孤独と社会的孤立は「1日15 本のタバコを吸う」ほど健康に悪影響。そんな比喩を聞いたことはあるだろうか。パンデミックによる社会的隔離措置が世界中で実施された2020年、孤独が心身の健康にもたらすリスクが、これまで以上にクローズアップされるようになった。
特に身近な人との死別や退職、子供の独立など、環境が激変するシニア世代ではもとより孤独が大きな問題となっていたのだが、今年の社会的隔離措置でより深刻化。孤独感の軽減を図る取り組みが強く求められるようになっている。
一方で、シニアの中には趣味やさまざまな活動に積極的に参加する「アクティブ・シニア」と呼ばれる人びともいる。その多くは隔離期間中も、電話やデジタルデバイスを活用して人とのつながりを維持していたようだ。
このような「アクティブ・シニア」の人びとはおおむね積極的な性格であり、自ら多様なチャレンジをするという人もいる。しかし中には、アクティブに人と交流したいものの、どうしたらよいか分からない、潜在的「アクティブ・シニア」というべき人たちも少なくない。孤独が健康にもたらす影響がこれだけ問題視されている今、そんなシニア層をいかにしてサポートできるかにも、関心が向けられるべきであろう。
孤独による健康リスクは今、なぜこれほど重要視されているのだろうか。そして、パンデミックの最中でも、シニアの人間関係がアクティブであり続けるためにはーー。
パンデミックで深刻化。心身の健康に大きな影響を与える「孤独」
孤独が抑うつや不安感の増大といった、精神面に良くない影響をおよぼすのは想像に難くない。しかし、実は孤独によって引き起こされる健康問題はもっと多様だ。
日本人の主な死因でもある冠動脈疾患、脳卒中、ガンの発症率や死亡率を、孤独が増加させることがこれまで報告されている。認知症についても、孤独感、さまざまな社会の活動への参加や人と会う機会の少なさなどが、発症率増加の要因の一つとされている。
健康増進というと、食事やエクササイズをまず思い浮かべることが多いと思うが、それと同じように孤独の軽減も重要なのだ。
日本では、高齢者の一人暮らしが2015年の625万世帯から年々増加、2040年までに896万世帯になると予測されているが、今年のパンデミックでは、特に一人暮らしの高齢者世帯の孤立と孤独が問題視された。
これまで、高齢者の孤独への対応策は、地域社会に交流の場を設けるといったものが主だったが、物理的に集まることをできるだけ避ける必要がある今、その実施も困難になっている。
パンデミックが長期化する中で、元々は社交的なシニアであっても習い事や友人と会う機会が減少しているだけでなく、別世帯の親族との交流も控える傾向にあり、世界各国はウイルスと戦うだけでなく、この「孤独問題」にいかに対処するかが喫緊の課題となっている。
ロックダウン下のアメリカで広まる、テクノロジーを活用した孤独軽減策
日本よりもさらに厳格なロックダウンが行われ、この問題がより深刻なアメリカでは、いくつかのテクノロジーを活用した対応策が注目されるようになっている。
その一つが、シニアユーザーに特化したタブレット端末だ。外部からの訪問が禁止された病院や施設では、患者・利用者と家族や友人をタブレットでつなぐ取り組みが広く実施されているが、独居高齢者の場合、「誰かと顔を見て会話をしたい」という気持ちがあっても、タブレットの操作に馴染めないという人も多い。
そんな高齢者向けに開発されたのが、大きなボタンとシンプルな操作で、簡単にビデオチャット、写真の閲覧、ニュース閲覧、メッセージ、ゲームや音楽視聴などが可能な「Grandpad」だ。
このシニア向けデバイスは、移動が極端に制限されたパンデミックの最中でも、高齢者が家族や友人と顔の見えるコミュニケーションをとり続ける大きな助けとなっている。
Grandpadのほかにも、例えば「Grandkids on demand(オンデマンドの孫)」を掲げる「PAPA」は、職種や趣味、好きな映画のジャンルといった共通の趣味や関心を持つシニアと、地域の若い世代のサポーターをマッチング、おしゃべりといった交流や、通院の付き添いなどを提供している。
利用者は1時間に20ドルから25ドルを支払い、そこから何割かがサポーターに支払われる。有給のサポーターは面接、身元調査による審査が行われ、その多くは看護師やソーシャルワーカー、医療系の学生など、ヘルスケア分野の経験を持っている。
パンデミック前は、病院の予約など簡単な用事を手伝ったり、一緒に映画を見たりといった対面のサービスが主だったというが、外出制限が実施されてからも、「PAPA」を通じて出会ったペアは、電話やインターネットで連絡を取り合っている。それがシニア側だけでなくサポーター側の孤独感さえも軽減する手助けにもなっているという。
「PAPA」は世代間交流を目的としているが、同世代の高齢者同士をつなぐデジタルサービスとしては「Stitch」が人気だ。
「シニア向けのTinder」とも呼ばれるこのサービスだが、設立者はこの呼び方をあまり好意的には受け取っていないようだ。ほぼ外見の好みだけでプロフィールを「あり」か「なし」か、左右にスワイプして仕分けていく、カジュアルなデートアプリの要素が強いティンダーとは異なり、「Stitch」はあくまでもネットワーキングのためのサービスだからだ。
もちろんデートの相手を探すことができるが、それ以外にも同じ趣味の友人をつくる、地域のさまざまなグループ活動に参加するといった多様な機能があり、交友関係全般を広げることができる。
2014年に設立され、現在では世界中で2万5000人を超えるユーザーにサービスを提供しているこの「Stitch」も、対面でのネットワーキングが困難になった今年、他の国に住むランゲージエクスチェンジパートナーを探す、地域のメンバーとチャットを楽しむといった形でオンラインで人と人をつなぎ、シニア層の孤独感軽減に一役買っている。
このようなデジタル機器やサービスは、シニア層にとって使い始めるきっかけ作りがなかなか難しいのだが、「GrandPad」の場合、高齢者に居宅介護を提供する企業「Comfort Keepers」と提携、利用者にタブレットを提供するといった形で連携を図っており、医療や介護従事者が入り口となるのも、一つの有効な手段なのかもしれない。 地域コミュニティや大家族といった伝統的な人のネットワークが減少しつつある現代。一方で、アクティブなデジタルサービスを使いこなすシニアは増えつつあり、これまでとは違った形の新しいシニア世代の交流が、これからも世界各地で生みだされていくだろう。