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2020年9月8日 分析と解説

NBAとVRのオキュラスが複数年契約、進むVR導入の最前線

まだまだ先だと思われていたバーチャルリアリティ(VR)によるスポーツ観戦が今後数年で一気に広がる可能性が見えてきた。米プロバスケットボールリーグNBAやメジャーリーグなどでVRを活用した視聴サービスを拡充する動きが加速しているためだ。

スポーツ観戦においてもソーシャルディスタンスが求められる中、家でもスタジアムの臨場感を味わいたいという声が高まっている。需要が高まり、供給側の体制が整いつつある状況、市場拡大は間近だと考えることができる。

米国スポーツ界で起こるVR導入の動き、その最前線をお伝えしたい。

NBAとVRのオキュラスが複数年契約、VR配信を強化

米国で2020年8月中旬、NBAがフェイスブック傘下のVRプラットフォーム「オキュラス」と複数年契約を締結したとの報道が関心を集めた。これまでNBAはオキュラスとコンテンツベースの契約を結んでいたが、これを複数年とし、既存の提携関係を強化する形となったためだ。

オキュラスにとってはスポーツ団体との初の複数年契約となり、NBAにとっては初の公式VRパートナーの獲得になると報じられている。この契約は、NBAだけでなく、女性リーグ「WNBA」やNBA選手育成を目的にした「NBA Gリーグ」にも適用される。

このNBAとオキュラスの提携、VRを活用した試合観戦体験の向上を主な目的としている。NBAではこれまで、試合を間近で体験できる「NBA Rail Cam Replay」という放送を行ってきた。これは、コート横に設置されたレールカメラが試合状況に応じて移動し、選手の動きや試合運びを間近に観戦できるようにする仕組み。今回の提携強化により「Oculus Front Row View」という名称に変更されるとのこと。レールカメラに設置された360度カメラが捉える映像を、オキュラスVRヘッドセットで観戦できるようになるようだ。

NBAの試合の様子
NBAの試合の様子
Photo by NeONBRAND on Unsplash

いくつかあるプロスポーツリーグの中で、VR活用に関してNBAは特に活発な動きを見せている。

上記オキュラスとの複数年契約発表の1カ月前には、VRコンテンツ配信の拡大などを目的に、米通信大手ベライゾンと複数年契約を締結。この提携により、ベライゾン傘下のVRコンテンツ制作企業RyotがNBAのVRコンテンツ制作における公式パートナーになったと報じられている。このほど再開されたNBAリーグのVRコンテンツ制作を手掛けていくという。

現在、NBAはサブスクリプション制の放送サービス「リーグパス」の会員向けにVR放送を行っている。オキュラスのソーシャルアプリ「Venue」とオキュラスVRヘッドセット「Quest」または「Go」を使ってVR観戦できるようになっている。

NBA選手、VRトレーニングでフリースロー成功率が大幅に向上

NBAのVR活用は観戦向けだけではない。選手育成にも活用されている事例もある。

2020年2月、クリーブランド・キャバリアーズに移籍したアンドレ・ドラモンド選手。古巣のデロイト・ピストンズではフリースローが苦手なことで知られていた。

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NBA全体でフリースロー成功率は約75%ほどといわれているが、2016/17年シーズンにおけるドラモンド選手のフリースロー成功率は38.6%にとどまるものだった。

同シーズン後にフリースロー改善を決意したドラモンド選手、VRによるトレーニングを導入。仮想空間でフリースローの成功イメージを強く持つ訓練などを実施した。2017/18年シーズンでは、同選手のフリースロー成功率は60%に上昇。このことはESPNなど様々なスポーツメディアが報じ、当時話題となったようだ。

メジャーリーグもVR観戦の取り組み強化

NBAとともに野球メジャーリーグでもVR観戦の取り組みが加速中だ。

メジャーリーグは2020年7月末、オキュラスVRヘッドセット「Quest」向けのVR観戦コンテンツの配信を開始。360度カメラが捉えるVR映像に、選手ごとの統計や3次元ストライクゾーンを表示できる仕組みになっているとのこと。

この数年、メジャーリーグではインテルのVRシステム「True View」を使ったVR配信を週1回行ってきた。この取り組み、メジャーリーグとインテルが2017年に締結した3年間の提携契約の一環で行われきたもの。オキュラスでのVRコンテンツ配信の頻度は、これより高くなるという。

ソニーとオキュラスが競うVRヘッドセット市場

オキュラスのVRヘッドセットは現在「Rift S」「Quest」「Go」の3種類ある。Rift Sはパソコンへの接続が必須。一方、QuestとGoはパソコン接続を必要としないスタンドアロン型。「Quest」が上位モデル、「Go」が下位モデルとなる。

オキュラス販売中の製品一覧
オキュラスウェブサイトより
https://www.oculus.com/compare/

ブルームバーグが2020年5月に伝えたところでは、フェイスブックは現在Questの新モデルを開発中という。当初は、2020年9月の恒例イベント「オキュラス・コネクト」で発表される予定だったが、パンデミックの影響で、2021年に延期される可能性が高いといわれている。

Statistaのまとめによると、2019年VRヘッドセットの出荷量でトップだったのはソニー。市場シェアは36.7%だった。これにオキュラスが28.7%で追いかける形となっている。 米スポーツ界におけるVRの取り組みは世界のスポーツ市場にどのような影響を与えるのか、今後の展開が気になるところだ。