最近のフィットネス業界には「低価格」「24時間」「時短」「無人」「ピラティス」といった様々なトレンドが押し寄せている。この状況で改めて「パーソナルジム」と聞くと、どのような印象を持つだろうか。
最近のパーソナルジムに関する話題といえば、市場を牽引した大手パーソナル事業者の業績不振や業態転換に関する話題が多く、バブル的な盛り上がりの頃に比べると、新規参入や急速な店舗展開等の「元気なニュース」は明らかに減っている。
特に「低価格」「24時間」「無人」といった最近のトレンドと、パーソナルジムは対極にある業態とも言えるため、なんとなく「少し前のトレンド」といった雰囲気があり、それに輪をかけて、大手パーソナル事業者の苦戦が印象をさらに重たくしている。
しかし、トレンドが過ぎたからといって、消費者のニーズが消えて無くなったわけではない。パーソナルジムは「フィットネスの選択肢」として消費者の中に確立されており、現在もパーソナルジム事業で拡大を続ける一部の事業者は、先行した事業者と同じ轍は踏ままいと、パーソナルジム業態を独自に磨き続けている。
今回インタビューを行った株式会社フィットクルー(大阪府大阪市)も、パーソナルジム事業で成長を続ける1社だ。同社は、女性専用パーソナルジム「UNDEUX SUPERBODY(アンドゥスーパーボディ)」を主力に業績を伸ばし続け、現在は上場も視野に入れている。
女性専用パーソナルジムは、前述した大手パーソナル各社も「次はこれだ」と言わんばかりに競って出店を行った時期があった。しかし現在では、店舗数を大幅に減らしたり、業態転換を経て実質「撤退」状態になっている方が多い。
また女性専用に限らず残ったパーソナル事業者の多くは、依然としてマンションの一室を店舗として運営しているため、一見店舗数が拡大しているように見えても、実態としては年商規模も小さく今後の事業継続が怪しい事業者も散見される。
こうした市場環境の中で、フィットクルー社はなぜパーソナルジム事業を伸ばし続けることができたのか、そして今後はどのような成長戦略を描いているのか。フィットクルー代表取締役社長の鹿島 紘樹氏に聞いた。(聞き手:BEHIND THE FITNESS 岩本)
直営42店舗、年商30億円弱、従業員240名、上場準備中
ーー現在の事業状況を教えてください。
鹿島 当社は2015年1月に設立しまして、パーソナルジム事業を主軸に、2024年6月末時点で店舗数は42店舗・トレーナースクール4校という体制です。店舗はすべて直営。直近1年間の入会数は約6,000名、年商は約30億円弱、従業員数は約240名の規模になっていて、上場準備も進めているところです。
ブランド別では主力の「UNDEUX SUPERBODY」が31店舗、セカンドラインの「UNDEUX SUPERBODY LIFE(アンドゥースーパーボディ ライフ)」が8店舗、新業態の「Dr. plus Fit(ドクタープラスフィット)」が3店舗という内訳です。
ーーパーソナルジムをマルチブランドで展開しているわけですね。各ブランドの業態を教えて下さい。
鹿島 主力の「UNDEUX SUPERBODY」は、短期集中型の女性専用のパーソナルジムです。2〜3ヶ月の短期集中コースに加えて、コース終了後のメンテナンスが行えるアフターコースを月額制で提供しています。この主力ブランドから生まれたセカンドラインの「UNDEUX SUPERBODY LIFE」は、月額制のアフターコースのみを提供する低価格型の女性専用パーソナルジムですね。
3つ目のブランド「Dr. plus Fit」は、地域の健康づくりジムです。医療連携によるパーソナルトレーニング・フィットネスを提供しており、地域の健康問題を解決する業態。こちらは男女とも通うことができます。そして最後のパーソナルトレーナー養成スクール「プロジム」これは文字通りという内容ですが、トレーナーの育成だけでなく、事業を通じてトレーナーの社会的地位向上を目指して運営している業態です。
ーーブランドごとの戦略の違いはなんでしょう。
鹿島 例えば、出店エリア・設定している商圏の違いだと、高単価・短期集中型の「UNDEUX SUPERBODY」は東名阪福を中心とした都心部への出店で、商圏は広く設定しています。定額コースのみのセカンドライン「UNDEUX SUPERBODY LIFE」は短期集中型に比べて安価になるため、設定している商圏人口は10万人程度。既存店も町田・藤沢・立川・柏といったエリア。これよりも更に小商圏で考えているのが「Dr. plus Fit」で、こちらの商圏設定は半径500m程度です。
ーー出店余地という視点では、商圏を小さく設定しているブランドの方が有望かと思いますが、事業計画的にもそうなっているんでしょうか。
鹿島 そうですね。現在は「UNDEUX SUPERBODY」が、売上の約8割と主力事業になっていますが、今後の成長エンジンは「UNDEUX SUPERBODY LIFE」と「Dr. plus Fit」の2つ。4年後に「UNDEUX SUPERBODY」は31店舗から50店舗に、「UNDEUX SUPERBODY LIFE」は8店舗から50店舗、「Dr. plus Fit」は3店舗から80店舗にする計画で動いています。
ーー現在の主力ブランド「UNDEUX SUPERBODY」は何店舗くらいまで出店できるイメージですか。
鹿島 正直、50店舗くらいが限界かなという印象です。なので4年でそこまで作ってしまおうと。逆にセカンドラインの「UNDEUX SUPERBODY LIFE」は、主力ブランドに比べて5〜6倍の対象商圏があります。イメージとしては主力ブランドの周辺にセカンドラインの店舗を出店していくような形。既に「UNDEUX SUPERBODY LIFE 町田スタジオ」では、新規会員の受け入れが限界に近づいていて、主力ブランドの一部店舗よりも売上が良い状態になっています。そのため、前期から改めて出店を強化しているところです。
ーー「Dr. plus Fit」はそれよりもさらに多く出店できると。
鹿島 そうですね。結論から言うと整骨院レベルで出店できると考えています。整骨院は日本で5万軒以上あり、それと同水準というと言い過ぎかもしれませんが、それでもかなりの出店余地になります。現在は3店舗でテストを回している状況ですが、実績がしっかり出てきているので、本気で整骨院を置き換えにいくつもりです。
女性専用業態を「マンションの一室」で経営することへの違和感
ーー女性専用パーソナルジムと、地域の健康づくりジム。どちらもパーソナルジムを提供しているとはいえ、かなり飛び地の印象があります。どういった経緯でこうなったのでしょうか。
鹿島 やっぱり、そう思われますよね(笑)実はどちらも「解決したいニーズ」の根っこは共通していて、どちらも創業に至る過程で感じた課題から生まれた業態なんです。
ーーぜひ創業の経緯を教えてください。
鹿島 フィットクルー社を創業する前に、整骨院を7〜8年くらい経営していました。整骨院を始めた理由は、自分の子供に胸を張って「お父さんはこんな仕事をしているよ」と言えるから、あとは「人のためになる=医療の道かな」という今思えば少しふんわりした理由だったかもしれません。
ーー昔から医療の道を目指されていたのでしょうか。
鹿島 そうだったらちょっとはカッコいいのかもしれないんですが(笑)実際は全く違いまして、大学では中国語文学を専攻していたので整骨院とは全く関係なく。大学在学中に子供を授かったので、大学を休学して一旦就職したんです。
当時は「とにかく働かないといけない」「お金を稼がないといけない」と頭がいっぱいで、仕事内容なんか考えていなかった。だから内定が出た中で一番給料の高いところを選びました。それがリフォーム関連のゴリゴリの営業会社。「なんでもいいから契約をとってこい」という会社です。会社の姿勢に若干の違和感はありつつも、状況的に背に腹は代えられない。
入社初日、入社式の日に子供が生まれました。出産に立ち会いまして、生まれてきた子供の顔を見た瞬間「あ、自分はこの子に『お父さんはこんな仕事をしているよ』と胸を張って言えないな」と思ってしまったんですよね。じゃあ何の仕事なら胸を張って伝えられるか考えた結果「人の痛みをとる仕事をしよう」と。それで医療の道に決めたわけです。
結局1日でリフォーム会社を退職して、アルバイトをしながら整骨院の専門学校に通学しました。そこで柔道整復師の資格を取得し、2009年に大阪・吹田で「かしま整骨院」を開業したという流れです。事業経験のキャリアが整骨院を通じた「地域医療」からスタートしたからこそ、今があります。
ーー事業選択や仕事選びの「軸」を社会人経験のスタートと同時に確立されたわけですね。整骨院からパーソナルジムにはどうつながるのでしょうか。
鹿島 自身の整骨院を経営する中で気付いたこと、それは「整骨院は体を痛めたり不調になってから行くところ」だということです。私達は患者さんに起きている不調にしか、対応できない。不調になる前にはアプローチできないんです。予防的なアプローチも含めて「本気でお客様の体を良くしよう」と思うと、筋肉を鍛える必要があります。
だから整骨院にフィットネスマシンを置いて、パーソナルトレーニングみたいなことを始めました。すると、患者さんの痛みがとれたり、本当に生き生き暮らせるようになったりして感謝を言われることが増えた。それで「これを事業にすべきなのではないか」と考えるようになったんです。フィットネスは医療の川上にあるのではないかと。
ーーなるほど。「UNDEUX SUPERBODY」にも「Dr. plus Fit」にもつながる原体験ですね。
鹿島 はい。ではなぜ「Dr. plus Fit」ではなく、最初に女性専用パーソナルジムを始めたかというと、当時の患者さんのほとんどが女性だったからです。地域医療に向き合う当事者として、当時から綺麗事ではなく、彼女たちが元気になると家庭が明るくなるし、ひいては地域・社会が明るくなるという実感がありました。この想いが、当社の企業理念「フィットネスで社会を明るくする」の根幹になっています。
それで最初は整骨院の経営と並行しつつ、2015年2月に大阪・堺筋本町のマンションの一室で、女性専用パーソナルジム「UNDEUX SUPERBODY」を開業しました。ただ、開業して早々に「マンションの一室で女性専用業態を運営する」ことに強烈な違和感を感じたんですよね。
開業時は私もトレーナーとして現場に入っていましたが、不特定多数の女性がマンションの一室に入っていく、密室の空間で女性と二人きりになる、この状況は普通ではない。お客様が心から安心できる環境とは言い難く「これって違うのではないか」と。
それで1号店は9ヶ月で閉めて、心斎橋にテナントを借り直し再出店(現在の「UNDEUX SUPERBODY 心斎橋スタジオ」)しました。今では当社の店舗デザイン・設計のベースになっていますが、その時に初めて、半個室のブースを複数設置して、複数のお客様とトレーナーが同時にトレーニングできる、密室で二人きりにならない「開かれた空間」に作り直しました。
ーーお客様のことを考えれば当然の判断にも感じますが、とはいえ、せっかく作った1号店を9ヶ月で閉めるという決断はなかなかできません。
鹿島 事業継続を考えた時に、それくらい強烈な違和感だったということです。今でも当社には男性トレーナーがいますので、半個室のブース型になっているのは安心感を提供できていると思います。
ーー女性専用業態だからこその視点ですね。
鹿島 そうですね。トレーニングの目的も男女で異なりますし、女性の場合はトレーニング中の環境に対する要望にも多用な視点があります。例えば、女性はトレーニング中の姿を「特に異性の客に見られたくない」という感覚も強い。頑張った後の姿・身体を見せられるようにはなりたいが、その途中は見てほしくない。一方で、安心してトレーニングできる環境は重視されている。
そういった多岐に渡る要望や視点を店作りの段階から当社が意識することで、店舗に行くことが喜びになったり、トレーニングへの意識につながる。実際、当社のお客様って、本当に楽しそうにトレーニングされてますからね。トレーニングしているはずなのに笑い声がたえない店になっている。たまに「本当にトレーニングしてるのかな」と思うくらいです(笑)
コロナ禍で出店攻勢に舵を切り、店舗数を一気に拡大
ーー創業の経緯から業態展開の背景は理解できました。「Dr. plus Fit」を始めた理由も「女性専用業態だけだと業績的に限界がある」といった打算的なものではない。
鹿島 永続的に企業成長を続けるためには必要な視点かもしれませんが、仰るようにそうではありません。整骨院時代に感じたことは、女性だけでなく男性にも当てはまることで、弊社の企業理念「フィットネスで社会を明るくする」を達成するためには女性専用業態だけでは不十分、そういう考え方です。
ーー「Dr. plus Fit」1号店を出店するキッカケは、なにかあったのでしょうか。
鹿島 キッカケとしては、監査法人から現在の提携先である社会医療法人「愛仁会」さんをご紹介いただいたことです。以前から周囲に「Dr. plus Fit」の構想は共有しており「医療連携したい」と話していましたから。それでご面談時に「医療連携を通じたミドル・シニア世代に向けたパーソナルトレーニング事業をしたいんだ」と話して意気投合。業務提携させていただき出店に至りました。
正直「Dr. plus Fit」の構想はずっと頭の中にあったのですが、1号店の高槻店を出店したのは2022年10月。「UNDEUX SUPERBODY」1号店を出店してから6年も経ってしまいました。
ーーなぜ「医療連携」が必要だったのでしょうか。
鹿島 フィットネスのトレーニングって身体に直接アプローチするものなのに、確からしいエビデンスがない。エビデンスがないから、トレーナーの良し悪しについて消費者が判断する基準もなく、我流のトレーニングを提供して事故を起こす事業者も出てくる。こういうことをしていてはフィットネストレーナーの社会的地位はいつまで経っても向上しません。だからエビデンスが必要。エビデンスを出すには、医療機関と連携するしかないと考えているからです。
本来フィットネスは国民の健康維持に寄与するサービスで、医療費削減にもつながるはず。だからこそトレーナーは将来的に国家資格にすべきだと考えています。私達がミドル・シニア世代に向けのサービス提供を開始するから必要、ということではなくて「UNDEUX SUPERBODY」や「プロジム」を運営する中で、こうしたフィットネスの本質的課題をずっと感じていました。
ーーなるほど。その課題解決を実現すべく「愛仁会」さんと提携、そして2022年10月に「Dr. plus Fit」1号店を出店。しかしコロナ禍の真っ只中です。よく決断されましたね。
鹿島 逆にチャンスだと思いました。コロナ禍の前までは「出店したいが物件がない」と皆さん口を揃えて仰っていましたし、うちも実際そういう状態でした。それが一転、コロナ禍で物件が空き始めましたから。「Dr. plus Fit」も1号店の出店から半年で3店舗体制にしました。
ーーしかし、既存店の業績はかなりダメージを受けていたのではないですか。
鹿島 厳しかったですよね。ですが既存店が厳しい状況にあるといって待っていても何も変わりませんし、チャンスに変わりはない。コロナ禍もいつかは終わるだろうと。それで出店に一気に舵を切って、第三者割当増資と銀行借入を組み合わせて約6億円の資金調達を実施しました。
調達した資金を元に「UNDEUX SUPERBODY」を全国に出店、新業態として「UNDEUX SUPERBODY LIFE」「Dr. plus Fit」を開始、「プロジム」も東京・名古屋・福岡に広げました。当社はそれまで関西中心の店舗展開でしたが、コロナ禍を経て、事業規模も出店エリアもフェーズが変わりました。
「Dr. plus Fit」既存店は既に黒字、フランチャイズ展開も検討
ーー「Dr. plus Fit」を展開する上で、ミドル・シニア向けのパーソナルジムは既に競合も多いです。勝ち筋をどう見出していますか。
鹿島 当社は業態開発をする上で、他社のパーソナルジムを意識していませんので、同業他社との比較で何かを変えて差別化するということはありません。行き着く先は、大体安売り競争になりますから。それよりお客様の選択肢に入る他の業種・業態の方を競合として設定しています。
例えば「Dr. plus Fit」は地域医療の選択肢になるため、ベンチマークの1つは整骨院です。自身の整骨院の運営から着想した業態でもありますし。最近の整骨院市場に目を向けると、店舗数が増加し、収益的に厳しくなっている店舗が増えてきている。だから、将来的には既存の整骨院にマシンを入れたり、トレーナー教育を経て「Dr. plus Fit」に鞍替え・置き換えていくビジネスモデル・業態にしていく予定です。
ーーかなりの出店余地になりますね。
鹿島 整骨院を本気で置き換えに行くとなれば、5,000店舗の規模までは見据えることができると考えています。それを実現するオプションとして、フランチャイズによる展開も検討しているところです。
ーー既存店の運営もその方向性を見据えたものですか。
鹿島 そうですね。とはいえ、まだ直営3店舗でテストを回しているところ。整骨院のマーケットに適用するには、まだ単価が高いとか、いかにパーソナルから脱却するかは課題です。そのため直近では、ピラティスのリフォーマーを設置したり、グループレッスンの強化をしています。
それでも1号店の高槻店は、オープン1年半で既に約200名ほど会員が在籍し、黒字化しています。会員数はもうキャパオーバーに近い水準ですね。3号店の蒲生店も、同じく開業1年で会員数が200名に近づいています。
ーーミドル・シニア向けフィットネスでは、大手総合フィットネスも消費者の選択肢になるかと思います。
鹿島 確かにミドル・シニアは総合フィットネスの得意領域でもありますし、一部の大手パーソナルジムも、シニアや高齢者をターゲットに据えてきています。当社は先程も申し上げたように、整骨院に適用することを基準に価格を下げようとしているので、そこがまず分かりやすい差別化になるかと。あくまで「同業他社に比べて高いから値段を下げよう」というロジックではないということです。
それに加えて「人と関われること」を強みに業態をブラッシュアップしようとしています。グループレッスンもその一環。既に会員さんがご友人を連れてきていただくなど好循環が生まれ始めています。そのためグループレッスンでは利益を重視せず、コミュニティ性の確立に今は重きをおいています。
ーー「Dr. plus Fit」は男女ともに通うことができますよね。ブランドごとの性別比や年齢構成はどういった状況ですか。
鹿島 女性専用業態の「UNDEUX SUPERBODY」「UNDEUX SUPERBODY LIFE」の年齢層は20〜40代がメインです。「Dr. plus Fit」は30〜50代のお客様がメインになっており、男女比は3:7くらいですね。結果的に女性が7割と多くなっています。意図していたわけではありませんが、女性比率が高いなら高いで、女性専用業態で培ったノウハウが生かせます。
フィットクルー強さの本質
ーー先ほど業態開発では他社のパーソナルジムを意識しないというお話がありました。これは女性専用業態でも同じですか。
鹿島 はい。女性専用パーソナルジムにとっては、美容クリニックやエステの方が競合に近い。パーソナル市場の動向に囚われすぎず、そこを見ています。
ーーフィットクルーが展開する各業態の強さの本質ですね。
鹿島 これはどの会社でも共通することだと思いますが、他社の動向に囚われすぎず、お客様のニーズにフォーカスし、それをマーケティングやオペレーション、業態開発に落とし込む。これを地道に積み上げていくことで、一朝一夕には真似できない競争優位性が作られると考えています。
当社ではマーケティングでも、LPの制作から広告運用まですべて内製化済み。毎年数億円の広告宣伝費を消化しており、これを女性中心で構成されたマーケティングチームが担当しています。クリエイティブの訴求シナリオも、お客様にアンケートをとって抽出したインサイトを反映したものになっています。
ーー店作りもそうですよね。
鹿島 そうですね。これは結果論ですが、密室で二人きりにならないようにと、複数ブース型の開かれた空間をベースに店舗づくりをしたことで、男性トレーナーを安心して起用できるため採用の間口も広がります。またマンションジム形式に比べて、1店舗あたりの売上・収益性は格段に上がりました。
現在「UNDEUX SUPERBODY」「UNDEUX SUPERBODY LIFE」39店舗で154ブースあり、1店舗あたり平均4ブースを設置している。一般的なパーソナルジムでいえば70〜100店舗数くらいのサイズですね。同業他社と比べると比較的、大型店舗の運営になっているかと思います。
ーーブースが増えるとオペレーションの難易度も上がりませんか。
鹿島 店舗の拡大期は人繰りの問題で苦労しましたね。現在は、日次でモニタリングしてスタッフの配置を柔軟に変えることで、店舗の稼働状況を最適化できるようになりました。
ーー人員配置を柔軟にできた秘訣はなんだったのでしょうか。
鹿島 当社がトレーナーをすべて直接雇用していることが大きいかと思います。これはパーソナルジム業界では珍しいかもしれません。未だにこれだけのブース数・店舗数で予約が逼迫することもありますので、直接雇用はこのオペレーションを可能にした大きな要因の1つです。
ーートレーナースクール「プロジム」の貢献もありますか。
鹿島 はい。業績的なインパクトはそこまで大きくありませんが、「プロジム」の卒業生を当社で採用することもありますし「プロジム」があることで質も量も担保できています。また事業の意義として「プロジム」は社会的にも当社にとっても重要です。
どんな事業でも「良い商品を作る」ことが、お客様にお金を払ってもらえる根拠になります。ではパーソナルトレーニングジムにおいての「良い商品」とはなにか。当社にとっての「良い商品」とは「トレーナー」です。そのため、良い人材の採用・育成は非常に重要です。そういう意味で「プロジム」は各事業の心臓部になっています。
ーー質と量を担保する仕組みを「事業」として持っているのは強みですね。
鹿島 もちろん「プロジム」だけではなく、人事や社内育成の取り組みも活発化させていて、現在は毎月100人以上を面接し、毎月入社式を実施しています。直近の社内育成の取り組みでは、トレーナー研修センターにも投資しました。東京の研修専用施設の広さを倍に拡張して5月から稼働しています。すべて「良い商品を作る」ための取り組みであり、直接雇用するのもそのためです。
ーー採用基準について、なにかお話できることはありますか。
鹿島 当社の企業理念「フィットネスで社会を明るくする」と、私達の存在意義「顧客の望みを叶えることでしか存在できない」が基準になっています。この2つは常に社内外でも伝え続けていて、毎月行っている入社式でも「なぜこういう理念になっているのか」2時間近く時間をかけて説明しているくらいです。
採用基準も、この理念・存在意義から導き出した4つの行動指針[①誠実であろう、②シンプルに考えよう、③チームワークで成そう、④期待値を超えよう]が満たせるかを基準にしています。これらを満たす人材が増えることで、組織・企業文化が醸成され、各部門それぞれがお客様のことを考え、お客様のニーズや課題に真摯に向き合うことができます。
この結果として、業態やビジネスモデルの改善を積み上げ、磨き続けたことで、当社の強みが作り上げられたと信じています。
株式会社フィットクルー
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