日本のフィットネスクラブで海外展開を本格化させている会社はまだ少ない。日本市場が未だ成長を続け「発展途上」であり成長余地があると考えている経営者も多いし、それはこの数十年の市場動向のデータを見ても事実ではあるし同感だ。
しかし、日本は「高齢化社会」先進国でもある。世界を見ても、日本は先駆けて人口動態上の高齢化社会を先に迎える。介護業界ではこのトレンドを受けて「日本が高齢化社会で培ったノウハウをソフトとして海外輸出できるはずだ」というオピニオンがある。
最近のフィットネス業界では比較的年齢層の高い業態開発が進んでおり(カーブス、ルネサンスの元氣ジム等)このチャンスは相応にあると考えている。そうなると海外のフィットネス市場について今から目を向けていく必要がある。
本稿では、大手会計事務所のDeloitteが発表している「European Health & Fitness Market Report 2020」要約版の内容を紹介する。あまり目の向けられていないヨーロッパのフィットネス市場について理解を深める機会になれば幸いだ。なお、全文版に関してはオンラインから299ユーロで購入できる。
2020年版レポート(対象年度は2019年)のイントロとして昨今の新型コロナウイルスについてのコメントがある。ヨーロッパも日本と同様(それ以上)にロックダウンや自宅待機要請によってフィットネス産業が打撃を受けている。しかしポジティブな影響もあるとKarsten Hollasch、Herman Rutgersの両名は記している。
良いニュースは、私たちのセクターがデジタル時代に進化し、(フィットネス)クラブを超えて会員がいつでもどこでもアクティブに過ごすための様々な方法を開発してきたことです。多くの事業者は、オンラインクラスを提供することで「デジタルフィットネス」を試していたり、多くのアプリやオンラインエクササイズビデオを活用して、自宅で運動できる可能性を会員に奨励しています。(翻訳:BtF編集部)
European Health & Fitness Market Report 2020
2019年ヨーロッパのフィットネス市場サマリー|フィットネス参加率は8.1%
・フィットネスクラブの会員数:6,480万人
・会員成長率(増加率):プラス3.8%
・上位30社のフィトネスクラブ会員数:1,720万人
・上位30社のフィトネスクラブ会員シェア:26.5%
・フィットネスクラブ施設数:63,644施設
・フィットネス参加率(対全人口):8.1%
・フィットネス参加率(15歳以上):9.7%
・M&A件数:17件
・全収益:282億ユーロ(約3.5兆円)
・平均月会費:38.4ユーロ(約4,760円)
比較の材料として日本のフィットネス市場データについて記載する。経済産業省「特定サービス産業動態統計調査※」によると、2019年度の日本のフィットネス市場売上高の合計は3,243億円、会員数321万人、指導員数(インストラクター・トレーナー等)3.7万人となっている(調査対象事業所数≒施設数:1,477)※「特定サービス産業動態統計調査」は他レポートと数値の乖離が大きく、実際の市場規模は公表数値の1.5倍〜3倍規模の可能性も有り。
■各数値の集計は欧州連合(EU)加盟28カ国に加え、ノルウェー、ロシア、スイス、トルコ、ウクライナも含まれる。
■収益面では、欧州のヘルス&フィットネス市場は2019年に3.0%増の282億ユーロ(約3.5兆円)となった。ただし、収益の伸びは為替レートの影響をわずかに受けており、為替変動の影響を除いた場合、前年同期比の伸び率は3.1%。
■市場規模は、各国のクラブ数が2.3%増加したことに加え、1施設あたりの平均会員数が1.5%増加したことにより3.8%増の6,480万人となり、市場は再成長した。一方で平均月会費収入は、低コスト事業者の拡大が続いていることなどから0.8%の減少となった。
■売上高の測定対象となったヨーロッパのフィットネス事業者トップ10は、2019年の総売上高36億ユーロ(約4,500億円)を達成した。これらの事業者の市場シェアは12.1%から12.9%に増加したが、それにもかかわらず、欧州のフィットネス市場は比較的細分化されたままである。
■会員数に関しては、2018年から2019年にかけて会員数が180万人(11.9%増)増加したことで1,720万人となり、大手30事業者の合計市場シェアは1.9ポイント増の26.5%となった。
低コストジム業態がヨーロッパのフィットネス市場の成長を牽引、M&Aも活発
■こうした市場成長は、蘭Basic-Fit(+38万人)、独cleverfit(+23万人)、独FitX(+133万人)、英PureGym(+123万人)、独EASYFITNESS(+11万人)、独RSG Group(+10万人)、西VivaGym Group(+8万人)、英The Gym Group(+7万人)などの低価格帯の事業者が中心となっており、これらの事業者は会員数の急成長を遂げている。
■会員数では蘭Basic-Fit(220万人)、独RSG Group(210万人)、英PureGym(110万人)はヨーロッパのトップ3に入り、独cleverfit(95万人)とノルウェーSATS Group(68.7万人)もが4位と7位に躍進した。
■これらの数字は主にオーガニックな成長を表しているが、蘭Basic-Fit(蘭Fitlandを買収)、仏Fitness Park Group(仏Fitlaneを買収)、独LifeFit Group(独smile Xを買収)、西VivaGym Group(西Duet Fitを買収)のように、M&Aが成長に寄与した企業もある。
■全体的に見て、ヘルス&フィットネスクラブ運営会社は、業界内外の投資家にとって依然として非常に魅力的であり、2019年には17件の主要なM&Aが行われた(2020年初頭にはすでに2件のM&Aが行われている)
Company | HQ | Revenue(€) | 収益(円) |
David Lloyd Leisure | イギリス | 5.87億€ | 約730億円 |
Basic-Fit | ドイツ | 5.15億€ | 約640億円 |
SATS Group | ノルウェー | 4.05億€ | 約500億円 |
Migros Group | スイス | 3.67億€ | 約455億円 |
RSG Group | ドイツ | 3.65億€ | 約450億円 |
- 収益面では、イギリスのプレミアムオペレーターであるDavid Lloyd Leisure(DLL)が2019年の収益を5億8700万ユーロ(約730億円:2018年比7.7%増)とし、かなりの差をつけて1位をキープした。2位はBasic-Fit 5億1500万ユーロ(約640億円)で、2019年に155のクラブを追加したことが牽引している。ノルウェーを拠点とするSATS Group 4億500万ユーロ(約500億円)が3位にランクインし、スイスのMigros Group 3億6700万ユーロ(約455億円)、ドイツの市場リーダーRSG Group 3億6500万ユーロ(約450億円)が続いている。
- 売上高別のトップ10には、蘭Basic-Fit、独clever fit、デンマークFitness World、英PureGym、独RSG Groupの5つの低コスト事業者が含まれている。
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ヨーロッパのフィットネス市場の成長はイギリスとドイツが規模・成長率ともに牽引
- 本レポートでは、欧州最大のフィットネス市場(個別国)のプロファイルも掲載している。分析対象となった17カ国の会員数は5,580万人(欧州市場の86.2%)、売上高は248億ユーロ(88.3%)、クラブ数は51,511クラブ(80.9%)である。
- 総市場規模は約282億ユーロで、ヨーロッパは世界第2位のフィットネス市場になっている。2019年のIHRSAグローバルレポートによると、2018年に286億ユーロ(323億米ドル)の収益を報告した米国市場がヨーロッパ市場をわずかに上回っている。
- 図1に示すように、ドイツとイギリスは、それぞれ約55.1億ユーロの総収入で、ヨーロッパの2大国内フィットネス市場であり続けている。2019年のドイツ市場は3.4%増であったのに対し、イギリス市場は、恒常通貨ベースで4.1%増、ユーロベースで4.9%増となっている。フランス(26億ユーロ)、スペイン(24億ユーロ)、イタリア(23億ユーロ)を合わせると、主要5カ国で欧州のヘルス&フィットネス市場全体の65%を占めている。
- 会員数では、ドイツが1,170万人(5.1%増)と依然として欧州最大の市場であり、次いでイギリス(1,040万人、4.9%増)、フランス(620万人、3.9%増)、イタリア(550万人、0.9%増)、スペイン(550万人、3.3%増)となっている。
- 図2に示すように、ドイツと英国も2019年に平均を上回る会員数の伸び率を示しており、これは主に両国の低コスト事業者の継続的な拡大に牽引されている。
- 個々の市場間にはかなりの差が残っている。スウェーデン(普及率22.0%)、ノルウェー(22.0%)、オランダ(17.4%)などの市場は、身体活動家の割合が高いこと、都市化率が比較的高いこと、平均所得が比較的高いこと、大手フィットネス事業者がこれらの国に存在することなどが主な要因で、人口に対して会員数が高い中規模の国を代表している。一方で、ポーランドのような専門市場では普及率が8.0%と、依然としてかなりの潜在的な市場の可能性を示している。
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ドイツのフィットネス市場インサイト
- ドイツのフィットネス市場は2019年も成長を続け、会員数は1,166万人、総収入は55億1,000万ユーロに増加した。総人口の14.0%が9,669の民間フィットネスクラブのいずれかの会員となっていることになる。
- クラブ数の増加(3.5%増)と会員数の増加(5.1%増)は、主に低価格帯のセグメントを中心としたチェーン経営者によるものでした。そのため、RSGグループ(135万人)、クレバーフィット(85.4万人)、FitX(78.3万人)、EASYFITNESS(37万人)が最も会員数が多く、2019年には約50.6万人の会員が追加され、絶対的にも最も急成長している事業者となった。
- 大手事業者を合わせると、総会員数の38%を占めている。このリストには、フランチャイズ事業者のINJOY(スイスに本拠地を置くMigrosが所有)、Kieser Training、LifeFit Groupなどのプレミアム事業者やアッパーミッドマーケット事業者も含まれている。標準VAT率は19%で、フィットネスサービスの割引は無い。
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参考:スペインのフィットネス市場インサイト(2019年版レポート、対象2018年)
- スペインでは、4,650のフィットネスクラブのいずれかで運動する会員数は533万人と推定されており、これは総人口の11.4%の普及率に相当する。
- スペイン市場をリードする商業フィットネスクラブ事業者には、2018年も拡大を続けたスペインの低価格チェーン「Altafit」と「VivaGym」のほか「Anytime Fitness」「McFIT GLOBAL GROUP」「Basic-Fit」などの国際的な大手事業者が含まれている。
- スペイン市場の特徴は、公共機関と協力して大型スポーツ施設を運営する、いわゆるコンセッション事業者(コンセッション方式とは施設等の所有権は公的機関や自治体で、運営権を民間事業者に売却するスキーム)である。
- CMD Sportによると、4大コンセッションオペレーターであるServiocio/BeOne、Supera、Forus、GO fitの4社は約68万人の会員を抱えている。GO fitは、2018年末時点でスペインの17施設にまたがる20万5000人の会員を抱え、最高位にランクインしていると報じられている。スペインの標準VAT率は21%で、これはフィットネスにも適用される。