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2020年9月14日 分析と解説

「スポーツポッドキャスト」が活況、人気番組買収でスポティファイも本格参入

2020年もポッドキャスト市場の成長が止まらない。新型コロナウイルスの影響で、上半期のポッドキャスト広告はキャンペーン中止などのダメージを受けたものの、年間の広告収入は前年比で約15%拡大する見通しで、向こう2年間には10憶ドル(1060億円)に達するとみられている。

なかでも注目されるのがスポーツジャンル。ある調査ではポッドキャストの広告市場でトップシェアを誇っており、すでに音楽・ポッドキャスト配信アプリの「Spotify」が本格参入し始めた。

ポッドキャストのスポーツ番組はドル箱

 広告代理店Interactive Advertising Bureau(IAB)と、大手コンサルティング会社のPrice Waterhouse Coopers(PwC)が2020年7月に発表した調査結果によると、アメリカにおけるポッドキャストの推定広告収入は2019年に7億810万ドル(約750億円)に達し、前年比では48%の伸びを示した。

「Voxnest」によるポッドキャストの広告収入のジャンル別内訳
「Voxnest」によるポッドキャストの広告収入のジャンル別内訳
https://www.iab.com/wp-content/uploads/2020/07/Full-Year-2019-IAB-Podcast-Ad-Rev-Study_v20200710-FINAL-IAB_v2.pdf

 一方、ポッドキャスト向けにマーケティング関連の技術ソリューションを提供する「Voxnest」によると、2019年のアメリカのポッドキャスト広告収入の内訳は、「スポーツ」が首位で28.8%、続いて「カルチャー」が17.1%、「歴史」が8.8%、「政治」が7.5%、「コメディ」が4.3%を占めた。同調査は、Voxnestの独自システム「Vox Audience Network(VAN)」のカテゴリー分別に基づいている。

「Voxnest」によるポッドキャストの広告収入のジャンル別内訳
「Voxnest」によるポッドキャストの広告収入のジャンル別内訳
https://blog.voxnest.com/report-top-podcast-revenue-categories-advertisers/

 Voxnestによれば、スポーツジャンルの広告収入が多いことは、驚くべきことではない。「スポーツにこだわる私たちのカルチャーを見れば、それは当たり前」との見方を示している。マーケッターが狙っているのは、前夜の試合についてキャッチアップしたいスポーツファンたち。このため、アメリカ市場ではスポーツ番組の広告ピークの時間帯は朝7時なのだという。

 スポーツジャンルの人気は個別企業のデータにも表れており、ディズニー傘下のスポーツ専門メディア「ESPN」のポッドキャストもこのところダウンロード数が大幅に伸びている。同社はテレビ・ラジオでスポーツ番組を展開してきたが、2005年からはポッドキャストにも参入。同社提供のポッドキャスト番組のダウンロード数は、2019年に月平均で600万回だったが、2020年5月には1カ月で4420万回となり、前年同月を32%上回っている。

Spotifyもスポーツコンテンツをてこ入れ

 スポーツ番組の人気は、Spotifyの注目するところにもなった。同社は今年に入って、スポーツやカルチャー関連のポッドキャスト番組を制作する「The Ringer」を買収。スポーツ分野のコンテンツを本格的にてこ入れする姿勢を示した。

 The Ringerはスポーツジャーナリストのビル・シモンズ氏が2016年に立ち上げたポッドキャスト制作会社で、番組数は30、総ダウンロード数は1カ月で1億回に上るという。なかでもシモンズ氏が自ら手掛けるスポーツトーク番組『The Bill Simmons Podcast』は2019年、『フォーブス』の番組別広告収入ランキングで5位にランクインした人気番組で、2019年は700万ドル(7億4300万円)を稼ぎ出した。

 ちなみに番組別広告収入ランキングで首位となったのは、コメディアン/格闘技コメンテーターのジョー・ローガン氏による『The Joe Rogan Experience』。政治家やコメディアン、MMA(総合格闘技)ファイターなどをローガン氏がインタビューする番組で、2019年の広告収入は3000万ドル(約32億円)。

 2位は2人の女性ホストが実際にあった殺人事件について話す『My Favorite Murder』、3位はファイナンス講座の『The Dave Ramsey Show』、4位は俳優のダックス・シェパード氏による有名人インタビュー番組『Armchair Expart』となっており、ジャンルは「コメディ」「ファイナンス」「犯罪ドキュメンタリー」と多岐に分かれている。

 The Ringerはポップカルチャー分野にも強みを発揮しているが、Spotifyの最高コンテンツ責任者、ドーン・オストロフ氏は、The Ringerを得たことで「グローバルスポーツ戦略を推進する」ことに意欲を表明。一方のThe Ringerのシモンズ氏もSpotifyの傘下に入ることで、「世界の基幹的スポーツ・オーディオ・ネットワーク」にスケールアップすることに期待感を示している。

メインテーマは「パッション」と「ストーリー」

「The Bill Simmons Podcast」はホストのビル・シモンズ氏がスポーツ選手やセレブなどとスポーツにまつわるあれこれを話し合うトーク番組

 シモンズ氏のポッドキャスト『The Bill Simmons Podcast』は、スポーツ選手やセレブ、メディア関係者などをゲストに呼んで、スポーツにまつわる話題を話し合うトーク番組で、毎週3つのエピソードがアップロードされている。同番組が惹きつけているのは、ツイッターのフォロワー数580万人を誇るシモンズ氏にほかならず、スポーツトーク番組ではホストの魅力が人気を左右する大事な要素となっていることが分かる。

 このほかの人気スポーツ番組にはどのようなものがあるのだろうか?以下にアメリカで人気のスポーツポッドキャストを紹介しよう。

ESPN Daily

スポーツ界のビッグニュースを綿密に伝える平日朝のポッドキャスト。同社の持つレポーターやアナリストの膨大なネットワークを生かし、興味深いスポーツニュースの内側を伝えている。

The Herd with Colin Cowherd

スポーツ専門のメディアパーソナリティ、コリン・カウハード氏によるスポーツトーク番組。毎日更新されており、「今日のトップスポーツストーリー」をゲストとともに語り合うというもの。

Men in Blazers

2人のブレザーを着たイギリス人のホスト、マイケル・デイビス氏とロジャー・ベネット氏が過去1週間の試合を熱く語り合うというもの。彼らは「サッカーは将来のアメリカのスポーツ」と見込んで、アメリカでサッカーを盛り上げることを目指している。試合レビューのほかには、スポーツ選手のインタビューなどもある。

30 for 30

スポーツドキュメンタリー番組。「ニューヨーク・ヤンキースとボストン・レッドソックスのライバル関係」、「オール女性隊員による初の北極遠征」「器械体操メダル獲得の裏にある過酷な状況」など、スポーツ界の歴史や裏話などに迫る興味深いストーリーテリングがリスナーを惹きつけている。

Gradiator: Aaron Hernandez and Football Inc.

アメリカンフットボールのスター、アーロン・ヘルナンデス選手の殺人と死に迫るドキュメンタリー番組。彼は2013年に殺人事件で逮捕され、2015年に有罪判決を受け、2017年に獄中で自殺した。ヘルナンデス氏やその周辺人物の過去のインタビューなどを通じて、企業の「マシン」と化したヘルナンデス氏の没落と、スター選手が栄光の陰で負う物理的なリスクが明らかにされる。

Skip and Shannon:Undisputed

スキップ・ベイレス、シャノン・シャープ、ジェニー・タフトによるトーク番組。野球、バスケットボール、アメリカンフットボールなど、アメリカ人に人気のスポーツを中心に試合分析や予想などを語り合う。

「30 for 30」はスポーツ界の歴史や裏話に迫るドキュメンタリー番組。
「30 for 30」はスポーツ界の歴史や裏話に迫るドキュメンタリー番組。

 これらのコンテンツは大きく分けて「ストーリー」系と「パッション」系に分けられる。上記では『30 for 30』や『Gradiator: Aaron Hernandez and Football Inc.』がストーリー系で残りはパッション系となる。

 リスナーは数年前まで、スポーツコンテンツを聴取しようと思えば、1~2種類しかない地元のスポーツラジオ番組を聞くしか選択肢がなかった。しかし、ポッドキャストの浸透で、どんなにニッチなスポーツのファンも、その情熱を共有できる番組を楽しめるようになった。出版・セミナー事業を手掛ける「オライリー・メディア」はこの現象を「解放の感覚」と表現している。

 オライリー・メディアによれば、スポーツポッドキャスト番組の成功のカギは、「誠実さと情熱」。これはほかのジャンルにも当てはまりそうだが、熱いファンの多いスポーツには一段と求められる資質なのかもしれない。

企画・編集:岡徳之(Livit)