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2020年8月17日 分析と解説

人工知能が米スポーツビジネスを変革中、チャットボットや自動ジャーナリズムは既に現役稼働

このところメディアで頻繁に取り上げられる「第4次産業革命」。ロボット工学、人工知能(AI)、ブロックチェーン、ナノテクノロジー、IoTなど主にデジタル技術による産業革命のあり方を指す言葉だ。

経済・社会の様々な側面に影響を及ぼすことが想定されるが、スポーツ産業も例外ではない。

すでに、AIやIoTの活用は始まっており、テクノロジーの普及と進化に伴い、スポーツの形は大きく変化することが見込まれている。

今回は、海外のスポーツ産業におけるAI活用に注目し、今後スポーツはどのように変わっていくのか、その未来像を探ってみたい。

NBAではチャットボットが当たり前に

米ボストンのAI専門コンサルティング会社Emerjによると、米国では現時点でスポーツ産業におけるAI活用は、「チャットボット」「コンピュータビジョン」「自動ジャーナリズム」「ウェアラブル」の4つの分野で活発化している。

各分野ではどのようなことが起こっているのだろうか。

まずチャットボットに関して、見ていきたい。

米国スポーツ産業におけるチャットボットの活用は、2016年頃から始まっている。

口火を切ったのは、米プロバスケットリーグNBA所属のサクラメント・キングス。2016年6月、カリフォルニア州のテクノロジー企業Sapienと提携し、同チーム専属チャットボット「KAI(Kings Artificial Intelligence)」をローンチした。フェイスブック・メッセンジャー上で、試合や選手に関する質問の受け答えができるチャットボット。最高得点をあげた選手やアシスト数が最も多かった選手など、試合の詳細についての情報も質問することが可能だ。

NBAの試合
(画像)NBAの試合
Photo by Corleone Brown on Unsplash

米国の若いスポーツファンは、テクノロジーによる新しい体験を求める傾向が強いといわれている。チャットボットはもはやスポーツだけでなく、ショッピングなどでもスタンダードになっている。

またサクラメント・キングスの会長自身がもともとシリコンバレーのエンジニアであったことも、キングスが他のチームに先駆けてチャットボットを導入した理由であるようだ。会長であるビベク・ラナディベ氏はインド・ムンバイ出身のインド系アメリカ人。現在4000人以上の従業員を抱えるテクノロジー企業TIBCOを1997年に創業したテック起業家でもある。

チャットボットの活用は、シンプルな質問の応答にとどまるものではない。

NBAの2017〜18年シーズン・ファイナルで優勝したゴールデンステート・ウォリアーズでは、チームのチャットボットによるクイズイベントを実施し、ファンのエンゲージメントを高めていた。同シーズンにおいては、フェイスブック・メッセンジャーを通じて、チャットボットからクオーターごとに誰が一番得点するのか、などの質問がファンに届き、ファンはその質問に回答。正解率が集計され、最も高い正解率を出したファンに、特別賞が与えられるというものだった。

このようなチーム別のチャットボット取り組みに加え、2019年11月には、NBAが協会としてフェイスブック・メッセンジャーにチャットボットを導入することを発表。AI企業GameOn Technologyと提携し、NBAのアカウント上でチャットボットサービスを提供する。同チャットボットは、質問の応答だけでなく、試合結果速報、得点アラート、試合スケジュールなどの配信も行うという。

2018年10月、英プロサッカーチームのアーセナルがチャットボットを導入することを発表し話題となったが、NBAと同じGameOn Technologyのチャットボットが活用されている。

既にスポーツ関連記事の多くはAIが執筆

AIの発展は、スポーツジャーナリズムの形も大きく変えつつある。米野球マイナーリーグの報道では、すでにAIジャーリストが活躍しているのだ。

米AP通信は、マイナーリーグの報道で、Automated Insights社が開発したAIプラットフォーム「Wordsmith」を導入。マイナーリーグの数字に関連する報道を自動化している。これにより報道範囲は10倍以上広がり、報道対象は13リーグ、142チームに拡大したという。

マイナーリーグチームの1つ「ジャクソンビル・ジャンボシュリンプ」
(画像)マイナーリーグチームの1つ「ジャクソンビル・ジャンボシュリンプ」
Photo by Wade Austin Ellis on Unsplash

このWordsmithが大きな話題となったのは、2014年にさかのぼる。同年6月、AP通信はWordsmithを企業決算記事に活用する計画を発表したのだ。一般的に企業決算時期には、記者は数字の正確性の確認に多くの時間を費やし多忙を極める。自動化することで、記者は数字の処理から開放され、よりジャーナリズムにフォーカスできるようになるとして期待を集めた。AP通信は、企業決算記事に関して、自動化によりそれまでと比較し15倍の量を生産できると述べていた。企業決算記事の自動化がうまくいき、マイナーリーグ報道にも拡大した形となるようだ。

AIとウェアラブルによるスポーツ訓練の未来

ウェアラブルもAIと融合し、スポーツの形を大きく変える存在になるかもしれない。

スイス・ローザンヌに拠点を置くスポーツ・スタートアップ「PIQ」は、AIを活用したボクシング用ウェアラブルを開発している。機械学習による分析により、ボクシングの細かい動きを評価し、スマホアプリとの連携で改善のためのアドバイスを与えてくれる。

ボクシングだけでなく、テニスやゴルフ版のウェアラブルも開発しており、AIによるスポーツ訓練の効率アップが期待される。同社はこれまでに、550万ドルを調達している。 このほか、スポーツ分野におけるAI活用としては、ウィンブルドンでのIBMワトソンを使ったハイライトシーンの自動選出やコンピュータビジョンを活用したテニスの判定システムなど、様々な取り組みが実施されている。AIによるスポーツ変革は今後どのように進展するのか、目が離せない。