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2020年7月3日 分析と解説

本場インドで急成長、ヨガスタートアップ「SARVA」ジェニファー・ロペスなど著名人がこぞって投資

世界20億人以上?拡大するヨガ市場

日本でも女性を中心に増えているヨガ人口。海外では2016年頃に急拡大期が訪れ、それ以降も人気を維持している。

英ガーディアン紙が伝えたYoga Journal2016年のデータによると、米国における同年のヨガ人口は3670万人、2012年の2040万人から4年で79%増加(2008年は1580万人)。米国におけるヨガ市場は160億ドル(約1兆7000億円)に達した。また2016年時の世界ヨガ市場の規模は800億ドル(約8兆5000億円)に増加したという。2016年英国では「yoga」が、グーグルで最も検索されたワードの1つにもなった。

英語圏におけるヨガトレンドは関連市場にも波及。市場調査会社Technavioは、米国におけるヨガマット市場は2016年の110億ドル(約1兆1000億円)から、2020年には140億ドル(約1兆5000億円)になると予想。別の調査会社NPD Groupによると、米国におけるヨガウェアを含むスポーツウェアの売上高は2015年、350億ドル(約3兆7450億円)となり、同国のアパレル市場全体の17%を占めるまでに拡大したいという。

国連Newsの記事(2016年6月)によると、この時点における世界のヨガ人口は20億人だった。ヨガトレンドは英語圏から中国や東南アジアなどのアジア市場にも波及しており、2020年のヨガ人口は20億人を上回っていることが予想される。

ヨガの本場インドで注目されるヨガスタートアップ「SARVA」

海外大手メディアの多くは欧米のヨガトレンドを報じることがほとんど。ヨガの本場であるインドの事情についてはあまり語られてこなかった。しかし、この数年インドでは注目のヨガスタートアップがいくつか登場、インド市場への関心度合いの高まりも相まって話題になることが増えている。

SARVAウェブサイト(https://www.sarva.com/)

インドのヨガ市場で注目されているスタートアップの1つが「SARVA」だ。2016年にサービスを開始した同社、世界的に有名な歌手・俳優のジェニファー・ロペス氏など多くの著名人が投資をするヨガ企業としても国内外メディアの関心を集めている。

SARVAのメインビジネスは、ヨガスタジオの運営。インド地元紙EconomicTimesによると、2019年11月時点でSARVAはインド34都市に91カ所のスタジオを構え、5万5000人以上の利用者を抱えている。

SARVAの店舗検索ページ(引用:SARVAウェブサイト)

またインドのホテルチェーンOYOとも提携しており、今後は同社のミレニアル世代向けホテルブランド「OYO Townhouses」内に、500カ所のスタジオを開設する計画があるという。

海外にも目を向けており、英ロンドンではすでに3カ所のヨガスタジオを開設。欧州の主要フィットネスクラブDavid Lloyd Leisure Clubsと提携し、ヨガインストラクターの育成にも力を入れている。

ジェニファー・ロペスなど著名人がこぞって投資、豪華な株主で注目を集める

Crunchbaseによると、SARVAは既に5回の資金調達ラウンドをこなしており、調達金額が判明している2回のラウンドの調達金額は8.8Mドル(約10億円超)、内1回はSeedラウンドのため、既に2桁億円中盤〜後半程度の資金調達を実施している可能性が高い。

SARVAの投資家はウェブサイトで紹介されている(引用:SARVAウェブサイト)

ジェニファー・ロペス氏によるSARVAへの投資が報じられたのは2019年5月のこと。ロペス氏とその婚約者でメジャーリーガーのアレックス・ロドリゲス氏らがSARVAのシードラウンドをリードし、600万ドルを投じたという。このラウンドには、インドの人気テレビパーソナリティのマライカ・アローラ氏も含まれていた。ロペス氏によるインド・スタートアップへの投資はこれが第1号になるという。

この投資ラウンド以降も著名人による投資が続く。2019年7月には、インド映画界のスーパースター、ラジニ・カーント氏の長女で映画監督であるアイシャワリヤー・ダヌーシュ氏がSARVAに資金を投じたことが報じられた。ラジニ・カーント氏といえば映画「ムトゥ踊るマハラジャ」の主役を演じた俳優、日本でも広く知られた人物だ。このほか、フィットネス界のスティーブ・ジョブズと称される、24 Hour Fitness創業者マーク・マストロフ氏もSARVAの投資家として名を連ねている。

直近では2020年6月16日に、インドの国民的クリケット選手シカール・ダワン氏がSARVAに投資したとの報道があった。米スポーツチャンネルESPNが実施している「世界で最も有名なアスリート・ランキング100」で94位に位置する世界的なクリケット選手だ。ちなみに同ランキング1位はサッカーのクリスティアーノ・ロナウド氏、2位はNBAのレブロン・ジェームズ氏、3位はリオネル・メッシ氏。日本からは、錦織圭氏(28位)、羽生結弦氏(64位)がランクインしている。

SARVAが注目される理由、伝統的なヨガの現代風アレンジと市場成長ポテンシャル

SARVAの顧客定着率(relation rate)は90%以上。利用者ベースは拡大の一途で、特にミレニアル世代やZ世代など若い世代の利用者増が顕著という。著名人らが注目する理由、若い利用者が増加する理由はどこにあるのか。

その理由の1つとして、SARVAが伝統的なヨガを現代風にアレンジし、若い世代が気軽にヨガを実践できる仕組みを作り上げていることが挙げられる。

SARVAが提供する25種類のヨガクラス(引用:SARVAウェブサイト)

SARVAが提供するヨガクラスは現在25種類。ヴィンヤサヨガやハタヨガといった伝統的なものから「アクアヨガ」「バスケットボールヨガ」「ブロックヨガ」など現代風のヨガクラスが含まれる。アクアヨガは、水中での負荷軽減効果を活用し、通常のヨガが難しい高齢者や妊婦のヨガ実践を促すコース。一方、バスケットボールヨガは、コア筋肉や背筋、腕の筋肉を強化したい人向けにアレンジされたヨガクラスとなっている。

こうした多様なヨガプログラムの提供は、チェンナイのマウントロードにある最初のスタジオの頃から実践されており、これがメディアの注目を集める最初のキッカケとなった。結果的にSARVA最初のスタジオに口コミで顧客が殺到、同社の店舗展開が始まった。

SARVAも新型コロナの影響でヨガスタジオの一時閉鎖を余儀なくされている状態のようだが、調達した資金でデジタルコンテンツの制作に力を入れるとのこと。EconomicTimesによると、SARVAと女性に特化した姉妹ブランドDiva Yogaのグローバル・デジタル・リーチは2億人。若年層が多いインド、35歳未満の人口は5億人といわれている。市場の成長ポテンシャルは圧倒的だ。

同社は冒頭で述べたように既にインド以外の市場にも展開している。世界のフィットネス・ヨガ市場の動向を見る上で、SARVAは無視できない存在になるだろう。