オンラインのフィットネス業界誌

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2020年5月26日 業界ニュース

「ヨガの保険」が示すフリーランスの「怪我と補償」問題の対処法

フィットネス業界で経営者に取材をしていると、小中規模のジムや個人になればなるほどトレーニング中に起きた会員の怪我について聞くことが多い。保険でカバーされたという話もあれば、お客様との間で揉めたという話も聞く。

新型コロナウイルス感染拡大を受け、フィットネス業界ではオンライントレーニングに各社参入しているが、そこで脚光を浴びているのが「オンラインヨガ」だ。ヨガはマシンを使う機会が少なく、小スペースで実施できるためオンラインとの相性がよい。

SOELU公式サイト

オンラインフィットネススタジオを標榜する「SOELU(ソエル)」は、朝5時から24時まで1日100レッスン以上を開講している。1レッスンあたり15名程度が参加し、PCやスマホから利用できる。また5分程度の録画した短時間の動画も配信されており、ユーザーの様々なニーズに対応している。

同社の会員は80%がヨガ未経験で、オンラインレッスンによってヨガの潜在市場を掘り起こしている。報道によるとSOELUは、外出自粛が本格化した3月中旬にはレッスンの総受講回数が25万回を突破、1月の2倍に成長しているようだ。無料体験は既に1万人を突破している。

SOELUだけでなく、元々オンラインでトレーニングコンテンツを提供していたサービスは軒並み受注が伸びていると聞く。さらに言えば、フリーランスのヨガインストラクターもオンライントレーニングの稼働が増えている。

フリーランスが直面する「補償」問題は働き方改革が生み出した新たな課題

市場成長の反面、考えたいのは指導中の「怪我と補償」の問題だ。

ヨガに限らずパーソナルトレーニングにおいても、店舗でのトレーニングを前提にした保険で補償されるか、個人で「オンライントレーニング」を提供していた場合の補償はどうか、何らかのプラットフォームに所属した上で配信していた場合はどうなるのだろうか。フィットネス業界における怪我と補償の問題を考える上では、特に個人・フリーランスに絡む問題は市場拡大の暗部となる可能性が高い。

そもそもフィットネス業界に限らず、働き方改革を受けた副業やフリーランスの増加に伴い、個人事業における業務中の事故や様々な補償の問題は社会課題となりつつある。資金力の弱い個人にとって業務中のトラブルや金銭的な補償は死活問題だ。

FREENANCE公式サイト

こうした市場背景を受けてインターネット関連企業大手のGMOインターネットはフリーランスに特化した金融支援サービス「FREENANCE」を提供している。仕事中の物損・情報漏えい・著作権侵害等のフリーランス特有の事故に対して最大5,000万円の補償が付く「FREENANCEあんしん補償」と、取引先からの支払い遅延や支払い早期化のための売掛債権の流動化サービス「FREENANCE即日払い」が主な提供サービスだ。

「FREENANCE」公式サイトに記載されている利用者の声を見ると、グラフィックデザイナー、フリー記者、カメラマンなど、クリエイティブ職がメインの対象に見えるが、フィットネス業界でもこのサービスを活用できる余地はあるだろう。

今後フリーランスに向けた業務サポート系のサービスが更に生まれてくると思われるが、各業界の商習慣や特徴によってはカバーされない範囲も出てくるだろう。フィットネス業界も特殊な事例になる可能性も高い。本稿では「ヨガ」を中心に考察していきた。

ヨガ市場は拡大、マタニティヨガやパークヨガなど数十種類が存在

日本のヨガマーケット調査2017 株式会社セブン&アイ出版

ヨガ市場はウェアやシューズ等の関連市場を除いても約1,000億円規模となっており、月に1回以上ヨガを行っている人口は約590万人と一定の市場規模を有している。セブン&アイ出版のレポートによると自宅派は全体の38%を占めており、今回の外出自粛によってこの層に加えジム派・スタジオ派もオンライントレーニングに流入していきていると考えれば、盛り上がりは想像に難くない。

矢野経済研究所 2019年版 フィットネス施設市場の現状と展望

矢野経済研究所のレポートによると、ヨガの施設数は全国776施設で13%を占めている。新規に出店された施設に占める割合は19.4%と施設増加傾向は高い推移となっており、依然として高い成長性が見込める市場と見ることができる。

また、ヨガの特徴として「ヨガを行う場所」や「ヨガを行う人の目的や状況」によって「○○ヨガ」と種類が変わり、ポーズやカリキュラムが変化する。場所で言えば、ホットヨガのように室温を上げた環境で行うものから、公園など自然の中で行うパークヨガがある。また目的や状況で言えば、マタニティヨガやジャイロキネシス(ダンサーのためのヨガ)など、その種類は数十種類になる。

そのため、室内ではない環境での事故や怪我、妊娠中の方の不調など、レッスンの内容によってはリスクを真剣に検討する必要がある。

ヨガインストラクターの9割が業務委託で複数スタジオに勤務している

施設やオンラインサービスが増加している一方で、一般社団法人日本ホリスティックヘルスケア協会によるとヨガインストラクターの9割以上が業務委託で複数スタジオに勤務している状況で、成長を続けるヨガ市場はフリーランスによって成り立っている市場と言える。

「ヨガ練習中のケガに関する調査2017」一般社団法人日本ホリスティックヘルスケア協会

同協会の調査によると、レッスンによって怪我をした経験をもつ受講者は約70%存在しており、その理由に「インストラクターの不適切な指導」を選んだ受講者が15.5%も存在している。

その反面、インストラクターの90%近くが保険に加入しておらず、また怪我をした受講者の約60%はインストラクターにその事実を伝えていないため、インストラクターの35%は「怪我をさせたか分からない」と答えている。

つまりヨガインストラクターは、ある日突然「あなたのレッスンで怪我をしたので治療代を払って下さい」と求められる可能性が高いにも関わらず、その補償の対策を何も行っておらず、インストラクター・受講者その双方が泣きを見る環境となっている。

またヨガインストラクター自身の練習中の怪我など、就業不能の際の保障についても十分な対策がとられておらず、この状態はフリーランスが大半のヨガ業界の課題だろう。先述した通り「ヨガ」は数十種類存在し、実施する場所や目的なども多岐に渡るため、総合的な保険商品ではカバーしきれない可能性もある。これはヨガに限らずフィットネス業界全体の課題とも言える。

ヨガの様々な指導や内容に即した専用の保険「ヨガの保険」

こうしたフィットネス業界のフリーランスをとりまく「怪我と補償」問題解決のヒントになるのが「ヨガ練習中のケガに関する調査2017」を行った一般社団法人日本ホリスティックヘルスケア協会が提供している「ヨガの保険」だ。

「ヨガの保険」は同協会が2018年1月にスタートしたヨガ安全指導員制度の取り組みとして提供されている。この「ヨガ安全指導員」制度は、レッスンの安全性を保つ知識や応急手当、救命措置の基礎知識を身につける「安全講習会」(最低年1回アップデート講習会の受講が必須)と協会員全員加入の「ヨガの保険」によって構成されている。

「ヨガの保険」は三井住友海上が引受を行っており、同協会がヨガのあらゆる指導や場面を想定、オリジナルで設計した賠償責任保険だ。フリーランスが多いヨガインストラクターを同協会の会員として束ね団体保険として提供することで、この問題に当たっている。

補償を受けたいインストラクターは、同協会に入会、年会費の支払い、安全講習会を受講することで翌月1日から自動的に「ヨガの保険」の補償がスタートする。安全講習会および「ヨガの保険」は協会員の特典であるため、三井住友海上との契約は同協会がとりまとめて行う。そのためインストラクターが個別に三井住友海上に対して保険料の支払い等を行う必要はない。

出所:同協会プレスリリースより

「ヨガの保険」の特徴はなんといってもカバー範囲だ。通常のヨガだけでなく、ホットヨガ、マタニティヨガ、ママ&ベビーヨガ、パークヨガ、SUPヨガ、アクロヨガ、ハンモックヨガ、ジャイロキネシス(ダンサーのためのヨガ)などの新しいスタイルのヨガも保険金支払い対象となる。特筆すべきは「オンラインヨガ」「Zoomヨガ」までカバーしている点にある。更に、受講者の怪我の賠償責任保険だけでなく、ヨガインストラクター自身の怪我(傷害)も保障される。

まさに、ヨガを知り尽くした同協会がオリジナルで三井住友海上と設計した、ヨガインストラクターのための保険商品となっている。

世界最大のヨガ資格認定団体「Yoga Alliance」と連携、安全な指導の裏付けを更に強化

同協会は、世界最大のヨガ資格認定団体「Yoga Alliance」と「ヨガの保険」を独占提供するパートナー契約を締結したと発表した。「Yoga Alliance」は全世界に8万人超の会員を有する団体で、日本では約1,700名の会員がいる。この会員に向けて協同し「ヨガの保険」の広報・宣伝活動を行っていくとしている。

「Yoga Alliance」は北米(アメリカ・カナダ)で5万人の会員を有している。北米の会員向けには、既にAllianz社が賠償責任保険を提供していたが、日本の会員には提供されていなかった。そのため、日本のYoga Alliance会員にとっては待望のサービスとなっている。

本提携には、単純に会員拡大の取り組み以外に大きな意味があると本誌は見ている。「Yoga Alliance」の認定資格は「RYT200」「RYT500」と呼ばれており、ヨガ業界では常識ともなっている認定資格だ。

RYTは、REGISTERED YOGA TEACHER(登録ヨガインストラクター)の略なのだが、このRYTの認定資格を取得するにはRYS(Registered Yoga School)と呼ばれる「Yoga Alliance」の認定基準に準拠したスクールでトレーニングプログラムを修了する必要がある。

「RYT200」は「Yoga Alliance」認定基準に準拠した200時間のトレーニングプログラムを修了することで認定される。「RYT500」は累計500時間のプログラムを認定校で修了していることが求められ、更に最低100時間のティーチング経験が必要となる。また費用面でもRYT200で45-65万円、RYT500では65万-100万程度の費用がかかるため、RYTの認定資格を保有していることがヨガインストラクターとしての品質や姿勢について一目瞭然の「称号」となるものだ。

出所:同協会プレスリリース

「Yoga Alliance」は昨今、インストラクターの質の低下を課題に感じており、スクールプログラムを更にブラッシュアップ(厳しく)している。座学内容の拡充だけでなく、指導にあたるリードトレーナーの指導時間を伸ばし、更にリードトレーナーの条件を絞っている。

つまり、むやみやたらにヨガインストラクターを補償するのではなく、「ヨガの保険」提供元の日本ホリスティックヘルスケア協会が開催する安全講習会や様々な講習の受講、「Yoga Alliance」のスクールプログラムのブラッシュアップによって「安全かつ正しい指導が行えるヨガ業界」をスクラムを組んで作っているにも関わらず「やむを得ない事故や怪我」に対して「保険が機能する」という正しい姿勢を感じることができる。

保険はあくまで「不慮の事故」に対するものであり、前提として「自浄作用」を己の中に持ち不断の努力を行っているという姿勢と仕組みがあることが、本質的なポイントだ。あくまで顧客が安全に正しくヨガの効果を感じられるサービスを追求していくという姿勢は評価できるのではないだろうか。

まとめ

本稿はヨガ業界を中心に見てきたが、フィットネス業界のサービスは概ね「体に直接触るわけではなくとも、間接的に体を動かさせ改善していくもの」であるため「安全性」への対策とトレーナーの「職業倫理」向上は避けて通れない課題だ。

その上で、フリーランスが多く活躍する業界であるため「補償」対策も同様であるべきだ。しかし本質的な対策は「正しく安全なサービス提供」が行えるように不断の学習と訓練を行うことであり、ヨガ業界の取組は示唆を与えてくれる。こうした取り組みが増え、健全な市場成長と提供サービスの品質向上が同時に実現することを切に願っている。

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