2022年に100兆円規模に? ウェルネス/フィットネスツーリズムの台頭
このところ世界の観光産業では「ウェルネスツーリズム」という言葉が頻繁に登場するようになっている。ウェルネスツーリズムとは、ヨガやランニングによる心身機能の向上を主目的とする観光のこと。
これまで観光といえば「リラクゼーション」や「レクリエーション」を目的とするものだったが、人々の健康意識の高まりに伴い、積極的に心身の健康を「improve(向上)」させる観光の形が人気を博しているのだ。
米国の非営利団体グローバル・ウェルネス・インスティテュート(GWI)によると、2018年の世界ウェルネス市場の規模は4兆5000億ドル(約480兆円)。このウェルネス市場は10セクターで構成されており、そこにはウェルネスツーリズムも含まれている。このウェルネスツーリズム市場の規模は、6360億ドル(約68兆円)で、2022年には9190億ドル(約98兆円)に達する見込みだ。
ウェルネス・ツーリズム協会のアン・ダイモン氏がBBCに語ったところででは、ウェルネスツーリズムは広く一般に普及するトレンドであるが、特に30〜60歳の高学歴女性の増加が顕著だという。
GWIはウェルネスツーリズムの消費者をプライマリーとセカンダリーに分類。プライマリーとは、健康意識が非常に高く、観光目的を心身の健康向上に絞っている層のこと。一方、セカンダリーとは、一般的な観光にカジュアルな形で「ウェルネス要素」を追加する層。プライマリー層は全体の14%、セカンダリー層は86%を占めるという。
興味深いのは、プライマリー層の支出傾向だ。国内旅行においては、プライマリー層は平均的な旅行者に比べ178%、海外旅行では53%多く支出する傾向があるという。
米高級フィットネスEquinox、旅行プログラム提供にウェルネスホテル開業
ウェルネスツーリズムは、その名が示す通りウェルネスとツーリズムが融合した市場。これまでは、ウェルネス/フィットネス市場とツーリズム市場は別領域であり、プレーヤーもそれぞれの市場に活動領域を絞り、事業を展開してきた。
しかし、拡大を続けるウェルネスツーリズム需要を満たすため、ウェルネス/フィットネス市場のプレイヤー、観光市場のプレイヤーともに「アウトオブボックス」の思考で新たな試みを始めている。
米国の高級フィットネスブランドEquinoxの取り組みは、フィットネス企業がウェルネスツーリズム市場にどうアプローチすべきかなのかを示す試金石と見ることができる。
Equinoxはフィットネス企業であるにも関わらず、ウェルネスツーリスト向けの旅行プログラム「Equinox Explore」を提供しているほか、ウェルネスコンセプトを前面に出したホテルを開業するに至っている。
Equinox Exploreでは、2020年モロッコでのハイキングやコスタリカでのサーフィントリップが計画されている。モロッコのプログラムは、ハイキングといいつつも4000メートルを超えるモロッコ最高峰ツブカル山の頂上を目指すもので、難度は「High-Performance」となっている。地元ガイドとEquinox専属コーチが同行する6日間のトリップ、費用は6250ドル(約67万円)。ハイキングだけでなく、睡眠コーチング、ヨガセッションも含まれている。当初は5月にツアーが予定されていたが、コロナの影響により9月に延期となった。
コスタリカでのサーフィントリップは、2020年11月に予定されている6日間のプログラム。費用は3450ドル(約37万円)。大自然の中でのサーフィンを通じて、心身の健康を向上させるのが目的だ。宿泊先は、ウェルネスコンセプトのホテル「Guilded Iguana」。地元の野菜やフルーツを使った健康的な食事によるウェルネス向上も期待できるとのこと。
こうしたウェルネスツアーを始めたことに加え、ウェルネス・ラグジュアリーホテル「Equinox Hotels」まで開業したところを見ると、ウェルネスツーリズム市場に対するEquinoxの本気度を垣間見ることができる。そのホテルの所在地がニューヨークで話題の新スポット「ハドソンヤード」であるからなおさらだ。また、2022年にはヒューストンとロサンゼルスで、2023年にはシカゴでも開業の予定。
ニューヨークのEquinox Hotelsが開業したのは2019年7月。ウォール・ストリート・ジャーナルは、同ホテルを「世界で最もフィットなホテル」だと評している。
一見よくある高級ホテルだが、Equinoxの本業であるフィットネス事業のリソースをフル活用したフィットネスプログラムが他のホテルとの大きな差別化要因になっている。ホテル内のジムでは、パーソナルトレーニングが受けられるほか、ヨガやHIITなど多様なグループフィットネスプログラムに参加することもできるようだ。デラックスルームは1泊900ドル(約9万6000円)前後、スイートルームは6000ドル(約64万円)ほどとなっている。
Pelotonはホテルと提携しウェルネスツーリズム市場に参入
上記Equinoxの取り組みは、フィットネス企業がほぼ単独でウェルネスツーリズム市場に参入した事例を示すもの。他のアプローチも存在する。
たとえば、英語圏で人気を博すインドアバイクPeloton。同社はウェスティンホテルなどと提携し、米国中のホテルにPelotonバイクを設置。その数はすでに500カ所近くに達しているといわれている。
Pelotonも自社のウェブサイトで、Pelotonバイクを設置しているホテルのロケーションマップを公開しており、Pelotonユーザーや宿泊先でPelotonバイクを試してみたい旅行者は簡単に検索できるようになっている。
Pelotonの競合でEquinox傘下のSoulCycleも2019年11月に、ラグジュアリーツアー運営会社Black Tomatoと提携し、ウェルネスツアープログラム「Retreats By SoulCycle」をローンチし話題となったところだ。
パンデミックの影響で人々の健康意識は以前よりも高まっていることが想定される。ウェルネスツーリズムの成長可能性は一層大きくなっているのではないだろうか。