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2020年9月29日 分析と解説

フィンテック、エドテックの次に来る「エイジテック」 巨大シニア市場を席巻するテクノロジー

パンデミックが変えたシニアのテクノロジー利用

医療の発達や生活環境の向上などで人間の寿命は伸び続けており、いまでは「人生100年時代」といわれるまでに至っている。

これまで高齢化社会について議論されるとき、「医療費増大」などネガティブな側面にフォーカスが向けられがちだったが、近年では「アクティブ・シニア」などポジティブな側面への言及も増えている。

一般的に、メディアやリサーチ会社が消費者市場について語るとき、ミレニアル世代(20〜30代)やZ世代(10〜20代)などデジタル消費が活発な若い世代に焦点を当てることが多い。実際、「ネット時代」「ソーシャルメディア時代」などと呼ばれる現代において、新たな消費トレンドを作り出しているのは、これらの若い世代。ビジネスパーソンに注目されやすい世代であるのは間違いない。

しかしパンデミックをきっかけに状況は大きく変わってきている。ロックダウンや外出自粛により、デジタルデバイスやデジタルサービスの利用を余儀なくされたシニア層のデジタル化が進み、デジタル経済における主要な消費者グループとして台頭し始めているのだ。

もともと若い世代に比べ、時間と資金に余裕のあるシニア層。デジタル経済での消費活動が活発化すれば、若い世代にも影響を及ぼす消費トレンドを作り出す可能性も十分にある。

米国にある退職者団体AARPのレポートによると、同国50歳以上の人口は約1億1740万人で、全人口の35%を占める。その経済規模はGDPの40%に相当する8兆3000億ドル(約870兆円)に上ると推計しているのだ。米国の50歳以上の人々だけの国をつくったとすると、その経済は、米国、中国に次ぐ世界3番目の規模になる。

冒頭で述べたように、いまは「人生100年時代」。50歳以上の人口は増え続ける計算になる。AARPは、2050年には米国50歳以上の人口は1億5730万人に増加し、経済規模は28兆2000億ドル(約2960兆円)に達すると予想している。特に、金融サービス、保険、ヘルスケア分野が活発化する見込みという。

シニア発のデジタル消費トレンドが生まれる時代

これまで、こうしたシニア市場におけるサービスやプロダクトは、非デジタルなものが前提となっていた印象がある。しかし、デジタルサビーなシニア層が登場したことで、シニア向けのデジタルサービスやデジタルプロダクトの重要性が高まったといえる。

この傾向は年が経つにつれ顕著になってくる。なぜなら、いまデジタル経済の主要な担い手であるミレニアル世代もZ世代も2050年には50歳以上になっているからだ。2050年には、いまシニア向けに提供されている非デジタルなサービスやプロダクトがデジタル化するのは必然ともいえる。

こうしたシニア市場の拡大やシニアのデジタル化という状況を背景に、起業家や投資家の間で注目され始めているのが「エイジテック」という分野だ。

文字通り、シニア消費者を対象にしたテクノロジーサービス/プロダクトを指す言葉。

ニューヨーク、ロンドンを拠点とするベンチャーキャピタル企業Nauta Capitalの、ドミニク・エンディコット氏がForbes誌に語ったところによると、現在、テクノロジーを活用した金融サービス「フィンテック」が世界的な広がりを見せているが、現在のエイジテックは、10年ほど前のフィンテックと同様の状況にあるという。

シニア向け通信サービス会社GreatCall社のウェブサイト
https://www.greatcall.com/

Nauta Capitalは、シニア向け通信機器販売・サービスのGreatCallというスタートアップに投資をしていた。GreatCallは、2018年8月に米家電量販店大手Best Buyに8億ドル(約840億円)で買収され、Nauta Capital最大のエグジットになった。

この経験で、エイジテックの可能性を確信したエンディコット氏は、2019年エイジテックに特化ベンチャーキャピタル「4Gen Ventures」を設立、同分野のスタートアップを精査し、投資を始めている。

世界のエイジテック市場は73兆円、今後も拡大余地あり

エンディコット氏曰く、現在広く普及しているフィンテックだが、2007年頃に「フィンテック」という言葉を使い、同分野への投資をしていた起業家や投資家はほんの一部だったという。いまのエイジテックの状況は、これに似ていると指摘している。

エイジテックの市場規模について、エンディコット氏は以下のように見立てている。2018年の世界GDPは87兆ドル(約9100兆円)。そのうちシニア経済は20%ほどを占めており、規模は17兆ドル(約1785兆円)になる。IMFの推計では、世界GDPに占めるデジタル経済の割合は8%。シニア層におけるデジタル普及率は平均より低いと仮定し4%とすると、世界のエイジテック市場は約7000億ドル(約73兆5000億円)となる。高齢者割合と高齢者のデジタル化の2要素は今後拡大することが見込まれるため、市場規模は急速に拡大することになる。

米国ではすでに大手テック企業による高齢者向けサービスが展開されている。たとえば、ウーバーの競合Lyftは、上記高齢者通信サービスGreatCallと提携し、高齢者向けの配車サービス「GreatCall Rides」を提供。GreatCallは、高齢者でも使いやすいモバイルデバイスを開発する企業。高齢者は、スマホを使わなくとも、GreatCallのモバイルデバイスから配車をオーダーできる。

「GreatCall Rides」紹介ページ
https://www.greatcall.com/services-apps/senior-rides-service-by-lyft

スポーツ/フィットネス分野のエイジテックも今後増えてくることが見込まれる。すでにサービス展開する企業としてBoldやMotitechが挙げられる。Boldは、高齢者向けの運動カスタマイズサービスを提供。高齢者向けにアレンジしたヨガプログラムなどをオンラインで展開している。Motitechもオンラインで老人ホーム向けの運動プログラムを提供する企業だ。

冒頭で紹介したように米国では50歳以上の人口割合は35%。一方、日本はすでに50%近くに達しているといわれている。日本の高い貯蓄率などを考慮すると、他国に先駆けエイジテック産業が開花するシナリオもあるのかもしれない。