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2023年6月20日 分析と解説

【2023年3月期】総合フィットネス3社決算、各社増収もコロナ前の水準はまだ遠く

総合フィットネスを展開するコナミスポーツ株式会社、セントラルスポーツ株式会社、株式会社ルネサンスの2023年3月期(2022年4月〜2023年3月)の通期決算が出揃った。

フィットネス業界全体がコロナ禍を経て回復基調に至る中、多数の会員を抱える総合フィットネス各社の業績がどの程度まで戻っているのかは、業界動向を占う上で重要な指標といえる。また当期はルネサンスの東急スポーツオアシスに対する資本参加など大きなトピックも有り注目度は高いだろう。

2023年3月期の売上高は、コナミスポーツ454.9億円、セントラルスポーツ436億円、ルネサンス407.6億円で着地。売上高での業界順位に変化はなく、当期もコナミスポーツが首位となった。

利益面ではコナミスポーツが営業利益▲24.6億円、当期純利益▲21.2億円の赤字。セントラルスポーツは営業利益18.5億円、当期純利益7.9億円の黒字。ルネサンスは営業利益6.8億円、当期純利益▲11.4億円となり、営業利益・当期純利益ともに黒字で着地したのはセントラルスポーツのみとなった。

決算ハイライト:コロナ前の水準はまだ遠く

思い返せば、2020年初頭に新型コロナウイルス感染源として「フィットネスクラブ」が名指しで指摘されたことで、フィットネス業界は他業界に先駆ける形でダメージを受けた。それから約3年が経過し、新型コロナウイルスの5類移行やマスク着用の任意化など日常を取り戻しつつある。

それに伴いフィットネス各社も決算発表時にコロナ禍からの回復を強調しており、会員数や出店スピードも戻ってきている。またコロナ禍で中断した成長戦略を再策定し、新たな成長に向けてアクセルを踏み直している感もある。

総合フィットネス3社の売上推移を見ても全社が2年連続で増収となっており、回復傾向にあることは明らかだ。その上で注目したいのはコロナ禍直前の2020年3月期との対比だろう。

2020年3月期から4期間の業績を並べて見ると、各社どの項目においてもコロナ前の水準を取り戻している企業はない。顕著なのは原価率で、セントラルスポーツ以外はコロナ禍で上昇した原価率を戻すことはできておらず、コナミスポーツは2021年3月期に続き粗利の段階で赤字となった。

その背景には様々な要因があるが、2023年3月期においては共通してロシア・ウクライナ情勢によるエネルギー価格・原材料価格の高騰について記載があり、水道光熱費や地価の上昇など原価率に対してプレッシャーのかかる状況にある。

また2020年3月期の売上高を100とした際に、2023年3月期の売上がどの程度まで戻っているのかを見ると、コナミスポーツは77.8%、セントラルスポーツ81.7%、ルネサンス90.5%に留まっている。3社の中ではルネサンスがコロナ前の水準に最も早く戻りつつあるが、それでも全体として完全復活と呼ぶにはまだ遠い状況だ。

コナミスポーツ:2年連続で増収も、原価率上昇で粗利が赤字

コナミスポーツ株式会社の2023年3月期は、天井にミラーを設置したピラティススタジオ「Pilates Mirror(ピラティスミラー)」の展開を進めており、吉祥寺・桜新町・経堂・自由が丘で出店。こども向け運動スクール「運動塾」では磯子(神奈川県)、川西(兵庫県)、自由が丘(東京都)、和泉中央(大阪府)の4施設でスイミングスクールを開講した。

受託事業においては神奈川県横浜市、神奈川県秦野市、京都府京都市、福岡県福岡市、愛知県豊橋市のスポーツ施設の業務受託運営を開始している。また学校水泳授業の受託についてもニーズが高まっており、全国の小中学校にて水泳指導業務の受託を提供している。

単位:百万円

業績は売上高454.9億円(前期419.8億円)、営業利益▲24.6億円(前期▲23.9億円)、当期純利益▲21.2億円(前期▲14.2億円)となった。これまで業績のダウントレンドが続いていた同社にとって、2021年3月期から2年連続の増収となりV字回復を期待させる結果になっている。ただし利益面では2020年3月期から4期連続で赤字となった。

コナミグループ社の決算短信(スポーツ事業について)には「当連結会計年度におきましては、エネルギー価格高騰による光熱費の上昇により大きな影響を受けましたが、施設運営の効率化などの対策を実施し、影響を吸収いたしました。」と記載されているが、コナミスポーツ社単体の決算上では原価率は上昇し続けており、2023年3月期でも原価率が100.1%と高い水準になっている。

3社の原価率推移を比較すると、セントラルスポーツのみが原価率をコントロールできておりコロナ禍でも営業利益で黒字を維持している。ルネサンスも2020年頃まではセントラルスポーツと同水準の原価率を維持してきたが、コロナ禍で上昇した原価率を直近3期で下げきることができていない。

元々、コナミスポーツ2社に比べて高い原価率を推移しており、コロナ前の2020年3月期時点で原価率は97.3%まで上昇、営業利益も18億円の赤字に陥っていた。2022年3月期では100%を切る水準に抑制できたが、2023年3月期ではまた100%を超え粗利の段階で赤字となった。

セントラルスポーツ:営業利益段階では増収増益、貫禄の経営力

セントラルスポーツ株式会社の2023年3月期は、24時間小型ジム業態の「セントラルスポーツジム24」や、介護認定者及び一般高齢者を対象とした新業態「セントラルライフケアステーション」など直営5店舗を出店した。一方で「セントラルフィットネスクラブ千種店(愛知県)」「スタジオヨガピス八王子店(東京都)」などの営業を終了し、直営の退店は3店舗となった。

業務受託部門では3店舗を新規受託、退店(業務受託終了)は「東京辰巳国際水泳場(東京都)」の1店舗となっている。同社は学校水泳授業の支援も拡大しており、当会計年度において30超の自治体から業務受託を受けた。日本のスイミングスクールの先駆者である同社にとってこの領域はまさに得意分野だ。今後は体育授業全般の受託も見据え推進していく予定としている。

会員動向としてはスクール会員数は前年比99.4%、フィットネス会員数は100.5%、総会員数は100.0%となり、2023年3月末時点の総会員数は約342,000名となった。

単位:百万円

業績は売上高436億円(前期403.3億円)、営業利益18.5億円(前期15.1億円)、当期純利益7.9億円(前期15.4億円)で増収減益となった。最終利益のマイナス要因としては、前期に営業外収益として受け取っていた受取補償金13.0億円(当期は1百万円)と補助金収入2.8億円(当期は0百万円)がほぼ無くなったことが大きい。

同社はコロナ禍においても、2021年3月期で減損による最終赤字になった以外は営業利益・経常利益ベースでも黒字を維持しており、ずば抜けた業績安定性を保っている。安定の要因としては、機動的な原価コントロールがある。コロナ禍初年度の2021年3月期でも前期から原価率は多少増加しているものの4.0%のプラスに留まっており80%台を維持している。2022年3月期と2023年3月期に至っては88.5%とコロナ前とほぼ同様の水準を維持した。

結果的に2023年3月期は減益になったものの営業利益は増益しており、売上増加分だけ確実に利益が出せる体質を維持している。

ルネサンス:積極的な営業努力で増収を果たすも赤字決算

株式会社ルネサンスの2023年3月期は、総合型スポーツクラブ3施設を出店。介護リハビリ事業「元氣ジム」ではフランチャイズ4店舗、直営4店舗を出店した。既存店ではプール・お風呂・サウナなどの総合型スポーツクラブならではの設備訴求を強化、既存10施設においてジムのフリーウェイトゾーン拡充を中心としたリニューアルを実施した結果、新規入会が好調に推移した。2023年3月末の在籍会員数は373,615名となり、その内オンライン会員数は36,936名となった。

連結子会社の株式会社BEACH TOWNは、佐賀県武雄市の「武雄温泉保養村キャンプ場等利活用事業」において構成企業として事業予定者に選定された。2023年4月から武雄温泉保養村にオープンした「OND PARK(オンドパーク)」内に、 ヨガスタジオ、ボルダリングジム、アウトドアフィットネス等を展開する「BEACHTOWN OND PARK(ビーチタウンオンドパーク)」を開設する。

単位:百万円

業績は売上高407.6億円(前期371.2億円)、営業利益6.8億円(前期9.1億円)、当期純利益▲11.4億円(前期5.1億円の黒字)で増収減益となった。前期からの減益要因としては、光熱費・人件費の上昇による原価率の増加(前期比+0.8%)に加え販管費が2億円、支払利息が約90百万円増加したほか、前期に受け取っていた雇用調整助成金・助成金収入(前期5.8億円)が無くなったことなどが上げられる。

同社は2022年11月にアドバンテッジアドバイザーズの運営ファンドから50億円の資金調達を実施。アドバンテッジアドバイザーズとともに、コロナ禍からの再成長に向け、組織体制の再構築や新規サービスの開発、介護リハビリ事業の出店加速といった複数のプロジェクトを推進している。そして当期には、その一環として東急スポーツオアシスの株式40%を約16億円で取得、持分法適用関連会社とした。

持分法適用開始日は2023年3月31日となっているため、本格的な業績寄与は2024年3月期からとなるが、両社合算の店舗数は国内140施設(直営)の規模となり、フィットネス業界における最大規模のグループとなった。

東急スポーツオアシスは債務超過・業績再建中

ルネサンスの東急スポーツオアシスに対する資本参加は業界でも大きく話題になった一方で、不安要素もある。それは東急スポーツオアシスの業績不振だ。

会社ホームページでの開示や東急不動産ホールディングスのIRから読み取れる業績をまとめた。それを見ると、同社は2022年3月期に売上高135億円を計上しているが21年・22年はおそらく大きな赤字決算となっており、2022年3月期は純資産は▲44.5億円の債務超過だ。つまり実態としてはコロナ禍からの再建途上と言える。

東急不動産HDの2023年3月期の決算説明会資料には「業界大手のパートナーとの資本提携により、共同での販促、購買などの強化を推進し早期黒字化をめざす」と記載されており、2023年3月期時点においても赤字である可能性が高い。

確かにルネサンスと東急スポーツオアシス連合は事業規模でいえば業界最大級のグループではあるが、オアシスの実態を推察すると必ずしもポジティブな内容だけではない。

まだ「再生を目的とした投資」段階

読者の中には「仮に赤字だとしてもルネサンスとオアシスの売上を単純合算すると売上500億円超え、40%分でも450億円超で首位のコナミスポーツに追いつき、やはり業界最大級のグループではないか」と考える方もいるかもしれない。これはある一面では正しい。しかし会計上の取扱いは異なってくる。

東急スポーツオアシスを60%保有しているのは東急不動産HDで、オアシスはまだ東急不動産HDの子会社という位置づけになっている。では40%を保有しているルネサンスでの(会計上の)位置づけはというと、一番近い表現は「投資先」になる。

持分比率40%では決算で売上の連結は行われない。東急スポーツオアシス社が計上した当期純利益の持分比率分(ルネサンスの場合40%)が、黒字の場合は営業外収益「持分法による投資収益」に、赤字の場合は営業外損失「持分法による投資損失」としてルネサンスのPLに計上される。ただしこの計上される赤字額には上限がある。その上限額は株式の取得コスト分(今回では約16億円)だ。

仮に、2024年3月期で東急スポーツオアシスが100億円の赤字だった場合でも、40%を保有しているルネサンスのPLには「投資損失」として▲40億円が計上されるのではなく、株式の取得額である約16億円が「投資損失」として計上され、翌年また100億円の赤字だったとしても投資損失にはもう赤字は計上されない。

東急不動産ホールディングス 2023年3月期 決算説明資料

東急不動産HDの開示資料に「ヘルスケア事業は新たなパートナーとの資本提携により、フィットネス事業の抜本的な再構築を推進」と記載されていることからも、ルネサンスの東急スポーツオアシスへの資本参加は、現段階では「東急スポーツオアシスの再建・再成長のために、東急不動産HDがルネサンスを新しいパートナーに迎えた」ルネサンスにとっては「再生を目的とした投資」という側面が強いと言える。

つまり「ルネサンスと東急スポーツオアシスが一体となって実質的な業界首位に」というイメージは現時点ではまだ異なっている。仮にそれを両社が目指していたとしても、持分法適用40%という形に着地した背景を考えてみれば「ルネサンスとしては、オアシスをいきなり丸抱えして売上が大きく伸びるとしても、連結で全体が赤字になる状況は株価や財務負担等々の理由で(重いし)避けたい」「やるとしても段階的に進めたい」というような視点は少なからずあったかもしれない。

これらはあくまで推測ではあるが、会計上の処理を考えても「東急スポーツオアシスの黒字化・再成長」が今回の資本提携の目的であることは間違いなく、両社の発展的な関係を考える上でも必須条件だ。これが達成されて初めて、ルネサンスが持分比率を100%に向けて増やしていくという選択肢も出てくるだろう(もちろん保有株を売却して売却益を得る可能性もゼロではない)。

また資本参加の協議時に、ルネサンスと東急不動産HDの間で「東急スポーツオアシス社の黒字化」をマイルストーンとして設定している可能性もある。こうした推測も含め、来期以降オアシス社の決算にはこれまで以上に注目が集まるだろう。

2023年6月29日追記:資本参加時に「新オアシス」は財務健全化を果たしている可能性

ルネサンスの東急スポーツオアシスに対する資本参加において、オアシスの黒字化が重要なポイントに変わりはないが、「債務超過」が解消されているか否かについては一つの可能性を示したい。

開示資料からBTF編集部作成

こちらの画像は、今回の資本参加スキームを示したものになる。ルネサンスが東急不動産HDから新会社の株式40%を取得する前に、事業を整理しフィットネス運営事業、ホームフィットネス事業、管理運営受託事業、デジタルヘルスデザイン事業が新会社へと分割移管されている。

そのため当分割時に貸借対照表に計上されている利益剰余金のマイナス分や、借入等の負債の一定割合は旧会社に残し、新会社は財務健全性が保たれた状態(債務超過ではない状態)にて新しくスタートを切っている可能性も高い。

もちろんルネサンスが40%を取得した後に出た赤字に関しては、ルネサンスのPL上で投資損失に計上されることに変わりはないが、財務健全化を切り分けて実現しているとすれば、今後100%まで持分比率を増やすことを検討する中では一つポジティブな要素であることは間違いない。いずれにしても、東急不動産HD・ルネサンス体制による「新・東急スポーツオアシス社」の黒字化、再成長に期待がかかる。

2024年3月期の業績予想:増収予想も回復途上

最後に各社から発表されている来期の見通し並びに業績予想をまとめた。まず来期の見通し・事業の方針では、コナミスポーツは新業態のピラティスミラーが既に入会待ちになる店舗が発生するなど好評であることから出店を継続する方針。2023年4月の時点で既に2店舗(中目黒、学芸大学)を出店しており、6月には川崎で2店舗のオープンを予定している。また、豊島区・つがる市・さいたま市・岐阜市でスポーツ施設の業務受託運営を開始する予定。

セントラルスポーツは、現時点で出店予定は全て業務受託案件となっており、東京アクアティクスセンター(再開業)、札幌国際交流会館、尼崎スポーツの森、DIS市谷スポーツクラブ(再開業)となっており、時期も全て2023年4月となっている。退店は直営2店舗が予定されており、セントラルフィットネスクラブ郡山(福島)は2023年5月、スタジオヨガピス渡辺通り(福岡)は2023年7月の退店予定となっている。

ルネサンスは来期4施設(大阪府大阪市、宮城県仙台市、熊本県菊池郡菊陽町、神奈川県座間市)の総合型スポーツクラブの新規出店を予定している。またエネルギー価格・原材料価格の高騰、物価上昇の影響などを理由に、2023年7月から順次(一部施設を除く)スポーツクラブの会費を改定(値上げ?)する。

2024年3月期の各社の業績予想は、コナミスポーツは売上高495億円(コナミグループ社スポーツ事業の予想売上高)と増収予想、セントラルスポーツは売上高462億円、営業利益25.6億円、当期純利益11.2億円と増収増益予想、ルネサンスは売上高440億円、営業利益9億円、当期純利益1億円と増収黒字化予想を開示している。

3社ともに増収予想としており、コロナ禍からの回復は明らかだ。それでもコロナ禍直前の2020年3月期決算の水準には来期予想でも各社まだ届かず、唯一ルネサンスのみが肉薄する業績予想となっている。そのルネサンスもオアシスの決算を考慮してか、経常利益は微増の3.5億円(前期3.1億円)予想に留まっており、業績上の業界順位にもまだ変化は起きない見込みだ。