスした高級フィットネスなので、それなら受託事業部の方が子どもの成長やプログラムといったことにノウハウがあるだろうと、そういうことで決まった形です。

ーー少し話題が戻りますが、元々ここで運営していた「エスフォルタ 水道橋」は、1992年の竣工から2023年まで約30年近く営業を続けてきたわけですよね。閉店したのは、コロナの影響が大きかったのでしょうか。
打田 ひかりさん:入居しているこのビル全体が、大規模修繕のタイミングに入ったことが主な理由ですね。当社は、コロナの影響を他社さんほど受けなかった認識です。ご存知の通り、エスフォルタは高級フィットネスなので、会員をたくさん集めて「施設内も賑わっている(混んでいる)」というような状態ではありませんでした。適正な人数で、快適に施設をご利用いただくために高単価に設定する、もしくはリニューアルなどを通して価格帯を上げて、ということをしてきたタイミングで、コロナ禍になったという認識です。
ーーなるほど。ビルの大規模修繕に合わせて業態変更を実施したと。ではある程度、キッズスイミングに転換しようというご計画がお有りだったということですね。
田辺さん:それがそうでもないんですよ(笑)閉店の前からマーケット調査はしていましたが、どのような業態に変更するか事前に決まっていたわけではないんです。
ーーえ? では決断から1年経たずにオープンしたということですか。すごいスピード感ですね。
打田さん:よく間に合いましたよね(笑)とはいえ、プールはそれまで大人専用としての利用でしたが、設備自体はありましたからね。
田辺さん:幸いだったのは、大規模修繕でビル全体の調査が進んでいたので、その時点で空調や上下水の衛生といったところまで調査が完了していて、整理されていたことですね。ですから店舗設計する段階においても「天井のここは施工できる、できない」といったふうに、A工事、B工事までも仕切りが全てこちらでできた。ここの整理ができていたので、C工事も「じゃあこの範疇だったらいけますね」というのを決めるだけだったので、スムーズに進みました。
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ーーそういう背景があるんですね。
田辺さん:ただ、短期間でオープンできた要因はそれだけではないと考えていまして、一番大きなポイントは「住友不動産グループ」でプロジェクトに取り組めることだと思います。本プロジェクトに対して、一級建築士や施工管理ができる方とか、そういった人的リソースを住友不動産から借りてプロジェクトが組める。然るべき部門の方たちに、エスフォルタのこともやっていただける。これは当社の強みだと思います。
ーーそれは強いですね。
打田さん:例えば、このクッションは、住友不動産グループのホテル事業「ヴィラフォンテーヌ」を担当されている方に教えてもらいました。岩盤浴のクーリングルームで使われているものがベースになっていまして、可動式になっているので保護者の方々それぞれのユースケースに合わせることができます。
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田辺さん:ヴィラフォンテーヌを担当されているアイデアマンの方がいて、その方に当社の営繕課の課長が「あそこのクッション良かったから図面ほしいです」ってお願いしてくれました。家具の選定は、住友不動産グループのインテリア部門を担っている「住友不動産シスコン」のコーディネーターに手掛けてもらいました。当社内で、課題に対して「グループのどこに、この課題を解決できるアイデアを持った人がいるか」といったアンテナを張っている人がいるのも強みなんですよね。
高級住宅に住む家族が、満足するサービスか
ーー業態変更のプロセスについて、教えていただければと思います。率直なご質問ですが、なぜ「キッズスイミング」への変更に至ったのでしょうか。
田辺さん:意思決定の根底にあるのはマーケット調査ですね。立地状況からお話しますと「KIDS SWIM ésforta prime」のある水道橋エリアは、上の方に文京区、右側には千代田区がありまして、この一体は、湾岸地区に比べても高所得の世帯が多いことが分かりました。
ーー貴社が得意な立地であることは、再確認できたわけですね。
田辺さん:はい。次に物件の特徴として、この店舗の広さは350坪あるのですが、プールの占める割合が多い。そしてプールに関する世の中の背景としては「プール難民」ということがありましたので、単純ですがキッズスイミングに振り切った方がいいんじゃないかと。

ーープールの活用を前提として、業態変更を検討されたわけではないんですか。
田辺さん:もし調査結果が異なっていたら、極論ですが、キッズスイミングじゃなくてテニスコートにしていたかもしれない。それくらいゼロベースでの検討でした。
ーー驚きです。そこから、現在の「高級キッズスイミングスクール」にどう至ったのでしょうか。
田辺さん:そこからスイミングスクールに絞ってマーケット調査をしたことで、新たに見えてきたことが不満の多さでした。例えば「うちの子泳いでない」問題。「1時間クラスに通わせていても、実際泳いでる時間なんて10分もないんじゃないの」といった声が多いので、保護者のかなりの割合が不満を持っていると考えています。あとは「なかなか進級しない」問題、これもやっぱり多いですよね。私自身もスイミングのコーチをやっていても、そういう声をいただくことは多かったです。
ーーなるほど。
田辺さん:こういった声に焦って「子どもたちをいっぱい動かさなきゃ」と早く回そうとすると、それはそれで色々と問題が出ます。そのペースについていける子どももいれば、そのペースについていけない、力量的についていけない子どもが出てきてしまう。安全管理面にも不安が出ます。
ーー解決策はあるのでしょうか。
田辺さん:当社は、生徒数の最大上限を6名に限定した「少人数制」を採用しました。これなら、一人ひとりに合わせた指導ができます。人数が少ないというより、コーチ1人が、生徒5〜6人の子どもにパーソナル指導を連続して行っているというイメージです。安全管理もしやすくなります。
ーーなるほど。それで「少人数制」というコンセプトが決まったんですね。
田辺さん:はい。次に目についたのが、スイミングスクール業界の課題です。この業界は価格競争が止まらなくて、そこからずっと脱却できずにいるんですよね。だからプールコーチのお給料も上がらなくて、世の中からプールコーチがどんどん減ってしまっている。こういう業界だからこそ「業界に新しい風を吹かせたい」と考えました。では住友不動産エスフォルタとしてなにができるか。結論として「高級業態が良いのではないか」となりました。
ーー「キッズスイミング」「少人数制」「高級」ビジネスモデルの骨格が見えてきました。
田辺さん:フィットネスクラブでも、途中で大きく値上げすることって難しいですよね。これはスイミング業態も同じなんです。そういう視点で言えば、高級業態は「新規開業時が挑戦のチャンス」なんです。
ーースイミングスクールの新規開業は少ないですから、貴社にとっても、今回は立地も含めて絶好の機会だったというわけですね。
田辺さん:本当に仰るとおりです。スイミングのニーズは依然としてすごく高いんですよ。「スイミングをやらせたい」という声はたくさんあるのに、開業する側がなかなかそこに踏み込めていないのも業界の課題だと思います。もちろん、建築費も高騰してますから、プールを1つ作るのに、膨大なコストがかかるということもあるので、簡単に新規開業できません。今回は、元々あったプール設備を活かせることもあって、当社としてもチャレンジできる条件が揃っていました。

ーーこれは少しイジワルな質問かもしれませんが、お聞きしたような市場背景があったとはいえ、住友不動産エスフォルタさんが新規事業を始めるとなれば「高級業態」で仕上がるのは必然、ハナから「高級」という条件は外せない、そういった側面はないのでしょうか。
田辺さん:確かに、当社は高級業態のノウハウがありますから、その条件で事業をした方が成功確率は上がるかもしれません。ですが、絶対に「高級業態」にしなければならない、という縛りがあるわけでもありません。大切にしている最も根幹の部分で言いますと、住友不動産グループは高級賃貸マンションの「ラ・トゥール」を展開しているので、当社としても「ラ・トゥールにお住まいのご家族がいらした場合、どのような施設だったらご満足いただけるのか」というコンセプト・ペルソナを持っています。当社は、そのペルソナに叶う「上質なサービス」を設計し、ご提供しているんです。
ーーなるほど。その結果として「高級業態」になっている、という捉え方ですね。しかし、コンセプトやペルソナまで一貫して「オール住友不動産」なんですね。
田辺さん:そうなんです。それが当社グループの強みですから。
ベンチマークは学習塾、スイミングで「個別指導塾」を実現
ーー「高級キッズスイミングスクール」に業態変更することが決まった。しかし、それまで直営でのキッズスイミング事業のご実績はなかったわけですよね。
田辺さん:そうですね、それまで受託でしかスイミングスクールの実績はありませんでしたし、そこで培ったノウハウは、従来型の大人数を対象にした一般的なスイミングスクールです。もっと言えば、行政の施設なので、多くのご家庭でもお子様を通わせられる価格設定の業態ですからね。当社の得意な高単価の業態というわけではありません。もちろん、安全管理は住友不動産エスフォルタのクオリティで、という形でやってきたわけですけども。
ーー不安はなかったのでしょうか。運営面の設計など手探りの部分もあったように推察しますが。
田辺さん:そこはですね、「高付加価値であるために、なにが必要なのか」を積み上げていくイメージでアプローチしました。まず、マーケット調査の中で、他社も含め気になったところは全てクリアしました。例えば、プールに立って子どもたちを呼び出しているだけのコーチは未だに多いんですよね。酷いときは、ゴーグルすらつけていない。普通は、泳いでいる子がどうしているか確認するために、水中を見るものなんですよね。下手をすると、水面を叩いて子どもたちを呼ぶ人もいる。当社としては、こういったスタンスと明確に距離をとることを決めました。
ーーそういった実態や方針は、マーケット調査で初めて分かったことだったのでしょうか。
田辺さん:調査して分かったこともありますが、今回に限らず、色々な出店候補地や物件をご提案いただく中で「ここだったら、こうしたい、ああしたい」と店舗設備や指導面など様々なアイデアを貯めていたことも大きいですね。いざ調査して分かったことだけでは、やはりクイックに動けないのも事実ですから。「KIDS SWIM ésforta prime」では、インストラクターさんも社員やアルバイトではなく、業務委託スタッフさんメインでプールレッスンを作っていますが、こういった人との繋がりも前々から構築していたので、方針もスムーズに決めることができたと思います。

ーーインストラクターさんの採用基準も厳しいんですか。
打田さん:かなり選抜していると思います。採用基準としては「指導力のある方」「柔軟に当社の教え方に順応していただける方」を優先していまして、基本的には、ベテランの方を選抜して契約させていただいていますね。
ーー正社員による指導の方が、品質が安定するという見方はないのでしょうか。
打田さん:語弊を恐れずに言いますと、正社員で現場を回している限り、指導力に少し疑問があったとしても「使わざるを得ない」という状況もあると思います。しかし、それでは品質に妥協が出てしまう。コーチのクオリティを高品質・高付加価値に維持するためには、指導力のあるベテランのコーチを選抜することが最適であると考えています。
ーー選抜されたベテランのコーチが、少人数制で指導してくれる。意外と他社では見ない光景ですよね。
打田さん:従来のスイミングスクールでは、確かにあまり見られないことだと思います。当社のプールサイズなら本来100人以上は入れますが、1クラス最大5〜6名ですから、最大でも30人程度でしか使っていません。
ーー価格設定についてはどうお考えなのでしょうか。
田辺さん:価格設定でベンチマークにしたのは学習塾ですね。学習塾のビジネスモデルって、以前は学校の授業と同じで、講師1人に対して生徒がたくさんいる形式だったものが、現在は個別指導が主流になっていて、単価は猛烈に上がっていますよね。一方で、スイミングスクール業界の空気感は「価格競争で単価を上げられない」という状態。でも保護者さんの視点や「習い事」というフィールドに出すと「格安」の選択肢になっているわけです。
ーーなるほど、少人数制というのは、スイミングスクール業界での「個別指導」になっているんですね。
田辺さん:その通りです。現在のプランは、土日クラスの月会費が30,000円、平日が28,000円です。平日と土日で価格を変えているのは、土日のニーズが高いことがマーケット調査を通して分かったからでもあります。スイミングスクール業界からすれば、高単価の部類だと思いますが、学習塾業界と比較すれば安価な方だと思います。

ーー入会理由はどういったものが多いのでしょうか。
打田さん:当然ですが「泳げないと今後困るから」というものが多いですね。ただ、時節柄少し特殊なのは、コロナ禍で幼稚園・小学校で水泳の授業がない状態が2〜3年続き、昨年から再開という学校が多かったみたいなんですが、いざやってみたら「うちの子が全然泳げなかった」というところで衝撃を受けて入会される方は多かったですね。
ーーコロナ禍でそういった影響もあったんですね。
打田さん:少し特別かなと思うのは、「遠泳」を実施している学校が近隣地区にはありまして、それまでに最低限の泳力を身に着けてほしいという入会理由もありますね。遠泳だと小学生でもキロ単位で泳ぎますからね。
ソニーネットワークコミュニケーションズを説得し「スマートスイミングレッスン」を導入
ーー「高級業態」ではなく、スイミングスクールの「個別指導塾」と考えれば、色々と明確になりますね。では「学習体験」や「学習の効果・効率」を高付加価値にする取り組みは、なにかされているのでしょうか。
田辺さん:これは明確で「スマートスイミングレッスン」を導入しました。少人数制で運営するからこそ、一人ひとりをキチンと指導したいと思っていましたし、実は他社からも話を聞いていましたので、スマートスイミングレッスンをサービスの柱にしようと、業態変更を決断する中で既に決めていました。

ーースマートスイミングレッスンの何を評価されたんですか。
田辺さん:水泳って自分の動きをなかなか確認できないですよね。他のスポーツでは、自分の動きを動画で見るという手段が広がっている中、スイミングスクールでもそれが実現できるというのは、学習体験として非常に良いなと。
打田さん:そんな体験が、施設にカメラを設置するだけで実現できる。録画した映像もスタッフが編集する必要がなく、自動で作成されることに衝撃を受けましたよね。
ーー少人数制との相性はどう考えられていたのでしょうか。
田辺さん:他社さんのスマートスイミングレッスン導入事例だと、大人数のレッスン内で子どもたちがぐるぐる周回する中で、タブレットを1台置いて「自分で見てね」というスタンスが多いなと、お見受けしていました。一方で、当社は少人数制ですから、一人ひとりに対して一緒に画面を見ながら説明するとか、もっと使いこなせるのではと考えていました。
ーー保護者に向けての活用も狙いがあったのでしょうか。
打田さん:それもありました。少人数で運営しているからこそ、しっかり成果を出さなければならない、泳力をしっかり伸ばさなければならないわけです。その成果の見える化・説明するツールとしてもスマートスイミングレッスンは非常に適していると感じていました。
田辺さん:当社の進級テストは「成果発表会」という名称で運用しているんですが、成果発表会が終わった後に、保護者の方に撮影した動画を見ていただきながら「こうフォローアップしよう」とかまで事前に考えていました。
ーー実際、導入してみて会員さんのスマートスイミングレッスンに対する反応はいかがですか。
打田さん:好評です。文京・千代田地区という土地柄もあるかもしれませんが、保護者の方も、お子さんも、そもそも学びに慣れていらっしゃる方が多くて。おそらく幼少期から色々なことを学ばれているので、自分でタブレットを操作して、泳いで、自分の動画を見て気づく・学習する、この流れを教えなくても自然とできる子どもたちが本当に多いな、という印象です。運営側から見ても、成果にも繋がっていますね。
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ーー大きなハレーションもなかったということですね。
打田さん:はい。それどころか、スマートスイミングレッスンの活用も含めて、当社のようなスイミングスクール自体が珍しいからか、保護者の方もかなり興味をもって見に来られる方は多いですね。お子さん1人に対して、おじいちゃん・おばあちゃんも含めて6名くらいで来館されるご家庭もありますよ。
ーースマートスイミングレッスンを導入して良かったということですね。
田辺さん:本当にそう思います。でも、今では笑い話ですが、最初「スマートスイミングレッスンを導入したい」とご連絡したら、断られちゃったんですよ(笑)
ーーえ? 断られたんですか?
インタビューに同席していたソニーネットワークコミュニケーションズ(以下、ソニーネット) 中村さん:その際はご面倒おかけしました・・・実は、エスフォルタさんが採用されている会員管理システム (hacomono) が、当時スマートスイミングレッスンとのシステム連携実績が無く、加えて、サービスパッケージに関しても、1店舗だけで導入頂けるようなものが無い状態でした。そんな状態でしたので、当初エスフォルタさんからお話を頂いた際も、シビアな回答を差し上げるしかなかったのですが、エスフォルタさんの熱量が本当にビックリするくらい凄くて。お話をお聞きするうちに、私もその熱量に何とかお応えしたいという思いが募りまして。そこから内部調整やエスフォルタさんとの協議を重ねた結果、最終的にはエスフォルタさんの新しいチャレンジをご支援させて頂く事となりました。
ーーソニーネットさんを説得するところから始まったんですね(笑)
田辺さん:仰るとおりです(笑)それだけスマートスイミングレッスンは、新しい挑戦の中で絶対必要だと思っていました。だから「こういう使い方をしたいんです」「一人ひとりを映して、レッスン後のフォローするためにも必要なんです」「新しい形のスイミングスクールが作りたいんです」とこちらの熱意もお伝えして。
ソニーネット 中村さん:結果として「KIDS SWIM ésforta prime」への導入が、スマートスイミングレッスン初の「単店導入」の事例になりました。これがキッカケとなって、スマートスイミングレッスンは1店舗だけでもご導入・ご活用いただける形に進化することができまして、本当に感謝しております。

ーーそれだけの熱意で導入される前、社内検討の段階で、スマートスイミングレッスンの導入に対してネガティブな意見や懸念点などはなかったのでしょうか。
田辺さん:ありました。例えば、個人情報の管理のところですとか、他社さんから色々と情報を集めている段階では「ちょっと危ないんじゃないか」と社内で言われたりもしました。例えば、AIによる自動編集のボカシが外れてしまうとか、違う子どもの映像を配信してしまうとか、そういった懸念ですね。
ーー厳しい指摘ですね。
田辺さん:やはり住友不動産グループとしては、プライバシーや個人情報の安全性にはシビアにならざるを得ないですからね。ですがスマートスイミングレッスンは、ソニーさんが開発・提供されていることもあって、心配していた対象以外のお子さんの映り込みも、ちゃんと処理されることが分かりましたし、個人情報管理もきちんと担保されていることも分かりましたので、改めて「当社に最適なシステムだな」と安心しましたね。
ーーソニーグループが開発・提供していることの安心感がありますね。
田辺さん:そうですね。最終的に、システム上の安全面の確認に加えて「こういう運営オペレーションを構築すれば極めて安全に運用できる」という設計もしまして、導入に至りました。
打田さん:やはり、私たちは広く認知されている「住友不動産」のブランドを背負っているわけで、そういう意味では、いろいろな安全面が担保されていないと、ゴーサインが出ないというのは共通認識なんですよね。
ーーなるほど。「住友不動産のブランドで提供する以上は」という基準が高いんですね。
田辺さん:仰るとおりです。住友不動産ブランドとしてなにを提供するか、ペルソナにも言及しましたが、スイミングスクールでも「従来と同じスイミングスクールを提供するわけにはいかない」という視点も常にあるんですよね。新規性のあるものか、他社がしていない工夫をしているか、これらは当たり前の基準としてあります。
ーー住友不動産ブランドとしての矜持ですね。プレッシャーも大きいですね。
田辺さん:はい。ですから、社内検討の時に「一般的なスイミングスクールにも導入されているサービス(スマートスイミングレッスン)を今更うちが導入するのか?」と言う反応があったことも事実です。
ーーやはり、明確にそういう反応があるわけですね。でも矜持を感じます。
田辺さん:だから「当社がスマートスイミングレッスンを導入したら、他社とはどういった違いを出せるのか」という説明が明確に求められました。少人数制で運営するからこそ、スマートスイミングレッスンを利用する意味があると確信していましたし、世の中に少人数制のスイミングスクールはほとんどありませんから。そこは説明でも1番強く打ち出したところですね。少人数制を採用していなかったら、導入できていなかったかもしれません。
スマートスイミングレッスンが現場で大活躍
ーースマートスイミングレッスンを実際に運用してみていかがでしょうか。
打田さん:なにか数字でお示しできるものがあるわけではないんですけども、スマートスイミングレッスンを使っている子どもたちの上達のペースは、個人的な感覚では通常の2倍くらいの印象があります。
田辺さん:やっぱり言葉だけだと伝わらないんですよね。もちろんコーチとしては見本動作として泳いで見せるんですけども、やっぱり子ども自身が「撮影された自分の泳ぎ」を自分で見たほうが、明らかに改善するんですよ。コーチが「自分の動画を見てごらん、ここがこうなってるでしょ、じゃあ次はそこだけ気をつけてやってみよう」と声がけすると、やっぱりそれなりに意識して変えようという姿勢が見受けられますよね。

ーー教え方にも変化が起きているんですね。
田辺さん:コーチたちも今までは「言葉で伝えず、見せて伝えろ」と言われてきました。だからコーチたちは、その場で見せるために「進まない泳ぎ方」を練習したりしていましたよね(笑)でもスマートスイミングレッスンがあれば、映像を一緒に見て話すだけで、子どもの意識の仕方が全く違いますからね。子ども自身で「そうか、ここを直せばいいんだ」って自主的にやってきますから。
打田さん:これまで行ってきた見本動作が、子どもたちに伝わっていなかった、ということでもないんです。子どもたちも一生懸命なんとか真似しようとするんですが、自分のどこが違うのか、ズレているのか、これは感覚ではなかなか分かりにくいです。これが動画で見れる、確認できるようになった。これは本当に効果があります。
ーーこれまで苦労して伝えていた部分が、スマートスイミングレッスンによって伝わりやすくなったわけですよね。そう考えると、教え方も今後「進化」していくんですかね。
田辺さん:そうですね、私もレッスンに入ってて、明らかにこれまでと違う反応を示してくれるので、それなら「こういう教え方ができそうだな」といったことを積極的に考えるようになりましたね。あとは、当社は少人数制なので、子どもたちが自分の番を待つ時間は少ないですが、それでも発生する待ち時間にタブレットの映像を見て、それに対してコーチがしっかりと補助・指導をする、そういう時間をしっかり作れているので、明確に技術向上につながっている実感がありますね。

ーー最初に聞いた「うちの子泳いでない問題」が、少人数制で解決されているだけでなく、スマートスイミングレッスンによって、待ち時間も有効活用した濃密なレッスンになっているんですね。
打田さん:保護者の方も助かっているようで、ご自宅で「子どもと具体的な話ができるようになりました」と言われることは多いですね。これまでは「自宅でどうフォローすればいいか分からない」「何を言ってあげればいいか分からない」という声も多かったですが、実際に映像を見ながら話ができますからね。
田辺さん:保護者の方が自己解釈でアドバイスしてしまって、お子さんが混乱してしまうケースってよくあったので、こうしたことが防げるのは当社にとってもポジティブな話なんですよね。
ーー「KIDS SWIM ésforta prime」では、保護者へのフォローアップにもかなり力を入れられていると聞きました。
打田さん:そうですね。少人数制だからできることでもありますが、お子様の保護者の方に、レッスンが終わった後はフォローアップに伺うようにしています。他のスイミングスクールさんだと、コーチはプールに入りっぱなしで、前のクラスが終わった瞬間に次のクラスがすぐに始まることが多いんですが、当社は、スケジュールの時点でクラスとクラスの間に時間を作ってフォローアップを必ず行うようにしています。多分、スイミング業界からすれば信じられないことだと思いますね。

ーー全員にフォローアップできるのは、まさに少人数制だからできることですね。
打田さん:それこそ、導入検討の際に懸念された誤配信についても、ここで対策していまして、フォローアップのタイミングで、スマートスイミングレッスンで撮影した映像を見せながら「これは●●さんですよね?」と一人ひとりに必ず確認した上で配信しているので、誤配信が極めて起こりにくい運用を行っています。
ーーたしかに、15人とか生徒がいたら絶対にできない体験ですね。
打田さん:保護者の方とコーチがお話する時も、水がポタポタ垂らしながらお話する方って業界には多いと思うのですが、当社の場合は必ず身体も拭いて、用意した服を着てもらった上で会話してもらうようにしています。保護者の方の中には、裸姿が苦手な人もいらっしゃるかもしれませんし、礼儀とサービス品質としては徹底すべき部分だと考えています。
ーー徹底されていますね・・・上質なサービスという印象を強く受けています。
田辺さん:お子さんの名前の呼び方も、小学生は「さん」呼び、未就学児は「ちゃん」「くん」呼びなんですが、絶対にファーストネームを省略せずに呼ぶようにしています。「タッチャン」とかではなくて「たつやくん」と必ず呼んでいますね。
ーー成果発表会(進級テスト)での活用状況はいかがでしょうか。
打田さん:成果発表会でも通常のレッスンと同じく、全ての保護者の方に、撮影した動画をお子様と一緒に見ながら、その場でコーチがフォローアップしているので、保護者の方の納得感も大きいですね。成果発表会に限らず、保護者の方から「うちの子の課題は何ですか」「課題を明確にしてください」と求められることが本当に多いんです。スマートスイミングレッスンがあれば「次回の課題はこれだね」と明確に示せるので、非常にありがたい存在になっていますね。
hacomonoとも連携、スマートスイミングレッスンを使い倒す
ーー進級制度にも特徴があるとお聞きしています。
打田さん:当社は「随時進級制度」を採用していますね。一般的なスイミングスクールでは2ヶ月に1回とかテストを定期開催しているかと思うんですけども。当社は随時、進級が可能か判断する形式です。
ーーなぜ随時進級にしているのでしょうか。
田辺さん:受託施設の方では、元々2ヶ月単位で練習メニューを組んでいたんですけども、悩ましい話として「本当にあと一歩で進級できるレベルなんだけど、少し足りないから2週間だけ練習してほしいな」という子っているんですよね。でも「ここで進級させないと、また2ヶ月同じ練習をさせることになるな」というコーチのジレンマのようなものがありまして・・・

打田さん:逆に、早く上達する子だと、2ヶ月の間に「もう十分上手になったな」と感じることもあるわけですけど、それでも残りの期間、同じ練習をさせなければならないという課題もあります。コーチとしては、子どもたちを上達させる楽しさやモチベーションがありますので、そう考えると、十分うまくなったら次のステップに進んでもらうというのが、お互いWIN−WINだと思うんですよね。
ーーそれで随時進級というアイデアになるわけですね。
田辺さん:随時進級となると、例えば同じ級の中でも、そのクラスで5週練習している子と、進級したばかりの子が混在するわけです。そうなると一人ひとりでメニューをアレンジする必要があって、それには指導力のあるコーチが必要になるんですね。だから、大人数抱えるタイプの運営では難しいので、他社さんは「やりたくてもやれない」状態になっていると思いますね。
ーー少人数だから随時進級が実現できるわけですね。そう考えると、少人数制は「個別指導塾」のイメージと伺いましたが、「パーソナルトレーニングの連続」とも捉えられるんですね。
田辺さん:まさしくそのイメージです。当社としては理想的な形、本質的な形を妥協なく追い求めているんですが、他社にはないイレギュラーなオペレーションにもなっているので、ソニーさんにはご苦労おかけしました(笑)先ほど少し話題に出ましたが、当社は会員管理に「hacomono」を使っていて、hacomonoとスマートスイミングレッスンの連携も初めてだったんですよね?
ソニーネット 中村さん:そうなんです。hacomono連携の第一号案件になっていただきました。エスフォルタさんへの導入を通じて、スマートスイミングレッスンもかなりアップデートすることができました。
ーー単店導入、随時進級、hacomono連携、初の事例だらけだったんですね(笑)
田辺さん:だからその説得も含めて、最初が本当に大変だったんです(笑)
ーーしかし、スマートスイミングレッスンを使い倒してますね。
田辺さん:スマートスイミングレッスンの使い方と言えば、水中撮影会ってありますよね。泳いでる姿とかを撮影して購入できるサービス。親心としても嬉しいサービスなんですよね。その時に、スマートスイミングレッスンの水中カメラがあると、ベテランコーチたちも経験豊富ですから、水中撮影会のノリで手でカメラを持って、子どもたちを映してあげたくなるみたいなんですよ。
ーー子どもも楽しいですよね。
田辺さん:特に水慣れクラスでのスマートスイミングレッスンの活かし方については、当社もすごく悩んだんですが、この水中撮影会をヒントに、コーチが水中カメラを手で持って画面に映してあげるとか、そういうこともするようになりました。

打田さん:こういう使い方をすると、普段あまり水に顔をつけたくない子なんかも「もうちょっとやってみる」って普段よりちょっと頑張ったりするんです。こういう瞬間が本当に嬉しいんですよね。
KIDS SWIM ésforta prime|住友不動産エスフォルタ株式会社
https://www.esforta.co.jp/kidsswim/suidobashi
スマートスイミングレッスン サービスサイト|ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
https://ict.sonynetwork.co.jp/sports/swimming