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2021年5月18日 分析と解説

コロナ禍の1年 巨額赤字の正体、総合フィットネス大手3社 21年3月期決算レビュー

総合フィットネスクラブを運営する業界大手3社(コナミスポーツクラブ、セントラルスポーツ、ルネサンス)の2021年3月期決算が出揃った。2020年4月に1回目の緊急事態宣言が発令され、新型コロナウイルスの影響を通期を通して受けた1年の決算ということで注目度も高い。本誌ではこの特殊な市場環境化での総合フィットネス大手3社決算についてレビューを行う。

減収率は各社30%台で着地、休館と計画見直しによる特別損失が響く

コナミスポーツ、セントラルスポーツ、ルネサンスの総合フィットネスクラブ企業 21年3月期決算内容

各社決算を見ると、コナミスポーツ 売上高364億円、セグメント損益▲58億円と前期33百万円の黒字から大幅な赤字となった。セントラルスポーツも売上高360億円、当期純利益▲23億円と前期21億円の黒字から大きく減収したが、営業利益は8.7億円の黒字、経常利益も7.5億円の黒字と唯一の営業黒字決算となっている。

3社の中で最も赤字幅が大きくインパクトのある決算となったのがルネサンスだ。売上高302億円、当期純利益▲87億円と前期13億円の黒字から一転、約100億円の減収と非常に厳しい内容となっている。第1四半期で計上した特別損失に加え、第4四半期(21年1月-3月)にも約40億円もの特別損失を計上したことが大きく響いている。

減収率を見るとコナミスポーツが▲38%、セントラルスポーツとルネサンスは▲33%となり、各社30%台の減収となった。通期売上高の規模ではコナミスポーツがかろうじてトップの規模となっているが、2位のセントラルスポーツとの差は4億円で、前期は56億円の差があったことを考えるとコナミスポーツの苦境を垣間見ることができる。

実際コナミスポーツは2月に9施設を閉鎖、3月には16施設を5月31日をもって閉店すると発表しており、22年3月期は売上規模の順位変動は必至と考えられる。ただ、オリジナルプロテインの発売開始や、新業態となるマシンピラティススタジオ「ピラティスミラー 二子玉川」をオープンさせるなど新業態のリリースも出ており今後の動向に注目が集まる。

新型コロナウイルス感染拡大による一時的な利益・損失の姿

今回の決算でポイントの1つとなるのが新型コロナ関連で発生した一時的な利益・損失だ。コナミスポーツに関しては開示資料にスポーツ事業セグメントのみの詳細数値は掲載されていないため、セントラルスポーツ・ルネサンス2社にフォーカスして見ていく。

コナミスポーツ、セントラルスポーツ、ルネサンスの総合フィットネスクラブ企業がコロナ関連で計上した勘定科目と数値

まずコロナ禍で発生した「一時的な利益」の代表的なものに「雇用調整助成金」があり、セントラルスポーツ6.9億円、ルネサンスは6.8億円を受け取っている。雇用調整助成金はコロナ禍において業績が悪化した企業がリストラし失業率が上がることを防ぐため、また家計を守るため、企業が雇用維持を行うことに対して支払われる助成金だ。

その他にコロナ禍では様々な補助金制度が発表されたほか、休業要請に対する「補償金」なども多く見られる。ルネサンスは助成金収入13百万円のみなのに対し、セントラルスポーツは補助金収入・受取補償金が前年より約3.5億円増加し合計4.6億円の受取となった。この結果、一時的な利益で言えば、セントラルスポーツは約11.5億円、ルネサンスは約6.9億円が増加したことになる。

逆に、一時的な損失は利益を大きく上回る金額となっておりコロナ禍の影響の大きさを感じさせるものとなっている。計上する勘定科目が異なっているため分かりづらいかもしれないが、損失の種類(内容)について大きく3点を理解した上で特別損失の合計金額を比較すれば各社の状況が推察できる。

1点目は第1四半期(20年4-6月)で起きた休館時の人件費や家賃といったコストを特別損失に計上したもの。フィットネスクラブ業態のコスト構造は家賃やスタッフ人件費が大半を占めており、これは施設が休館していても発生してしまう。こういったコストは通常、施設が営業する前提(売上を作るためのコストという考え方)で固定化しているコストであるため、平時はスタジオレッスンの外注インストラクターの業務委託料なども含め主に「売上原価」に計上されている。しかし今回のように休業要請で休館した場合などは予定していた休館ではなく、さらに施設が営業していないため売上を作るためにかかったコストとは解釈できないため、一時的な損失だと考え「特別損失」に計上することになる。

画像:セントラルスポーツ 2021年3月期 決算短信より

セントラルスポーツではこのコストを「新型感染症対応による損失」、ルネサンスは「店舗休止損失」という勘定科目で計上している。セントラルスポーツは休館期間のスタッフ人件費や家賃・減価償却などのコストが31億円、ルネサンスは19.3億円かかったことが分かる。

2点目は単純にコロナ禍で店舗損益が悪くなってしまい撤退・店舗閉鎖した際に発生する損失。ルネサンスはこれを「店舗閉鎖損失」に計上している。

そして3点目は減損損失。フィットネスクラブは店舗ビジネスであるため、出店時に初期投資がかかり、それを回収する計画も対応して存在している。また物件(資産)を取得している場合(マシンや内装も含む)は、物件の価値が毎年減っていく(建物が老朽化する等)前提で会計上処理する必要があるが、コロナ禍において売上が大きく減少し回収計画が大幅に遅延した場合など資産の価値を大きく見直す必要がある。この資産価値を見直す(引き下げる)処理をする場合、貸借対照表(BS)上の資産の価値を引き下げることになるが、この引き下げた金額が「減損損失」として計上される。

ルネサンスでいうと保有している物件や施設の価値を38億円引き下げた=減損したということになる。コロナの影響による初期投資の回収計画や店舗収支の悪化についてどれほど厳しく見ているか推察できるだろう。

なぜセントラルスポーツの減損額が少ないのか

ルネサンスが38億円の減損損失を計上している一方で、セントラルスポーツは4億円の減損にとどまっている。これは一体どういうことなのだろうか。そもそも、なぜ減損処理をする必要があるのか。一番大きな要因は取得した資産の「回収可能性」が当初の想定よりも悪化したことにある。悪化する理由は、回収のベースになる収益が悪化したり、土地や建物では売却価格の見通しが大きく下がった場合などだ。

では、これ以外の理由は考えられるだろうか。

前述した通り、施設取得や内装といった店舗オープンでかかったコストに対し、物件の価値が毎年減っていく(建物が老朽化する等)前提で会計上処理する必要があるが、毎年の減少分を「減価償却費」として処理することになる。減価償却し続け現時点で残った資産金額が減損の対象となるが、この減価償却をし続ける期間(資産価値が会計上決められた底値になるまで使い倒す期間)は対象資産によって決まっており、例えば鉄筋コンクリートのような丈夫な建物であれば20年〜50年、逆にマネキン人形や模型などは2年と短い「耐用年数」が決まっている。フィットネスクラブに関する資産の耐用年数は、数年から長くても30年程度の中に収まると考えられる。

これを前提に考えたいのが「減損しない理由」だ。

「投資回収計画が遅延していない」という理由以外で、減損しない理由として考えられるのは、既に大半の資産の減価償却が進んで/済んでおり減損対象資産のBS計上金額が少ないかもしれないということ。例えばセントラルスポーツの方がオープンから20年以上経過している施設の比率が高い可能性(減価償却が済んでおり計上されている有形固定資産額が少ない)、もしくはセントラルスポーツの方が出店コスト・イニシャルコストが相当低いので資産額が低く減価償却が早く済んでいるといった場合だ。

セントラルスポーツ、ルネサンスの20年3月期 有形固定資産金額の比較

両社の前期の20年3月期の有形固定資産(建物や内装費、マシン、土地など)の金額を見ると、セントラルスポーツは232億円(減価償却累計額は303億円)、ルネサンスは189億円(減価償却累計額は214億円)でセントラルスポーツの方が資産額が大きく減価償却済みの金額も大きい。一方で20年3月期の1年で計上した減価償却費は、セントラルスポーツが18.9億円、ルネサンスは26億円となりルネサンスの方が大きい。有形固定資産額に直結する直営店舗数は前期末でセントラルスポーツが179店舗、ルネサンスは123店舗だ。

ここから分かるのは、セントラルスポーツの方が資産が少ないので減損金額が小さいという可能性は否定される。逆に1年間で計上している減価償却はルネサンスの方が多いため、この数年で新しい資産(新規出店/マシンの入れ替え等)はルネサンスの方が多い可能性が高く、オープンして数年内の施設の投資回収計画がコロナ禍で遅延し減損に至った可能性が高い。逆にセントラルスポーツは既にある程度回収済みの資産が多く、コロナ禍での業績悪化でも減損の検討判断がマイルドになった可能性はあるが、資産額自体は大きいため減損しない理由としては弱い。

出店コストを推測すると、簡易的な方法だが有形固定資産額+減価償却累計額を直営店舗数で割るとセントラルスポーツが2.98億円/店舗、ルネサンス約3.27億円となる。確かにセントラルスポーツの方が出店コストの平均は低そうではあるが減損を大きく回避するほどの差ではないだろう。

やはりセントラルスポーツの減損が少ない理由は財務的な理由ではなく、シンプルに回収可能性が想定よりも「遅延していない」と考察できる。決算内容を報じる他社のニュースでも赤字が大きく報じられ特別損失の大きさにフォーカスされることも多く、コロナ禍で一見考えづらい理由ではあるが、このシンプルな理由に収斂するだろう。

セントラルスポーツの当期純利益は前期と同額まで回復

本当にセントラルスポーツの投資回収計画は大きく遅延していないのだろうか。四半期ごとの営業利益、当期純利益の推移を見るとこの理由は明らかだ。

セントラルスポーツ、ルネサンスの四半期業績推移の比較

セントラルスポーツは第1四半期、第2四半期は赤字となったが、第3四半期(20年10-12月)からは黒字復帰し、当期純利益に至っては第4四半期で前期と同水準まで回復している。各社コロナ禍で会員数・売上高ともに減少しているが、セントラルスポーツはその中においても黒字決算を実現しており、これがまさに大幅な減損を回避した要因と言える。

一方でルネサンスの利益推移を見ると、営業利益では第3四半期まで赤字縮小推移していたが第4四半期では赤字拡大しており、当期純利益は前述した減損も含め3社の中で最も多く赤字計上した四半期となった。この数字を見ると、来期前半程度までは黒字復帰の可能性が高いとは見づらく減損の判断は妥当とも言える。

コナミスポーツの四半期業績推移

コナミスポーツの数値はコナミホールディングスが開示したセグメント損益の数値ではあるが、同社のIRを見ると営業利益に相当するがIFRS(米国会計基準)での会計処理であるため当期純利益段階のものとも捉えられる。利益推移を見ると厳しい決算になっており、前期第4四半期から大幅な赤字推移となっている。同社は10年以上も売上の減少が続いており、足元の施設閉鎖などを考慮するとコロナ禍の市場環境如何に関わらず見通しは厳しく見える。

ただし同社のセグメント損益の数値を確認する上で1点注意したいのが、例えば前期20年3月期セグメント損益は33百万円の黒字となっているが、コナミHD子会社でスポーツセグメントの中核企業であるコナミスポーツ株式会社の前期決算を見ると、売上高585億円(セグメント売上シェア99.2%)、営業利益▲18.6億円、当期純利益▲34億円となっており実態を見通すにはコナミスポーツ株式会社自体の決算公告を確認する必要がある。つまりセグメント損益の推移に比べ実態は更に厳しい可能性も含んでいる。

業績予想はセントラルスポーツ・ルネサンスともに黒字

第4四半期で減損の判断に至った理由として、足元の業況だけでなく「今後の見通し」も大きい。新型コロナウイルスのワクチン接種が日本でも始まったが、変異株リスクもまだ米英でも叫ばれており、まだ市場環境の見通しは不透明だ。

コナミスポーツ、セントラルスポーツ、ルネサンスの総合フィットネスクラブ企業 22年3月期業績予想の内容

3社の来期業績予想を比較すると、コナミHDが来期見通しを現時点では未定としているため数値がないが、セントラルスポーツは売上高420億円、営業利益20億円、当期純利益8.8億円と予想、ルネサンスは売上高380億円、営業利益12億円、当期純利益4億円と予想している。

いずれもコロナ前の20年3月期決算にはまだ届かない水準だが徐々に回復局面に入っていくと予想している。足元の数値を考えるとセントラルスポーツについては現実感あるが、ルネサンスはどうだろうか。この点について今回の減損が多少関連してくる。

施設などの資産価値が毎年減少する分を「減価償却費」として損益計算書に計上することになるが、これは利益を押し下げる項目となる。一方で、減損処理を行うと施設の価値を引き下げているため、減価償却金額もそれ以降引き下がることになる。

画像:ルネサンス 2021年3月期 決算短信より

フィットネスクラブの減価償却の大半は、主要事業の施設/店舗に関するものであるため大半は売上原価に計上されていると予想される。前述したとおり、セントラルスポーツの20年3月期に計上した減価償却費は18.9億円、ルネサンスは26億円となっており、有形固定資産の金額が少ないルネサンスの方が多く減価償却費を計上している。これは減価償却の対象となる新しい資産がルネサンスの方が多いと推測され、それは近年ルネサンスの方が出店含め積極的な投資を行ってきたこととも同義といえる。

逆に言えばこれが今回の減損につながった要因とも言えるが、新しい施設や投資した資産を減損したことで、26億円の減価償却費が来期以降引き下がり利益を出しやすくなったと見ることができる。こうした財務的なアプローチも考慮すると、来期の黒字予想には期待感がある。

一概に新しい施設や店舗が売上を生み出しやすいとは言えないが、消費者ニーズを捉える新業態への挑戦とも考えられ、業態がヒットする可能性もはらんでいる。総合フィットネスクラブ業態は多岐にわたる視点で転換点を迎えており、市場を牽引する新たな動向がニューノーマルの中で生み出されるか注目したい。

コナミホールディングス IR資料室
https://www.konami.com/ir/ja/ir-data/
ルネサンス IR
https://www.s-renaissance.co.jp/ir/
セントラルスポーツ IR
https://company.central.co.jp/investor/