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2020年7月29日 分析と解説

アメリカ超えのフィットネス大国?ブラジル発のスタートアップ「Gympass」が注目される理由

人口あたりのフィットネスクラブ数は米国以上、ブラジルのフィットネス事情

世界でフィットネスクラブの数が最も多い米国。経済規模や人口規模を考えると不思議なことではない。米国のフィットネス業界団体IHRSAのデータ(2018年)によると、米国内のフィットネスクラブ数は3万8000カ所以上だった。

世界2位はどこか。IHRSAのデータでは意外な国がランクインしており、世界のフィットネス市場を見る目が変わるかもしれない。

フィットネスクラブ数3万4509カ所で米国に並ぼうとしているのがブラジルなのだ。ちなみに上記IHRSAのデータでは、日本におけるフィットネスクラブ数は4950カ所(日本国内の最新情報によると5800カ所ほどと推計されている)。

ブラジル、リオ・デ・ジャネイロ
Photo by Agustín Diaz on Unsplash

米国の人口は約3億3000万人、一方ブラジルの人口は2億1000万人。人口あたりのフィットネスクラブ数が多いのはどちらか、一目瞭然だろう。ブラジルでは「ジム文化」が根付いているといわれるほど、多くの人々にとってジムに通うことが生活の一部になっている。

かつて次のフロンティアとして注目を集めた新興市場「BRICS」、その最初の文字Bを示すブラジルでは、2003〜2011年に経済は大きく躍進。所得水準の向上、中間層の拡大にともないフィットネス市場も拡大し、ジム文化が広まったものと思われる。

調査会社Ken Researchによると、ブラジルのフィットネス市場では、BioRitmo、BodyTech、Companhia Athleticaの、Runnerの4ブランドが大きな影響力を持っている。コミュニティ醸成などを通じて、経済成長にともなうフィットネスブームをけん引してきたという。

経済成長だけでなく、文化・社会的要因もブラジルのフィットネス市場を押し上げた要因とみられる。

ブラジルでは男女とも「力強い」身体が評価される
Photo by Sven Mieke on Unsplash

中南米のビジネスメディアLABSが伝えたブラジル人女性起業家クリスティアナ・アルカンジェリ氏の分析によると、ビーチカルチャーなどの影響で、男性も女性もスキニーではなく「力強い」身体が評価されるという。英国などの他の文化圏で女性に「力強い」という言葉をかけると侮辱的とされる場合が多いが、ブラジルでは褒め言葉として受け取られるというのだ。

ソフトバンクも投資、ブラジルのフィットネス・スタートアップ「Gympass」

ブラジルは、中南米のスタートアップシーンを盛り上げる中心的存在でもある。フィットネス/ジム文化が強く根付いている状況を考慮すると、フィットネス分野でもスタートアップシーンが活況している状況が眼に浮かぶはずだ。

中南米ベンチャーキャピタル協会によると、中南米全域でのベンチャーキャピタル投資は、2017年・2018第1四半期に14億ドル(約1500億円)に達したが、そのうち73%がブラジルに投じられたという。

そんなブラジルで今最も注目されるフィットネス・スタートアップの1つがGympassだ。

Gympassウェブサイト
https://www.gympass.com/us

同社は企業向けのフィットネスプラットフォームを提供。会員企業の社員は、同ネットワークに参加する様々なフィットネスクラブやジムを利用することが可能となる。2019年6月には、ソフトバンクなどから3億ドルを調達したとして、英語圏メディアや中南米メディアで大々的に報じられた。

2012年にローンチされた同サービス、現在はブラジルを含め世界14カ国で展開している。ブラジル、ポルトガル、アルゼンチン、スペイン、メキシコなどのポルトガル語/スペイン語圏に加え、フランス、オランダ、アイルランド、英国、米国などが含まれる。社員の健康意識の高まりを背景に、同サービスへの関心を持つ企業が世界中で増加傾向にある模様。

2020年6月時点、Gympassの会員企業数は2000社以上。提携するフィットネスクラブは5万件を超え、提携ウェルネスアプリは60個、また同プラットフォームには2000人以上のパーソナルトレーナーが登録しているという。

Gympassの提供価格
https://www.gympass.com/us

世界中のフィットネス関連企業がコロナの影響を受けているが、同社も例外ではないようだ。損失を最小化すべく新たな取り組みを始めている。

Gympassは2020年6月末、会員企業における在宅勤務の増加を受け、3つの新サービスを導入することを発表した。1つは、メンタルヘルス改善のためのウェルネスサポート、2つ目はストリーミング・ライブクラス、3つ目は1対1のパーソナルトレーニング。

ウェルネスに関しては、メンタルヘルス専門家によるセラピーの導入、ヨガ/ウェルネスアプリとの連携を強化。

ストリーミング・ライブクラスは、すでに様々なフィットネス企業が導入しており、独自性が求められるところ。Gympassは、英語圏で人気のダンスバトルイベント/テレビ番組「World of Dance」との提携で、独自性をアピールしている。同イベント/番組は、ジェニファー・ロペス氏がプロディーサーを務め、米国だけでなく、ポーランド、ロシア、タイなど世界各地で実施・放送されており、これまでに世界中で10億回以上視聴されたといわれている。Gympassの会員は、その振り付け師らによるダンスのライブストリーミングに参加できる。

パンデミックをきっかけに強まる、企業に求めるウェルネス志向

Gympassが米国で独自に行った意識調査(2020年6月末発表)によると、65%がパンデミックをきっかけにメンタルヘルスを重要視するようになったと回答、また同等の割合がパンデミックによってメンタルヘルス含め健康全般を優先するようになったと回答していることが判明した。

同調査では、企業がウェルネスプログラムを提供しているかどうかで、その企業や経営者の評価が大きく変わる可能性も示唆されている。もし企業がウェルネスプログラムを提供していない場合、経営者に対する評価が下がるとの回答は54%だった。さらに、仕事の内定をもらったとしても、その企業がウェルネスプログラムを提供していないのなら、内定辞退を検討するとの回答割合は60%に上ったのだ。

フィットネス産業は苦境に立たされているが、パンデミックをきっかけに人々の健康意識は高まっている状況。世界の中で最も注目されるフィットネススタートアップの1つであるGympass、その影響力は無視できない。同社の施策は、状況を好転させる大きなきっかけになるかもしれない。