ゲーム以外のジャンル強化に乗り出したアマゾン傘下ソーシャル「Twitch」
ソーシャルメディアが一般化した今、コンシュマービジネスは様々なプラットフォームを活用し、ファンのエンゲージメントを高める施策が求められる。
スポーツの世界も例外ではない。ここ最近米国のスポーツエンタメ業界では、ソーシャルメディアを活用した施策の導入が顕著になっている。以前お伝えした米プロバスケットボールNBAのインスタ活用やその動画シェア新機能「Reels」を使った施策が好例といえる。
ソーシャルメディアといえば、日本ではツイッター、フェイスブック、インスタ、YouTubeなどが有名だろう。日本のスポーツ業界でも、これらのプラットフォームは活発に利用されている印象だ。
一方、海外では日本で馴染みのないソーシャルメディアがスポーツビジネス界隈で注目され始めており、今後日本でも話題になる可能性が高まっている。
それがアマゾン傘下の動画ライブ配信プラットフォーム「Twitch(ツイッチ)」だ。
もともと、主にゲーム/eスポーツの実況ライブ配信のプラットフォームとして発展してきたが、現在さらなるユーザー獲得に向けゲーム以外のジャンル強化が進められている。その一環でスポーツ分野が強化されており、2020年6月には英プロサッカーリーグ「プレミアリーグ」の配信計画が発表されたばかりだ。
また7月には、スペイン・サッカーチーム「レアル・マドリード」、イタリアの「ユベントス」、フランスの「パリ・サンジェルマン」、英国の「アーセナル」の4チームが独自コンテンツ配信で、Twitchと戦略的パートナーシップを提携したことが報じられた。各チームは、普段放映されないようなビハインドシーン映像を公開し、ファンのエンゲージメントを高めることを目指す。
アマゾンはこの数年、同社の動画配信サービスAmazon Prime Videoのユーザー獲得施策の1つとして、スポーツコンテンツの拡充に注力してきたが、Twitchにおけるスポーツ分野の強化は、この動きと軌を一にするもの。
Amazon Prime Videoは、電子書籍や家電デリバリーなどアマゾン本来のサービスに付随するものであり、ユーザーの年齢層はかなり広いものと想定される。一方、Twitchはユーザーの大半が若年層であり、ユーザーのオーバーラップは少ないと考えれる。Twitchウェブサイトによると、ユーザーの50%以上が18〜34歳、14%が13〜17歳とのこと。Z世代とミレニアル世代が7割近くを占める構図となっている。
スポーツ・エンタメビジネスが無視できないTwitchのユーザーベース
スポーツビジネス界隈で、Twitchの動きが注目されるのは、Twitchが世界的なソーシャルメディアであること、また若いユーザーを抱えており、この先さらに拡大することが見込まれているため。パンデミックによる影響で、チケット収入が大幅に減少し苦しい状況にあるスポーツプロリーグやクラブチームがファンとのつながりを生み出し、事業を継続させる上で、非常に重要な存在になっているのだ。
Twitchウェブサイトによると、世界230カ国以上からユーザーが同プラットフォームにアクセスしているという。
月間アクティブユーザー数に関する明確な数字は公表されていないが、eMarketerの推計によると、Twitchの世界最大市場である米国の月間ユーザー数は、2019年に3290万人だった。この数は、2020年に3750万人、2021年に4120万人、2022年に4420万人、2023年に4700万人に増加する見込みという。
StatistaがまとめたTwitchの2020年7月の世界視聴者シェアは、米国が22.53%で最大。これにドイツが6.85%、ロシアが5.85%、韓国が4.99%、フランスが4.13%で続く。eMarketerの推計値とStatistaのデータを合わせると、世界全体の月間ユーザー数は、およそ1億4500万人と計算できる。これに年齢層別の利用者割合を当てはめると、世界1億人以上のZ世代とミレニアル世代にリーチできることになる。
Twitch配信で視聴者獲得に成功した米女子プロサッカーリーグ
プレミアリーグ試合配信やレアル・マドリードなどの有名クラブとの提携が報じられる数カ月前には、Twitchは米女子プロサッカーの「ナショナル・ウーマンズ・サッカーリーグ(NWSL)」の放映権を獲得。これについても海外のスポーツメディアは大々的に報じている。
NWSLは2020年3月に、米スポーツチャンネルCBS SportsとTwitchの2社と3年間の放映契約を締結したことを明らかにした。
当時Twitchとの提携について疑問を持つ関係者は少なくなかったようだが、蓋を開けてみるとNWSLはTwitchで多くの視聴者を獲得することに成功しており、他のスポーツリーグやチームの関心ごとになっている。
英語スポーツメディアSpoticoが7月17日に伝えたTwitchTrackerの分析データによると、6月27日に開催された「Challenge Cup」以来、NWSLの海外向けTwitchチャンネルでは、各試合平均21万7000回の視聴数を獲得。3週間の累計視聴回数は350万回を超えたという。Spoticoの同記事は、スポーツチャンネルとしては大きな成功であると評価している。
Twitchはもともとゲーム/eスポーツのプラットフォームとして発展したきた経緯がある。何かを競う「ゲーム要素」を含むコンテンツは、既存ユーザーの関心事と親和性が高く、スポーツの試合はスムーズに受けいられる傾向が強いようだ。また、ライブ配信プラットフォームでもあるTwitchは、リアルタイムのチャット機能が充実しており、チャンネルと視聴者、また視聴者どうしのコミュニケーションが活性化しやすい空間となっている。
試合観戦でのリアルタイムの応援を他の視聴者とシェアできるという点も魅力の1つになっていると考えられる。この先「スポーツ観戦といえばTwitch」といわれる時代がやって来るのかもしれない。