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2020年9月14日 分析と解説

アップルの「スポーツビジネス戦略」 重要人物引き抜きやスタートアップ買収など大きな関心

8月20日、民間企業として初めて時価総額2兆ドル(約212兆円)を超えたとして注目を集めたアップル。iPhone、Mac、iPadなどのハードウェアを主力とするテック企業であり、スポーツビジネスとの強いつながりがある印象はない。

しかし、最近海外メディアでは、アップルがスポーツ分野に注力するのではないかという憶測が飛び交い始めている。時価総額世界最大の民間企業が動くとき、そのインパクトはかなり大きなものになることが想定され、スポーツ関連各メディアはその動向を注視している。

アップルはスポーツ分野で何を狙っているのか。その動向を追ってみたい。

Apple TV +、アップルの新たな成長事業

Photo by Jens Kreuter on Unsplash

アップルのスポーツ市場への関わり、それは同社が昨年ローンチしたストリーミングサービス「Apple TV +」を通じて深まるのではないかいう憶測が広がっている。

2019年11月に登場したApple TV +、アップル公式サイトまたはアップルTVアプリを介してドラマや映画などが視聴できる月額4.99ドルのサブスクリプションサービスだ。

Apple TV +は同社事業のさらなる成長には欠かせない要素。米CNBCが伝えたモルガン・スタンレーのアナリスト、カティー・ヒューバティー氏の予想では、2020年Apple TV +事業は20%成長する可能性があるという。またヒューバティー氏は、2025年にはアップルユーザーの10人に1人がApple TV +に登録し、Apple TV +ユーザーは1億3600万人となり、売り上げは90億ドル(約9500億円)に達するだろうと見込んでいる。

動画ストリーミングサービスのユーザーを拡大させるには、コンテンツを拡充することが必須となる。この市場は、Netflix、Amazon Prime、Hulu、Disney +など様々プレーヤーがしのぎを削っており、独自のコンテンツを配信し独自性を打ち出すほか、マスマーケットのニーズに迅速に対応することが求められる。

マスマーケットへの対応として挙げられるのが「スポーツコンテンツ」の拡充だ。

ストリーミング市場でアップルの競合となるアマゾンは、Amazon Primeにおけるスポーツ分野の拡充に力を入れている。これまでに、英国プレミアリーグやテニス全米オープン、NFLの放映権を獲得し、スポーツファンの取り込みを図ってきた。

また最新情報によると、アマゾンはクリスマス前シーズンを見越し、11月に開催予定のラグビー大会「エイトネーションズ」の放映権の獲得に向け交渉を開始したとの報道がなされている。

一連のスポーツコンテンツ拡充の取り組みにより、Amazon Primeはスポーツ分野のストリーミングにおいてキープレーヤーになったといわれている。実際、米老舗テックメディア「PCマガジン」が7月3日に公開した「ベスト・スポーツ・ストリーミングサービス2020」という記事において、Amazon Primeは、1位Hulu、2位YouTubeに次ぐ3位にランクイン。スポーツ系大手メディアCBS(5位)やESPN(7位)を上回る評価を得ている。

Amazon Primeのスポーツコンテンツ拡充立役者、アップルが引き抜き

Photo by Medhat Dawoud on Unsplash

アップルは、Apple TV +におけるスポーツコンテンツの拡充において、アマゾンを追随する公算が大きい。2020年6月Recode Mediaが報じたところによると、アップルはAmazon Primeのスポーツ放送事業部門の責任者ジェームズ・デロレンツォ氏を引き抜いたというのだ。

2016年4月にアマゾンに参画したデロレンツォ氏。デューク大学とニューヨーク大学で法律を学び、卒業後に法律事務所に入り、音楽プラットフォームNapsterなどを担当したメディア分野の法律専門家だ。

CBSやOctagonなどいくつかの大手スポーツメディアを渡り歩いた後アマゾンに参画し、Amazon Primeの大型スポーツ放映契約をいくつも成功させた重要人物。この引き抜きが、アップルのスポーツ分野拡充の憶測を呼ぶ理由の1つになっている。

スポーツイベントVR配信スタートアップも買収

デロレンツォ氏の引き抜きとともに、注目されているのが、アップルによるVRスタートアップ「NextVR」の買収だ。

2020年5月、米CNBCの報道によると、アップルはカリフォルニア拠点のスタートアップNextVRを買収。CNBCは、アップルがVR・ARを新たなプロダクトカテゴリに加える計画を練っていると指摘、その上でNextVRの買収はこの計画の現実味を高めるものだと報じている。一方、アップルの広報はCNBCの取材に対し、買収の目的や計画についてはコメントしないと述べている。

このNextVRのこれまでの取り組みを見てみると、NextVRの技術や経験がアップルのスポーツコンテンツの拡充に活用される見込みは十分にあると判断できる。

もともとスポーツイベントやコンサートのVR配信を行っていたNextVR。2019年5月には、同年のNBAファイナルのハイライトシーンVR配信で、NBAと提携したことがNBA側から発表された。

CNBCが伝えたPitchBookのデータによると、NextVRは2019年時点で1億1600万ドルを調達し、95人の社員を抱えていた。投資家にはエンタメ産業の人物が多く、NBAゴールデンステイト・ウォリアーズの共同オーナーのピーター・グーバー氏などが名を連ねていたという。 こうした動きはここ数カ月の間に起こったもの。その影響や結果が目に見える形であらわれてくるのはこれから。今後の動きから目が離せない。