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2020年7月17日 分析と解説

フィットネス市場に新たな商機、ミレニアル世代女性に人気沸騰の「ヨガリトリート」とは?

このところ日本で「健康志向」という言葉をよく聞くようになった。生活の様々な側面において、健康を優先した意思決定を行う人が増えているという。このことはデータでも確認できる。日本政策金融公庫が2019年3月に公表した調査では、食に関して日本人の「健康志向」が過去最高を更新したことが明らかになった。

健康を志向するトレンドは日本に限ったことではない。欧米諸国でも健康志向は高まりを見せており、巨大な市場を形成するまでに至っている。

グローバル・ウェルネス・インスティテュートの推計によると、世界のウェルネス市場は、2014年に3兆4,000億ドル、2017年に4兆2,000億ドル、そして2019年に4兆5,000億ドル(約480兆円)と拡大の一途だ。

このウェルネス市場、10分野のサブセクターで構成される。最大セクターはパーソナルケアで、その規模は1兆830億ドルに上る。これに、フィジカルアクティビティ(8,280億ドル)、健康食(7,020億ドル)、ウェルネスツーリズム(6,360億ドル)などが続く。

新型コロナの影響で人々の健康志向は一層高まっていることが想定され、ウェルネス市場の拡大は今後しばらく継続する見込みだ。

米国ではヨガ「体験」への支出増加

ウェルネス市場を理解するためのキーワードはいくつかあるだろうが、その中でも「ヨガ」は特に重要度が高いと思われる。

世界最大の消費市場・米国。世界的なフィットネストレンドが生まれる同国ではヨガの人気が高まり続けている。最大の消費者層となったミレニアル世代を中心に、ヨガ実践者が増え、ヨガ関連の支出も増加傾向にある。

イベント企業EventBriteが2019年に米国で実施した調査では、ヨガ実践者のヨガ関連支出は月額90ドル(約9,600円)、生涯では6万2640ドル(約670万円)に上ることが判明。大半のヨガ実践者が1週間あたり2~3回ヨガを行っている。またモノより「体験」に支出する傾向が強いミレニアル世代は、ヨガイベントなどの「体験」に対し、1セッションあたり平均40ドル払ってもよいと考えていることも明らかになった。さらに、ヨガ実践者の6%は、記憶に残るようなヨガ体験であれば100ドル以上でも惜しまないと回答している。

こうしたヨガ実践者の傾向は、「ヨガリトリート(yoga retreat)」の人気上昇にも見て取ることができるだろう。

撤退、引きこもりなどネガティブな意味を持つ「retreat」だが、yoga retreatは「ヨガによる安静・療養」を意味し、ポジティブかつカジュアルに用いられる言葉。ミレニアル世代女性の休暇の過ごし方として人気を博している。

一般的には、ヨガリトリートプログラムを提供するリゾートホテルに1週間~1カ月ほど滞在し、ヨガ/瞑想の実践や健康的な食事を通じて、心身の休息を目指すもの。バリやインドなどが人気の渡航先となっている。

究極のヨガリトリート、ギリシャで帆船ヨガクルーズ

需要の伸びに伴い、ヨガリトリートの形も多様化している。関心を集めているプログラムの1つが帆船クルーズとヨガが合わさった「ヨガクルーズ」だ。

Yoga Ahoyウェブサイト
http://yogacruise.net/

ヨガクルーズは世界各地にいくつか存在するが、米国では「Yoga Ahoy」のヨガクルーズの認知度が高い。発行部数100万部を超えるアメリカンエクスプレスカードの季刊誌Departuresに「世界のベストヨガリトリート・トップ10」として紹介され、また女性誌で取り上げられることも多く、米国では広く知られたヨガリトリートの1つになっている。

Yoga Ahoyのヨガクルーズは過去9年に渡りトルコの海でプログラムを実施してきたが、2020年シーズンはギリシャでのプログラムを予定。7〜10月の予約はほぼ埋まっており、その人気のほどがうかがえる。

トルコのクルーズでは、木造の帆船が使われていたが、2020年シーズンでは2018年に製造された最新の小型ヨット(13メートル)が導入された。クルーズ先は、ギリシャのリゾート地、ケルキラ島やレフカダ島が含まれる。

スケジュールは、朝のヨガ、朝食、レジャータイム、ランチ、レジャータイム、ティータイム、レジャータイム、ヨガ、ディナーと、ヨガクラスとスノーケリングなどのレジャーが組み合わさったリラックスしたものとなっている。

女性誌やウェブメディアで言及されることが多く、バケットリスト(死ぬまでにしたいことリスト)に入れる読者も少なくないようだ。

ギリシャだけでなくタイでも、世界のヨガクルーズ

ギリシャではYoga Ahoyのほか、Viking Navitaによる帆船ヨガクルーズも提供されている。

Viking Navitaウェブサイト
https://www.vikings.tours/

Viking Navitaのヨガクルーズは20人以上のグループを対象にした10日間のプログラム。有名なミコノス島やデロス島をクルーズしつつ、ヨガを楽しむものになっている。Viking Navitaのウェブサイトによると、同プログラムの価格は1,995ユーロ(約24万円)から。寄港先などによって価格は変動するようだ。

BookRetreatsというサイトでは、世界各地のヨガクルーズを見つけ出し、予約することが可能だ。ギリシャのケファロニア島やタイのパンガン島周辺をクルーズするヨガプログラムなどが掲載されている。

冒頭で述べたように、世界のウェルネス市場は4兆5,000億ドル。そのうち、ヨガなどのフィジカルアクティビティは8,280億ドル、また今回紹介したヨガクルーズなどのウェルネスツーリズムは6,360億ドル。パンデミックをきっかけに人々の健康意識が以前にも増して高まった可能性を考えると、市場は今後さらに拡大していくことが考えられるだろう。

ヨガリトリートやヨガクルーズは、パンデミック収束後どのように発展するのか、その動向から目が離せない。